魔導都市にあるタクト=ワイズマンの研究室、そこで、私達はとんでもないニュースを聞きました。
ドラゴニア王国とドラムス帝国、長い間大きな戦闘もなく、冷戦と言ってもいい状態でした。その国境にある帝国の砦が、何者かに襲われたと言うのです。
私達は、和睦の使者の護衛という立場なので、使者であるフォルテ=グレイスが、この場に残ることを決めてしまったため、私と師匠も、必然的に残ることになりました。
「情報をまとめるかのう」
「頼むよ、ワイズマン」
ワイズマンの話によると、国境付近にある帝国の砦が攻撃を受け、その犯人が、王国騎士団を名乗っており、王国側の都市に逃げ込んだということです。
逃げ込んだ都市にいる駐屯兵団は、都市を封鎖し、逃げ込んだ犯人を外へ出さないようにすることで、襲撃の犯人が、王国の人間ではないと示そうとしているそうです。
「メゾ、ワイズマンとして、弟子へ指示を出す。国境都市へ行き、駐屯兵団と協力し、砦を襲撃した犯人を捕まるんじゃ」
相手は、帝国の砦を襲撃しながらも、逃げ出すことが出来るほどの実力を持っています。いくら、ワイズマンの弟子と言えど、中級魔法使いでは、きついのではないでしょうか。彼女のことは、心配する気はありませんが、この騒動の行末によっては、私達の依頼に大きく関わってくるはずなので、気になります。
「ワイズマン、一つお願いがあります。フォルテ=グレイス様への協力要請を出してはいただけませんか?」
「え? 俺?」
フォルテは、突然のことに、驚いています。無理もありません、旅の同行が無理になった直後なのですから。
彼女は、旅への同行をまだ諦めていないのでしょうか。
「彼女が、デュオ様に実力を示したというのであれば、わたくしは、フォルテ様自身に、力を見ていただきますわ。そして、わたくしが役に立つかどうか、その目で判断してください」
「でも、ワイズマンの条件は、三人の許可だろ」
「ええ、ですから、その時は、フォルテ様が、説得していただけると、嬉しいですわ」
私は、フォルテが認めたとしても、彼女の同行を認める気はありません。弟子が、師匠のそばを離れて、旅に出るなど、あり得ないからです。
「フォルテ君、襲撃の犯人探しについては、協力してもいいんじゃない?」
「フィーネさん、何故ですか?」
師匠、いつの間に起きていたのですか。しかも、ちゃんと話を把握しています。
師匠は、受けた依頼を蔑ろにすることはありません。ですから、今の状態が、依頼を達成するにあたり、障害になると考えたのでしょう。
「同盟を結ぶのに、大規模な戦闘の真っ最中ってのは、無理だと思うよ」
「確かに、そうですね。ワイズマン、俺からも頼む。協力させてくれ」
「お主が、そういうのなら、止はせん。じゃが、死ぬなよ」
ワイズマンは、そういうと、私達を送るための手配を始めました。
フォルテは、その手にオリハルコンの長剣を握っています。受け取ってすぐに出番がくるとは、誰も思っていなかったでしょう。
私達四人は、ワイズマンの用意した馬車を使い、移動を開始しました。道中では、私と彼女の仲が悪く、師匠は寝ているため、フォルテが苦労していましたが、私は気にしません。師匠を侮辱した人と、仲良くする気は、ありません。
道中、魔物の襲撃に会いましたが、街道に出現する魔獣に手こずる人はいませんでした。彼女も、ワイズマンの弟子というだけの実力はありました。そこだけは、認めます。
二日かけて帝国との国境にある都市に来ました。都市を囲むように、駐屯兵団や、増援の騎士が配置についており、都市の出入りを厳しく管理しています。
この都市は、砦としての意味合いが強いので、民間人は、そこまで多くありません。それが幸いして、大した混乱は起きていないようです。
フォルテ達が、騎士に話をつけ、都市への立ち入り許可を貰ってきました。
「これで、都市に入れるぞ。だけど、その前に決めておきたいことがある。どうやって犯人を探すかだ」
「そうですわね。中に入ったとして、すぐに見つかるわけではありませんから」
「そもそも、犯人は、何者なのでしょうか」
今思い浮かぶのは、帝国の急進派です。ウェストゲート襲撃の件もありますから、可能性としては高いです。ですが、自国の都市を攻撃するのは、やり過ぎな気がします。
「ここって、氷の海が近いよね」
師匠がつぶやきました。この大陸の北側にある氷の海、そこを隔てた先には、魔族の国があります。ですが、氷の海には、数多くの魔獣が生息しているため、魔族の国とも、戦争状態にあるとはいえ、こちらから攻めることが出来ずにいるそうです。
「フィーネさんは、魔族が犯人だと?」
「んー、候補には入るかな」
「確かに、あり得る話ですわ。王国と帝国の間で、大規模な戦闘が始まれば、魔族は、その隙をつきやすくなりますもの」
つまり、魔族が、この都市にいる可能性があるということです。ですが、一つ問題があります。
「魔族の可能性は捨てがたいです。ですが、魔族がいれば目立つのではありませんか?」
「そうなんだよね。そこが問題だよ」
師匠も、あくまでも仮説の段階だったようです。
「とりあえずだ。怪しいやつには注意だな」
それは、言われなくても注意します。リーダーシップを発揮しようとしたようですが、結局、可能性を広げただけでした。
「それでは、向かいますか」
私達は、都市へと入ります。出たとこ勝負である以上、先手を取れるように、神経を尖らせます。
そして、私達が、都市の中を探していると、遠くで爆発音が聞こえました。
「何だ!」
「煙が出てますわ」
「犯人の陽動かもしれません。注意を惹きつけて、包囲網を突破する可能性があります」
「とにかく向かうぞ」
フォルテを先頭にし、私達は爆発現場へ向かいます。その途中で、師匠が声をかけてきました。
「カノン、何か感じる?」
「何をですか?」
私は、何かわからず聞き返してしまいました。質問が抽象的すぎて、答えられません。
「何か、大きな力とか、強い力とか」
「そう言われてみれば、爆発現場付近に、何かある気がします。後、薄っすらと広がる何かがあるのですが……」
爆発現場に関しては、気付いたからなのか、明確に感じ取れます。ですがい、この都市に広がるもう一つの感覚については、よくわかりません。
「そう。とにかく、ちゅうい――」
師匠が、そこで言葉を切ると、途端に振り向きました。
「先に行ってて」
師匠の視線の先に、一人の魔族がいました。遠目なのでよくわかりませんが、筋肉の鎧を纏った体に、剣を持っています。ですが、気配を感じ取りづらく、力を把握できません。
「私も手伝います」
「ダメ。残られると、足手まといだから。そっちに、三人で向かって」
師匠は、筋肉の鎧を纏った魔族と対峙しています。体には、無数の傷跡があり、数多くの戦いをくぐり抜けてきたことは、容易に想像がつきます。
「わかりました。師匠、無茶はしないでくださいね。魔法を使う魔族もいるはずです」
あの魔族から気配を感じ取れない理由は、別の魔族が魔法で妨害しているという可能性があります。
私達は、師匠を残し、現場へと向かいました。
そして、背後に戦いの音を聞きながら、爆発現場へと向かうと、三人の魔族が、私達を待ち構えていました。、褐色の大型魔族と、白い細身の魔族です。ですが、女性の魔族は、頭の横から出ている角を除けば、人間と見間違うほどそっくりです。
「こいつらか」
「ドライ参謀の予測は、良くあたりますね」
「とにかく、作戦を成功させれば、私達が、
九近衛、聞き覚えがあります。たしか、魔王の側近のことです。ですが、30年ほど前の王国・帝国・魔王軍の三つ巴の大戦で、壊滅したと聞いています。正式採用されるということですから、二代目とか、そういった類のものでしょう。
「それじゃあ、俺達の為に、死んでくれ」
漆黒の大剣を持った魔族が、戦いの先陣を切りました。私達へ、力任せに大剣を振り降ろします。けれども、フォルテが、オリハルコンで作られた長剣を使い、その一撃を受け止めました。
魔族達は、その結果に驚きながらも、既に動き出しています。
「私達も、いきますよ」
「貴女に言われるまでもありませんわ」
私達は、魔法の詠唱を始めました。お互いに、詠唱の短い魔法を唱えることで、それぞれの魔族に対して、先手を取ろうとしています。
「ガギ、人間にしては、中々だな。それに、その剣もだ」
「く……」
フォルテは、受け止めてはいますが、押し返せてはいません。それが、人間と魔族の膂力の差でしょうか。
「『
奇しくも、私達二人の魔法を唱える声が、重なりました。私の方が、気持ち大きい火球を出現させます。二つの火球が、大剣を持った魔族へと放たれました。
「お二人共、甘いですよ。『アクアストーム』」
その声と共に、後衛にいた、男の魔族が、手にしている漆黒の錫杖を使い、空中に陣を描いています。そして、その魔法陣が完成すると同時に、魔法が発動しました。
魔法陣から、水流が吹き出します。それが、フォルテ達へ届き、命中する直前の火球を消し去りました。
「そ、そんな!」
「あれが、第六属性、闇の魔法ですか」
「ハッ、そんな分類、人間が勝手にまとめたものでしょ。私達の魔法は、あんた達とは、違うのよ」
確かに、魔族の使う魔法は、魔素だけを使っているため、その名称を、第六属性の闇としただけで、詳しいことは何もわかっていません。ですから、水の魔法も存在しています。
そもそも、魔法の発動が早すぎます。私達が、しっかりと詠唱した魔法を、相性があるとはいえ、瞬間的に発動した魔法で、打ち消したのですから。
「おらおら、お前も、この程度か!」
フォルテと大剣を持った魔族も、鍔迫り合いから、斬り合いに移行しています。どうやら、パワータイプの魔族らしく、一撃一撃の重さが違います。
「それじゃあ、私も、いこうかね。『ストームエッジ』」
女の魔族が、漆黒の扇を取り出すと、陣を描き、魔法陣を作り上げます。魔法陣から繰り出される風の刃が、私達を襲います。ですが、距離があるため、回避するのは、簡単でした。
「くっそ」
フォルテは、体格差を生かし、細かく動くことで、その攻撃を掻い潜っています。けれども、持久力が違うため、長引けば、不利になるでしょう。
ならば、こちらは、圧倒的な手数で押すだけです。
「しばらく、持ちこたえてください。貴女の実力は信用しています」
「ちょっと、何を行ってるのですの?」
彼女の言葉を無視し、私は、杖を一回転させ、先を地面に叩きつけ、気合を入れます。そして、長い詠唱を始めます。
彼女は、私からの返事を諦め、フォルテの援護に移りました。
「『
素早く詠唱を済ませ、余分に魔力を練り上げることで、多重に魔法を発動させました。
そうして生まれた風の刃が、三人の魔族それぞれに降り注ぎます。魔法の発動を確認すると、効果を確認する前に、次の詠唱に入っています。
そうすることで、相手に時間を与えないのでしょう。
「小娘が!」
大剣を持った魔族が、フォルテを弾き飛ばし、こちらへ向かってきます。
私達は、共に詠唱をしているので、移動は出来ますが、あのクラスの魔族の攻撃を避けるのは、難しいです。
「ゼクス、後ろだ!」
錫杖を持った魔族が、叫びました。
フォルテが、オリハルコンの長剣に、漆黒の竜痕の力を纏わせています。さらに、その漆黒の光が、フォルテ自身を包み込ました。そして、ゼクスと呼ばれた魔族に向かって行きました。
「流石は、竜痕か」
ゼクスと呼ばれた魔族は、フォルテの長剣を、大剣で受け止めると、そのまま勢いで後ろへと押しやられました。
最高の竜痕である、漆黒の竜痕の力は、凄まじいようです。
「『
私の横で、地属性の魔法が放たれました。多重発動をしているようで、いくつもの弾丸が、魔族達へ降り注ぎます。けれども、すぐに叩き落とされてしまいました。
「ジーベン、アハト、遊んでないで、さっさと終わらせるぞ」
どうやら、大剣を持った魔族がゼクス、錫杖を持った男の魔族がジーベン、扇を持った女の魔族がアハトという名前のようです。
名前がわかれば、対象をしっかりと認識しやすくなります。私の魔法も、詠唱が終わりましたから、これからが本番です。
「『
フォルテ達には、この魔法を見せていません。命素の消費が激しいので、あまり使いたくありませんが、ここは出し惜しみをしている場合ではありません。
周囲の風を支配し、命素を送り込むことで、風に詠唱させます。
その結果、辺りから様々な詠唱が響き渡ります。
「何、これ」
隣から声が聞こえました。ですが、今答えている暇はありません。
フォルテは、詠唱に気を取られていましたが、詠唱をするということは、人間の魔法だと理解したようで、ゼクスへと意識を向けています。
ゼクスのことは、フォルテに任せ、私は、後の二人を集中的に狙います。竜痕の力を使っている以上、心配はいらないはずです。
周囲から、いくつもの、魔法が発動し、ジーベンとアハトを襲います。二人は、私の魔法を迎撃しますが、いくら素早い発動が可能でも、私の手数には勝てないようです。
十分温まってきたので、私も、詠唱を始めます。
私の声に反応し、隣でも、詠唱が始まりました。
まったく、もっと集中して欲しいものです。
「『
隣から、魔法が発動しました。いくつもの光の輪が飛び立ち、魔族の魔法を切り裂きながら、迫ります。さらに、魔族の手足を拘束し、魔素の流れを妨害しています。
第五属性の光に属する魔法ですか。魔素を無効化する効果を持つ魔法が多いですし、同じ光の魔法でも、治癒魔法と違い、適正は入りませんからね。ですが、扱いは難しいはずです。ここは、素直に褒めましょう。心のなかで、ですが。
これだけの魔法の打ち合いをしておきながら、周囲の建物からは、人っ子一人出てきません。恐らく、都市を封鎖するにあたり、一般人のほとんどは、どこかに集められているのでしょう。
それなら、安心して魔法を使えます。
この戦場では、変化のない状態が続いています。お互いに、決定打を与えられていません。私達は、師匠を残しているため、焦り始めていますが、相手には、焦りが見えません。それどころか、長引かせようとする様子すら見えます。
「貴女、えっと、メゾ=アンダンテ」
「何ですの。やっと名前を呼んだと思ったら、このタイミングですの」
私達は、詠唱の合間に、言葉を交わします。
そういえば、私は、彼女の名前を呼ぶことを避けていました。ですが、実力を認めた以上、名前を呼ぶことにしました。
「貴女が、私の名前を呼ばないことについては、今は言及しません。何か大きいの、使えますか?」
「古代魔法でよければ、それなりのがありますわよ」
「では、時間を稼ぐので、お願いします」
私は、感覚が薄れてきた手足に力を込め、魔法の密度を高めました。
中には、『
メゾから聞こえてくる詠唱に耳を傾けながら、私は、魔族の足止めを続けます。詠唱から察するに、かなり高度な魔法です。残念ですが、私には使えません。
彼等も、私の使う高位魔法は、脅威に感じているらしく、優先的に迎撃しています。
フォルテは、ゼクスと斬り合いを続けています。援護をするために、なるべくゼクスを巻き込むようにしていますが、後の二人が、フォローをしているため、手出しが出来ません。
「あんた、強いな。それに、本気じゃないだろ」
「ふっ、それは、お前もだろ。竜痕の力は、その程度ではないはずだ」
竜痕は、所持者の強化を可能にします。使っている最中は、自身の命素と周囲の魔素を消費するのですが、現在、この付近の魔素の大半は私が『風の調』により消費しています。それに、魔族の魔法も、大量の魔素を消費するので、フォルテとメゾは、魔素を使うのに、苦労しているはずです。だからこそ、全力で戦えないのでしょう。ですが、全体を足止めするためです。我慢してもらいましょう。
「『崩壊』」
メゾの声が響き渡りました。
白い光が、ゼクスへと向かいます。一条の光が通った場所が、崩壊を始め、世界が崩れていきます。あの魔法は、直線にしか撃てませんが、防ぐことは、ほぼ不可能のはずです。
私は、二人に邪魔をさせないよう、魔法を集中させます。
そして、光がゼクスを捉えたように、見えました。
「ああ、ごめんね。私、幻術が得意なの」
魔法が、ゼクスを通りぬけ、奥にある建物を貫いていました。
アハトの仕業のようです。フォルテとゼクスの位置が、私達が見ていた位置よりも、建物数個分ずれていました。私達は、幻術に関してまったく気付くことが出来なかったのです。
「メゾ、大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、ちょっと、命素を絞りすぎましたわ。貴女のせいで魔素を集めにくいですし」
周囲を警戒しながら、フォルテが少し下がってきました。
「二人共、ちょっと魔素を集める。そうすれば、竜痕の力を最大まで引き出せるはずだ」
「わかりました」
「ああ、その必要はありませんよ」
頭上から、声が響き渡りました。私達は、無防備にも、その声に釣られ、声のする方を見上げてしまいました。
そこには、一人の薄い緑色の魔族が浮かんでいます。
「ドライ参謀」
魔族側から、声が聞こえました。
「ああ、君達、済まないね。フィーネ=グリードの弟子を惹きつけていてくれたのに、こちらの手違いで、師匠を殺せなかった。それどころか、厄介な邪魔者が現れてしまったよ。君達の正式採用は、決定したから心配しないで撤退してくれ」
「師匠をどうしたんですか!」
「なるほど、君がフィーネ=グリードの弟子ですか。他の人間とは違って、不思議な気配ですね。君の師匠はまだ生きているよ。でも、殺してみせるよ。あの力を魔族側に取り戻すためにね。さ、アハト、撤退だ」
アハトが、扇を振りかぶり、魔法を使いました。その瞬間、魔族全員の姿が消えました。恐らく、幻術で姿を隠したのでしょう。力の強い魔族が多いので、気配が濃く、追うことが出来ません。
ですが、追いかけるよりも、しなくてはいけないことがあります。
「すみません、先に行きます」
私は、師匠と別れた場所へ急ぎます。命素の使いすぎで、上手く走れませんが、急がなくてはいけません。
「師匠……」
私は、無我夢中で走っています。ですが、足がもつれ、転びそうになりました。ですが、後ろから手を捕まれ、踏みとどまることが出来ました。
「カノン、俺が運ぶから、いくぞ」
「え、あの、ちょ」
フォルテに背負られてしまいました。少し遅れてメゾが付いてきます。
こうして運ばれながら、師匠と別れた場所へ着きました。けれど、破壊の痕跡が広がっているだけで、師匠の姿が見当たりません。恐らく、闘いながら移動したのでしょう。
「痕跡を追いかけてください」
「ああ、わかった」
「ちょ、ちょっと、待ってください、まし」
「メゾ、後から来てくれ」
フォルテが、痕跡を追っていきます。
それにしても、師匠は、周囲に一切気を使っていないようです。人が少なかったからよかったものの、完全に壊れている建物すらあります。
しばらく進むと、瓦礫の中に、白い大きなものが見えました。
「フォルテ、あれは、飛竜ですか?」
「ああ、それに、あれは兄貴のだ」
デュオさんは、竜騎士だったようです。ですが、今は師匠の確認が大事です。
飛竜の近くに、二人の人影が見えました。
「師匠、大丈夫ですか?」
デュオさんに抱きかかえられている師匠の姿を確認すると、全身がボロボロになっていました。けれども、意識はありませんが、息も、脈も確認出来ます。見た目は、かなりの重症ですが、生きているようです。そして、ボロボロの左腕の袖から、黒い刻印が覗いています。
私は、フォルテから降りると、意識のない師匠の傍らで、ただへたり込むことした出来ませんでした。
「カノンか、命に別状はないと思うが、しっかりした治療が必要だ。フォルテ、包囲している部隊に、治癒魔法が使えるものがいるはずだから、呼んできてくれ」
フォルテは、返事をしながら都市の外へと向かいました。それと入れ違いに、メゾが、追いつきました。
「デュオ様、どうしてここにいらっしゃるのですか?」
「砦から連絡を貰って、部隊を率いてきたんだが、胸騒ぎがしたから、私だけ先に来たんだ」
「ですが、この状況は……」
「私が来た時には、フィーネは三人の魔族と戦っていた。九近衛の大将軍アイン、魔将軍ツヴァイ、参謀将軍ドライ、この三人だ」
「九近衛の内の三人を同時に相手取るなんて……」
「それが、フィーネの実力なんだ。もっとも、フィーネは、既にボロボロだったんだが、私を見るや否や、攻め続けていた魔族が、防戦に移って、撤退してしまった。手傷は負わせたが、こちらもボロボロになってしまった。彼等の目的は、フィーネだから、私が邪魔だったのだろう」
「あの、デュオ様、ドライが、私達の方にも来たのですが、その時に、あの力を取り戻すと言っていましたわ。それにいついて、何か知っておられますの?」
「知っているが、フォルテが戻ってきた。後で話すよ」
誰かが、師匠の傍らで座り込んでいる私の肩を叩きました。
私がゆっくりとその人の方を見ると、デュオさんでした。
「アリ……、フィーネを安全な場所へ連れて行こう」
「は……はい」
デュオさんが師匠を抱きかかえました。ものすごく丁寧です。
私も立ち上がろうとしますが、立つのが精一杯で、倒れそうになると、いつの間にか戻ってきていたフォルテに支えられました。
「すみません」
「謝ることじゃない。とにかく、行くぞ」
私達は、破壊の痕跡が著しいこの場所を後にし、駐屯兵団の施設へ向かいます。
駐屯兵団の施設にある医務室で師匠は治療を受けています。
治癒魔法の使い手曰く、かなりの重症ですが、すぐに起き上がれるとのことでした。
「兄貴、あの九近衛って奴らは、何しに来たんだ? フィーネさんを殺して、魔族の側に力を取り戻すって言ってたけど」
「ああ、フィーネ=グリードというのは、そういうシステムなんだ。左腕の刻印、それが、フィーネの証だ。私も、そこまで詳しいことは知らないが、あの刻印を持つ者が死ぬと、もう一方の種族へと、力が転生する、そう言うシステムだ。フィーネ=グリードという存在は、その種族において魔法使いの頂点に立つことが出来る。それは、もう一方の種族からすれば、脅威だ」
私には、声が聞こえています。けれども、頭が会話の内容を理解しようとしません。師匠がこんな状態になったことが、それほどまでに、ショックでした。
「だから、フィーネさんを狙ったのか」
「ですが、何故魔族は、このタイミングで仕掛けられたのですか?」
「それは、わからない。内通者がいるのかもしれないし、他の方法かもしれない。それに関しては、軍を動かす。ただ、今日はカノンを休ませて上げてくれ」
この日、私は何も出来なかったことを悔やみながら、意識を手放しました。
こんばんは
というわけで、第六話です。
竜と書くと、洋風で、龍と書くと和風な気がします。
勇者らしき立ち位置の人物はいますが、竜が微かに登場です。
それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。