魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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旅の始まり

 私が目を覚ますと、昨日と同じ部屋でした。

 左腕に奇妙な感覚を感じ取り、恐る恐る見ると、そこには、黒い刻印がありました。それは、昨日の出来事が現実だと認識させるには、十分すぎました。

 昨日の光景が頭をよぎり、胸が締め付けられ、目頭が熱くなりました。

 部屋で一人、自分の体を抱きしめながら悲しみに打ちひしがれていると、扉がノックされました。

「カノン、起きてるか?」

 フォルテです。数日とはいえ、寝食を共にしたので、そろそろ私が起きる頃だとわかっていたのでしょう。

 私は、部屋へ迎え入れるために、目をふき、返事をします。

「どうぞ」

「ああ、入るぞ」

 フォルテが静かに入ってきました。

 ベッドの横にある椅子に腰掛けると、私を見つめながら、ただじっとしています。

 私は、この空気に耐えられなくなり、声をかけることにしました。

「もう、出発の時間ですか?」

「いや、まだ大丈夫だ。ただ、その……」

 フォルテは、無造作に散らかしている金髪を弄りながら、何かを言いにくそうにしています。ですが、口にしてもらわなければ、何が言いたいのかわかりません。

 私は、続きを促すでもなく、ただ待ち続けました。

「兄貴が、呼んできてくれっていうから。あと、これ、いるか?」

 フォルテは、長袖のシャツを持ってきていました。

 私は、その意味がすぐにはわかりませんでした。ですが、フォルテの視線を辿り、その意味を理解しました。

「半袖ですと、刻印が見えてしまいますね。ありがたくいただきます」

「ああ、今から着るなら、少し出てるぞ」

 今日のフォルテはおかしいです。いつもは、こんなにやさしくありません。

「今日は、優しいんですね」

「今日はってのはひどいな。いつもだろ」

「そういうことにしておきます」

「まったく。それじゃあ、兄貴が呼んでるから。着替えるだろうから、外で待ってるよ」

「ありがとうございます。急ぎますので」

 今日は優しいので、あまり待たせないようにします。

「ああ、ゆっくりでいいからな」

 フォルテは去り際に一言いうと、扉を締めました。

 フォルテの持ってきた長袖のシャツを見ると、少し心が暖かくなりました。けれども、フォルテを待たせすぎるわけにはいかないので、手早く身支度を整えます。

 準備が終わり、部屋を出ると、フォルテが窓から外を見ていました。

「すみません。お待たせしました」

「いや、気にしなくていいよ」

 フォルテが、私の手を掴むと、付いてくるよう促します。

 できれば、引っ張らないで欲しいです。

 このままフォルテについていくと、少し豪華な部屋へとやってきました。

「兄貴、連れてきたぞ」

 中から返事が聞こえると、フォルテが扉を開き、入っていきます。もちろん、私の手を掴んだままです。痛いです。

「失礼します」

 部屋へ入るのですから、声はかけるべきです。

 部屋の中には、デュオさん、クワドループルさん、スコアという騎士に、メゾがいました。

「やぁカノン、呼び立ててすまない。まずはスコアの紹介をしよう。彼は、スコア=コンデンス、私のもう一人の副官だ」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 軽く頭を下げられてので、同じように返しました。

「さて、まずはフィーネのことだ」

 師匠の名前を聞いた途端、緊張が走りました。昨日のことが頭をよぎり、胸が締め付けられていきます。ですが、フォルテが掴んだままの手から、温かいものを感じます。

「遺体は、現在、砦の一室に保管している。君の希望もあるだろうが、私としては、私の手で弔いたい」

 私は、昨日の戦闘の後、すぐに倒れてしまったようで、その後どうなったのか知りません。ですが、デュオさんは、しっかりとした対応をしてくれたようです。そのことには、感謝します。

「私には、師匠を弔う方法がありません。ですから、お任せしていいでしょうか?」

「ああ、任せてくれ。だが、勿論君も立ち会うのだろ」

「はい、勿論です」

 言われなくても立ち会うつもりでした。任せたのは、方法だけですから。

「では、次だ。私の依頼、続けるか?」

 それは、フォルテの護衛を続けるかということです。この依頼は、あくまでもデュオさんが師匠に対して出したものです。私は、フィーネを継承しました。けれども、師匠と同じ実力があるわけではなく、師匠になったわけでもありません。それに、今度は、魔族が私を狙ってくる可能性がある以上、フォルテの近くにいることは、無用の危険を招くことになります。

「それは、私に決定権があるのですか?」

 私は、依頼される側です。依頼主が依頼を取り下げれば、そこまでです。

「俺は、カノンがいいなら、続けて欲しい」

 思いもよらぬところから返事が聞こえました。

 私がいいなら。つまり、私に決定権があるということです。

「師匠が、引き受けたことですし、一度引き受けた依頼を、放棄するのは性に合いません」

「そうか、なら、引き続き、護衛を頼む。とはいえ、一度王都に来てもらうよ」

 師匠を弔うためです。それについて異論はありません。ただ、一つ知りたいことがあります。

「デュオさん、王都に戻るまでの間で構いません、師匠のこと、教えてもらえませんか?」

 デュオさんは、笑ってうなずきました。

 

 

 

 

 砦から王都へ向かう馬車に乗っています。空を見上げると、デュオさんの白い飛竜が悠々と飛んでいます。

「さて、フィーネについてか。何から話そうか」

「最初から、お願いします」

 そう、最初から。私は、師匠に拾われる前のことを何も知らないのですから。

「最初か。あれは、12年前のことだ。王都の近くの森で、一人の少女と出会ったんだ。彼女は、アリアという名前以外、何も覚えていなかった。カノン、君ならわかるだろ。彼女もまた、妖精隠しの被害者だ」

 妖精隠し、それは、高い魔法の素質を持った子供が、行方不明になる現象です。運良く発見されたとしても、その子供は、記憶を失っています。

「フィーネとして、呼ばれたんですね」

 私は、左腕の刻印が、フィーネ=グリードという仕組みについての知識を流し込まれていました。

「私達が、記憶を失うのは、フィーネを継ぐにあたって、不都合がないようにするためらしいです。その時のフィーネが、次のフィーネと出会うまで、何人もの被害者が選ばれ続けるそうです」

 つまり、私が師匠と出会ったことで、妖精隠しは、一度止まったことになります。そして、私がフィーネを継ぎ、ある程度の成長を遂げた段階で、妖精隠しが始まることを意味します。

「とりあえずだ、カノンが、刻印に、フィーネとして認められるまでは、妖精隠しが起きないということだ。もっとも、刻印に認められなかった時は、別の方法を取るらしい」

 デュオさんは、一度言葉を切り、仕切りなおします。

「アリアを私の家で保護したんだ。その頃は、フォルテも小さくてな。アンダンテ家との付き合いで、そちらの家で暮らしていたから、アリアのことは知らないんだ」

「ああ、あの頃か。完全に記憶があるわけじゃないけど、それじゃあ、知らないのは当たり前だな」

「フォルテ様、わたくしとの誓は、覚えてくださっていますわよね」

 メゾが、フォルテへ迫っています。けれど、フォルテは、視線をそらし、曖昧な返事しかしません。

「そして、魔法の素質があることがわかって、本人の希望もあったから、魔法学園へ行かせることになったんだ。そこで、グレイスを名乗らせるという話もあったんだが、本人が拒否してな。ただのアリアとして過ごしていたよ。とは言え、グレイス家に保護された優秀な魔法使いの卵だ。そんな娘が、貴族社会の中にいれば、当然目の敵にされる。中には、特に家名に固執する者もいて、名無しのアリアと呼ばれていたんだ」

 名無しのアリア、少し前に、ワイズマンの元で聞きました。とても優秀な魔法使いで、弟子にしようと考えていたようですが、他の魔法使いに取られたと言っていました。

「それで、開き直って、アリア=ネイムレスですか。ワイズマンが、弟子にしたがっていたらしいですね」

「ふっ、聞いたのか。当時は、私も騎士学校に行っていたから、詳しくは知らない。けれど、たまたま訪れた当時のフィーネに、弟子にしてくれと頼み込んだらしいぞ」

「その後は、連絡を取っていたのですか? ウェストゲートに行った時も、師匠が呼んだらしいですが」

 サウスゲート付近の街にいた時に、連絡をしていたと聞いています。そんな不確かな情報だけで、英雄と呼ばれるデュオさんが動くのですから、それだけ信頼の置ける仲だったはずです。

「たまにね。当時のフィーネと旅をしていて、フィーネを継いでからも、王都には、ちょくちょく来ていたよ。まぁ、何年も連絡がないこともあったけどね。でも、私から言えることは、特に無いよ。私は、あくまでも、アリアを保護した家の人間だからね。それに、彼女との思い出は、閉まっておきたいんだ」

 デュオさんと師匠の関係は、よくわからない部分が多いですが、デュオさんにとって、師匠は大切な存在だったのでしょう。そこは、深く追求しないことにします。

 それに、魔法学園なら、師匠のことを知っている人がいるかもしれません。フォルテの護衛が終わったら、魔法学園によってみようと思います。

「そうですか。なら、他のことは、私が、旅をしながら聞いていこうと思います。師匠が行ったことがあって、私が行ったことの無い場所は、まだまだありますから」

「なぁ、カノン、よかったらでいいんだけど、その時は、俺に護衛させてくれ」

「何を言っているんですか。帝国との戦争が終わったとしても、魔族との戦いは続くんですよ。騎士学校の生徒という身分がありますし、卒業しても、王国の騎士になるんじゃないんですか? だったら、そんなことをしている暇はありませんよ」

 フォルテは、困った顔をしています。

 そんなフォルテを庇うように、メゾが、フォルテの腕を抱きしめながら、口を出してきました。

「カノン、貴女の実力は認めましたが、フォルテ様は渡しませんわ。それに、わたくしなりのとっておきも、考えつきましたわ。ですから、覚悟しておきなさいまし」

「別にフォルテはいりません。それと、私のとっておきが二つだけだと思ったら、大間違いです。それだけは覚えておいてください」

 私は、メゾを正面から見据えて言い返しました。そもそも、人の手を掴んで引っ張り回そうとする人を欲しいとは思いません。

 ですが、私の言葉を聞いて、メゾは安心した顔をしています。

 話が逸れましたが、一つ大事なことを思い出しました。

「デュオさん、一つ、お願いがあります。師匠の持ち物ですが、私の旅が終わるまで、預かっていてもらえますか?」

 デュオさんは、私のお願いに驚いた顔をしています。どうやら、予想外だったようです。

「わかった、預かっておこう。ちゃんと取りに来るんだぞ」

 それについては、しっかりと頷きます。言われなくても、取りに行きますから。

 

 

 

 

 王都に着くと、ひっそりと師匠の埋葬が行われました。

 師匠の入った棺を埋めるために土がかけられるのを見て、私は崩れ落ちそうになりました。ですが、いつの間にか後ろに来ていたフォルテが、両肩に手をやり、しっかりと支えてくれました。目に涙を溜めつつも、フォルテの目を見て感謝を示します。フォルテのお陰で、最後まで見届けることが出来ます。

 埋葬が終わり、今この場には、私しかいません。

 師匠のお墓には、フィーネ=アリア=グリードと記載されました。これは、前もって決めたことです。私は、師匠のお墓の前で誓います。

「師匠、この刻印は私が受け継ぎます。師匠がくれた名前を使わなくなるのは寂しいですが、私が、師匠の弟子だと、胸を張って言えるように、フィーネ=カノン=グリード、そう名乗らせて貰います」

「でも、俺はカノンって呼ぶからな」

 後ろからフォルテの声がしました。先ほど確認した時は、誰も居なかったのに、いつの間に来たのでしょう。

「別にフィーネと呼べなんていいませんよ。多分ですが、そう呼ばれても、反応出来ませんから。ですから、これからもよろしくお願いします」

 私は、そう言いながら手を伸ばすと、フォルテがその手をとりました。しっかりと握り握手を交わします。

「まったく、二人だけでずるいですわ」

 メゾも現れました。私の独り言を聞かれていたとなると、恥ずかしい物があります。

「二人して独り言を盗み聞きとは、趣味が悪いですね」

「貴女が話しかけづらい雰囲気を作るのがいけなくてよ。それと、カノン。わたくしは、魔法学園に戻りますわ。いろいろと完成させたいものがありますもの。後、抜け駆けはゆるしませんことよ」

 雰囲気については濡れ衣です。ですが、抜け駆けの意味がわかりません。いったい何を勘違いしているのでしょうか。ともあれ。

「それでは、ここでお別れですね。魔導都市にも立ち寄ることもあると思うので、その時は、顔くらい見せます」

「まったく、貴女という人は……まぁいいですわ。ちゃんと顔を見せるのですわ」

 メゾと別れ、私達は、グレイス邸へ向かいました。少し目元が腫れていますが、それはしょうがありません。

 

 

 

 

 次の日、私とフォルテは、帝国へ向けて出発します。

 前回は魔導都市へ向かうために回り道をしましたが、今度はまっすぐに国境へ向かいます。国境と言っても、小さな山があるだけで、王国と帝国がお互いを刺激しないように過剰な軍備などは、していません。

 そして、数日かけて国境に近い街へ辿り着き、翌日の早朝から、国境の山へ入りました。

 小さい山ですが、使える道の都合上、一日で超えることが出来ず、野営が出来る場所を探し、野宿をしました。そして、次の日も、早朝に出発しました。

「なぁ、カノン、ちょっと休憩しようぜ」

 背後から、何度目かわからない言葉が聞こえてきました。

「またですか? 小さいといっても、山なんですから、休憩ばかりしていると、夜になりますよ」

 後は下るだけですが、今日の目的は、山の麓ではなく、山の先にある帝国の街なので、ぐずぐずしている暇はありません。

「そう言いながら、4回は休憩却下されてるぞ」

「フォルテがすぐに休もうとするからです。今は山を下っているのですから、麓までは我慢して下さい」

「へーい」

 私達は、この一連の流れを4回は行っているようです。何故そこまで休憩しようとするのでしょうか。

 少し考え事をしながら歩いていると、フォルテが急に近づいて来ました。

「カノン、止まれ」

「またですか? まった――」

 フォルテの方を振り向こうとしたところ、フォルテに頭を捕まれ、そのまましゃがまされました。

 私は、抗議の意味も込めてフォルテを見ると、唇に指を当てて、静かにと表現しています。

「あそこ、魔獣だ」

 私は、フォルテの示す方向を見ました。そこには、ゴブリンの集団がいます。

「それでは、いつも通りにいきます。いいですね」

「ああ、でも、ずっと歩きっぱなしだから、気をつけろよ」

「大丈夫です」

 私達は、お互いを見合わせ、頷きます。それを合図にフォルテが飛び出し、私が詠唱を開始します。

 フォルテは、集団の真ん中へ突撃しました。本来であれば、囲まれるというのは、かなりの悪手ですが、敵を倒すのに自信があるのか、私を信用しているのか、敵の中心で暴れています。

 簡単に敵を倒せるのであれば、余程のミスをしない限り、窮地に追い込まれることはありません。

 フォルテは、あっという間にゴブリンの数を減らし、残りは3体です。ですが、私の詠唱も終わりました。

「全部巻き込みます、離れてください。『旋風(せんぷう)』」

 ゴブリンを包み込むように風が渦巻きます。ゴブリンは、姿勢を低くし、飛ばされないようにしていますが、その程度で防げるような魔法ではありません。

 空中へと投げ出されたゴブリンは、風の刃に斬り裂かれました。

 けれども、私は、左腕に異常を感じ、腕を抑えながらうずくまってしまいました。

「カノン、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です」

「でも、魔法を使う度に、そうやってるだろ」

「刻印が、馴染んでいないだけです。大丈夫ですから、心配しないでください」

 フォルテが、心配そうに見つめてきます。痛みというよりは、命素の流れに不具合が生じるという感じでしょうか。

 魔法を使う度に影響がでますが、それは、私がまだ未熟なだけです。それに、左腕の異常は、すぐに治まります。

「大丈夫って言うんなら信じるぞ。ところで、『旋風』ってあんなに強力だったか?」

「普通の魔法使いであれば、1体が限界でしょう。昔の私でも、3体は無理でした。未熟な私でも、この刻印が、力を貸してくれているから、あそこまでの魔法になったんです」

 この刻印は、歴代のフィーネの力の結晶であり、知識の塊でもあるようです。そのため、私の力の底上げと、今まで持っていなかった知識を手に入れました。当然、そこには、知らない魔法すら含まれています。

「ふーん。つまり、魔法使い用の竜痕みたいなもんか。それにしても、カノンは、魔法使いとしても凄いのに、剣士としても、実力があるよな」

 フォルテは突然どうしたのでしょうか。

「私は、ただ体を鍛えているだけです。普通の剣士と比べたら、足元にも及びません」

「そうか? 機会があれば、必ず鍛錬してるだろ」

「あれは、ちょっとした型をなぞっているだけです。私の目的は、剣士としての鍛錬ではなく、魔法使いとして、魔法の反動から体を守ることですから」

 魔法を使うためには、体内の命素を消費します。しかし、命素の大半は、命素の消耗から体を守るために使われています。それでは意味がありません。

 私は、体を守るために使われる命素を少なくするために、体を鍛えるよう教わりました。

 私の魔法の威力が高いのは、他の魔法使いと比べて、魔力へと練り上げることの出来る命素が多いからです。

「なるほどな。でも、鍛錬を始める前に、川の場所を確認してたけど、何でだ?」

「それは……」

 私は、言い淀んでしまいました。そもそも、何故その理由を聞かせる必要があるのでしょうか。

「少し手合わせした後、すぐに居なくなったし。山の中だから、勝手に行動すると危ないぞ」

「変態」

 私は、その一言だけを言って、先を急ぎます。

 フォルテは、意味がわからないという顔をしていますが、詳しく教える気はありません。

「カノン、どうしたんだよ」

「とにかく、今は先を急ぎましょう」

 左腕の異常はとっくに治まっているので、私は、足早に進みます。

 途中、何度か魔獣と遭遇しましたが、これといって苦戦すること無く麓までたどり着きました。

「カノン、約束の麓だから、休憩出来る場所を探そうぜ」

 どうやら覚えていたようです。

 流石に私も疲れたので、却下しません。

「そうですね。いい場所を探しましょうか」

「帝都って東の方だけど、ここからだと、どこが近いかな?」

 フォルテは王国の人間ですから、帝国の地理には詳しくないようです。そもそも、帝国の正確な地図は、一般的には王国では手に入りません。

「デュオさんから地図を貰ってないのですか?」

「いや、王国管理の地図は、流石に軍事機密で持ち出せなかったらしい。一般的に流通してる地図は、縮尺が雑だしな」

「そうですね」

 最近は大きな戦闘が無いとはいえ、一応は戦争中の国同士ですから、相手の国の詳細な地形は調べていても、持ち出せないわけですね。

 私は、荷物から一枚の紙を取り出しました。

「仕方ありません。これについては、口外しないでくださいよ」

「地図?」

「私は、帝国を旅したこともあります。とだけ、言っておきます」

 私が、師匠と旅した時に書いた地図です。実際に行った場所や、見せてもらった地図から書き写した部分もあります。王国や帝国が持っている詳細な地図と比べれば、お粗末なものですが、私達の旅には、十分過ぎる物です。

「ここから北東の方に、街があります。他にもありますが、距離と方向からすれば、そこがいいでしょう。ちゃんとした街道に出られれば、休憩できる場所も見つかるはずです」

 王国と帝国の間には、道と呼べるようなものはありません。国境付近までの偽装された森などはありますが、その道の詳しい内容を知らない一般人が入り込めば、出てこられる保証はありません。ですから、私達は、旅人がよく使う道を使いました。ですが、真っ当な旅人や商人が使う道ではありません。

 何故なら、そういった道は、登山道であったり、王国や帝国が監視をしているので、山を超えるのに、数日かかるか、余計な疑惑を持たれてしまいます。

 目的の街へ向かってしばらく歩いていると、フォルテが何かを見つけました。

「カノン、あそこの木、いい感じに休めそうだぞ」

 目を凝らして見ると、一本の大きな木があります。根の張り出し方もいい感じで、座ったり、寄りかかったり出来そうです。

「それでは、あそこで一休みしましょうか」

 横目でフォルテを見ると、いささか元気になったような気がします。これは、休憩を必要としないのでなないでしょうか。

「カノン、早くこいよ」

 フォルテが、木陰に座りながら手招きしています。しかし、私は苦笑いしつつ、ゆっくりと歩いて行きました。

「ふっ、木陰というのは、気持ちいいものですね」

 木によりかかり、楽な姿勢を取ります。

 座った途端に、疲れが出たのか、まぶたが重くなってきました。

 目を開けようと抵抗しますが、睡魔という誘惑に勝てず、そのまま横に倒れると、何やら人肌の温もりに支えられました。けれど、その暖かさが心地よく、誘惑が強くなっていきます。

 そして、とどめと言わんばかりに、私は、誰かに頭を撫でられ、髪をいじられているような気がします。けれど、不思議と不快感がなく、そのまま、睡魔に負けてしまいました。

 

 

 

 

 私は、微かな揺れに気付き、意識を浮上させました。

 周りを何度も見渡すと、馬が引いている荷車の後方に座っていました。そして、横にはフォルテがいます。

 目を覚ました私に気付いたのか、私の顔を見ながら、口の端を指さしています。

 よだれが垂れていました。

 私は、口周りをふき、状況の確認をします。

「これはいったい?」

「ああ、カノンが寝ちゃってな、どうしようか考えてたら、行商人のおっちゃんが通りかかって、乗せてくれたんだ。その変わり、街までの護衛をすることになったんだけどな」

 私が寝ている間にフォルテが一人で頑張ったようです。これは、大きな借りを作ってしまいました。

「おっ、嬢ちゃん起きたのか」

「すみません、護衛を引き受けたというのに寝ていまして」

「いやいや、気にすんな。護衛はそっちのボウズだ。それに、この街道は、盗賊が出る方が珍しいんだ」

「そう言っていただけると、助かります」

 私は、フォルテの隣に戻り、小声で話し始めます。

「それで、街まではどのくらいで着くのですか?」

「んー、正確な時間はわからないけど、夕暮れ前には着くってさ」

 元々夕暮れ直後くらいには着くだろうと思っていたので、これは嬉しい誤算です。早く街に着けば、それだけ宿を探す時間が増えます。

 私は、伸ばしている青い髪を手にしながら、お風呂付きの宿があることを祈ります。それも、ウェストゲートにあったような、魔法設備付きの物です。

 流石にそれは期待しすぎですが、お風呂はいいものです。

「カノン、どうした?」

 髪を見つめすぎて、フォルテに心配されてしまいました。

「何でもありません。それより護衛中なんですから、周囲に気を配ってください」

「ぷぷ、そうだな」

 何故か笑われました。ですが、気にすると恥ずかしくなりそうな予感がしたので、気にしません。そのかわり、私のツリ目で睨んでおきます。

「あー、その――」

「静かに」

 私は、奇妙な気配を感じ取りました。ですが、何の気配か思い出せません。それほどまでに、薄っすらとした気配です。

「何か来ます」

 私の言葉を聞き、フォルテも警戒を強めます。左手側には森林地帯があり、見通しが効きません。

「おっちゃん、盗賊かもしれないぞ」

 行商人のおじさんが、私達の豹変ぶりを見て、言葉を信じたようです。

「だが、この道は……」

「昨日まで安全だからといって、今日安全とは限りません。それに、警戒して損は無いはずです」

「カノン、集団で来られたら、二人で何とかなるか?」

「荷車一つですから、相手によっては逃げたほうがいいです」

「ああ、その辺の見極めは任せるぞ」

 私は、頷き、周囲の気配を読みます。そして、一つ気が付きました。

 気配が薄いのではなく、少し前に、強大で濃密な気配を感じ取ったせいで、薄くしか感じられないことに。

「フォルテ、盗賊に魔族がいる可能性があります」

 そこまで言うと、私は、声を小さくして続けました。

「竜痕の力は、使わないでください。あれは、王国の軍関係者だと言っているようなものです」

「ああ、わかった」

 竜痕は、天竜王アマツがドラゴニア王国に与えた、竜の力です。王国が管理しているのですから、帝国内でその力を見せるわけにはいきません。

 私は、歌うように詠唱を始めます。

 竜痕の力を使うなという以上、代替案は用意します。

 フォルテは、背からオリハルコンの長剣を抜き、襲撃に備えます。

 詠唱が終わり、遅延発動の状態にし、他の魔法の詠唱に入ります。余分に魔力を消費することになりますが、フォルテにかかる負荷を考えれば、こちらの方が消費は安いものです。

 私達が乗っている荷車を引く馬以外に、馬の足音が聞こえてきました。

「相手も馬か」

「逃げるのは無理そうですね」

 こちらの馬は、荷物を引いているため、速度が出せません。ですが、相手の姿は見えませんが、馬に乗っているだけなら、速度は向こうの方が上です。

 左手側の森が薄くなり、反対側に馬が見えました。

「三人だ」

 相手が本当に盗賊かわからないため、警戒は続けますが、攻撃はしません。それは、フォルテもわかっているようで、相手を見極めるために、目を凝らしています。

 突如、何かが風を斬る音が聞こえました。

「弓矢です。軌道からして、馬を狙っています」

「任せろ」

 フォルテが、前方へ移動すると、長剣の長さを活かし、馬を狙った矢を切り落としました。

 相手は、それを予想していたのか、第二射と同時に、魔法が飛んできました。

 姿の見える矢と、姿の見えない風の魔法です。目に見える矢が迫ってくる分、普通なら、魔法の認識が疎かになってしまいます。

「『(ほむら)』」

 ですが、フォルテが矢を担当しているので、私は魔法に集中出来ます。

「敵だな」

 フォルテが口にすることで、認識を確定させました。 

 相手は、遠距離からの攻撃が撃ち落とされたため、近づく選択をしたようで、薄い森の中を馬で器用に通ってきます。

「おじさん、止まってください。『戦いの調(しらべ)』」

 魔法を遅延発動させました。フォルテを白い光が包み込み、肉体を強化します。

 馬も速度を落とし始めます。私は、姿勢を低くし荷車に捕まることで、体を安定させました。杖はもっているので、魔法の発動には問題ありません。

 発動待機状態の魔法を確認しながら相手の動きを観察します。

「剣士と魔法使いと弓兵ですね。恐らく、魔族もいるはずです」

「お前さん達、どうするんだ?」

「襲ってくるのですから、それ相応の覚悟はあるはずです」

「盗賊相手に、情けは無用だ」

 私は、旅の中で、経験として、敵に情けをかける危険性を心得ています。フォルテも、騎士学校に通っていたので、知識として理解しているようです。

 であれば、やることは決まっています。

「『風斬(かざきり)』『水撃(すいげき)』」

 二つの魔法を発動させ、蓄えていた魔法がなくなったので、新しく魔法の詠唱を始めます。相手の魔法使いは、遅延発動が珍しいのか、驚いた顔をしていますが、その程度の実力なら、相手は雑魚です。

 風の刃が弓兵を、強烈な水流が魔法使いを襲います。

 私が魔法を発動させるのと同時にフォルテも動き出していたようで、馬に乗っている剣士に斬りかかっています。

 盗賊は、馬から落とされ、体制を崩しています。フォルテが、魔法使いを蹴り飛ばし、弓兵にぶつけました。そこで、私は、詠唱が終わったばかりの魔法を発動させます。

「『轟炎(ごうえん)』」

 大の大人二人を包み込んで余りある程の巨大な炎の塊が出現しました。

 それが一直線に弓兵と魔法使いへ向かいます。

 二人は、その巨大な炎に驚き、動けずにいます。

 私自身も、刻印を手にしてからの魔法の変貌ぶりには驚いています。

 ですが、その巨大な炎が斬り裂かれました。

「まったく、何やってんだ」

 低い声が響きました。

 森から一足飛びで現れた魔族が、二人を助けたのです。

「お頭!」

 盗賊三人が、声を揃えました。剣士は、フォルテから距離を取り、魔族の横に着きました。

「ちょっとはやるようだな」

 剣を持った赤い魔族が、私達を一瞥します。ですが、鼻で笑い、見下しているようです。

 けれども、相手が数では勝っているので、フォルテも迂闊には動けません。

 魔族。

 魔族ですか。

 私は、荷車からゆっくりとおりました。

 視界に暗い影がかかり、心に闇が広がっていくのを感じ取りました。

 そして、盗賊は、私の雰囲気の変化を感じ取っているようですが、気にしていないようです。

 心が完全に闇に染まると、次は頭が冷えていきます。私の内面は、どす黒い感情で煮えくり返っていますが、それと同時に冷酷になっていきます。

 私の口から音がこぼれ落ちます。

「――――」

「カノン……なんだ、その詠唱……」

 フォルテは、詠唱だということは理解したようです。ですが、周囲にいる皆が、私が何をしているのか理解できていません。

 私は、人が理解する言葉として成立していない音をこぼし続けます。

「魔法が、完成しているだと」

 盗賊の魔法使いが気付きました。ですが、驚愕の表情を浮かべています。

 私は、短時間で詠唱しきった魔法を全て発動させます。

「『断切(たちきり)』『轟雷(ごうらい)』『獄炎(ごくえん)』『酸海(さんかい)』『崩壊』『光斬(こうざん)』」

 全てを断ち切る漆黒の刃が。

 雷鳴が。

 暗黒の炎が。

 触れたものを溶かす酸の海が。

 通った場所を崩壊させる光が。

 光熱の光による斬撃が。

 高位の魔法が立て続けに発動し、盗賊へ襲いかかります。

 それも、多重に発動し、過剰で飽和な攻撃が辺りを埋め尽くしています。

 フォルテは、目の前で起こった惨劇に理解が追いついていません。

「カノン、何を」

「魔族。殺す。魔族。殺す。魔族。魔族。魔族。殺す。殺す。殺す。ころす。コロス」

 私は、自分が何をしているのかわかりませんでした。

 ただ、心の奥底に沈む何かに突き動かされ、ただ目の前にいる魔族を殺すためだけに魔法を使いました。

 目の前には、煙が漂い、盗賊がいたばしょを包隠しています。

「『風刃(ふうじん)』」

 風の刃を使い、煙を払いました。

 そこには、最初の三人のいた痕跡と、辛うじて生きている魔族がいました。

 私は、それを確認すると、ゆっくりと近づきます。

 仕込み杖を抜き、『断切』を詠唱します。そして、詠唱が終わると、すぐに発動させ、漆黒の刃を仕込み杖に纏わせます。

 それを、魔族の肩に差し込みました。

 虫の息の魔族が、体を反射的に動かしました。

 ですが、反射の域を出ず、意識的な行動が出来ないようです。

「たす、けて……くれ」

 私は、その声を聞き、喉を切りました。

 魔族からは、空気の漏れる音だけが聞こえます。

 そして、反対の肩を切り落とします。

 次の場所を探すために視線を泳がせていると、誰かに後ろから抑えつけられました。

「カノン、やめろ」

 フォルテです。フォルテが、私を抱きしめるようにし、動きを封じていました。

「魔族は、殺さないと……、殺さないと、いけないんです」

 狂ったように笑いながら、言葉をこぼしていました。

 ふと、魔族から流れる血だまりが視界に入り、そこに映る私は、とてもひどい顔をしていました。

 感情のない瞳に、狂気に満ちた笑みを浮かべています。

 『断切』を纏った仕込み杖を振り回しながら私は笑っています。

 けれど、フォルテが抑えるように抱きしめているため、思うように魔族を傷つけることが出来ません。

「邪魔を、しないで!」

 私は、フォルテへ刃を向けようとしました。

「もう、死んでるんだ」

 その一言を聞き、私は、魔族へと視線を向けました。

 体中に傷を負い、先ほど言葉を発したのが不思議な状態でした。

 私は、杖を落としてしまい、発動していた魔法の全てが消えました。

 無茶な魔法を行使した反動か、左腕の刻印が黒く輝き、痛みを感じ取りました。

「腕が……」

 フォルテは、魔族の遺体から遠ざけると、痛みを訴える私から手を離しました。

 私は、始めて左腕に激痛を感じ、その場にうずくまってしまいました。

 普段は、ちょっとした異常を感じますが、それもすぐに治まります。けれど、今回は明確な痛みを感じ取っています。それも、治まる気配がありません。

「カノン、大丈夫か!」

 頭の中を占めていたものが、痛みに書き換えられたため、自分が何をしていたのかわからなくなりました。ただ、フォルテの声だけが聞こえてきます。

 フォルテは、うずくまる私の肩に手を回し、その場で抱きかかえ、様子を見ているようで、とても近くに顔が見えます。

「だい……じょう、ぶ、です……よ」

 私は、力なく笑いながら返事をしました。

 ですが、フォルテの表情から察するに、嘘だと思われているようです。

「その黒いの何だ?」

 フォルテの瞳に映る私の額に、黒い何かが浮かび上がっていました。けれども、痛みに襲われている私は、その正体を確かめる前に、黒い何かが霧散するのを目撃しました。

 フォルテも、疑問を後回しにし、行動に移りました。

「おっちゃん、すぐに出られるか?」

「あ、ああ、乗ってくれれば、いつでもいいぞ」

 二人が大声で話しています。

 私の行動よりも、状態を見て、心配してくれているようです。

「行くぞ」

 そう言いながら、私の膝の裏に一方の手を回し、抱きかかえてきます。

 私は、痛みが治まり始めているので、抵抗しますが、それ以上の力で抑えつけられ、自分で歩かせてくれませんでした。

「嬢ちゃん大丈夫か?」

「ええ、ほとんど治まっています」

「だが、無理するなよ」

 私は、お礼をいい、荷台で杖を取りに行ったフォルテを眺めていると、フォルテの向かった先にある、大きな窪みに目を奪われました。

 それは、私の魔法による破壊の痕跡です。私は、それほどまでに、魔族に対して憎しみを抱いてしまったようです。

 ただ呆然としていると、フォルテが戻ってきました。

「カノン、杖、持てるか?」

「勿論です」

 私は、震える左腕を隠し、右手だけで受け取りました。フォルテに違和感を覚えられたようですが、確信されるよりはいいです。

 フォルテが乗り、私の正面に座るのを確認すると、おじさんが馬を走らせます。

 私達は、しばらく無言で移動を続けました。

 私は、ローブで身を包み、下を見ながら、じっと座っています。

 そんな様子を見かねたフォルテが、声をかけてきました。

「なぁカノン、さっきの妙な詠唱って何なんだ?」

 私は、顔を上げ、フォルテを見ます。心配しているようですが、好奇心の方が強いようです。

 ですが、下手に心配されるよりは、気が楽です。

「多重詠唱って呼ばれる魔術です。昔は、重ね言葉って呼ばれていたらしいんですが」

「ごめん、どっちも知らない」

 まぁ、そうですね。多重詠唱を使える魔法使い自体、珍しいです。

「多重詠唱というのは、詠唱を、文字単位に分解し、一つの文字で、いくつもの魔力を練りあげるんです」

 フォルテは、意味がわかっていないようです。そもそも、簡単に説明出来ることではありません。

「えーと、複数の魔法の詠唱をバラバラにして、同じ文字を一つに重ねて、複数の魔法を一気に詠唱するんです」

「えっと、つまり、複数の魔法を、同時に詠唱出来るんだな」

 恐らくわかっていません。ですが、原理ではなく、結果を理解してくれれば問題はありません。使うのは私ですから。

「そうです。流石に、魔法の名前は、個別に唱える必要がありますけど」

 フォルテは、何度も頷いています。

 私は、その様子を見て、少し気が和らぎました。

 先ほどまでの、心を闇に支配された状態と比べ、暖かい気持ちになっています。それに関しては、心のなかでお礼を言うことにしました。ありがとうございます。

 私達は、護衛の続きへと意識を切り替え、残りの時間を過ごしました。

「お前さん達、そろそろ着くぞ」

 その声に振り向くと、大きな塀に囲まれた街が見えてきました。

「暗くなる前に着いて良かったです」

「確かにな。あのまま歩いてたら、夜になってたはずだし」

「お前さん達は、今夜はどうするんだ?」

「えっと、適当に宿を探すつもりです」

 街まで来て野宿はしたくありません。ですが、この時間で、二部屋空いているかが問題です。

「おっちゃんは、この街詳しいのか?」

「ああ、この地方にはよく来るからな。予算次第じゃ、いいところを紹介するぞ」

 それは願ってもないことです。ぜひ紹介してもらいましょう。

「予算はこのくらいなんですが」

 そう言いながら、大まかな予算を教えます。その額を見てびっくりしているようでしたが、現段階で、その理由まではわかりません。

「あ、ああ、そうだな。これは、二人分だよな。ああ、なら、それなりのところには泊まれるな。うん」

 何か誤解しているようです。ですから、誤解は早めに解いておくべきです。

「一人分です」

「えっと、凄いな。条件さえ教えてもらえれば、教えるぞ」

 その後、街の中でおじさんと別れると、私達は、教えてもらった宿へと行きました。

 お風呂付きの部屋は、中々ないらしく、空いているかはわからないと言っていました。けれども、行ってみる価値はあります。

 

 

 

 

 結論から言うと、二人部屋が一つだけ空いていました。フォルテは、構わないと言っていますが、私が構います。とりあえず保留にして、他を探すことにしました。

「カノン、風呂付きは、ここしか無いって言ってたじゃん」

「変態」

「いや、だからなんで」

「鈍感のようなので、教えてあげます。私は、貴方と同じ部屋に泊まりたくはありません。それが普通のことです。まして、せっかくのお風呂付きなのに……」

 そこまで言うと、やっと理解したようです。

「いや、待ってくれ、いくらなんでもおそ――」

 とりあえず、杖の上の方を、フォルテの顎に突きつけました。人も多いので、それ以上言わせるわけにはいきません。

「とりあえず、何件か回ってから考えます」

「そ……そうだな」

 ですが、他の宿は、ことごとく満室で、空いていても一部屋だけでした。流石に、別々の宿というのは、面倒です。しょうがなく、最初の宿に泊まることになりました。

「いいですか? こっち側に来たら、容赦しません。それでは、おやすみなさい」

 私は、二つ並んだベッドの片方で、フォルテに対し、背を向けて寝ています。手の届く範囲には違いないので、警戒は怠りません。ですが、いつの間にか寝ていました。

 明日からは、帝都へ向け、旅をします。ですが、その途中で、帝国の4将の一人、オメガ=ウーファーと会う必要があります。

 前もって連絡はしてあるとはいえ、心配が尽きません。この旅がうまくいくことを祈るばかりです。




こんばんは

前回である種の区切りになりましたが、章が変わるわけではないです。

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございます。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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