オーバーロード 賑やかし要員共【完結】   作:Ugly

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12 最終話

 

最初に戻ってきたのは、ペロロンチーノだった。

 

「やほー、モモンガさん。ただいまー。」

 

「!ペロさん!戻ってきたんですね!」

 

腰にベッタリと抱き着くシャルティアを引き連れて魔方陣のある建物からナザリック内部に移動したペロロンチーノは、特に異常もなく元気そうだった。

 

「俺達がいなくなって今何日目?」

 

「5日目ですね。」

 

「あー、じゃあリアルとこの世界は時間の流れが一緒っぽいね。リアルでも5日経ってたから。あ、そういえば姉ちゃん来てるよ。」

 

「……はっ!?あ!?ぶくぶく茶釜さんですか!?」

 

「そうそう。ナザリック入るんならモモンガさんの許可あった方が良いって姉ちゃんが言うから、魔方陣のとこで待機してもらってるんだけど。入れて良いかな?駄目でもアウラとマーレに一目会いたいってー。」

 

「全然構いませんよ!茶釜さんの装備持って行くんでちょっと待っててって伝えてください!アルベド、アウラとマーレに伝えて会いに行ってくれ。パンドラは俺の供を!」

 

「「はっ!」」

 

至高の御方々がまた1体この地に降り立ったことはNPC達を大いに沸き上がらせた。

 

特にアウラとマーレの喜びようは凄まじく、裸装備のぶくぶく茶釜に突進して抱き着き、ダメージを入れてしまった程だ。

 

その治療や泣き出す双子を宥めることでかなりの時間を費やし、この時ちょっと様子見に来ていただけに過ぎなかったぶくぶく茶釜はなし崩しに数日の滞在を余儀なくされた。

 

その後、リアルで急ぎの仕事があるからと2人は帰って行き、双子とシャルティアは号泣しながら見送った。ついて行きたそうにしていたがまだ安全性が確認できていないため無理だ。

 

「これが単身赴任に行く気持ちか…」と惜しみ(?)ながらリアルへ帰っていくプレイヤー達。彼らはもしかすると、いつかこの世界への永住を決意するのかもしれない。

 

モモンガは気長に待つことにした。

 

彼らが次に来訪する日をカレンダーに書き記して魔方陣のある建物の壁に掛けておくと、シャルティア達がよくよく確認して「あと何日で帰ってくる」と楽しそうに準備していた。

 

 

世界を行き来する自由を手に入れたペロロンチーノ達が、この世界に君臨し続けるのか、もしくはユグドラシル時代のように飽きて来なくなってしまうのか。

それは偏に今のプレイヤーやNPC達にかかっている。

モモンガがそう発破をかけると、NPC達の目に確かな炎が灯った。

 

この世界はリアルに比べて多くの魅力がある。栄えあるナザリック、美しい自然、冒険できる世界。意思を持ち己を慕うNPC。

その魅力で魅せられるか、この世界に生きる価値を見出してもらうか、或いは__力ずくか。

この世界に御方々を留める手段は、意外と多い。

 

何としてでも、至高なる存在をこの世界に。

不穏な程輝くNPC達の瞳は雄弁にそう語っていた。

 

その様を満足げに眺めつつ、モモンガ『は』気長に待つことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

次に戻ってきたのはたっち・みーだった。彼はちょうど1ヶ月後になって闇から現れた。

 

「ただいま戻りました。」

 

手に持つネズミはこの世界から持っていった茶色いものに加え別の籠にハムスターを入れ、両手にネズミ状態だった。

 

「お帰りなさい、たっちさん。結構長かったですね。ハムスターはリアルのですか?」

 

「はい、この世界から連れてったネズミの様子を1ヶ月観察していたんで。ハムスターはリアル産ですよ、ここでも様子見して異常がなければ…」

 

唐突に言葉が切れ、モモンガは手元のハムスターからたっちの顔へ視線を上げる。

 

「…どうしました?」

 

たっちは籠を後ろに控えるセバスに渡し、その執事にも聞こえるようにはっきりと続けた。

 

「_異常がなければ、この世界に家族を連れて住もうかと思っています。もちろん人間なのでナザリックはキツイでしょうし、ナザリックとは別の家を確保してからになりますが…」

 

「_え!?この世界に住むんですか!?てっきり、リアルへ帰ってしまうかと…」

 

思わぬ吉報につい大声を上げる。セバスも鋭い目を見開いた。御方々の会話を邪魔してはならない、という理性がなければたっちに詰め寄って確認していただろう。

 

「…実は、心配させると思って言ってなかったことなんですけどね。娘の身体が弱くて…気管支系の持病があるんです。それで医者から、今より良い環境でなければ長生きはできないだろうと言われてて…」

 

モモンガは息を呑む。

 

アーコロジー内の比較的マシな生活環境に生きるたっちの家庭は、大気汚染も世界的に見てマシなはずだ。

そこで生きる人間がより良い環境へ行くとしたら相当な金がかかる。そして、そこまでの財力を持つ人間というのはほんの一握りしか存在しない。話しぶりからして、たっちはその一握りではないのだろうとモモンガは推測した。

普通なら今の環境に留まり、細々と生を繋いでいくしか道はなかった。

 

だが、今は違う。セバスの手に在るハムスター(実験動物)が無事なら、リアルからただの生き物が来ても問題ないと証明される。

たっちの娘はこの大自然に恵まれた世界へ避難することができるのだ。

 

「…だから、実験の結果によってはここに住むかもしれません。どうにも曖昧になってしまって申し訳ないですが、その時はよろしくお願いいたします。」

 

頭を下げるたっちにモモンガは慌てて両手を振った。

 

「いえいえ!ここに居てくれたら私も嬉しいですし!それに、人間だからってナザリックに住めないとも限りませんよ?NPCに人間種もいますし…」

 

とはいえ、ナザリック全体のカルマ値は-寄りであり、元々異形種狩り対抗ギルドとあってか人間嫌いのNPCも多い。言葉尻につれて言い淀むモモンガにたっちも察した。

 

「そうではあるんですが…まぁ、それも様子を見ながらですね。さて、セバス。」

 

「はっ!」

 

たっちはセバスに向き直る。

 

「ずいぶん待たせてしまったな。少し違う形にはなったが…もしその時が来たら、お前の存在意義を果たしてくれるか?」

 

自身と家族に仕え、家を守る執事になってくれないか。

それはたっち・みーの望みであり、セバス・チャンの本懐でもあった。

 

「はっ!このセバス、必ずや創造主たるたっち・みー様と御家族に末長くお仕えすることを誓います!」

 

感涙に咽びそうになるのを堪えるもほろほろと幾筋か涙を流し、セバスは深く礼をする。

モモンガはいきなりナザリックの執事が(創造主とはいえ)他所の家に引き抜かれそうなことに驚きはしたが、「まぁ彼らがナザリックに住めば誰もいなくならないし良いか」と気にしないことにした。

これからNPCには人間嫌いを妥協できるか訊かなければと思いつつ、ふわふわなハムスターを再度覗き込むのだった。

 

 

 

 

 

ウルベルトは数ヶ月後に戻ってきた。

 

「ただいま。いやー、もうリアルに戻らないとなると案外やること多くてさ。時間かかっちまった。」

 

「お帰りなさい、ウルベルトさん。…そんなに色々やることあるんなら、私も一旦戻ろうかな…」

 

「あー、その辺は個人差だろ。俺はやることあったってだけだ。リアルじゃちょっと、やんちゃというか、反社会活動というか…そういうことをやってたもんだから。引き継ぎとかやんなきゃなんなかったってだけで。」

 

「えっ反社…大丈夫なんですかそれ。」

 

「何をもって大丈夫というかわからんが、まぁ大丈夫だと思うぞ。反社会っつっても、思想を同じくする奴らの集まりってだけで大したことはやってねぇから国にも目ぇつけられてねぇし。引き継ぎも、資料の受け渡しと別れの挨拶してきただけだ。」

 

平凡な社会の歯車でしかなかったモモンガには無縁の話が展開されている。だが、心なしかさっぱりとした雰囲気で語るウルベルトから、やりたいことはやったのだろうと伺えた。

 

「そうなんですね…私にはよくわかりませんが、ウルベルトさんが元気なら良かったです。」

 

「おう、元気も元気だ。こっちの世界はあんなクソな状態じゃねぇと良いんだが…王国がなぁ。」

 

「あぁ…」

 

2体の異形は人間の王国を思い出す。上層部の人間が労働階級以下を使い潰す国。環境こそ違えど、リアルに通じるところがある。王国に天下を取らせればこの世界もリアル(ディストピア未満)への道を進むのだろう。

 

「とりあえずはこの世界全体の調査から、頑張ろうな。」

 

「そうですね!あ、ウルベルトさんが来るまでにペロさんと茶釜さんが来てですね__!」

 

ウルベルトがいない間の話を始めるモモンガ。その話を聞きながら、ウルベルトは人化アイテムを手で弄っていた。

 

この世界に来てから、己が人ではなく異形になっていく感覚が続いている。人化すれば多少はマシになるが、侵食されているような気分は変わらないままだ。

だが、ここで生きると決めたモモンガやウルベルトにとって最早そのことはあまり問題に感じなくなっていた。

倫理観や道徳心は失われても、思考回路が変化しているわけではない。

感情が揺さぶられると抑制されるのは不便だが、よほど大きな感情でなければそのままだ。

 

…そうはいっても、自分の内で理解できない現象が起こっているというのは不気味であり、不快でもある。

 

「モモンガさん。」

 

「?はい、なんでしょう。」

 

「ここの調査が落ち着いたらさ、俺達にかかってる制限みたいなの、取っ払っちまわないか?」

 

「制限?っていうと…レベル上限とかです?」

 

「それもあるし、防具の重ね着とか、職種なしでの料理とか、感情を爆発させるとか。普通の人にできて俺達にできないことって結構あるじゃねぇか。それを克服したいんだ。」

 

「あぁ、そうですよね!これからはずっとここに居るんですし、不便なのは改良すべきですもんね!難しそうですけど、時間はまだまだありますから!」

 

頑張りましょう!と意気込むモモンガにウルベルトも1つ頷き、後方を振り返る。

 

魔方陣の中央に鎮座する闇は見詰めているだけで寒気がする。この嫌悪感が何によってもたらされるものかは誰も知らない。

 

未だ多くの謎と敵に囲まれているこの世界で、頼れるのは付き合いにブランクのある友人達と、不思議な生態をしたNPC。

元はと言えば全てが作られた世界(ユグドラシルというゲーム)。何がどこまで真実で、誰の意思でこの世界が回っているのか。まだ何もわからないのだ。

 

「つっても、時間が無限にある訳じゃないからな。それに、ここはゲームじゃなくて現実だ。このナザリックも、あと何年保つことやら。」

 

「あ、そっか。建物の老朽化とか、私達の寿命とか、色々ありますよね。…組織としても、1つに纏まっていられるのは今のうち、ですかね?全世界に足を伸ばすってことは多少バラけるでしょうし。」

 

ウルベルトもモモンガも、抑圧された世界で刹那的に生きてきた。でなければ、隙あらば弱者を搾取してくるリアルにおいてゲームにのめり込んだりはしなかっただろう。

そんな彼らは永遠など望まない。とてもではないが望めない。

人間として生きていた時に根付いた諸行無常が、異形になりきっていない彼らの精神にこびりついていた。

 

 

だが、芝居がかった抑揚がさらりと響く。

 

「そのようなことはありませんよ。偉大なる至高の御方々。ナザリックは、アインズ・ウール・ゴウンは、永遠不滅でございます!」

 

次いで、たおやかな甘い声が。

 

「愛する至高の御方々。どうか、どうか永くこの地に留まり続けてくださいますようお願い申し上げます。降り注ぐ火の粉は我々シモベが全て払いきって見せましょう。」

 

最後に、恐ろしい程穏やかで理性的な声が。

 

「どうぞお命じください。ナザリックを永久のものにせよ、と。必ずや満足のゆく結果を献上いたしましょう。」

 

見るとモモンガの創造物、タブラの創造物であり守護者統括、ウルベルトの創造物が並んでいる。

ナザリックの中でトップクラスに頭が回る面々だ。

 

そんな彼らにモモンガとウルベルトは顔を見合わせる。

 

彼らは根っからの異形種で、不可能を可能にできそうな智謀を備えてもいた。

そんな彼らが大丈夫というなら、何とはなしに大丈夫な気がしてきたのだ。

 

「…そう、ですね。いつか終わりが来るなんて、諦めるのは早いですよね。」

 

「だな。行けるとこまで行ってみるか。皆で。」

 

 

 

「よいしょっ、と。こんちはー!あれ?ウルベルトさん来たんですね!」

 

「こんにちは。あれ、皆さんお揃いでどうしたんですか。何かトラブルでもありました?」

 

その時、リアルへ行っていたペロロンチーノとたっちが現れる。

 

「ペロさん、たっちさん。いえ、偶然集まっただけですよ。…あ、そうだ。いつまでもゲーム名だけってのも何なので、リアルでの名前教えときますね。私は鈴木悟って言います。」

 

「俺は__」

 

それぞれが持って生まれた名前を交わす。

 

どのような形であれこの世界を生きていくと決めた彼らが、今更人としての存在を示すのは少し違和感があった。

 

妙な居心地の悪さに囚われつつも、モモンガは名乗れて良かったと素直に思う。

 

もう、あの世界には戻らない。人ではなく、異形として生きていく。名前を言葉として吐き出したとき、彼はその名前を捨てたのだ。

 

 

「モモンガ様。」

 

 

名前を呼ばれ、振り返る。守護者統括が優美に微笑んでいた。

 

プレイヤー達がリアルへ帰還してからの数ヶ月、アルベドはずっとモモンガを支え続けた。

 

慣れない職務に苦しむモモンガを補助し、時に先導した。

他のプレイヤー達がまた帰ってこないのでは、何かの拍子に己もリアルへ戻されるのではと怯えるモモンガに寄り添い、励ました。

 

いつしかモモンガにとって、アルベドはNPCの1人ではなく自身の傍にいなければ落ち着かない程の存在になっていた。

 

自然の日光に照らされる彼女は、一等美しい。それはモモンガ自身の憂いがなくなったことによる錯覚だろうか。

 

「_どうしたんだ、アルベド?」

 

「はい。モモンガ様は3日前に、ピクニックをしたいと仰っていたでしょう?あれから準備をしておりました。他の御方々もいらっしゃることですし、昼食はピクニック形式にいたしませんか?」

 

「ああ、それは良いな!皆さんどうですか?」

 

他の3人のプレイヤーも2つ返事で賛成し、ピクニックをすることが決まった。

メイドを中心としたシモベ達が敷物やバスケットを手にナザリックから出てくる。

無論護衛部隊も大量に動員されていたが、「至高の御方々」が外に出る以上そこはもう仕方のないことだ。

 

シャルティア、セバス、デミウルゴス、パンドラズ・アクターも創造主の近くに集まる。他の主力なシモベはナザリック防衛のため今回は残るとのことだった。

儀式の時とは違いナザリックから少し離れるため、地下墳墓を丸々空ける訳にはいかないのだ。

 

「では行こうか、アルベド。」

 

「…よろしいのですか?私は今いらっしゃるどなたの創造物でもありませんが…」

 

「そうだな。お前は、私達ではなくタブラさんの子のようなものだ。けど私が…俺がアルベドに、一緒に来てほしいって思ったんだ。アルベドとは仕事でもよく一緒にいたし…良ければ、ご飯も一緒に食べたいな。」

 

誰かと一緒に食事を楽しむなんて、リアルではそうそうできなかったことだ。

 

この世界に来てからはそうする場もあったが、ピクニックがてら昼食というのは初めてだった。普通の食事とは違う、新鮮な楽しさがありそうだ。

モモンガはその楽しい時間に、アルベドも居ればもっと良いと思ったのだ。

 

「では、喜んで。…くふふっ…」

 

綺麗な笑顔のまま礼をしたアルベドは、しかし大きな翼をぱたぱたとはためかせて、頬を赤らめた。

 

クールビューティーとも言うべき顔面からくふくふと変わった笑い声が生産されていく様を眺めつつ、モモンガは「こういうギャップは結構好きだな」と内心でタブラに共感していた。

 

「じゃあほら、行こう。皆待ってるから。」

 

視線の先、森の少し開けた花畑で仲間達がシートを広げている。あまりぐずぐずしていたら準備をサボることになりそうだ。

 

「はい、モモンガ様!」

 

純白のドレスを翻し、アルベドはモモンガの隣を歩く。

 

 

日の光が柔らかく照らすこの世界は、誰もが理想とする楽園のようだった。

 

この平和が少しでも長く、多くの仲間達に届けば良い。

かつては41人も居たギルドメンバー達。皆、それぞれの事情があってユグドラシルを去ってしまった。

 

それでも、目の前に居るプレイヤーやNPC達の笑顔を見ると、皆この世界に来る方がずっと幸せになれるのではないかと思うのだ。

 

モモンガはバスケットを開けて料理を並べながらも、ナザリックの円卓の間を思い出す。

 

全盛期のように、この世界で円卓の席をいっぱいにして、皆でお喋りをするとしたら。

 

…きっと騒がしいだろうなぁ。

 

だが、賑やかで良いじゃないか。寂しくなくて結構なことだ。

 

うん、と弾む気持ちをそのままに、周りのプレイヤーやNPC達が既に騒がしい現状を取り纏めにかかるのだった。

 






賑やかで喧しい彼らの冒険は、ここでひとまず閉幕となります。

現状として何一つ解決していませんし彼らにとっては何もかもこれからですが、モモンガを中心に現れては消える至高の御方々とNPCが居ればどうにかなるでしょう。この世界の住人達の負担は凄いことになりそうですが。

ここまで読んでくださりありがとうございました!失踪期間はあったものの完結できて良かったです。私もリアルや他ジャンルが落ち着いたら6巻以降も読み進めていきたいと思います。
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