ベル君はまだだよ
「ねぇ、そこのあなた。どうしたのそんなところで。危ないわよ?」
1つ。私には生きる理由がない。
「何があったのかは知らないけどこっちにいらっしゃい。話を聞くことぐらいはできるから」
2つ。私には生きている価値がない。
「本当に落ちるわよ?早くこっちに────」
3つ。私には何も無い。
「ちょっと!?」
あの橋から落ちた私はきっと地面に脳をぶちまけて死ぬだろう。
でもそれでいい。それがいい。
何せ世界は私を必要としていないから。
ああ、視界が暗くなっていく。意識が遠のいていく。
何故か。怖いからか。
まだそんな感情が抱けるほどの余裕があったのか。
そんなものはとっくに消えていったと思っていたのに。
視界の端に綺麗な紅が……。
………………。
「起きたみたいね。良かったわ」
「……」
彼女はどうやら助かってしまったようだと認識した。
声のした方へ目を向けると、どことなく見覚えのある紅色が目に入った。
「私はヘファイストス。《ヘファイストス・ファミリア》の主神よ。それで、あなた名前は……って聞いても答えられないわよね」
声をかけたヘファイストスだったが、渋い顔で返答を諦めた。
彼女の口は、否。口どころか体中の至る所が恐らく魔物の素材と思しきもので縫い付けられているからであった。
「……ネ」
「え?」
ヘファイストスは自分以外の声が聞こえてきたことに酷く驚いた。
彼女が気絶している間に体を診させてもらったが、喉に深い傷があり、声帯は機能しないだろうと考えていたからだ。
「……カ……ィネ」
「カイネって……いうのね?そう……」
どうやら縫い付けられている口もある程度は動かせるようだ。
そして不思議なことに潰された喉も機能しているようだった。
それからヘファイストスは話しづらそうな様子を見て申し訳なく心を痛めながらも彼女自身について聞いた。
とりあえずわかったのは「カイネ」という名前と、現在はファミリアには加入していないことだけ。
他の質問は全て「ない」の一点張りで何一つ情報は得られなかった。
しかし、はたと気がついた。
「あなた、なんで死のうとしたのかしら?」
これである。
保護する前にも一応聞きはしたが答えを聞く前に飛び降りてしまったためうやむやになってしまったこれを聞いた。
果たして彼女の回答はと言うと。
「……私……価値……理由……な……い」
ヘファイストスは苦虫を噛み潰したような顔をして顔を伏せた。
彼女の体の様子から並々ならぬ仕打ちを受けているとは思っていたが、ここまで自分を否定するようになる程である可能性は考慮していたものの、実際に耳にすると辛いものがあるのだ。
彼女はストレスによるものか、腰まで伸びたストレートの髪は老婆のように白く、肌は酷く荒れ、身体中に大小様々な傷跡がある。
本来であればアメジストのごとき輝きを放っていたであろう紫紺の瞳は暗く濁り、目は深いクマに縁取られている。
極めつけには各関節部分に2本ずつ黒い魔物の素材で縫い目があり、口の端から端へ、下唇へ8回、上唇へ7回糸を通して縫い付けられている。
この糸は完全に癒着してしまっており、自らが打った刃物でも切るのが困難であったうえに、切ろうとすると彼女の体が酷く震えるのだ。
危なっかしくて取り除くのに集中できたものではない。
「ヘファイストス!血相を変えて走って行ったけど何があったんだい!?ってなんだいその子は!?縫い目だらけじゃないか!」
部屋へ飛び込んできた神物へ疲れた表情を向けたヘファイストスは、自分の神友であるヘスティアに事情を説明すべくベッド近くの椅子から立ち上がった。
しかし、いつの間にやらカイネに服の裾を掴まれていたため、部屋にヘスティアを招き入れて説明を始めた。
………………。
「なんだいそれは!どこの誰だこんな子にこんな酷い仕打ちをしたやつは!?」
ヘスティアはカイネを撫で回しながら涙を滲ませて憤慨していた。
無表情でされるがままになっているカイネを見ながらヘファイストスは深いため息をついた。
「それが全くわからないのよ。魔物の素材が使われているから恐らくどこかのファミリアだと思うのだけど、この子は全く言ってくれなくて……」
「そりゃそうさヘファイストス。喉を潰されたうえに口を縫われているんだぜ?喋れやしないだろう?」
「カイネって名前はその子から聞いたのよ」
「君がつけたんじゃなかったのかい!?ボクはてっきり……」
ヘスティアは今自分の胸に埋まっているカイネを見やり、不思議そうな顔をした。
本当に喋れるんだろうか。そんなことを思って見つめていると、カイネが僅かに口を開いた。
「し……ぇれ……る」
「……みたいだね」
パチクリと一瞬きしたヘスティアはそう言ったきり無言でカイネが眠るまで彼女の頭をゆっくりと撫で続けた。
続きどないしようかね
みんなはどっちが好き?
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