モモンガは頭を抱えた。
「…どういうことだ!?」
ペロロンチーノは羽ばたき、僅かに宙に浮く。
「何、何?サービス延長?続編?パッチ追加?わけわかんないよー!」
その羽が飛び散るのを見てモモンガは若干冷静さを取り戻し、宥めにかかる。
「お、落ち着いてくださいペロさん。ひとまず現状を把握しましょう。」
そっと鳥人の肩に触れる。その瞬間、ペロロンチーノは静電気に触れたように身体を跳ねさせた。
「___ぅえっ!?」
「え!?どうしました!?」
「なんか痛みが…あ、もしかして負の接触?」
「へ?あれって敵にしか効かな…まさか、フレンドリーファイアが解禁されましたか。ペロさんの羽が散るのも変ですし、まるでシステムが変わったかゲームじゃないような感覚が…」
「ですねぇ。…もしや、異世界転移系?」
「ナザリックごと?うっわマジですかー。というか、」
モモンガは横を見る。先程からたっちとウルベルトが一言も発していない。
「たっちさん?ウルベルトさん?大丈夫ですか?」
「「…………う、」」
「う?」
「「うらぁあああああ!!!!」」
突如たっちとウルベルトはそれぞれの得物を構え、たっちは攻撃スキルを、ウルベルトは攻撃魔法を発動した。
轟音。互いの攻撃を喰らい、二人とも後ろに吹き飛ばされる。
「「痛ってえぇえぇええええ!!!」」
「ぶふぉwwww」
「ちょっと!何やってんですかこの馬鹿!!フレンドリーファイア解禁っつってんでしょ話聞いてました!?」
「痛い!痛すぎる!何だこの痛みゲームじゃないぞ!」
「ぐっ…痛ぇ、痛ぇ…」
あまりの痛みに二人とも立ち上がれていない。それだけ苦痛を伴う技を互いに打ったということだが。
「はー…」
呆れつつもモモンガとペロロンチーノが助けに行こうとすると、
「たっち・みー様!」
「ウルベルト様!」
たっちのもとにセバス、ウルベルトのもとにデミウルゴスが駆け寄って彼等を助け起こした。
「「…ぇ?」」
「たっち・みー様、お怪我をされていますね。ペストーニャを呼びましょう。至高の御方々に手傷を負わせてしまい、シモベとして不徳のいたすところ__」
「ウルベルト様!申し訳ございません、すぐに手当ての者を!貴方様の御意向にそぐわない私をどうか今だけはお許しください。治療が終わり次第然るべき罰を受けますので__」
想像主達は呆然としている。無論、見ていた二人も驚いた。
「モモンガさん…え、NPCに自我が…?しゃ、シャルティア?」
近くにいたシャルティアがパッと顔を上げる。
「はい、ペロロンチーノ様!」
「_シャルティア!俺の嫁が!!生きてる!!!」
ペロロンチーノは感極まってシャルティアに抱きついた。
「きゃっ!ぺ、ペロロンチーノ様ぁ、嫁だなんて…この身に余る光栄、しかし私以外には勤まらない幸せでありんす…」
「かーわーいーいー!…って、普通に抱き着けたな。接触過多でBANものなんだが。規制も外されてる?のかー?」
彼等の姿にモモンガは期待と不安を抱き、自作NPCを呼ぶ。
「パンドラ!パンドラズ・アクター!」
「はっ!モモンガ様!」
目の前でビシリと敬礼したパンドラズ・アクターはやがて
「…お前は…いつから自我が?それに喋れるようにも…今、我々の身に起こっている事態がわかる、か?」
「自我は我が神モモンガ様が私を創造してくださったその瞬間から。話せるようになったのはつい今しがたでございます。現在どのような状態にあるかは…申し訳ありません、把握しかねております。しかしモモンガ様、貴方様とこうして言葉を交わせることは至上の喜びにございます。」
スラスラと紡がれた後に、埴輪の顔がにっこりと笑ったような気がした。
「う、うむ。そうか。ではとりあえず内外の確認から行おうか。守護者統括は…アルベド!」
「はい、モモンガ様。」
「ナザリックの防衛体制に異常がないか確認してくれ。次、パンドラ…ズ・アクター、セバス、デミウルゴス、シャルティア。」
「「「「はっ」」」」
「『付き従…』…いや、コマンド要らないなそういえば。ついてこい。外の様子を見に行くぞ。どうせたっちさんとかペロさんとかは止めても見に行くんだろうし。」
「あ、バレましたか。」
「まぁ俺索敵要員ですし?さぁ行きますよ!第一階層まで競争な!」
シャルティアを抱えて走りだそうとしたペロロンチーノをウルベルトが掴んだ。
「走る気かペロさん!指輪!指輪使え!」
「あ、そうか。てかそんな雑に掴まないで羽がむしれる。」
「鳥肌見えるまでむしってやろうか。」
「酷い!鬼!悪魔!ウルベルトさん!」
「悪魔は否定しないが俺の固有名詞を悪口にすんのやめろや。」
「セバス、あいつら来るの遅いだろうから私達は先に行くか。」
「は、い、いえしかし…」
「待ってくださいよたっちさん!パンドラ行こう!って、指輪無いNPCは転移できないか。お前達、あとアルベド。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの予備を渡しておくからこれを使って移動せよ!」
「「「「「!!??、はっ!」」」」」
バタバタしながらもどうにかナザリック入り口まで辿り着くと、リアルではもう見られないような澄んだ青空と見渡す限りの草原が広がっていた。
目を刺す陽光。草の香り。風の感触。
それらはプレイヤー四名に「これは現実だ」と思わせるだけの証拠となり得た。
さらにGMコールが効かない、コンソールも開かないとなっては完全にリアルとの接触手段が絶たれたことになる。
たっちが狼狽える。
「…現実だ、ゲームじゃない…私達、リアルに帰れない…?そ、んな、私には妻と子が…!い、嫌だ、帰らなくては、帰ら、」
「落ち着けたっち!帰れねぇとは誰も言ってねぇだろうが!」
ウルベルトが鎧を小突く。モモンガも頷いた。
「この世界に来た原因を探れば、なんとかなるかもしれません。というか、逆にまた何かの拍子にリアルへ強制送還もありえるんですよねぇ。」
ペロロンチーノも賛同する。
「そうですね。俺らは物理的にいつ消えてもおかしくない。リアルにせよここにせよ、安心して生きたいのなら…なんで異世界に移動したのか探らなきゃいけないです。そうすればリアルに帰れるし、こことも自由に行き来できるようになるかもしれないし。…俺も、姉ちゃんが心配だし…多分、ログインはしてないから安全のハズだけど…」
たっちは彼等の(珍しく)落ち着いた対応に段々と平静を取り戻した。
「ペロさん…そうですね。ペロさんも茶釜さんが心配ですよね…すみません、取り乱して。」
「ッチ。あ、悪ぃ用事思い出した。俺はデミウルゴスと先に戻るぞ。デミウルゴス、良いな?」
「はい、ウルベルト様。」
ウルベルトとデミウルゴスは転移して消えていった。そのすぐ後にプレイヤー三人の脳へ声が届く。
《あー、モモンガさん、たっちさん、ペロさん。聞こえる?》
モモンガが顔を上げた。
《ウルベルトさん?これ、〈伝言〉ですか?》
《だな。ボイチャ的な使い方もできるっぽい。それより、NPC達って信用できそうか?》
《…パンドラなら。》
《セバスは信用できますよ。》
《シャルティアになら殺されても良いわ!》
《ペロさん、縁起でもないです…》
《ま、俺もデミウルゴスは信用したいんだが…信用できねぇよなぁ、だって俺一年はこいつのこと放置してたし。恨まれてて当然。》
ペロロンチーノが嘴を鳴らす。
《は!?ウルベルトさんがデミウルゴス制御できなかったら誰が御せるんですか!?そいつめっちゃ頭良い設定でしたよね!?》
《うん。だから今ちょっと二人きりになって反応見てみるわ。》
がちゃり、たっちの鎧が揺れた。
《ウルベルトさん、そこまで身体張らなくても!てか装備だって無いのに!》
《あ、装備!皆さんが引退したときの装備、俺取っといてますよ!せめてそれ着ていきましょうよ!》
《あー、大丈夫。
《こ の 数 秒 で 何 が あ っ た ん だ よ!!》
モモンガ渾身のツッコミを流してペロロンチーノが聞く。
《え、何をもって信用できると?》
《二人きりの状態、このほぼ裸装備かつ丸腰で両腕を広げて「放っといて悪かったな、詫びに好きにして良い」って言ったら、抱き着かれてめっちゃ泣かれた。すげぇなこいつ、俺なら殴るか刺すかしてるわ。》
《身体張りすぎww後で俺もシャルティアにやろーっとw》
《私がデミウルゴスなら剣で真っ二つにしますね。》
《うるせぇぞ糞の権化。》
《山羊汁にするぞ家畜。》
《脳内で喧嘩しないでくれません!?あと危ない橋を渡らないでくださいウルベルトさん!》
この間、外のプレイヤー達は黙って立ったままである。シモベが心配そうに見ていることに気がつき、ペロロンチーノはシャルティアの頭をそっと撫でた。
「あ、ごめんぼーっとしてて。ちょっと〈伝言〉の魔法で遊んでたんだ。」
「め、滅相も無い!どうぞお楽しみなんし、ペロロンチーノ様!」
「ん、でももうキリが良いし引き上げようか。俺の索敵範囲にモンスターも居ないし…でも小動物はいるっぽいね。」
ちょうど現れた兎を視認しながらたっちが頷く。
「ひとまず危険は無い、ということですね。ではナザリックのことをアルベドに聞きにいきましょう。」
「というか二人とウルベルトさんは早急に装備着ましょう。パンドラ、取りに行くぞ。」
「はっ!」
「すごい身体に馴染みます。正義降臨!うわ文字出た!」
「これで悪の完全復活だな。しかしよく考えたら最終日に裸装備だった訳か俺達。異形が懐かしすぎて服にまで意識がいかなかったわ。」
「やっぱこれだね~♪」
「おぉ…久々に見ましたけどやはり似合ってますよ。あ、皆さん後で星空見に行きません?ここなら本物見れそうじゃないですか?」
真っ先にペロロンチーノが反応した。
「良いですね!俺、星空の空中散歩したい!」
「いーねぇ俺も飛ぼ。」
「私はセバスに竜形態で運んでもらいますかね。モモンガさんは?」
「飛べるアイテムあるから大丈夫ですよ。というかたっちさん飛行系無いんです?意外と言うか。」
「移動とか威力付けなら大ジャンプで事足りましたからね。特に上空に留まる用もありませんでしたし。」
「上から有象無象を見下ろせるぞ?」
「猫と馬鹿は高い所が好きですもんね。」
「ぶち殺すぞ!」
「たっちさんその言葉は俺にも効くぅ…」
「すみませんペロさん。」
「あのー皆さん、第六階層に守護者集めてるんで行きますよー!」
第六階層では忠義の儀というものが行われ、あまりの動揺にモモンガ達は初めて感情の抑制を知った。
〈伝言〉で大騒ぎしながらも、この儀はシモベ達にとって大事なもののようだからと表向きは支配者を取り繕う。
跪いたシモベ達を見下ろし、モモンガはロールプレイ用の声を出した。素の声は知られているが、本人の気合いの問題だ。
「現在ナザリックは未曾有の危機に陥っている。我々はこの世界を可及的速やかに調べ尽くす必要がある。幸いにも私は一人ではない。お前達が、そして戻ってきたギルドメンバーがいる。」
シモベ達が期待と希望に満ちた目を向ける。既に誰が帰ってきたか把握しているが、ギルドマスターが直に彼等の帰還を伝えるその意味は大きかった。
「たっち・みー。ウルベルト・アレイン・オードル。ペロロンチーノ。私、モモンガ。我々は共に協力し、時には別行動をとりながら活動することになる。目的は二つ。一つ、ナザリックのこの世界における安定した存続。二つ、リアルとこの世界を行き来する方法を探す。ウルベルト、詳しく説明を。」
ウルベルトがモモンガの隣に進み出た。そして所謂悪役、外向きの声を出す。
「お久しぶりですね、皆様。ではモモンガの説明に補足させていただきます。
まずナザリックの安定。これは充分にお分かりいただけるかと。今のところナザリック周辺に知的生命体は存在しないようですが…もしかしたらこの世界の生き物は私達よりずっと強いかもしれません。もしそうなら私達は外の脅威からここを守る必要がありますし、そうでないなら制圧なり交渉なりして安全を確保することが望ましい。
次にリアルとこの世界の行き来、でしたか。私達は異世界から来ました。その存在は非常に不安定と言えるでしょう。また何らかの理由で消滅する、リアルに引き戻される、別の世界に転移するといったこともあり得ます。…貴方達を置いて。そうならないよう、自分の意思で移動できるようにしたいと思っています。他のギルドメンバーの消息も辿る必要があります。
何にせよ、情報が大事になってきます。皆様、協力して頑張りましょう。」
慇懃な態度にシモベ達は畏れ多さを_たっちは吐き気を_感じ震える。
「ペロロンチーノ、アルベド。報告を。」
ペロロンチーノが進む。こちらは普段と変わらない、優しく軽い声だ。
「俺が先か。ナザリックの外は草原に変わっていたよ。ユグドラシルでは沼地だったから、防衛面では少し質が下がったかな?あとナザリックの地表部がえらい目立ってたよ。ウルベルトも言っていた通り近くに知的生命体はいなかったけど、油断は禁物だね。俺からはこんなもん?アルベド、どうぞ。」
「ありがとうございますペロロンチーノ様!ナザリック内部ではこれと言って変化はございませんでした。しかし今後ユグドラシル金貨が入手できないのなら、一時的に金貨を必要とするトラップ系を停止させることも考慮に入れていただければと。それ、と…あの…タブラ様からこちらを預かっているのですが…」
アルベドがどこかから取り出したのは、ワールドアイテムだった。
モモンガが声を上げる。
「〈真なる無〉!?え、なんで?持ち出し許可出してないけど…」
ウルベルトが腕を組む。モモンガのロールプレイが崩れたので遊びは終わりだった。
「…タブラさんの悪戯じゃないか?実際、俺達誰も気がつかなかったしな。」
「タブラさん思いきったなぁw」
たっちは丁寧にアルベドを諭す。
「アルベド、持たせたのはタブラさんとはいえ、今は貴女がそれを無断で持っている状態になっている。一度宝物殿に返して、持ち出すなら正規の手続きを踏んできなさい。ワールドアイテムは貴重なものだ。貴女がそれを持っている限り、外に出すことはできない。…タブラさんのせいで面倒をかけるね。」
「タブラ様にも何かしら御意向があったのでございましょう。ではこの場が開ければ直ちに返還いたします。」
モモンガが頷いた。
「そうしなさい。後でパンドラ…ズ・アクターに手伝わせよう。んん、話を戻すぞ。たっち、人員について話してくれ。」
ロールプレイの再開に、たっちもまた僅かに語調を変える。
「わかりました、モモンガ。我々はナザリック維持だけではなく、特殊な仕事をする機会も多いでしょう。そこで、我々は自分で作り上げたNPCを直属の部下として就けようと思います。NPCは想像主を補うところがあるようですし…パンドラズ・アクター、セバス・チャン、デミウルゴス、シャルティア・ブラッドフォールン。貴方達には、守護者や執事と兼任、或いは一時的に任を解いて創造主の補佐となるよう要請します。」
「「「「至高の御方々の御心のままに」」」」
「アルベド、彼等が抜けることによる穴は埋められますか?誰に負担が行きますか?」
「どうしても防御面が下がりますが、穴を埋めることは可能かと。階層守護者が減るので私とコキュートス、アウラ、マーレが主にカバーに入ります。セバスの仕事はプレアデスや一般メイドが代われます。しかし宝物殿は…いかがいたしましょう?」
モモンガがコキュートス達に目を向ける。
「そうだったな…コキュートス、アウラ、マーレ。こちらに。」
「「「ハッ」」」
「お前達にもリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡す。宝物殿も含めて警戒体制をとれ。…あぁだが、これは全員に警告だ。宝物殿の奥には行くな。るし★ふぁーが厄介なものを置いている。」
全員が了承した。プレイヤー組もだ。あの悪戯好きが設置した罠がある場所など近寄りたくもないから。本当の事情を知っているパンドラズ・アクターが軍帽を深く被り直したことも彼等の恐怖を煽った。
宝物殿の奥に、実際は不出来なアヴァターラが並ぶ霊廟があることを知っているのはモモンガとパンドラズ・アクターだけだ。
「我々四人からは以上だ。他に、ナザリックのために意見があるものは?」
モモンガの問いかけに端を発し、細々とした物事が決まっていった。
結果としてナザリック防衛に常駐できるのがアルベドとコキュートスのみとなり、家を守る彼等にプレイヤー達は可能な限りの激励を送った。
書き溜めがほぼない…