縫合少女の物語   作:興梠 すずむし

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何とかモチベを戻せた気がする12針目

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12針目

異形に生まれた者たち、『異端児(ゼノス)』たちはダンジョン内で採れる果物や野菜といったものを口に運んで、どこから仕入れたのか酒類を飲んでいるものもいた。

そして、そんな彼らは1人の少女に翻弄されて大騒ぎしていた。

 

「……ヒック。アハハハハハハハっ!!」

 

「うおっ!?危ねぇ!!」

 

リザードマンのリド。彼は今窮地に立たされている。

今も鼻先を鋭利な輝きを放つ漆黒の糸が掠めていった。

カイネ本人は酷く楽しそうだが、リドからしたらたまったものではない。身体中を冷や汗が伝う。

 

「カイネ、落ち着け。いいか?1回落ち着いて水を飲むんだ」

 

「……ん〜?……ヒック。……へへへへぇ♪」

 

「イカン、全ク話ヲ聞イテナイゾ!?ラーニェ、縛レ!」

 

「くそぅ、期待するなよ!?」

 

人蜘蛛のラーニェは酔っ払ったカイネへと肉薄し、蜘蛛の体の腹部から糸を飛ばして器用に脚部を使って簀巻きにしていく。

その糸はやはり白い。

身動きのとれなくなったカイネは酒で酔って真っ赤な顔に満面の笑みを浮かべた。

とりあえずは拘束が成功したと安堵していたラーニェの顔が引き攣る。

 

「……んっ」

 

バツンっと大きな音が鳴り、蜘蛛糸が全て切断される。

数秒は()つだろうと考えていたラーニェだったが、ものの一瞬で脱出を刊行されてしまったことに唖然とするしかなかった。

そしてまた鱗の表面をチマチマと削っていくアソビが始まった。

避けるリド。くねる尻尾。その顔は必死の形相だ。

笑うカイネ。はねる黒糸。その顔は満面の笑みだ。

 

「誰か早くこいつに水ぶっかけてくれぇぇえええ!!!」

 

………………。

 

「……すぅ……すぅ」

 

「やっと潰れたか……」

 

「ご苦労だったな、リド」

 

ほんとだぜ……と疲れ果てた表情を怪物の相貌に浮かばせながらため息をつく。

カイネは笑い上戸だった。

そして愉悦家だった。

酔った彼女は目にものを見せて驚いた顔を見るとよく笑い、リドが笑うと拳をとばした。

そして勝ち誇ってはいじめ倒していた。

もはやリドの顔の鱗は拳と糸で削られて小さくなり、コーンフレークのようである。

小さくなった鱗を気にしながら、今は酒で潰れて床で眠っている縫い目だらけの少女の頭を撫でながら、リザードマンは呟く。

 

「……本来なら、ここまで歪んだ楽しみ方はしない子なんだろうな。セトっちの綺麗な笑顔を見ればわかる」

 

「……」

 

「セトっちはきっと……こんなに人を傷つけて楽しむような子じゃあないんだ。色んな辛い思いをして、その中であの邪神はきっと笑ってたんだ……。『愛してる』だとかほざきながら……ッ!!」

 

「リド……今ハ、落ち着いテください。カイネが起キてしまいまス」

 

「……っ!あぁ、わりぃ」

 

混沌。それはカイネの前主神を指す言葉だ。

そして、つい先程リドたち『異端児』にカイネの過去に深く関わることを禁止した神を指すだった。

あれはオラリオへ降り立った神々とは別枠の存在なのだと実感した。

人とモンスターの混合など、神の力を使わずしてできるものではないのだ。

それをあっさりとカイネという形にして自分たちの前に現実として現したあれは、全く別の(ことわり)の中で存在している。

神の力を使えば、天界へ強制的に送還されるのが通常だ。

しかし、あれは現にここにいる。

下界へ降りてくるためには制約が前提だ。その前提が狂っているのだ。

これは地上の神々をして、解決できるものなのだろうか。

 

「……んん〜?」

 

「おやカイネ、起きましたカ。ほラ、お水デすよ」

 

「……んー……」

 

どうやら起きたようだ。

また暴れられても困るので早速、用意していた水を飲ませて酔いを覚ましてもらう。

 

「……すぅ」

 

少しすっきりした顔をしたカイネはまた眠りについた。

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

『や〜ァ、元気ィ?』

 

『っ!?』

 

『ほらほラァ、君の大好きナご主神様だヨォ?何か、言うことナイのぉ?』

 

『…………逃げ出して、ごめんなさい』

 

『んんン〜ッ!?違う違う違うでショ?絶対に言わなきゃイケないこと、あったでショ?』

 

『……大好き、な……ご主神様。……お会い出来て、嬉しい、です』

 

『うんうんうんうん、いい子だネ、カイネちゃん♪』

 

『……えへ、へ』

 

『あ、そうそウ!君にとっておきの贈り物があるんダ!きっと気に入るはずサ』

 

『……ありがとう、ござ……い、ま……ぁ?ああぁ、アアアアアアァァァアアア!!?』

 

『アッハっ!!あぁ、カイネ、可愛いカイネ。愛しいカイネ……。キミは僕のもノ。僕だけのものサァ……』

 

『痛い……ッ!!痛い痛い痛いいだいいだい!!ご主神様ぁ!!死んじゃ、あだじじんじゃうぅ!!』

 

『あぁ、可愛いナァ……』

 

▫▪□■▪▫□■▫▪□■▪▫□■▫▪□■▪▫□■

 

「……ぁあッ!?」

 

「おぉっ!?大丈夫かカイネ!?」

 

「……ぁ、ラーニェ。……ん、大丈夫、だよ」

 

先程とは打って変わって顔色が悪いカイネに、ラーニェは心配そうに身を寄せる。

カイネの顔は、青を通り越して土気色をしており、唇は極地にいたかのように血色を失っている。

とても彼女の言葉の通り大丈夫には見えなかった。

 

「お前には、無理をして欲しくない。助けて欲しいなら頼れ」

 

ラーニェはそっと顔へ手を添えると、カイネと視線を合わせた。

少し冷たいが、その中に温もりを感じられる手が心地よい。

恐怖に凍りついた心と表情をゆっくりと溶かしていく。

 

(あぁ、モンスターも、人も、何も変わりはしないんだ……。だって……こんなにも暖かい……)

 

人間(カイネ)怪物(ラーニェ)の手を握りしめて、生まれて初めて温かい涙を流した。

みんなはどっちが好き?

  • ハッピーエンド
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