縫合少女の物語   作:興梠 すずむし

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ついにあの人登場回

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してくれたらカリンさんは喜びの舞を舞って運動不足が祟って足をグネり、頭を強打して流血します


6針目

一抹の不安は残るものの、戦闘能力自体は高いこと、精神状態も安定していることからカイネの遠征参加が決まった。

それから約半年後。

遠征に行く準備をするにあたって必要なのが大量の食料、消費アイテム。そして装備品の点検が主になってくる。

カイネはボロボロの一張羅は既にない。そして着ている服はヘファイストスから贈られた1着を洗濯しては可能な限り水気を取って使い回している。

ファミリア内は何かと忙しく、服などを見に行く機会がなかなか見つからなかったのだ。

 

「カイネたんみたいな美少女にはちゃんとした服が必要なんやぁ!替えがない今!全力でファイたん譲りの服を乾かして着せるんやぁ!」

 

「私も、そう思う。そうすべき」

 

可愛い女の子が服なしは可哀想だとロキが強く主張し、それにアイズにしては珍しく静かに激しく同意していた。もはやすっかり『お姉さん』である。

そのため、服を乾かすためにアイズの『風』を使ったりと最高に贅沢な乾かし方がされている。

しかし、流石に高頻度で洗われ、風に晒されてきたことですっかり色褪せてよれてきているため、この機会に服を買うことになった。

それにティオナが乗っかり、アイズが行くならとレフィーヤも乗っかり、ちょうど新しく服が欲しかったと女性団員が数名乗っかりとかなり大所帯で買い物へ。

そしていざ服飾店へ行くとカイネは着せ替え人形となり、あれも似合うこれも似合うと女性団員が自腹を切ってまでカイネは大量の服を買うことになった。

カイネの、何ならアイズの身長をも超えるほどに積み上がった服の山に戦慄の表情を浮かべていたカイネは、他の団員に分けて運ぶのを手伝ってもらった。

【ステイタス】的には運搬可能な重量だが、物理的に厳しいものがあった。

分けても自分で運ぶだけで前が見えるか見えないかほどの量があったが。

拠点へ戻るため、大通りへ出た瞬間にカイネは人の波に流されて孤立した。

 

「……げ、せ……ぅ」

 

少し待っても誰も迎えにこないため、とりあえず黄昏の舘の方へ歩き始めることにした。

 

「うわっ、わわわ!?」

 

歩いて数分後、不意に持っている服の山に衝撃を受けて立ち止まった。その拍子に服が散らばってしまった。

誰かがぶつかったらしい。

 

「いてて……。あ、ごめんなさいっ!ちょっと前を見てなくて……」

 

「……いぃ。……だぃ……ぉぶ……?」

 

カイネはぶつかってしまった少年に手を差し出した。

それを見た少年は気恥しそうに笑いながら手を取った。

カイネは心底驚いた。

少年はカイネを見て少し驚いたように目を開いた。しかし、先程立ち寄った服屋の店員も、バベルの売店区域でも、カイネを見た者は少なからず好意的な視線を向けない。にもかかわらず、この少年は驚いただけ。

その後は普通に接してくれたのだ。

それだけで誰もが敵だったカイネにとっては大きな出来事だった。

 

「服が落ちちゃいましたね!お詫びということで、持ちますね!どこにまで行くんですか?」

 

「……っ」

 

今、自分の服を拾い集めている少年は優しかった。どこまでも純粋であった。

様々な人の悪の形を見続けたカイネには眩しすぎるほどに。

呆然と眺めていると、服を集めていた少年が顔を真っ赤にして動きを止めた。

目線の先にはアマゾネスセレクトの布面積の少なすぎてもはやただの布なのではと疑いたくなるような服があった。

カイネが小さかったのはろくな栄養がとれていなかったためであり、体はやせ細ってほとんど骨と皮だけといった有様だった。

しかし、黄昏の舘で過ごしたこの半年の間にお姉さん(アイズ)お母さん(リヴェリア)監修でしっかりと栄養をとり、レフィーヤから身だしなみを整えられたことで、現在は縫い目があること以外はスタイルの良い美少女となっている。

どこがとは言わないが既にアマゾネスの妹より発育がいい。

そんな彼女のそれなりにある胸部装甲を隠しきれるか不安の残る布を見つけてしまった純粋(ピュア)な少年は脳裏に浮かんだそれに機能停止してしまった。

団員達のおかげでそれなりに感情豊かになっている少女は、心開いた少年の考えに思い至り、全力で言い訳を開始した。

 

「……それは同じファミリアのアマゾネスの人のもので私のものじゃなくて、あの、その、その人は胸があんまりなくてそれだけで十分だから問題なくて私が付けるわけじゃないし誤解しないで欲しい」

 

魔黑糸の扱いにも慣れ、模型を作るのではなく、自身の喉と口周りを覆い、パーツを補う形に変更したことでコストも削減に成功し、スムーズに話せるようになっていたカイネによる全力の、嘘を含んだ言い訳に、少年は何とか再起動を果たした。

彼女はひとまず言い訳に成功した安心感でいっぱいになっているため、ファミリアの先達を軽くディスってしまったことに気づくことは無いだろう。

彼女の中でこの件についてはもう完結しているのだ。

まだほんのりと頬の赤い少年が口を開く。

 

「え〜っと……、と、とりあえず運びましょうか!?」

 

「……あ、ありがと。……あの、半分」

 

「せっかくですし全部持ちますよ。すごく運びにくそうにしてましたし、僕が持ちます」

 

「……そ。……じゃあ、お願い。……ついてきて」

 

「は、はい!」

 

………………。

 

「あ、あ、あの……ここって……【ロキ・ファミリア】の……」

 

「……そ。……黄昏の舘」

 

「あの、貴女(あなた)は……服飾店のお届けをしている人だったり……」

 

「……しない。……【ロキ・ファミリア】所属、カイネ・アネセト。……それが私」

 

それを聞いた瞬間、少年の足は産まれたての家畜のようにガクガクと震え始めた。

 

「ち、ちなみに……カイネさんのLvはおいくつですか?」

 

カイネは静かに4本指を立てて少年に向けた。

予想以上の回答にベルは卒倒しそうになった。

 

こんなに偉大な先輩冒険者に不埒な妄想をしたのか僕は!?

 

少年の心境を現すとしたらこのような感じであろうか。

 

「……君。……。……あなたは?」

 

初対面の人に向かって君と呼ぶのはどうかと思ったのと、自身の背中に刻まれた『混沌』のメッセージを彷彿とさせる呼び方に忌避感を感じて、言い直した。

 

「僕は【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネルっていいます。まだLv1の新米冒険者です」

 

「……ベルって、呼んでいい?」

 

「へ?あ、はいっ!」

 

「……そ。……ベル、運んでくれてありがと。……またどこかで。……冒険、頑張って」

 

「……はいっ!ありがとうございますっ!」

 

先輩冒険者からの激励を受けてやる気を燃え上がらせた少年、ベル・クラネルはカイネに手を振りながらダンジョンへ向けて走り去っていった。

 

「……不思議な子」

 

カイネはベルが見えなくなるまで手を振り返した後、服の山を持ってロキの待つ黄昏の舘へと入っていった。

なお、カイネがいないことに途中で気がついた女性団員一同は大通りを探し回り、最終的にファミリア本部へ駆け込んだ彼女達は、フィンとお茶をしていたカイネを見つけて謝り倒し、結果としてカイネはもみくちゃになった。




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