縫合少女の物語   作:興梠 すずむし

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ダンジョンはただいま人蜘蛛さんのせいでモッサモサ状態ですよ

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17針目

カイネの捜索を兼ねた帰還を敢行していた【ロキ・ファミリア】の面々は、目の前の異様な光景に足を止めていた。

 

「このあたり一面を覆っている黒い繊維は……カイネの魔黑糸か」

 

ちぎれて落ちていた糸束を触ったフィンがその糸の正体をカイネの出す魔黑糸だと予想するが、同じく糸を分析していたアイズから否定された。

 

「少し、違うかも」

 

「ふむ、根拠は?」

 

「……カイネの糸は、もっとつやつやしてるし、手触りがいいから」

 

冷静に分析していた団長の顔が微妙な反応を明確に表した。

もちろん他の団員もである。

エルフの麗人はどこか納得したような反応を示していた。

続けて、アイズが切れ味の鈍った剣で糸を切りながら口にした言葉でフィンは考えを改めた。

 

「……それに、あの子の糸は少し脆い」

 

そうなると思い当たる節がある。

確かに、カイネの糸は脆くはあったが、振るえば下手な装備では切り裂かれるほど鋭利さがあった。

特徴に違いがあるのだ。

糸の性質を変えられる能力があるとは聞いていたが、Lv4の冒険者、それも仮にも神から与えられた能力で強化された糸であれば、強度を重点的に考えて性質を変えれば、アイズとて切るのに少し時間がかかるくらいの丈夫さはあるだろう。

ここはダンジョン。ロキから聞いた話では、カイネにはかの残虐な人蜘蛛が混ぜられているという。

もし仮に、この糸がカイネのものではないのであれば、あの悪夢の再来の可能性を考慮しなければならない。

武器や物資を新種の魔物に溶かされ、不十分な状態だ。

あれはそのような状態で挑むには無謀すぎる相手であることはわかっている。

 

しかしながら、糸に触れているにもかかわらず、糸の主が現れる様子はない。

自身の親指も、相手の戦略ではないと告げている。

 

「……みんな、常に警戒して慎重に進むんだ。もしかしたら、最悪の場合ここで全滅するかもしれない」

 

団員の間に緊張した雰囲気が漂い始める。

強さ、人柄ともに信頼を寄せる団長からの全滅予想に、絶望的な表情を浮かべる者もいる。

 

「今、この糸の主はいない。そう断言することは、正直難しい。僕の予想が正しければ、宿主はいない。これが間違っていたら、僕らは全滅だ。だが、ここで止まっていれば物資も武器もない今、衰弱して帰還がより難しくなるだけだ。すまないが、僕に命を預けてくれ」

 

顔を青くしながらも、団員たちはもれなく首を縦に振った。

死ぬ可能性は低い、そういった意図の発言を支えにして立ち上がった。

 

敷き詰められた黒い糸の床を踏みしめ、なおも仲間を救い、彼らの主神の待つ場所へ帰るために前へ進んだ。

 

「待ってて、カイネ」

 

………………。

 

「……人が、来た。……大勢。……数からして、ファミリアのみんなかな」

 

「そうか。帰るんだな」

 

「……」

 

糸から解放されたリドから投げかけられた疑問に、カイネは答えられなかった。

それというのも、先程の戦いでよぎった自分の疑問がカイネの中で渦巻いているからだ。

 

(私は弱くなった。なぜ?)

 

弱くなった。弱くなっていた。なぜ?

答えはわかっている。しかし、それにたどり着きたくない。

その一心で疑問は疑問のままカイネの中をさまよい続けている。

 

知らなかった自分。

ファミリアのみんなと、姉や母と出会ってから出来た自分。

レフィーヤお姉さんやアナキティさん、ヒュリテ姉妹にラウルさんやベートさん団長にガレスお爺、団員のみんな。色々な人の思いが集まって形成された自分。

 

「……捨てたく、ないっっ!!」

 

《でも、リドやレイ、異端児(ゼノス)のみんなも大切でしょ?》

 

「っ!?」

 

突如として、聞き覚えのない声が頭の中を犯していく。

 

《リドは、危険な目にあったよね。誰のせい?》

 

《不注意に近づいてきたリドのせい?》

 

《止めに入らなかったレイのせい?》

 

《それとも、ついてこなかったみんなのせい?》

 

「……ち、がう」

 

ズキリと、頭が痛む。

 

《じゃあ、残った……?》

 

「……わ、わたしの、せい」

 

《そう。じゃあ、あなたのせいになったのは?原因は?》

 

「……ちゃんと、意味のある言葉を、伝えられてれば……」

 

《いやいやいや、違う、違うでしょ?分かってるはずだよ?》

 

「……」

 

《強さが足りなかったせい、だよね》

 

《あなたは強かったのに。弱くなった。なぜ?》

 

「……やめて」

 

《痛みが怖くなったのは、なぜ?》

 

「やめてぇ……!」

 

《感情を持ったから。人形のくせに。玩具のくせに》

 

《分不相応にも感情を持ったのは、なぜ?》

 

「いや……!いやぁ……やだ……やめてよぉ……!」

 

《─────みんなの優しさ》

 

《優しさがあなたを弱くする》

 

《強くならないと。要らないものは棄てましょう?》

 

「いるっ!!要らないものなんてない!!」

 

《要らないよ。弱さがあなたの『大切』を壊すの》

 

やっと分かった。この声は。

 

《私の『大切』を壊すの》

 

私の声だ。

 

《さぁ、弱さを捨てなきゃ。みんなを、守らないと》

 

「……そう。……守らないと。……みんなを」

 

《そう、良かった。これでみんなを守れるね。おかえりなさい、強い私》

 

 

みんなはどっちが好き?

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