私が目を覚ますと、昨日フォルテに貰った杖を抱えたまま寝ていました。
それに気付くと、昨日のことを思い出し、顔が赤くなっているのがわかります。
今日はアマツのもとに行くのですから、しっかりしなければいけません。
身支度を整え、朝食へ向かうと、フォルテと鉢合わせしました。
「おはよう」
「おはようございます」
フォルテも昨日のことを思い出したようで、顔が赤くなっています。
ぎこちない雰囲気になってしまいました。
ときどき、目が合いますが、どちらかとなく視線を逸らしてしまうので、少し残念です。
「カノン、えっと、その、だな。兄貴が昼過ぎに聖堂に来てくれって言ってたから、出発するときに呼びに行くから、部屋で待っててくれ」
「わかりました」
思いがけず時間が出来たので、杖の調子を確かめるのと、防御魔法の研究の続きをすることにします。
そういえば、確かめてないことがありました。
「フォルテ、聖堂に行く前に、手伝ってもらいたいことがあるんですが、いいですか?」
「何を手伝うんだ?」
「防御魔法の性能を確認したいんです」
メゾと一緒に魔法に対する防御性能は確認しました。けれど、私もメゾも剣士ではないので、剣に対する性能は、簡単な調査しか出来ません。
ちょうどいいので、フォルテに手伝ってもらおうと思います。
「それ、危なくないのか?」
「障壁の設置場所は自由に出来るので、大丈夫ですよ」
私の言葉を聞き、フォルテは安心したようです。
私としても、フォルテの一撃を正面からは受けたくありません。
「それじゃあ、準備が出来たら呼びに来てくれ。但し、後でアマツのところに行くから、やり過ぎるなよ」
「わかってますよ」
何があるかわからないのですから、細かい試験というよりも、大雑把な確認が目的です。
朝食の後、私はフォルテと共に屋敷の裏側に来ました。
この辺りには来たことないのですが、こんなに広かったんですね。
「それで、どうすればいいんだ?」
「ここに、障壁を張るので、攻撃してみて下さい」
私は手袋の核石を通じ、魔法陣に練り上げた魔力を流し込みました。
「『シールド』」
薄い硝子の様な物が浮かび上がりました。
透明ですが、ほんのりと色がついているので、どこにあるかよくわかります。
「それでは、お願いします」
「ああ、行くぞ」
フォルテは、竜痕の力を纏うと、いつもの長剣を振りかぶり、障壁を斬りつけました。そして、そのまま、割れるように砕け散りました。
フォルテは、唖然としています。
「大丈夫ですよ、辛うじて障壁を張れる分しか魔力を練っていないので。次は、頑丈に作ります。『シールド』」
同じように障壁を張りました。ただし、今度は多くの魔力を注ぎ込んだので、ある程度は保つはずです。
私が合図をすると、同じようにフォルテが障壁を斬りつけました。
今度は、かん高い音が響き、障壁によって受け止められています。
「そのまま何度か攻撃してください」
攻撃を受け止める度に、注いである魔力を消費するので、どれだけ保つかを確認します。
二度、三度と障壁が攻撃を受け止める度に、かん高い音が響きますが、段々とその音が低く、小さくなっていきます。
そして、最後には障壁が砕け散りました。
「案外保つんだな」
「そうですね。この分なら、実用性はありそうです」
普通の野盗相手なら、十分です。けれど、マガツヒが相手となると、些かを通り越して、心配だらけです。
「まだ続けるか?」
「いえ、大丈夫です。フォルテも消耗するのは不味いでしょうし、ありがとうございました」
今回はここまでです。
後は、実際に使って見て試行錯誤するだけです。
「それならさ、カノン、これからちょっと散歩に行かないか?」
「えっと、その、フォルテは普通に出歩いて大丈夫なんですか?」
何でも、一部の人達から現代の勇者と呼ばれ、熱狂的な支持者もいるそうです。
「何とかなるんじゃないかな?」
「出来ればそこは自信ありげに言って欲しいです」
「でも、昨日帰ってきた時は、何ともなかっただろ」
そう言われてみればそうでした。
熱狂的な支持者でも、本人の邪魔はしないということでしょうか。
「どこに行くんですか?」
「んーと、そうだな。そこまで時間的余裕があるわけじゃないから、どこに行こうか」
「せめて場所を決めてからにしてください」
「わかったよ。なら、全部終わったら、俺と出かけよう。場所は考えておくから」
「わかりました。期待して待ってます」
結局先延ばしになってしまいました。
けれど、せっかく二人で出かけるのなら、時間を気にしないですむ時にしたいです。
そういうわけで、今はとりあえず解散になりました。
お昼過ぎ、私とフォルテは、聖堂へ向かっています。
聖堂の入口には、前回同様騎士の方が見張りをしています。どうやら、封鎖が続いているようです。
私達も止められましたが、フォルテが事情を話すと、話を聞いていたようで、無事に通ることが出来ました。
フォルテはいいのですが、私は怪しまれています。
話は聞いていたとしても、はたから見ればただの小娘ということでしょうか。
まぁ、気にしてもしかたないので、目的を済ませてしまいましょう。
聖堂に近付くに連れ、段々と警備をしている騎士の人影が少なくなっていきました。
そして、聖堂の中には、デュオさんと聖堂の神父さんと王国の偉い人がいます。
「二人共よく来てくれた。早速で悪いが、始めてくれ」
「ああ、カノンも大丈夫か?」
「ええ、そのために来ましたし」
他の二人は一切口を開かずに、ただ見守っています。
特に面識もありませんし、声をかけられても緊張してしまいそうなので、ありがたいです。
私達は前回同様、石像の正面に立ちました。そうすると、竜骸の炎が元通りに燃え盛ると、今度は、光りを纏うようになり、それが一気に広がることで、私達を覆いました。
反射的に目を閉じてしまいましたが、ゆっくりと目を開くと、前回同様白い空間が広がっており、命素に占められているので、少し気持ち悪いですが、少し慣れてきています。
そして、目の前には竜骸の炎の石像がありました。
「汝ら、準備はいいか?」
唐突に告げられました。
もう少し会話をして欲しいものです。
「命素の杖というのは、この核石でいいんですか?」
「我が叡智によって作られた核石を付けた杖が、命素の杖と呼ばれることになる。故に、その杖が、今回の命素の杖だ」
今回のという言葉に少し引っかかりを覚えますが、流石に私の気にしすぎでしょう。
「それで、竜滅剣ってのは、どこにあるんだ?」
「それは、ここにある」
アマツがそう告げると、私達の目の前に一つの魔法陣が描かれました。それが、核石に吸い込まれていきます。
どうやら、核石の内部に刻まれたようです。
竜滅剣というのは、剣でなく、魔法だということでしょうか。
「それは、竜を滅するための剣、『ドラゴンスレイヤー』の魔法陣だ。その魔法をかけられた剣は、竜を滅する力を得る。心して使え」
「その剣は、なんでもいいのか?」
「汝が使いたいと思う剣を使え」
確かに、使い慣れていない剣や、使えそうにない剣を持たされるより、使い慣れている剣を使えた方がいいですね。
その点を考えると、この魔法は合理的です。
「天竜王アマツ、一つ聞きたいことがある」
「何だ」
「フィーネについてだ。今のフィーネが刻印に認められると、次のフィーネが選ばれると聞いた。その連鎖を止める方法はないのか?」
それは本来私が聞かなければいけないことのはずです。
それなのに、フォルテが聞いてくれました。
そのことが、フォルテに大事にされているということを実感させてくれるので、嬉しさが込み上げてきます。
「一つ、存在する。その刻印は、我とマガツヒ、それぞれの駒が、その力を求めて取り合うための物。汝らがマガツヒを滅ぼすことが出来れば、刻印の転移能力は、力を失う。そうなれば、汝が最後のフィーネになるということだ」
アマツのことばの端々に、私達人間に対する本心が見え隠れしているような気がします。
アマツとマガツヒの代理戦争、結局は、そのための駒としか見ていないということです。
けれど、マガツヒを倒せば、何も心配しなくても済むというのは、聞くことが出来て良かったです。
「そうか、なら安心出来るな」
「よかったです」
私とフォルテは、お互いを見つめ、静かに笑っていました。
「まだ、あるか?」
「フォルテが、竜痕の力と私の強化魔法を併用するようになって、鱗みたいなのが浮かび上がっているのですが、あれに危険はありませんか?」
フォルテが私のために刻印のことを聞いてくれたのですから、私も、フォルテに起きている副作用を知る必要があります。
「……あの力は、竜王の力を貸し与える物。それが馴染めば、体は竜王の物に似ることになる。ただ、竜化というものは、計り知れない年月をかけて行われるものだ。いくらその力が強化されているとはいえ、そうやすやすと竜化が終わることはない」
つまり、竜痕による侵蝕が早くなったけど、人間の寿命では問題がないということでしょうか。
それなら、ある程度は安心出来ます。
「たまに鱗が出る以外の悪影響はないと判断していいんですか?」
「そもそも、竜化は力の恩恵であって、悪影響ではない」
体が変化するような自体が起きていても、悪影響ではないとは、竜王とは傲慢なのですね。
「アマツ、これが原因で死ぬようなことはないんだよな」
「ああ、そうだ」
フォルテに釘を刺された気がします。
つまり、これ以上心配するなということでしょう。
「他に、聞きたいことはあるか?」
アマツの言葉を聞き、急に親切になったと思いました。
何だか怪しいですが、他のことも聞いておきましょう。
「『ドラゴンスレイヤー』についてですが、竜を滅する力以外の性能を教えて下さい」
思えば、先に聞いておくことでした。
「数ヶ月は持つ。けれど、時が経つにつれ、力は弱まる。マガツヒと戦う時に使え。詳しくは、刻印に刻んでおこう。魔素の鎧についても、魔法陣が命素の杖に刻まれた時、鍵が外れるようにした。汝の手で確認しておけ」
突如、刻印が光りました。そして、大量の情報が流れ込んできました。
一瞬意識を持っていかれるかと思うほどです。
それにしても、魔素の鎧も、魔法だとは……。
核石に魔法陣を刻む方法も伝わってきたので、またここに来る必要はなさそうです。
「カノンは、まだ何かあるか?」
「えっと、一つあります。マガツヒですが、そんな相手なのですか?」
よく考えて見れば、これから戦う相手なのに、その相手のことを全く知りません。
アマツの様に仮の姿で現れた場合、倒しても意味はなさそうです。
「現在のマガツヒは、多少の力を取り戻したとはいえ、我のように高みへ戻る程の力はない。それ故、竜王と呼ぶに相応しい姿を晒しているはずだ。また、その力は、魔素を操る。お前達が魔法陣の魔法と呼ぶ力を十全に振るってくるはずだ。心してかかれ」
今は、ちゃんと実体を持っているということですね。それと、魔法を使ってくるわけですか。
竜王ですから、巨大な竜の姿をしているとして、爪や尻尾や牙に気を付けなければいけません。
対策はじっくり練る必要があります。
ただ、今聞くべきことは聞いたはずです。
「私はもう大丈夫です」
「そうか、なら、アマツ、最後の質問だ。竜骸の炎は消えたままなのか?」
そういえば、竜骸の炎が消えているというのは、王国にとっては大問題ですね。
フォルテとしては、聞かずにはいられなかったのでしょう。
「あれは、マガツヒを倒せる者を探すために貸し与えていた物。マガツヒを倒せば、その役目は終わる。だが、褒美として、使うがよい。その力も、すぐに戻そう。他に用があれば、二人で我が力の前に来るがいい。それと、マガツヒだが、傷を癒やし、力を取り戻すには、長い年月がいる。魔族の作り上げた仕組みが、次なる統治者を生み出したとしても、その力は、今と何ら変わりはしない。故に、万全の準備を整えて行け」
アマツがそれだけ言うと、石像の姿が薄っすらと消えていきました。
そして、気付けば、聖堂に戻って来ていました。
横を見れば、フォルテもぼんやりしています。
ただ、目の前にある石像に炎が灯り、我に返りました。
「アマツとの会話は終わったようだな」
デュオさんが確認するかのように聞いてきました。
「ああ、後は、魔素の鎧の魔法陣が手に入れば、準備は終わる」
「鎧ではなく、魔法なのか?」
「詳しいことを話す前に、兄貴、剣を貸してくれ」
デュオさんは疑問を抱えながらもフォルテに剣を渡しました。
実演しろということですね。
私は、剣を持ったフォルテに向き直り、核石の中にある魔法陣に意識を集中します。
「『ドラゴンスレイヤー』」
命素の消耗も、ほとんど気にならないくらいです。
魔素の鎧も同じくらいの消費であれば、戦いに支障はありません。
フォルテは渡された剣を振り、何かを確認しています。
見た目上の変化はありませんが、剣からは物凄い力を感じます。
「それが竜滅剣の魔法か。そして、それを使うための命素の杖ということか。二人共、よくやってくれた。そこでだ、フュンフが魔素の鎧を持ってくるまで、まだ数日かかるはずだが、その間二人はどうする?」
どうすると言われても、マガツヒを倒すという目的があるのですから、そのための行動をするだけです。
「俺は、しばらく特訓したい。武器の心配はいらなくても、俺の技量に不安が残る以上、何とかしなきゃいけないから」
「私もです。マガツヒは魔法も使ってくるということなので、今の実力では、足りないと思います」
「わかった。私の方でも、出来る限りの協力はしよう。フュンフが来たら連絡を入れるから、二人共、居場所は知らせておいてくれ」
まだ魔素の鎧が残っていますから、どこか修行の旅に出てしまうと困るのでしょう。
「なら、俺は一度騎士学校に戻るよ。あそこならいろいろ出来るから」
「私も、魔法学園に戻ります。メゾとワイズマンに相談しようと思うので」
こうして、私達はそれぞれの場所に戻ります。
ただ、出発する前に、フォルテが持つオリハルコンの長剣に『ドラゴンスレイヤー』をかけるのは、忘れていません。
使用感が変わる可能性もあるので、重要なことです。
魔法学園へは、フォルテが送ってくれたので、一日かからずに戻ることが出来ました。
私は、職員室へ向かい、いくつかの許可を得てから、メゾのところへ行き、扉を叩くと、直ぐに返事がありました。
「カノン、どうしたんですの?」
「少し時間が空いたので、基礎からやり直そうと思いまして、ちょっと付き合ってくれませんか?」
「今からですの?」
「一分一秒もおしいので」
何だか物凄い溜息をつかれました。
「今日は何をするんですの?」
「まずは体作りです。場所は確保してきました」
今度は呆れられています。
「しかたありませんわ。カノンにこの義手の力を見せてあげますわ」
今度は寒気がしました。
そういえば、メゾの義手は、日常生活に支障はないと聞いた気がしますが、どの程度のことが出来るのかは聞いていません。
確保した室内運動場へ向かっていると、徐ろにメゾが口を開きました。
「ところで、その杖どうしたんですの? 何だか見覚えがありますわ」
「フォルテに貰いました。ちなみに、これについている核石が、アマツが作れと言った物です」
「羨ましいですわね」
「存分に羨んで下さい」
メゾに対してにこやかに笑いかけると、ちょっと嫌な予感がしました。
「ちょっとと言わず、存分に鍛え直しますわ」
「よ、よろしくお願いします」
私達は、体をほぐした後に、木剣を手にしばらく打ち合いました。
メゾの義手の中に流れる命素を注意深く観察しましたが、随分と複雑な仕組みになっています。
この義手を使い、日常生活を送るだけでなく、こうして木剣を握って自由に動かすには、どれだけの苦労をしたのでしょうか。
「その義手、凄いですね」
「単純な力比べなら、負けませんわ」
「動きも繊細じゃないですか」
記憶の中にある最後の手合わせの時と同じくらい繊細に動いています。
「問題もありますのよ。たとえば、右手経由では、魔法を使いづらいですわ」
なるほど、右手が義手なので、練り上げた魔力を流し込んでも、核石が吸ってしまうのでしょう。
けれど、使えないではなく、使いづらいというのは、メゾの意地でしょうか。
「そうですか。それでは、準備運動はここまでですね」
「お互い本気でしたけど、同意しておきますわ」
鍔迫り合いの最中でしたが、やはりメゾはノリがいいです。
私の意図を察してくれたのでしょう。
それでは――。
「危ないじゃないですか」
メゾから蹴りが飛んできました。
まさか先にやられるとは思っていませんでした。
「意表を突くのは、カノンだけじゃありませんわ」
「悔しいですね。でも、後悔させてみせます」
少し距離を取ってから、睨み合います。
けれど、不意に視線をずらし、メゾが私の見た方へ視線を向け始めた瞬間、私は姿勢を低くし、距離を詰めながらも視線とは反対側へ向かいます。
メゾの懐へと入ると、そのまま木剣を横薙ぎに――。
「見え見えですわ」
メゾが、既に木剣を振り下ろしている途中でした。
ここまでは読まれていたようです。けれど、私の口元は、余裕の笑みを浮かべているはずです。
「『シールド』」
可能性を考えていたからこそ、魔法の発動が間に合いました。
何か妙な音が聞こえた気がしますが、障壁は張れています。
そして、メゾの木剣が障壁で……。
「見え見えと言ったはずですわ」
私は木剣をメゾの脇腹の辺りに寸止めし、メゾの木剣も、私の頭の上で止まっています。
「その手袋に魔法陣を仕込んでいたんですね」
「同じ色の糸で縫いましたの。気付かれなくてよかったですわ」
義手を覆うほどの長さがありますが、魔法陣を縫い付ける場所は、私の手袋と同じで、手の甲の側のはずです。けれど、同じ色だからと言って、それに気付かないとは、油断しました。
「まさか障壁同士で相殺出来るとは思いませんでした」
「出力の調整が難しいので、分の悪い賭けでしたわ」
どうやら、何度か練習していたようです。けれど、私達以外に魔法陣を使う練習をしている魔法使いはいなかったはずです。
誰と実験したのでしょうか。
「お主ら、いつの間に剣士になったのかのう」
声のする方を見ると、ワイズマンが立っていました。
そういえば、ワイズマンなら魔法陣を使えそうですね。ただ、今は後回しにします。
「私はただの魔法使いですよ」
「わたくしは、次期ワイズマン候補ですわ」
何だかワイズマンが信じられないものを見たような顔をしています。
「まぁ、魔法は発想が大事じゃから、否定はせんが、ほどほどにのう」
「それでワイズマン、わたくし達に何かようですの?」
「いやなに、カノンが戻ったと聞いてのう、様子を見に来たんじゃが、心配いらなかったようじゃな。それでじゃ、メゾ、しばらくはカノンに付き合ってやるがよい。次期ワイズマンとして、得るものがあるはずじゃ」
「わかりましたわ。わたくし、師の期待に添えてみせますわ」
私としては、メゾが付き合ってくれるのなら、出来る事が増えるので、願ったり叶ったりです。
それにしても、この雰囲気は何でしょうか。
メゾの顔を見てみると、少し嬉しそうです。
私にはわからない何かがあるのでしょう。
「二人共、ほどほどにするのじゃぞ」
ワイズマンはそれだけ言うと、この場を後にしました。
何だかメゾがやる気に満ちていますが、少し疲れたので、今日はここまでです。
「それでは、終わりにしましょうか」
「この、次期ワイズマンであるわたくしが、まだ付き合って差し上げますわ」
「ほどほどにしろと言われましたよ」
メゾは見るからにしょんぼりしています。
なるほど。
次期ワイズマン候補のはずが、次期ワイズマンと呼ばれたので、喜んでいたわけですね。
それなら余計に、そのやる気は明日からのために取っといてもらいましょう。
私がメゾと特訓を始めてから数日が経ちました。
命素の杖も馴染んできたので、ただ魔法を発動させるのではなく、遅延発動などの魔術に分類されるものも特訓内容に組み込んでいます。
そんな中、私に来客がありました。
「フィーネ様、お待たせいたしました」
「カノン、最後に一つが届いたぞ」
「フュンフさん、わざわざありがとうございます」
フォルテがフュンフを連れてやって来ました。
つまり、魔素の鎧を持ってきたということです。
「魔素の鎧は、継承の間の核となっていると聞いていたのですが、鎧と聞いていたせいで、発見に手間取りました。まさか、こんなものが魔素の鎧と呼ばれるものだとは……」
そう言って取り出した物は、少し大きめの鉱石です。恐らくは、アダマンタイトだと思います。
それに、色濃い力を感じます。
「一応、フュンフにはアマツから聞いたことを話してある。それで納得してたよ」
確かに、鎧と聞いているのですから、一般的に言われる鎧を想像するはずです。
始めから魔法だと言ってくれれば、探しまわる必要もなかったのでしょう。
「それで、これをどうするのでしょうか」
「その方法は、教えてもらってあるので、任せて下さい」
私は、核である鉱石を置くと、それを命素の杖で軽く叩くと、それだけで中にある魔法陣が核石に刻まれました。
「終わったのか?」
「はい、これで終わりです」
「随分と呆気ないものなのですね」
それは私も思っています。
もう少し光るなどの演出があってもいいはずですが、そんな遊び心を期待するだけ無駄でしょうか。
「早速使ってみてくれ」
「わかりました。『マギリンクフィールド』」
私の周りの魔素が結びつき、魔素の幕が出来上がりました。
どうやら、この幕が魔素の侵入を防ぐようです。
「どうなったんだ?」
フォルテは魔素を感知出来ないので、わかっていないようです。
「魔素で出来た鎧を着る感じですね。魔法の行使は邪魔しないようです」
「俺にも使ってみてくれ。少し慣れておきたい」
恐らく安全なので、フォルテにも使いました。
見かけは一切替わらないので、かけたのが私でなかったら、何が起きたのかわからなかった自信があります。
「なるほど、竜痕の力も弾かれないんだな」
「意識的に魔素を操る場合は、邪魔しないようになっているんでしょう」
「フュンフ、早く持ってきてくれて助かったよ」
「ありがとうございました」
「いえ、私達に出来るのは、これくらいですから。この核はもう必要ないのでしたら、持って帰ろうかと思います」
「ああ、必要なのは中にあった魔法陣だから、そうした方がいいだろ」
元々これは魔族の物ですから、私達にどうこうする権利はありません。なので、フュンフが持って帰るというなら、そうしてもらうだけです。
「そういえば、ヘルツはもう継承の間に入ったのか?」
「はい、長時間魔王の力を継承の間に放置すると、マガツヒに奪われる危険性があるので、継承の儀を始めていただきました」
「そうか、なら、今の魔族に、誰か戦える奴はいるか?」
そんなことを聞いてどうするのでしょうか。
フュンフも、答えるべきか悩んでいます。
「あ、そのな、
なるほど、そういうことですか。
確かに強い相手と戦うという経験は、何よりも大切だと思います。
「申し訳ありません。ほとんどの精鋭は、マガツヒ討伐から帰ってこれず、帰ってきた者達は、ボイス様も含めて、戦える状態ではありません」
「ボイスが、生きているんですか?」
驚きました。予想ですが、先陣を切って乗り込むと思っていたので、帰ってこれなかったと思っていました。
「帰って来た者達によると、大勢が決した時、殿を務めて残ろうとしたらしいのですが、逆に、他の者達によって連れ帰られたようです。今の状態で魔族を統べるには、ヘルツ様だけでは力が足りないからと」
そうですか。
本人は責任を取ろうとしたわけですね。
ただ、今の魔族にフォルテの相手を出来る人がいないのは、残念です。
「そうか。このことは他言しないから安心してくれ。それで、継承が終わるのはいつだ?」
「今から約一年後です。この核を取り出すと同時に、ヘルツ様が入られたので、数日の誤差がありますし、それ以外にも個人差があるので、絶対とは言えません。けれど、そんなに大きくずれることはありません」
約一年ですか。
短いようで長い時間です。
「わかった、とりあえず、これからのことは兄貴を通じて連絡するよ」
「わかりました。それでは、最後になりましたが、フィーネ様、ノインからの預かり物があります」
そう言ってヒュンフが取り出したものは一冊の分厚い本です。ただ、何か禍々しいものを感じます。
「そう警戒しなくても大丈夫です。これは、魔族に伝わる魔法陣に関する書物を書き写したものです。いくつか外部に漏らせない魔法陣は載っていませんが、ここに載っている魔法陣を理解しておけば、マガツヒとの戦いにおいて、役に立つはずです」
「ありがとうございます」
私が知らない魔法陣も載っているのであれば、これ以上ありがたいものはありません。
ただ、量が量だけに、全てを覚えるのは骨が折れそうです。
「それでは、これで失礼します」
そう言うと、私達が返事をする間もなく、フュンフの姿が消えてしまいました。
帝国といい、魔族といい、諜報部門の人は、何故こうも消えるのでしょうか。
それはさておき、二人だけになってしまいましたが、これからのことを考える必要があります。
「フォルテ、いつ向かいますか?」
「しばらくは特訓を続けたい。でも、継承が終わると不味いから、半年かもう少ししたら、向かおうと思う」
そのくらいなら大丈夫なはずです。
アマツも、マガツヒの傷は、一年くらいではまったく癒えないと言っていましたし。
「それで、どんな特訓をしますか?」
「今は、兄貴やディープ、それとエコーにも特訓を手伝って貰ってる。しばらくしたら、はぐれ竜と戦いに行こうかと思ってる」
「はぐれ竜ですか?」
「ああ、竜の谷から逃げ出して暴れている竜達だ。ときどき討伐依頼が出るんだが、知らないのか?」
「すみません、全く知りませんでした」
まさかそんなのがいるとは思いませんでした。
師匠も、竜には近づかないようにしていたのでしょう。
ですが、マガツヒは竜王ですから、竜との戦闘経験はあったほうがいいはずです。
「私も連れて行って貰えますか?」
フォルテは、何か言いにくそうな顔をしています。
とりあえず、私のツリ目で睨んでみました。
「……まずは、俺だけで行かせてくれ。普段はカノンの魔法に頼ってるから、本来の実力を確認したいんだ」
「でも、それならデュオさん達との特訓でわかるはずです。それに竜と戦うんですよ。一人じゃ危ないです」
「頼む。まずは俺だけで行かせてくれ。相手は竜なんだ。カノンを守れるかわからないんだ」
胸に何かがちくりとしました。
フォルテにとって私は足手まといなのでしょうか。
今までは、一緒に戦って来ましたし、邪魔ばかりではなかったはずです。
「そんな顔しないでくれ。邪魔だなんて思ってないから。ただ、相手は竜なんだ。今までの相手とは全く違うんだ。だから、竜との戦い方を覚えるまで、待っててくれ」
どうやらフォルテなりに考えているようです。
口に出してはいないとはいえ、フォルテに対して失礼なことを考えてしまいました。
「そうですか。すみません、フォルテがしっかりと考えているのに感情だけで動こうとしてしまって」
「いいんだよ。カノンだって俺のことを心配してくれたんだろ。なら、問題ないよ」
フォルテの優しさが身に染みます。
「わかりました。今回はフォルテを信じて待ちます。でも、絶対に、必ず、私も連れて行って下さいね」
「ああ、約束するよ」
一ヶ月後、フォルテはブラッキーと共にはぐれ竜と戦うために出発しました。
もちろん『ドラゴンスレイヤー』の魔法をかけ直すために私の元へ来たので、しっかりと念を押してあります。
これから数ヶ月は何があっても会えないということがわかっているので、寂しい物があります。
こんばんは
武器ならドラモンキ……、ドラゴンキラーですが、魔法なら、ドラゴンスレイヤーという先入観を持っています。
ただ、なまってドラグスレイブにはなりません。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。