私とフォルテは、王都の南西にある村からブラッキーに乗り、王都にあるグレイス邸へ戻って来ました。ただ、すぐにマガツヒと戦うために魔族の国へ行かなければいけないので、ゆっくりはしていられません。
「フォルテ、カノン、二人に全てを背負わせてしまってすまない。今、私に出来ることは、こうして言葉をかけることだけだ」
デュオさんは、どこか悔しそうな顔をしています。
少し前まで王国の英雄として扱われていたのに、結局何も出来ていない。そのことが悔しいようです。
「兄貴、俺個人の力じゃ、まだ兄貴には及ばない。ただ、周りで協力してくれる人が、優秀だったんだ。だから、兄貴にも、まだまだ協力してもらうぞ」
「フォルテ、それも含めて、お前の力だ。それにしても、お前に慰められるとはな」
「でも、マガツヒを倒した後のことは、デュオさんじゃないとダメなんですから、フォルテより上です」
そうです。マガツヒを倒すことが出来れば、魔族の国との国交も始まるはずですから、その話を纏めるのに、フォルテでは何も出来ません。やはり、デュオさんが必要です。
「カノンにまで慰められるとはな。だが、今はマガツヒを倒した後のことではなく、マガツヒを倒すことに神経を集中してくれ。二人になら出来る。だが、油断していい相手ではない」
慰めるつもりはなかったのですが……。
やはり、先を見据えたとしても、今をないがしろにしてはいけないようですね。
それなら、これからはマガツヒだけに集中しようと思います。
「じゃあ、明日、マガツヒを倒すために魔族の国へ行くよ」
フォルテも同じことを考えていたようです。
「二人共、戻ってすぐに話しを聞いて悪かった。今日はゆっくりしてくれ」
こうしてデュオさんとの話は終わりました。
後は、明日の出発を待つだけです。
次の日、特に見送りもなく出発することになりました。
デュオさん曰く、「無駄に体力を使わせるわけにはいかない」とのことです。
今回魔族の国で通った村や街では、どことなく人が少ない気がしました。
迂闊に話しかけて騒ぎになるのも面倒なので、深くは詮索せずにいます。けれど、一箇所だけ寄りたい所があるので、そこだけはよる事になりました。
そこは、かつての三つ巴の大戦の跡地の近くにあります。
「あそこだよな」
「ええ、村外れにありますから」
私達が近付くと、不思議な気配のする人が出てきました。
「君達か、久しいな」
「モデラートさん、お久しぶりです」
「久しぶりだな、前は助かったよ」
やはり、この不思議な気配が混血の人が持つ気配なんですね。
知らずに感じるのと、知っていて感じ取るのでは、理解の仕方が違うようです。
今では、はっきりと、その違いがわかります。
「モデラートさんは、気付いていたんですか?」
「前に会った時は、知らないようだったが、理解したのか」
これは肯定と取っていいはずです。
それにしても、いるとは聞いていましたが、こんなにも少ないものなのですね。
「モデラートさんは、私が混血だって知っていたんですよね。だから、親切にしてくれたんですか?」
「敵でない以上、邪険にする理由はない」
そうですか。
「それはよかったです。前に、貴方が混血だから、混血の私に優しくしたんじゃないかって言われて、そんなことはないって思っていても、それは願望でしかなかったので」
「初対面の者を相手に、その者の考えを理解しようというのが土台無理な話だ。ならば、思いたいように思えばいい。それと、こんな時間だ、今回も泊まっていけ」
そういうと、モデラートさんは家への道を譲るように横にずれました。
私達はその言葉に甘え、今日はここで一晩過ごします。
前回と同じ部屋だったので、フォルテと一悶着ありましたが、結局、解決方法は前回と同じでした。
数日後、魔王の城が見えてきました。
「いきなり乗り付けて大丈夫ですかね」
「兄貴が前もって連絡してるはずだから、大丈夫だと思うぞ」
「それならいいんですが」
そういいながらも、フォルテは少し離れた場所に降りたので、少し歩くことになりました。
魔王を倒したフォルテが、今の魔族側の状況で堂々とやってくるのは問題になると考えての行動でしょう。
確か、ボイスが大怪我をしたと聞いているので、どのくらい回復しているかはわかりませんが、挑発と取られかねない行動を控えるのはいいことです。
そして、魔王の城の門に到着すると、待っていたかのように門が開きました。
「お二人共、お待ちしてました」
そう言って出てきたのは、ノインさんです。ですが、相当やつれています。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「はい、とりあえず、今日は休んでいただけるよう準備をしてあります。ですが、、ボイス様から話があるそうなので、着いて来て下さい」
ブラッキーを連れて入ることが出来ないので、前回同様にブラッキーを休ませておける場所を借りることになりました。そして、そのままボイスの元へ案内されています。
「まぁ、ちょうどいいな。マガツヒに関する話も聞きたかったし」
「というか、それ以外に話があるとも思えませんよ」
まともな人であれば、戦う前にその相手の情報を集めるのは当然です。
竜の姿と魔法陣を使いこなす。それ以外に情報が手に入るのなら、積極的に集めるべきです。
そして、一つの部屋に着きました。
「では、お入り下さい」
その部屋に入ると、中にはボイスがいました。
ただ、最後に見た時と違い、体中傷だらけで、あちらこちらの傷が、見た目からして癒えていないようです。
「ボイス、久しぶりだな」
「お久しぶりです、ボイスさん」
「二人共、このような格好ですまない。とりあえずかけてくれ」
動くのも辛いのでしょうか。椅子には座っていますが、あまり動こうとしていません。
立っているのもなんですから、座るよう言われましたし、座るとしましょう。
「それで、話って何だ?」
「恐らくは聞きたいことだろう。マガツヒについてだ」
やはりですか。
というか、それ以外の話でしたら驚きます。
「魔法陣を使うことと、竜の姿をしている可能性があると聞いたけど、他に何かあるのか?」
「アマツから伝えられたのか? まぁいい、手間が省ける。姿は大型の竜と同じだ。それと、私達もしらない魔法陣による攻撃をしてきた。恐らくは、存在している全ての魔法陣を使えるのかもしれん。気を付けてくれ。奴は、竜が息吹を吐くように魔法陣を使っていた。恐らくは、それが、魔法を使うための予兆だ」
発動の予兆、つまり、力を失っているから、そうした行動が必要になっているということでしょうか。
「なるほど、それなら、息吹を使わせないようにするのと同じようにいけるはずだ」
「私から伝えられるのはこのくらいだ」
そう多くはありませんが、貴重な情報です。
マガツヒについてわかるのはこのくらいでしょう。
「そういえば、マガツヒのいる場所は、魔素に占められていると聞きましたが、どんな場所でした?」
マガツヒについてはこれくらいですが、マガツヒのいる場所については、まだ聞くべきことがありました。
アマツのいた場所が命素に占められた白い空間でした。ならば、場所によっては戦いにくい可能性があります。
「あそこは魔素に占められた黒い空間だった。だが、不思議と周りを見渡すことが出来たから、戦うということにおいて不利はないはずだ」
「それはよかった。カノンも気付いてくれてありがとう」
「いえ……」
フォルテに面と向かって褒められると照れてしまいます。
まったく、フォルテはこんな時に何をしてくれるのでしょうか。
「それでは、二人共明日に備えて休んでくれ」
「ああ」
今日の話はここまでになりました。
そして、今回貸してもらった部屋は前回と同じ部屋でした。しかも、追加してもらったベッドがありません。
まったく、魔族の人達は何を考えているのでしょうか。
結局、前と同じ方法を取るとは……。
次の日、私達は準備を整え、継承の間へ向かうことになりました。
そこには、マガツヒがいる空間への入口があるからです。
「ノインさん、中にいるヘルツさんの様子はわかるんですか?」
「いえ、継承の儀が終わって、中から扉が開かれるまでは、外部からの干渉は一切出来ません」
完全に興味本位でしたが、やはり何も出来ないようです。
ただ、出来たとしても、特にすることはありません。
「それで、どうやってマガツヒの所へいくんだ?」
「この扉にある石に触れれば、マガツヒのもとへ行くことが出来ます。向こう側にも同じものがあるので、それで帰ってくることが出来ます」
扉の中央に、怪しく光る黒い石がはめ込んであります。これがこちらとマガツヒの居場所を繋いでいるわけですか。
それでは、準備をしなければいけません。
「フォルテ、準備しますね」
そう言うと、『ドラゴンスレイヤー』をフォルテの長剣と私の短剣にかけ、『マギリンクフィールド』を私達にかけました。
短剣にもかけたのは、念のためです。
ちなみに、杖にはかけられなかったので、対象は刃物だけのようです。
そして、一番最後に私とフォルテの胸に手を当て、『戦いの調』を唱えました。
「お二人共、私達魔族のために危険なことをさせてしまって何と言えばいいのか……」
「いや、いいんだ。これは俺達のためでもあるんだから。な、カノン」
「ええ、最終的にマガツヒを倒すと決めたのは私達ですから」
フォルテの中には、私のためというのもあるようです。それが、どのくらいの割合を占めているのかはわかりませんが、一番大きい理由がそれだと、嬉しいです。
「それでは、ご武運を」
「ああ」
「はい」
私達は手を繋いで黒い石に触れようとしました。けれど、心の何処かで戸惑っています。
こんな土壇場でそんなことを思うなんて、どうしたのでしょうか。
「大丈夫か?」
「……ノインさん、外してもらってもいいですか?」
「しばらく後ろを向いて耳を塞いでいます」
マガツヒのもとへ行くのを確認したいのでしょう。まぁ、気にしないことにします。
私は、フォルテの胸に手を当てながら、寄りかかりました。
「ど、どうしたんだ?」
フォルテの動揺した声と鼓動が聞こえます。
「フォルテ、強く抱きしめてもらえますか?」
フォルテの胸に顔をうずめているので、様子はわかりませんが、少しづつ手が動いているようです。
そして、背中と頭の後ろに少しづつ力が加わってきました。
「もっと強くお願いします」
「カノン、怖いのか?」
「そんなことはありません。でも、わかりません」
魔族の国から戻って以来、ただ疲れているだけだと思っていました。けれど、心の何処かで疲れだけじゃないと、気付いていたはずです。
「無理しなくていいんだぞ」
フォルテの暖かさを感じていると、少しづつですが、勇気が湧いてきました。
フォルテの胸に当てた手に力を込めると、私の意図を理解したのか、フォルテの力が緩みました。
「もう、大丈夫です」
フォルテから距離を取って、改めて視線を向けます。
「大丈夫ですよ」
「よくわからないけど、終わったら、教えてくれよ」
今ここで問いただされないのは、ありがたいです。
「もちろんです」
私達は、改めて手を繋ぎ、継承の間の門に付いている黒い石に触れました。
気が付くと、黒い空間にいました。ただ、前もって聞いていたように、何となくですが距離感が掴めます。
「カノン、『
「ここは魔素だけのようなので、詠唱をする魔法は使いづらいです」
ここでは命素の消耗は、なるべく避けるべきです。
「マガツヒはどこにいるんだ?」
「扉は後ろにありますけど、見当たりませんね」
そう言いながら後ろを確認した瞬間、視界が横にずれました。
周囲を確認すると、フォルテに抱きかかえられています。
「マガツヒだ」
私達がいた場所から爆発音が聞こえました。
どうやら先に攻撃されたようです。
「でも、どこから?」
「あそこだ」
フォルテはいつもの鱗の鎧ではなく、体の表面に鱗を出現させています。
既に全力のようです。
この場所は魔素に占められているせいで魔素の感知が上手くいきませんが、僅かな変化も見逃さないようにします。
私に出来るのは、このくらいですから。
「フォルテ、魔法は私が防ぎます。なので、気にせず戦って下さい」
「わかった」
フォルテは短く言うと、マガツヒへまっすぐ向かって行きました。
確かに、事前に聞いていた通り、大型の竜です。
竜王という割には、普通過ぎるぐらいです。
恐らく、力を失っているのと関係があるのでしょう。
「まったく、こんなにも短い間に、よくもまぁ、挑みに来るものだ」
長い年月を生きる竜王からすれば、短い時間なのかもしれません。けれど、私達にとっては、長い時間です。
それに、傲慢な雰囲気を感じました。
私は、マガツヒが大きく開いた口の前に魔法陣が現れたので、向かい合わせるように、魔法陣を描きます。
「『アクアスプラッシュ』」
火に対して水をかけるのは常識です。
何だか凄い煙が出ていますが、今は気にしていられません。
「小癪な」
「そこだ!」
フォルテは、魔法を無力化した隙をつき、幾度と無くマガツヒを斬りつけています。けれど、その一撃一撃は、大した効果をもたらしていないようです。
「無駄だ。その程度では、我を滅することなど出来ぬ」
マガツヒは、纏わり付く羽虫を振り払うように動き、その風圧でフォルテが吹き飛ばされています。
「『フレアランス』フォルテ、大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな」
私は、試しに魔法を放つと、マガツヒの鱗で防がれてしまいました。
どうやら、『ドラゴンスレイヤー』はちゃんと効果が出ているようです。
「カノン、少し重めに斬るから、合わせてくれ」
「わかりました。『アイスストーム』」
まずは隙を作るために氷の竜巻をぶつけました。
直接傷つけることは出来ませんが、何度も攻撃することにより、鱗を破壊出来るかもしれませんし、フォルテが付けた傷に当たれば、少しくらいの効果は期待できます。
さらに言えば、氷の竜巻ですから、視界を塞ぐことも出来ます。
「『ウォーターバインド』『フリーズ』」
水により手足を拘束し、それぞれを繋いだ状態で凍らせました。これで、動きを封じることが出来るはずです。
「そこだ」
フォルテは、マガツヒの首を落とそうと長剣を振り下ろしました。けれど、氷による拘束を破壊しながら動き、表面の鱗を破壊するにとどまりました。
命素の杖だからこそ、魔法を連発することが出来ていますが、こういった方法は、何度も見せてしまうと慣れられてしまうので、そう何度も使えません。
次には、別の方法を考えなければ。
ただ、攻めるということは、その後に相手に攻める機会を与えるということです。
マガツヒが口を大きく開き、魔法陣を描きました。
あの魔法陣は、雷を撃ち出す魔法陣です。
「『ストーンエッジ』」
フォルテは後ろに飛び、直前までフォルテがいた場所に地面から岩を突き出しました。
その瞬間、妙な気配を感じ取りました。
私は、周囲を確認せず直感を頼りにし、強化の出力を最大まで引き上げ、横へと飛びました。
その直後、熱風が私のもとへ届きました。
私の背後に魔法陣を描き、炎により攻撃してきたようです。
考えてみれば、私はマガツヒの魔法陣に合わせるように魔法陣を描いているのですから、マガツヒも遠くに魔法陣を描けるはずです。
竜の息吹のように魔法陣を描いていたので騙されました。
状況を確認するために、辺りを見回すと、マガツヒが撃ち出した雷は、岩を伝い、地面へと流れたようです。
「カノン、大丈夫か」
「心配はいりません。ただ、口以外にも注意して下さい」
「中々楽しませてくれる。今のを避けるとはな」
マガツヒは竜の姿をしているので、確証はありませんが、笑っているようです。
フォルテが果敢に向かっていきますが、口から離れた場所にも魔法陣が描かれ、魔法がありとあらゆる方向からフォルテへ襲いかかっていきます。
「カノンの『風の調』を知ってれば、回避は可能だ」
私も迎撃のために魔法陣を描きますが、私は魔法の名前を唱える必要があるのに対し、マガツヒはその必要がなく、同じ時間で発動出来る魔法に、大きな差が出来ています。
そのせいもあり、フォルテは少しづつ後退を余儀なくされています。
「回避出来ても、下がっては意味が無いな、勇者」
「勇者か、ノイズも同じことを言ってたな。俺が勇者なら、マガツヒ、お前は俺に倒されろ」
同感です。それに、様式美というのを大切にしていたノイズと比べると、随分と小物ですね。
フォルテも見た目は下がっていますが、気持ちは前へ進んでいるようです。
それなら、私も出し惜しみをしているつもりはありませんが、出し惜しみはなしです。
「『シールド』」
後先考えずに、大量の魔力を練り上げてフォルテとマガツヒを包み込むように、球状の障壁を展開しました。
それによって、周囲からの魔法を全て防いでみせます。
一瞬、フォルテは私の方に視線を向けましたが、私の意図を理解したのか、マガツヒへ向かっていきます。
下がっていたとしても、障害がなくなれば一足飛びで間合いに入ることの出来る距離です。
そのまま、斬り捨てる。はずでした。
「何で、あの魔法陣が……」
マガツヒが、一つの魔法陣を描きました。
それは、フォルテを攻撃するためでなく、マガツヒ自身の身を守るための魔法です。
フォルテの長剣は、マガツヒの張った障壁によって防がれました。『ドラゴンスレイヤー』の効果は、竜に対してのものなので、魔法によって作られた障壁には、意味がありません。
「我は、存在する全ての陣を使うことが出来る。たとえ、我以外が生み出したものであろうとな」
つまり、私が障壁の魔法陣を作り上げたから、マガツヒは身を守る術を手に入れたと言うことです……。
「この陣は、かつて存在したものよりも、効果的な陣だな。良き陣を作り上げたこと、礼を言おう」
「そんな……」
あれは、練り上げた魔力を流し込めば、それだけ強度を上げることが出来ます。
マガツヒがどれだけの魔力を使えるかわかりませんが、確実に私よりは多いはずです。
「呆けていていいのか?」
私が張った障壁の外側にある魔法陣が、一斉に私の方を向きました。
確かに、呆けている場合ではありませんね。フォルテに勇気をもらたのですから、いちいち落ち込んでいられません。
先程張った障壁は、まだ壊れていません。つまり、私のせいで、フォルテを狙うことが出来ない以上、私を先に狙うということですか。ならば、魔力を流し続け、維持します。
そして、強化魔法の力を引き上げ、ある程度迎撃しながらも回避します。
マガツヒが私に集中しているのであれば、フォルテがマガツヒを斬る機会があるはずです。
それに賭けることにしました。
ただ、声をかけてしまうと、マガツヒにも気付かれてしまうので、たまにフォルテに視線を向け、気付いてくれることを祈ります。
「よく頑張るな。ほら、楽しませてみろ」
魔法陣の数が増えました。
前に『風の調』による攻撃を受けていた人は、こんな気分だったのでしょうか。
随分とえげつないことをしていたようです。
フォルテは、長剣に自らの力を纏わせ、何度も障壁を斬りつけています。
そのかいあってか、ようやく障壁を破壊することが出来たようです。
「これで!」
一度振り切った長剣を返すようにマガツヒへ向かっていきます。
けれど、マガツヒは手を盾にし、フォルテの攻撃を防ぎ切りました。
恐らくですが、私に集中しすぎて、障壁が間に合わなかったのでしょう。
全ての魔法陣を使えると言っても、慣れていない魔法陣なら、発動するのに時間がかかるはずです。
腕を縦に斬られた影響か、私に降り注ぐ魔法の数が段々と減っていきます。
これなら余裕を持てるはずです。
そう思った瞬間、私の張った障壁が砕ける音が聞こえました。
「フォルテ!」
魔法の数が減ったのではなく、矛先を変えていただけのようです。
「大丈夫だ」
「『シールド』」
フォルテが私のいる位置まで移動してきたので、私達を囲むように障壁を張りました。
流石に、あそこに留まるのは危険と判断したようです。
「フォルテ、マガツヒの障壁を破壊するのに、どれくらいの時間がかかりますか?」
「あれは、カノンの方に意識を集中してたから出来たんだ。障壁に魔力を流し込まれ続けたら、流石にどうしようもないぞ」
「それなら、私が障壁を破壊すれば、マガツヒを倒せますか?」
「鱗は壊せるし、腕も斬ったんだ、剣が届く範囲なら、問題ない」
一つ、作戦を思いつきました。そのせいで足が震えていますが、大丈夫です。
「私がマガツヒを抑えます。フォルテは、剣の届く範囲まで近付いて、斬って下さい」
「そんなことどうやって」
「私が飛び出して、マガツヒが無視出来ない魔法を使います。それに、抑えつける魔法も、強力なものです」
「でも、震えてるだろ」
「フォルテが勇気をくれましたから、大丈夫です」
「……わかった。危ないことはするなよ」
「約束出来ませんね」
私は、左手に持った命素の杖と腰に付けている短剣の核石に練り上げた魔力を流し込みます。
この魔法は、命素の杖でも、制御が難しいです。けれど、何とかなる。そんな気がします。
「『アブソリュートブレイド』」
短剣の核石を使い、魔法陣を描くと同時に、強化魔法の出力を上げ、障壁から飛び出しました。
そんな私を追うように、マガツヒの魔法が向かってきます。
フォルテは障壁の中にいますが、私が魔力を送り続けているので、私を何とかしないかぎり、障壁はどうにも出来ませんから。
いくつもの黒い刃が、様々な軌道を描き、マガツヒへ向かっていきます。
「厄介な陣を使う」
マガツヒは、黒い刃から身を守るように何枚もの障壁を張っています。
障壁そのものは貫いていますが、破壊はできていません。その上、障壁を貫くごとに、動きが鈍くなり、障壁を貫くのにかかる時間が増えていきました。
ただ、注意を惹きつけるという結果はだしています。
よく使う魔法ですが、そんなに厄介なのでしょうか。
やる側とやられる側では、印象が違うんですね。
そんなことを考えていましたが、もう一つの準備が整いました。
「『ルイン』」
マガツヒの足元に、巨大な魔法陣が現れました。
その瞬間、マガツヒが何かに抑えつけられているような体勢になりました。
そして、マガツヒの四方を囲むように、四角い魔法陣が出現しました。
まだ魔法は完成していませんが、これだけで大量の命素を使い、さらに奪われ続けています。
「貴様、何故この陣を」
「教えませんよ」
マガツヒは、抵抗するのが精一杯なのか、魔法陣による攻撃がやみました。
私にとってもありがたい話です。
大量の魔力を練り上げ、魔法を完成させるために注ぎ込み続けます。
マガツヒの上空にも四角い魔法陣が現れ、マガツヒは魔法陣で作られた箱に閉じ込められています。
私は気合を入れるために、杖を両手で持ち、回してから地面へ突き刺しました。
「これでどうですか」
箱の内部に黒い線がはしりました。内部が崩壊を始めています。
けれど、マガツヒが抵抗しているようで、完全には崩壊しきりません。
ですが、これは足止めです。
私が倒しきる必要はありません。
「行くぞ」
フォルテが踏み込みにより、足元に大きな穴を開けながら、マガツヒへ向かいました。
その手に持つ長剣には、黒と白の竜のような光が巻き付いています。
「『
フォルテが私の魔法ごと、マガツヒを斬ろうとしています。
「GUAAAAA」
何かを叫んで気合を入れているようです。
その証拠に、フォルテが魔法陣の箱を斬り始め、マガツヒへ到達する直前、障壁により邪魔されているのがわかりました。
「『シールド』」
私は、『ルイン』を維持したまま、左手の手袋に縫い付けてある魔法陣を使いました。
身を守るのではなく、マガツヒの張った障壁に干渉させます。
けれど、マガツヒの張った障壁には、膨大な魔力が注ぎ込まれているようで、消し去ることが出来ません。
私は、後のことを考えるのを止め、残っている全ての命素を使い、魔力を練り上げ、注ぎ込みます。
そのせいか、段々体の感覚がわからなくなってきました。
自分の足で立っているのが辛く、今立っていられるのも、不思議なくらいです。
段々と視界がぼやけてきました。
「フォルテ……」
小さく呼びましたが、聞こえているかわかりません。けれど、その名を口にするだけで、力が湧いてくる気がします。
そして、障壁が砕ける音がしました。
手応えからして、干渉し、破壊出来たのでしょう。
その直後に、断末魔のような声が聞こえましたが、力を使い果たし、倒れようとしている私には、声の主であるマガツヒの状態を見ることは出来ません。
微かに痛みを感じたので、倒れたのだと思います。
今の私には、黒い空間ということも重なり、目を開けているのか、閉じているのかわかりません。
「カノン」
遠くで足音が聞こえ、誰かの声がしました。
「カノン、大丈夫か」
ああ、フォルテの声です。
「フォルテ、そこにいますか?」
「ああ、いるよ」
少し暖かさを感じているので、抱きかかえられているのでしょうか。
「ちゃんと、倒しましたか?」
「ああ、もちろんだ」
「それは、よかったです」
私は今、笑えているのでしょうか。
「カノン、どうしたんだよ」
笑えていないのでしょうか。
それは大変です。
「ちょっと、力を使い過ぎたみたいです」
「大丈夫なんだよな」
今度はわかります。ちゃんと、笑いかけています。
「絶対に助けるからな」
感じていた暖かさが、段々と消えていきます。
それと同時に、全てが消えていく感覚がしました。
おはようございます。
事実上の最終話的な回です。
王道の異世界ファンタジーという以上、ある程度の流れは決まっているので、あとはそれをどう書くかで変わってきますが、途中でゴーレムを倒して、節目で魔王を倒して、最後に竜を倒す。
絶対に外せない条件だと思っています。
最終話という名の後日談みたいなものは、13時に予約投稿します。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
最終話もお付き合いいただけると、幸いです。