縫合少女の物語   作:興梠 すずむし

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8針目

現在いる50階層。

そこはモンスターが産まれない、ダンジョンの数ある階層の中では貴重な安全階層(セーフティポイント)だった。

そこで、ひとつの山場である49階層を突破した【ロキ・ファミリア】の面々は食事を始めようとしていた。

団長である小人族(パルゥム)のフィンは、士気の向上を目的としての計らいで、今回の食事にはダンジョン内で取れる肉果実といわれる肉のような食感と味の果物を使った料理が出された。

携行食で済ませがちなダンジョン内でのこれは、ご馳走に分類されるのだ。

しかし、それを食べない人物が2人。

 

「あの……アイズさん、カイネちゃんも……、食べなくていいんですか?」

 

「うん、大丈夫……。だけど、カイネはいいの?」

 

「……姉さんが食べないなら、私もいい」

 

それを聞いたアイズは、カイネの様子を見てとてもそう思っているようには思えなかったため、自分に追従してくれるのが嬉しいような、大切な妹分にはしっかりと食べたいものを食べて欲しいような、そんな複雑そうな顔をした。

 

「アイズはともかく、カイネはわっかりやすいよねー!そんなに見るなら食べればいいじゃん!涎もたらしてさー?お腹も鳴ってるしー」

 

「……そんなこと、ないし。……平気、だし」

 

少したれていた唾液を拭き取り、取り繕おうとしたカイネだったが、強がってみせた直後に一際(ひときわ)大きな音が腹から鳴った。

少し離れた位置にいた団員も音に気づいて振り返るほどだ。

 

「ふふっ。ほら、食べませんか?」

 

それを聞いたレフィーヤはまだ少しだけ残った肉果実の入ったスープを、食欲をそそるような香りがするそれをカイネの前に差し出した。

手を伸ばしたり引っ込めたりを繰り返しては器から目を逸らし、腹を鳴らしてはうずくまったりと忙しない。

アイズはオロオロしていた。

 

「……いただきます」

 

結局、カイネは折れて食べることにした。

その顔は非常に幸せそうだったという。

食事を終えた団員達へ、フィンからこれからの方針を伝えられた。

内容は主にふたつ。

ひとつは当初の目的である新階層、59階層の開拓。

もうひとつは【ディアンケヒト・ファミリア】からの冒険者依頼(クエスト)、51階層の『カドモスの泉』から泉水を採取すること。

新階層開拓の前に、冒険者依頼を済ませるにあたって、少数精鋭でことにあたるよう指示が出た。

要求量が1箇所の泉では到底足りなかったからだ。

そこで少々不満は出たものの、パーティ編成は以下の通りとなった。

 

1班:アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ

2班:フィン、ベート、ガレス、ラウル

 

「万一に備えてカイネはリヴェリアを護衛してくれ」

 

「………………ん」

 

カイネはいつもより長い間を空けて返事を返した。

1班の面々を見たカイネが不安気に見えたフィンであった。

確かに不安ではあるのは事実なのだ。

4人編成で3人の戦闘狂。

それを御するのはまだ成熟しきっていない少女が1人……。

 

「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」

 

「────お任せくださいッッ!!」

 

「うわ、ちょろー……」

 

………………。

 

野営地での指示も一通り終わったリヴェリアだったが、カイネとともに周囲の見回りをしていた。

野営地から離れすぎないようにぐるりと3周ほど見回ったあと、異常はないと他の団員を5人編成して見回りを交代した。

 

「どうだ、最近はここにも馴染んできたんじゃないか?」

 

「……ん。……みんな、優しい。……母様も、姉さんも、レフィーヤ(ねえ)も、ティオナもティオネさんも、みんな。……それに、ベートさんも少しツンツンしてるけど、いい子」

 

「……ふふっ、いい『子』か」

 

「……ん、いい子」

 

後輩であり、妹的存在のカイネだが、敬称はつけているもののベートが手のかかる子供のような評価をされていることを知り、リヴェリアは笑いを噛み殺すのに必死だった。

しかし、そこでふと気づく。

 

「なあ、カイネ。姉さんはアイズのことだろう?」

 

「……?……ん」

 

何を今更といった様子で肯定した。

これには納得できる。

しかしだ。少し聞き慣れない呼称があったのだ。

 

「───なら『母様』とは、誰なんだ?」

 

そう、今までカイネがそう呼ぶ人物は誰ひとりとしていなかった。

だからこそ、カイネが母と呼ぶまでに慕っている人物が誰なのか気になったのだ。

 

「……」

 

カイネは黙っている。黙ってじっとこちらを見ている。

穴が開くほど見ている。

 

「ど、どうしたんだカイネ、私の顔に何かついているか?」

 

「……母様」

 

……。聞き間違いだろうか。

彼女はリヴェリアのことをいつも「リヴェリアさん」と呼んでいたのだ。

母などと呼ばれたことは1度としてない。

しかしだ。周りには誰もいない。

そのうえこちらをしっかり見据えて『母』呼んだ。母と

 

「なあ、まさかとは思うがその……『母様』とは、私のことなのか?」

 

「……ん。……だめ?」

 

「ダメなものか」

 

何故だろうか。目の前で気恥しげにこちらを見ながら自分のことを『母』と呼ぶ縫合少女が愛らしくてたまらなくなってきた。

衝動のままにカイネを抱きしめて頭を撫でることにした。

 

なんだか、過保護な(アイズ)のようだと思いつつ、姉とは違った、しかし同種の温かみにカイネは戦闘で緊張した体が緩んでいくのが分かった。




リヴェリア、母になる

みんなはどっちが好き?

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