魔法使いと勇者と竜の国   作:enz

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護衛の依頼

 朝、私が目を覚ますと、隣のベッドには、まだフォルテが寝ています。

 この宿は、中々に良い施設で、運動のための場所もあり、軽く汗をかくことが出来そうです。

 私は、ほぼ日課にしている運動をこなしに行きます、ただ無心で素振りを続けるために。けれど、昨日までのことが、脳裏をよぎります。

 そのため、途中から、剣の軌道に乱れが現れます。

「カノン、そんなんじゃ怪我するぞ」

 私が集中できていない時にかぎって現れます。ですが、私は礼を言うべきでしょう。仕込み杖を抜いて振っているため、自分自身に限らず、何かを傷つける可能性がありました。

「ありがとうございます」

「いや、わかってるならいいんだ。今日は手合わせしない方がいいな」

 それが目的でしたか。ですが、私は剣士ではありませんから、そう何度も手合わせなどしたくないので、好都合です。

「私が魔法使いだと言うことを忘れないで下さい。仕込み杖は、普通の剣と比べると、脆いので、今後手合わせすることはありません」

「そっか、残念だ。でも、そういう武器って、持っていないと思わせることに意味があるけど、堂々と使ってると、意味ないよな」

 そう言いながらフォルテが近づいてくるので、私は少し離れながら言い返します。

「緊急用ですから、いいんです。私はそろそろ戻るので、時間をかけて鍛錬しててください」

「あ、待ってくれよ」

 フォルテの声を無視して、私は部屋へ戻ります。

 

 

 

 

 私は部屋へ戻るとお風呂の準備をします。

 魔法設備のお風呂は、本体の核石に魔力を流しこむことで機能します。魔法設備の開発に関しては、帝国の方が進んでいるので、お風呂付きの宿が多いと思ったのですが、この街には少ないようです。

 それにしても、お風呂で汗を流すのは気持ちいいです。

 お湯に浮かぶ青い髪の隙間から、左腕の刻印が見え隠れします。この刻印のお陰で、私は、今まで使えなかった魔法や魔術が使えるようになりました。けれど、本心では、これを受け継ぎたくなかった。そう思っています。

 受け継ぐような事態にならなければ、師匠と旅をしていられた。

 私は、そう考えています。

 ですが、それと同時に、そう考えても意味が無いことも理解しています。今の私は、師匠が引き受けた依頼を、最後までやり遂げる。その為に突き進むと決めました。

 お風呂に入り、それなりの時間がたちました。汗も流したので、そろそろ出るとしましょう。

 脱衣場で体を拭いていると、部屋の入口から声がしました。

「ふー、カノン、朝飯どうする? あれ、いないのか?」

 フォルテが戻ってきたようです。

「少し待って下さい」

「ああ、そこか」

 フォルテの足音が近づいてきます。

 嫌な予感がしました。

「開けたら容赦しませんよ」

 私の声が届くと同時に、扉が少し揺れました。

 やはり自分の身は自分で守る必要がありますね。

「開けようとなんてしてないぞ」

「そういうことにしておきます」

 私は、長袖のシャツに袖を通し、スカートを履き終わると、脱衣場から出ました。

 フォルテは、窓際に居ました。距離を取ることで、近づいてすらいないと、思わせようとしているようです。

「フォルテも汗くらい流したらどうですか? 臭いますよ」

 フォルテは、自身の体の臭いを嗅いで確かめています。

「こういうのって、気になるも……流してきます」

 私の顔色を伺ってから、判断を変えたようです。濡れたタオルで体を拭くだけでも違うものなのですが、男というのは、気にしないのでしょうか。

 しばらくして、フォルテが出てくると、朝食を取りながら、今後の詳細を詰めることになったので、ローブを着て、出かける準備をします。

 

 

 

 

 近くの食堂で朝食を食べています。

「それで、これからですが、帝都の東へ行く必要があります」

「ん? 何でだ? 帝都へ行って交渉すればいいんじゃないのか?」

 フォルテは、旅の目的を覚えてはいますが、その詳細までは覚えていないようです。

 私は、ため息をつきながら、あらためて説明します。

「デュオさんが、4将の一人であるオメガ=ウーファーに協力を取り付けたんです。ですから、まずは、オメガ=ウーファーに会って、女帝シンセ=ドラムスに会う手はず整える必要があるんです」

「でもさ、女帝って簡単に会えないのか?」

「会えません。では、百歩譲って会えたとしましょう。私達が王国の使者だと証明出来ますか?」

 証明出来なければ、それまでです。王国と帝国の関係にどんな悪影響を及ぼすか、考えたくもありません。

「でも、漆黒の竜痕を見せれば、信じて貰えると思うぞ」

 そうでした。フォルテは、英雄の家系と呼ばれている、グレイス家の人間でした。そんなフォルテの言葉には、ある程度の説得力があります。だから、最初から女帝の元へ行こうと考えていたのでしょう。

「ですが、会えて、信じて貰えても、説得できる保証はありません。けれども、女帝からの信頼が厚い4将の一人に、協力を頼むんです」

「なるほど、俺達の言葉じゃ届かなくても、信用してる人間の言葉なら、届くってことか」

 どうやら理解したようです。これで、話を勧められます。

「それで、目的地ですが、帝都の東にある、魔学都市クレモナです。魔法設備などの魔法科学と呼ばれている分野で発達している都市ですね」

「なぁ、魔法科学ってなんだ?」

「私も詳しいことは知りません。核石に純粋な魔力を注ぎ込むことで、前もって決められた動きをする設備を魔法設備といい、魔力をエネルギーとして動く武器も含めた総称を魔法科学ということしか知られていないと思います」

「ああ、あの風呂もそうだよな」

 ええ、お風呂はいいです。帝国を旅した時に知りましたが、あれはもう病みつきです。

 魔学都市には、どんなお風呂があるのか楽しみです。

「それにしても、帝都の東ってことは、王国とは反対側だな」

「それは仕方ありません。北側は魔族の国と、西側は王国と接していますから、武器開発などを行っている都市を置くわけにはいかないはずです。占領されれば、そのまま相手の力になってしまいますから」

「そういえば騎士学校で習ったな。確か、北側と西側の都市には、4将の内、戦闘関連の人がいるって」

「北側には、魔法科学の銃という遠距離攻撃に特化した武器の使い手であるガンシンガーと呼ばれている将軍が、西側には、デュオさんのライバルと目されているソードダンサーの異名を持つディープ=ベースが居ます」

「ああ、聞いたことがあるな。凄い剣の使い手らしいな」

 ディープ=ベースの名は、王国に居た時も、帝国に居た時も、良く耳にしました。王国では、英雄の敵として、帝国では、軍の象徴として君臨しています。もっとも、魔族との戦いも終わっていないので、直接的な戦闘は、起きていません。

「それで、一つ問題があります。移動経路ですが、4将の一人がいる北側の都市であるハイトレブルに行くことは避けたいので、その北側と南側、そのどちらを通るかです。北側を通れば、魔族の突発的な襲撃に巻き込まれる可能性があります。また、南側では、帝都周辺の警備網に引っかかる可能性があります」

「なら、北側を通ろう。魔族の襲撃に巻き込まれたとしても、それを退けることに協力すれば、恩を売るとまではいかなくても、印象をよく出来るはずだ」

 フォルテは、なかなか打算的な考えをしているようです。これは予想外でした。けれども、考えが同じで安心しました。

「なら、北側を通りましょう。私も、そのつもりでしたし」

 私の言葉を聞いたフォルテが、目を細めました。

「カノン、一つだけ、約束してくれ。魔族と会っても、昨日見たいには、ならないでくれ。高位の魔法を、一気に使って、命素を大量に消費してたし、刻印のこともある。だから、約束してくれ」

 フォルテは、真剣な顔をしています。

 正直なところ、約束したところで、守り切る自信がありません。戦うというのは、そういうことだと、理解はしています。ですが、師匠のことを、納得出来たわけではありません。

 私が、俯いていると、フォルテが口を開きました。

「無理にとは言わない。フィーネさんが、カノンにとってどれだけ大切な人だったかかは、俺には想像もつかないからな。でも、カノン自身のために、ああならないように努力してくれ」

 私は、しばらく悩んで、答えを口にします。

「わかりました、努力します」

「そっか。ありがと」

 フォルテが笑いかけてきました。その笑顔を見た途端、少し鼓動が大きくなった気がします。けれど、それも一瞬のことでしたので、きっと気のせいでしょう。

 

 

 

 

 私達は、今いる街から、北東をへ行くため、街道を東へ向かっています。このままでは、北の都市であるハイトレブルへ着いてしまいますが、途中に北側へ迂回する街道があるので、そこまでは、この街道を通ります。

 街道とはいえ、歩いて行けば数日かかるので、気長に行きましょう。

「なぁ、カノン、この街道誰も通らないな」

「そうですね。国境付近の砦の襲撃などもありましたから、魔族の国に近い北側を行く人が減ったのでしょう」

 そんな話をしていると、一瞬にしてフォルテの雰囲気が変わりました。

「こんな時でも、魔獣は出てくるんだな」

 私は、フォルテの見つめる先を確認し、口を開きました。

「そうですね。ですが、魔獣がいるなら、商人を見つけて、護衛をして運んでもらいましょう」

 そう言いながらも、杖を回し、先端を地面に突き刺します。

 狼の魔獣が、群れをなして、様子を伺っています。警戒しているのか、すぐに襲ってはきません。

 こちらから攻めることを決め、私が詠唱を始めると同時に、フォルテが踏み出しました。いつ見ても、いい反応速度です。

 フォルテが接近し、長剣の間合いに入ると同時に、右足で踏み込みながら上段から左下へと振り下ろし、斬り裂きました。そして、地面すれすれで左手を離し、剣を返しながら右側へと振りぬきました。そのまま勢いを維持し、一回転しながら、もう一体の魔獣を斬り裂きました。

 一瞬とはいえ、相手に対し背中を見せるのはどうかと思いますが、相手に反応される前に対処し切る自信があったのでしょう。

「『風斬(かざきり)』」

 残りの魔獣へ向けて、風の刃を放ちました。相手は動きの早い狼の魔獣ですから、こちらも命中までの時間が短い魔法を使いました。

 そして、問題なく魔獣の体を捕え、斬り裂きました。

「さて、行くか」

 フォルテは、長剣を振り、魔獣の血を飛ばし、鞘へとしまいます。

「そうですね」

 私達は、短く言葉を交わし、先を急ぎます。

 

 

 

 

 街道を進み、分岐点に到着する頃になると、日が暮れてきました。流石にこれ以上は危険ということで、手頃な場所を探し、野営することにしました。

「前にも徒歩で移動した人が使った場所があってよかったですね」

「ああ、王国にもあったけど、どこにもあるんだな」

 前に誰かが野営した後がありました。ここなら、余計な手間を省くことが出来ます。

 私達は、前の街で手に入れた食料を分け、夜を過ごします。

「カノン、火の番は俺がするから、寝てていいよ」

「それでは、先に寝ますので、途中で起こしてください。交代しますから」

「いや、いいよ。俺がずっと見てるから、安心して寝ててくれ」

 フォルテは何を言っているのでしょうか。前衛なのですから、睡眠不足は絶対にダメです。であれば、交代して火の番をするのがあたりまえです。

「私を起こさなかったら、容赦しませんよ。寝不足の体で、魔獣との戦闘中に、私の魔法を避けられますか?」

 フォルテは、少し考えています。ですが、考えたところで答えは決まっています。

「わかったよ。確かに無茶だ。でも、俺のほうが長く起きるからな」

「そこはお任せします。細かく交代してもいいのですから」

 私は、先に寝ることにしました。とはいえ、横になって目を瞑るだけです。完全に熟睡するわけではありません。師匠との旅でも、交代で火の番をしたことがあるので野営用の睡眠は得意です。

 こうして、私達は夜を明かしました。

「今日こそは、誰かと会うといいんだけどな」

「こればっかりは、私達ではどうにもなりませんね」

 ですが、私は一つの疑問が浮かびました。

「そういえば、デュオさんが飛竜を持っていましたが、フォルテは持っていないのですか? 飛竜がいれば、ひとっ飛びなのですが」

「ああ、竜痕の色としては、問題ないんだけど、基本的に騎士学校を卒業しないと、竜の谷への立ち入り許可が貰えないんだよ」

 どうやら、私の知らない条件があるようです。それも、資質というよりも、王国の決めた制度的なものです。

「竜の谷ですか?」

「そう、飛竜が住む場所で、黒い竜痕を持っている奴が行くと、その力に惹かれた飛竜がやってくるらしいんだ。要するに、飛竜に気に入られる必要があるんだよ」

「竜痕が気に入られれば、着いて来てくれるのですね」

「そういうこと。でも、竜に乗っても、移動は楽だけど、剣を振るうのは無理だから、移動用になるな。場合によっては、カノンに乗ってもらって、魔法を使うってのもありだけどな」

「詠唱出来そうに無いですね。凄い速度が出ますから」

「そうだな」

 私達は、軽く笑いながら歩きます。戦法としてはありですが、私は竜痕を持っていないので、乗せてもらえるかが問題です。

 こうして歩いていると、後ろから馬の足音が聞こえました。

 私達は、その音に惹かれ、振り向くと、一台の荷車を馬が引いていました。恐らくは、商人です。ですが、大きめのマントを羽織り、フードを深くかぶっているため、顔が見えません。

「ちょっと頼んでみるか」

 フォルテがそう言うと、相手に見えるように大きく手を降り始めました。

 向こうも気づいたようで、私達の横で止まってくれました。

「どうしたんさね」

 思ったよりも高い声です。

「ああ、俺達、この先の街まで行きたいんだけど、目的地を聞いてもいいか?」

「なるほど、剣士と魔法使いかい。護衛として、乗せて欲しいんさね?」

 かなり頭の回転が早いようです。フォルテも、会話の流れを外されたため、唖然としています。

「はい。簡単に言うと、そうなります。ですが、無理強いするわけにもいかないので、お伺いさせていただきました」

「ふーむ。代金でなくてもいいんなら、護衛として乗せてやるさね。この先にあるのは、街っていうよりも、村だけど、大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます。私は……フィーネ=カノン=グリードと言います。こちらは、フォルテです」

 相手の目が少し細くなったような気がします。けれども、そんな気がしただけで、実際にこちらから目を見ることは出来ません。

「そうかいそうかい。私は、サイレントで通ってる。荷物は、基本的に武器防具だから、死の商人なんて呼ぶのもいるさね」

 そういいながら、フードを外しました。そして、声が高い理由がわかりました。

 黒い髪に黒い瞳の女性です。私は、その外見に見とれてしまいました。

「それじゃあ、サイレントって呼べばいいのか?」

 フォルテは気にしていないようですが、本人の言う通り、通名(とおりな)ですね。まぁ、私が人のことをとやかく言える立場ではありませんが。

「ああ、それでいいさね。よろしくな、フォルテ、フィーネ」

「……はい」

 私は、すぐに反応出来ませんでした。直前に意識したばかりだというのにです。

 左腕を掴みながら覚悟を確認します。

 私は、フィーネを名乗ることを決めました。今の私は、フィーネ=カノン=グリードです。ですが、フィーネと呼ばれることに慣れるどころか、抵抗を感じています。何故なら、私にとってフィーネという名は、師匠の物だからです。

 けれども、こう考えてしまうのは、私の覚悟が足らないからです。

「カノン、どうした?」

 フォルテが考えこんでいる私に声をかけてきました。それも、私の顔を下から覗き込むようにしています。その様子に、驚いてしまいました。

 その御蔭で、固まっていた体が、動くようになりました。

「いえ、大丈夫です。では、乗せていただきます」

「あいよ」

 こうして、私達は商人の荷車に乗ることが出来ました。フォルテは、心配そうに私を見つめていますが、大丈夫です。そういう思いを込めて、笑いかけました。

 フォルテの顔が少し赤くなりましたが、通じたようです。

 私達が荷車に乗り、周囲を警戒していると、サイレントさんが声をかけてきました。

「二人は、どうしてこの先に行くんさね?」

「この先の村に用事があるというよりは、旅の途中で、この道を通っていると言った方が、正しいですね」

「何だい何だい、二人であてのない逃避行さね?」

「な……何を言ってるんですか。違いますよ」

「頼まれごとがあって、旅をしてるんだよ」

 私は、動揺してしまいました。それに比べ、フォルテは冷静に答えています。

「面白いさね。まぁ短い時間だけど、よろしくさね」

 何だか先が思いやられますが、乗せてもらっている以上、いじられるのは諦めましょう。

 

 

 

 

 そして、次の日、私達は、一つの寂れた村に到着しました。けれど、その村は異様な雰囲気に包まれています。

「これは一体……」

「最近帝国の北側にある街や村が、魔族に襲撃されていてねぇ、対魔族部隊が、あちらこちらに駐屯してるんさね」

 帝国の赤を基調とした軍服に身を包み、いくつかの装備を付けた兵隊が、陣を作っています。

 私は、フォルテの服を掴み、近くにこさせます。そして、小声で耳打ちしました。

「絶対に、竜痕の力は使わないでください。余計なトラブルに巻き込まれる可能性があります」

「あ、ああ。わかってる」

 それならいいのですが。

 帝国軍に追われながらクレモナへ向かうなんてことはしたくありません。

 私達が打ち合わせをしていると、サイレントさんが、兵士と何か話しています。ですが、距離があるので、内容はわかりません。

「二人共、どうだい、ここでしばらく傭兵として雇われないかい?」

「傭兵ですか?」

「そうさね。この付近の村が襲われているらしくてねぇ、その移動経路を見ても、近々、ここが襲われそうらしいんさね。無理にとは言わないけど、どうだい?」

 私は、フォルテと顔を見合わせました。帝国への覚えを良くするという面では異論ありません。ですが、竜痕の力を使わないでフォルテが戦えるかが心配です。

「この村のことは知らないけど、襲われるって言うんなら、守らないとな」

 私の心配を他所に、フォルテが引き受けようとしています。ですが、本人がそういうのであれば、その意見は大事にするべきです。

「では、詳しい条件を教えて下さい」

「サイレントが言うには、腕利きらしいからな。あてにさせてもらうぞ。俺は、ここの部隊を率いているサンブルだ」

「フィーネ=カノン=グリードです」

「フォルテだ」

 簡単に自己紹介を済ませ、条件の交渉を始めます。とはいえ、フォルテは騎士学校で経験したことがあるとは思いますが、私は集団戦の経験は皆無です。ですから、どこかの部隊に組み込まれても、役に立つ自信はありません。

「ああ、俺の部隊も、そこまで大きいものではない。そこで君達には、二人で行動してもらうことになるが、構わんか?」

 どうやら、サンブルさんも理解しているようす。

「ええ、私は、その方がいいと思います」

「んー、大人数で戦うのは好きじゃないからなー」

 こうして、私達は、この村の護衛をすることになりました。ここにいる間の宿や食事は、帝国側が持ってくれるそうです。これはとてもありがたい話です。

 そして、この日の夜、私とフォルテには、宿の一部屋が与えられました。

 ええ、また同室です。

「フォルテ、同じことは何度も言いません。わかっていますね?」

「あ、ああ」

「それではおやすみなさい」

 宿代を出してもらっている以上、文句はいいませんが、不満に思うのは自由です。

「なぁ、カノン、一つだけいいか?」

「何でしょうか?」

 フォルテが話しかけてきました。私はもう寝ようとしているのに、迷惑な人です。なので、私は、反対側を向いたまま、返事をしました。

 フォルテは、そんな態度を気にすること無く、話を続けました。

「前にも言ったけど、あんな事するなよ」

 あんな事ですか。恐らくは、魔族を目の前にした時に、暴走するなということでしょう。私自身、あの状態を帝国に見られることは、使者の護衛としての不信感を与えてしまうことになるので、避けるべきだと理解はしています。けれど、絶対に大丈夫だとは言い切れません。

「絶対とは言い切れません。ですが、私達にとって不利益となるなら、頑張って抑えます」

 私が起き上がりながら言うと、フォルテも上半身を起こして、こちらを見ていました。

 フォルテの目は、真剣そのものでした。

 フォルテにとって、デュオさんからの依頼は、それほどまでに大事なのでしょう。

「いいか、あんなふうに無茶したら、カノンだどうなるかわからないんだ。それに、あの黒いのが何なのかもわかってない。だから、そんな危険なことしてほしくないんだよ」

「デュオさんからの依頼が大事だから、私に危ないことをするなということですね」

「いや……いや、確かに兄貴の頼み事も大事だけど、カノンのことが大事なんだ」

 私は、顔が熱くなるのを感じました。

 まったく、こんなところで何を言うのでしょうか。フォルテは、自分が何を言っているか自覚しているのか不安です。

「私を暴走させたくないのであれば、私の心を揺さぶるようなことは言わないでください」

 私は、早口でまくし立てると、頭まで布団を被り、寝ます。

 フォルテがどんな顔をしているか見れないのは残念ですが、明日もあるので、ここまでにします。

 背後からは、フォルテの「おやすみ」という声と、横になる音が聞こえました。

 私は、気付かれないように布団を下げ、フォルテの様子を見ますが、もう寝ているようで、特筆するような動きはありませんでした。なので、私もすぐに意識を手放しました。

 

 

 

 

 次の日、私が起きると、フォルテはもういませんでした。けれど、どこからか暑苦しい掛け声が聞こえます。

 私は、暑苦しい掛け声に気を取られつつも、朝食を簡単に済ませ、フォルテを探すことにしました。ですが、内心では、嫌な予感しかしません。

 暑苦しい声の中に、薄っすらとフォルテの声が混じっているような気がしますが、気のせいだと思い込み、たり寄りそうな場所を探します。

 けれど、来たばかりの村で、探すあてがあるはずもなく、結局暑苦しい声のする方へ向かうことになりました。

 村の入り口に、人だかりが見えました。多くの人の掛け声と、何かを振る音が聞こえます。恐らくは、素振りか何かをしているのでしょう。

「セイ!セイ!セイ!」

 暑苦しい声と風景が広がっています。

 この時点で、近づきたくありません。

 踵を返そうとした時、声をかけられました。

「カノン、こっちだぞ」

 フォルテです。私は、うんざりした雰囲気を纏いながら、声の方を見ました。

 軽く手を振り、返事とします。

 フォルテとサンブルさんが、仲良くこちらへ向かってきます。

「嬢ちゃんも、やってくか?」

 一応は、朝に一汗かくことを日課にしようとはしていますが、それは、汗を流せる場所があるときだけです。同然ですが、この村に、そんな場所はありません。共同の井戸はありますが、水は冷たいですし、近くの水源までは、かなりの時間がかかります。

 なので、答えは決まっています。

「丁重にお断りいたします」

 さらに、お辞儀まで加えました。これで、私の本気が伝わるはずです。

「そうか。いやな、坊主から聞いたんだが、嬢ちゃんは結構出来るらしいから、見てみようと思ったんだが、魔法使いには無理か」

「ええ、私は魔法使いですから、たしなむ程度の動きしか出来ません。ですから、軍に所属する剣士様が期待する程のものは見れませんよ」

「そうか、まぁしょうがないな」

「ええ、私に負けるようでしたら、その人は剣士ではありませんし」

 フォルテは、私の醸しだす雰囲気にオロオロしていますが、何も言えずにいます。

 サンブルさんも、笑ってはいますが、笑顔の裏に、憤りを隠しています。

 この程度で憤るとは、熱くなりやすい人ですね。

「なぁ、カノン、それなら簡単に手合わせしようぜ」

「嫌です」

 そもそも、水浴びも出来そうにないのに、汗をかきたくありません。

「坊主に隊長さん、自由に使える水源が無いのに、女の子に汗をかくよういっちゃダメさね」

 声のする方をみると、サイレントさんがいました。

 商人ということで、装備を置いたらすぐに次へ行くと思っていたのですが、まだいたようです。

「この村で商売出来るのですか?」

「率直に聞くさね。まぁ、私も雇われたんさね。旅人は、腕が経つと決まってるさね」

 旅人でも、商人の腕が立つとは限らないはずです。けれど、本人が言うのですから、腕が立つのでしょう。

「では、サイレントさんが混ざるというのはどうでしょうか?」

「ハハ、やめとくさね」

 理由はきっと、私と同じでしょう。

「サイレントの実力は知ってるからな、正直やりたくないよ。嬢ちゃん、二人を何処に配置するか決めたいから、実力を見せてくれないか?」

 サンブルさんが理由を変えてきました。この理由であれば、答えないわけにはいきません。

「わかりました。何をすればいいですか?」

「模擬戦がちょうどいいんだが、恥ずかしい話、帝国軍の魔法使いは、そこまで質が高いわけじゃないから、怪我をさせかねない。だから、剣士とでいいか?」

 どうやら、帝国の魔法使い相手に遅れを取ると思われているようです。私なら、たとえフィーネを継ぐ前でも、負ける気がしません。

「相手はお任せします。怪我をしない人をお願いします」

 サンブルさんは笑っています。けれど、笑い声が収まると、そこには真剣な面差しがありました。

 そのまま、一人の剣士を呼びだします。

 その時、周囲の雰囲気が一変しました。中には、私を心配する人すらいます。

 どうやら、相当な実力者のようです。

「それじゃあ、こいつと頼む」

「何かルールはありますか?」

 返答は、私の相手をする剣士からでした。

「いや、童話に出てくる魔女の名を名乗るんだ、自信があるんだろ。だったら、何かで縛る気はない」

 そういえば、帝国では、災厄の魔女についての童話があるのでした。もっとも、あれは、フィーネの力が、魔族側にあった時のことらしいです。

「では、全力を出させていただきます」

 私達は、ある程度の距離を取り、向かい合います。

 剣士からすれば、一足で届かず、魔法使いからすれば、威力のある魔法を詠唱しきれない、そんな距離です。

 私達の状態を確認すると、サンブルさんが、開始の合図をします。

「始め」

 その声を聞くと同時に、剣士が一気に踏み込んできました。

 私も、魔法の詠唱を開始します。

「風か」

 どうやら、詠唱で判断出来るようです。優秀な軍人であれば、当たり前でしょう。

 私の詠唱が、出の早い魔法の物だと気付き、剣士は速度を重視し始めました。振り上げた剣で切りつけようとするのではなく、前に出し、貫こうとしています。

 このままでは、私の詠唱は間に合いません。

 なので、私は、詠唱を維持したまま、後ろへ飛びました。

 筋力の違いがあるので、飛距離や速度は、剣士には劣ります。ですが、詠唱を終わらせるには、十分な距離を開けることが出来ました。

「『風刃(ふうじん)』」

 魔法の名前を唱えました。けれど、それだけで安心しません。私は、さらに次を予測し、魔法の詠唱をします。

 多重発動により、三つの風の刃が、横一直線に並びます。

 重心を前に突き出している剣士には、回避できないはずです。

 予想通り、剣の切っ先が、風の刃に乗り上げ、上へとずれました。

 たとえ左右に回避したとしても、横に並んでいる風の刃が、命中します。

 風の流れを読んで、それを理解しているのか、剣士が剣を振り上げたまま魔法を受けようとしています。

 風の刃を鎧で受けながら、一歩踏み出し、剣を振り下ろそうとしています。

 私は、一度下がったため、もう一度下がりきるには、時間がかかります。それは、剣を振り下ろすには、十分過ぎる時間です。

 なので、移動ではなく、左膝を折るようにして、横に転びました。

 間一髪回避した私を、剣士は、目で追いかけてきます。

 剣士が振り下ろした剣を、下から上へと斜めに振り上げます。ですが、私の詠唱も終わりました。

「『防岩(まもりいわ)』」

 剣士の振り上げられる剣と同じ速度で、地面から岩が突き出します。その結果、岩によって剣が弾かれました。

 私と剣士の間に壁を作ったことで、この壁を迂回するための時間を手に入れ、さらに、私が下がることで、剣士との距離が空きます。それは、、詠唱の時間を手に入れたということです。

 選択肢として、迂回する剣士を襲撃するという方法もありますが、どちらへ迂回するかわからない上、剣士に対し、接近戦を挑むという愚行を犯す気はありません。

 壁を迂回してきた剣士の目が、本気になっています。目が怖いです。

 私は、こちらへ向かってくる剣士に向けて、振り向きながら魔法を発動させます。

「『轟炎(ごうえん)』」

 人を包み込んでも余りある大きさの火球が、私の頭上に出現しました。私は、それを剣士へ向けて放ちます。ですが、剣士はそれでも向かってきます。

 剣士は、自らへ向かってくる火球の下を足から滑るようにくぐりました。

 こんな回避の方法がるとは、驚きです。

 ですが、驚いたのも束の間、私は、牽制のために、短い魔法を詠唱し始めました。

 剣士は体勢を立て直し、私へ向けて、デタラメに剣を振り下ろしました。ですが、距離を確認しなかったのか、私の目の前を切っ先が通り過ぎて行きました。

 その光景には、驚きません。ですが、その一撃によって引き起こされた現象に驚きました。

「その顔、詠唱を捉えるのに成功したか」

 詠唱によって練り上げられた魔力は、魔法の名前を唱えるまで、私の周囲を浮遊します。ですが、その魔力に干渉する方法はありません。けれども、剣士の剣は、その魔力を斬り裂きました。

 魔力の一部を斬り裂かれ、全体が霧散します。これでは、続きを唱えたとしても、魔法を発動させることが出来ません。

 恐らくは、あの剣に何か仕掛けがあるのでしょう。ですが、それについて考えている暇はありません。何故なら、剣士の剣が振り上げられようとしているからです。

 私は咄嗟に、剣との間に杖を差し込み、防御します。ですが、そのまますべらせると、手が危ないので、角度を調節し、押し留めるようにします。

 筋力の差はあれど、下から持ち上げる剣士と、上から抑える私とでは、私の方が有利です。

 今度は、剣士の顔に、疑問の色が浮かびました。杖とは、本来、木で出来ているものです。私の杖も、例外ではありません。その中身以外は。

 私は、この状態で詠唱をします。魔力を斬り裂く剣があったとしても、剣を振るえなければ意味がありません。剣士もそれを理解しているのか、剣を持ち上げようとする力が緩み、後ろ足が動くのが見えました。

 私は、後ろへ飛びました。ですが、剣士の蹴りを微かに受けてしまいました。

 後ろへ飛んでいたおかげで、すぐに持ち直しましたが、詠唱を止められてしまいました。けれど、続けることで、持ち直せます。

 剣士が私に向かってきますが、私の魔法の方が早かったようです。

「『水撃(すいげき)』」

 私の周囲から、何本もの水柱が出現し、剣士へ向かっていきます。私は、その影に入るようにし、前へ出ました。

 水を剣で斬りますが、水を斬ったところで、大した意味はありません。それどころか、その場に釘付けにされ、迂回した水柱に襲われています。

 横からの水柱に耐えているようで、こちらから見える剣士の位置が変わっていません。元々、この攻撃は、相手をどうにかするのではなく、動けないようにするためですから、問題ありません。

 そして、水が晴れると同時に、私は仕込み杖を抜き、剣士へと突きつけました。

「だからか」

 剣士は、杖を斬れなかった理由を理解したようです。それと同時に、剣を落とし、両手を上げました。

 私の勝ちです。

 フォルテ達が近づいてくるのを確認すると、私は杖に刃を収めました。

「お腹の分は恨みます」

「先に、後ろへ飛んどいてよく言うな」

 威力は殺しましたが、痛いことには変わりありません。

 模擬戦が終わり、気を抜いた瞬間に、左腕を激痛が襲いました。

「カノン、大丈夫か!」

 フォルテが駆け寄ってきました。命素の流れに不具合が生じ、しゃがみこんでしまいました。けれど、心配そうに見つめるフォルテに、精一杯の強がりを見せます。

「慣れてきたので、大丈夫です」

 私の笑いかけた顔を見ても、心配そうな顔は、かわりません。けれど、どうやら根負けし、心配するのをやめたようです。

「な、おっちゃん、カノンは強いだろ」

「まったくだ。詠唱ははえーし、動けるなんて、反則だろ」

「私としては、魔力を斬れた理由が知りたいです」

 あれだけが予想外です。それと、痛みも引いたので、もう大丈夫です。

「ああ、俺も詳しいことは知らない。ただ、クレモナでミスリルを使って特殊な加工をしたって聞いてるぞ。とはいえ、俺達は、原理がわからなくても、結果がわかればそれでいいんだ」

 なんとも潔い考えです。ですが、その考えは、個人的に好きです。それにしても、ミスリルですか。あれは、高い魔法耐性を持っていますから、それが関係しているのでしょう。

「それじゃあ、俺は、訓練に戻る」

 私に負けた剣士は、仲間の元へと戻っていきます。

 部隊の仲間と思わしき人達が、笑いながら迎えていますが、慰められているようです。

「そういえば、フォルテは何処に行きましたか?」

 先ほど近づいてくるのは確認したのですが、話している間に何処かへ行ってしまいました。

 サイレントさんは、何やらにやけていますが、意味がわかりません。

「ああ、まぁ、気にするな。それと、二人の配置についてだが、ちょっと頼りにさせてもらうぞ」

「危険手当は、別途でお願いします」

 サンブルさんが、苦笑いしています。ですが、これについては一歩も引きません。先立つ物は必要ですから。

 そんな会話をしていると、足音が聞こえました。ですが、普通の歩き方ではなく、なにか重い物を持っているような音です。

「カノン、お待たせ」

 私はその声に釣られ、振り向くと、フォルテが桶を持って向かってくる姿が見えました。

「何をしているのですか?」

「いや、汗かくの嫌がってたから、少しでも拭けるようにと思って、水とタオル借りてきた」

 にこやかに笑っています。気遣いは嬉しいですが、やはりフォルテは抜けています。

「つまり、ここで服を脱げと?」

「……あ」

 どうやら気付いたようです。まったく、気遣いが少しおかしいです。ですが、やはりお礼は言うべきでしょう。

「顔を洗うくらいは出来るので、ありがたく使わせてもらいます。持ってきてくれて、ありがとうございます」

 私は、簡単にお礼を言うと、簡単に拭ける範囲を拭きます。濡れたタオルは気持ちいいです。

 フォルテが、依頼の詳細を聞くことになりましたが、ちゃんとした交渉が出来るのか心配です。

 

 

 

 

 その日の夜、他の村を護衛している部隊からの伝令が届いたそうです。

 その護衛が担当していた村が襲撃に会い、何とか押し返したようですが、こちらの村の方へ逃走したということで、明日中には到着する可能性があるということで、警戒しろ、と言うことでした。

 どんな方法で連絡が届いたのかはわかりませんが、帝国の持つ技術なのでしょう。下手に知って、口封じされるよりは、知らないほうがいいでしょう。

 私達を混ぜた作戦会議が終わると、今日は明日に備えて早めに寝ることになりました。恐らく、魔族との戦闘は避けられませんが、無事に乗り切れることを祈ります。




こんばんは

書き終えた後に時間を置いてから読み返すと妙な部分や強引な部分を発見しますが、強引な部分を修正出来るほどの構成力があるわけでもなく、ほぼ放置してしまいます。
話の都合といってしまえばそれまでですが、不自然なところは無くしたいものです。

それでは、今回もお付き合いいただきありがとうございました。
これからもお付き合いいただけると、幸いです。
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