「夜だ!外だーーーー!!!!!」
ペロロンチーノは羽を広げ空へ一直線に上がっていった。止めようとしたモモンガの手が空を切る。
「あぁっペロさんが逃げた!」
ウルベルトは手を目の上に翳し、見上げる。
「まるで解き放たれた犬のようだー…」
竜形態のセバスを連れたたっちが苦笑した。
「仕方のないことです。あまりにこの空は美しい。」
「お前が美しいとか言うと寒気が走るな。」
「永遠に冷たくしてやりましょうか?」
「じゃれてないで飛びますよー!〈飛行〉」
「デミウルゴス、行くぞ。」
「セバス、頼む。」
モモンガを始めとしてパンドラズ・アクター、ウルベルト、デミウルゴス、たっちを乗せたセバスもそれぞれ飛び上がる。
シャルティアに関しては、夜更かしが肌に悪いからとペロロンチーノが同行を拒否したのでこの場にはいない。実際はペロロンチーノが、はしゃぐ姿を見られたくなかったからかもしれないが。
ともあれ上空でホバリングしていたペロロンチーノと合流した。
そして、息を飲む。
満天の星。大きな月。薄汚れたリアルの空からは想像もできない、儚くきらびやかな光。
「きれいだ……」
そう呟いたのが誰か、判別できなかった。或いは全員かもしれない。
そして二言目もやはり星の賛美だった。
「すごい、宝石のようだ!」
モモンガは僅かに手を伸ばす。ウルベルトも無意識のうちに唸る。
「宝石も宝石、これ以上はない極上のものだな。」
ペロロンチーノがその場で逆さになった。視界いっぱいに広がる星は変わらずそこにある。
「宝石かー、俺あんまり見たことないけど…確かに、リアルの宝石もこれ程きれいじゃなかったような。」
たっちは竜の首筋を撫でた。彼の鎧にも、セバスの鱗にも、星の光がまばらに灯っていた。
「ブルー・プラネットさんが渇望したのも納得ですね…正しく、手に入らない宝石。」
そこで、そっとデミウルゴスが口を開いた。
「星々が美しいのは、それこそ御方々を飾るための宝石であるからでしょう。御方々がお望みになるのならば、我々が全力でこの宝石を集め、献上させていただきたく存じます。」
パンドラズ・アクターがハイテンションで乗る。
「デミウルゴス殿の仰る通り!セバス殿もそうお思いでしょう?」
星色の竜はぐるる、と小さく鳴いた。それは誰が聞いても否定とはとれなかった。
モモンガがふ、と笑う。
「デミウルゴス、意外と詩人だな。」
「才能あるー!」
ペロロンチーノが褒めると、創造主ことウルベルトが胸を張った。
「当然!こいつは俺ができないことができるんだ!」
「つまり何でもできるんですね!」
「殺す!」
煽るたっちに向かいウルベルトは飛び蹴りを放つ。軽々と避けたたっちはウルベルトにカウンターを打つが、ウルベルトも余裕をもって避けた。
「つかセバスも万能じゃねーか!人のこと言えねぇだろ!」
「私は別に、セバスにできることが私にできないこととは言ってませんので!まぁ強ち間違いでもありませんが。」
逆さになっていたペロロンチーノが急いで元の位置に戻った。
「その辺でストップー。モモンガさん、そろそろ戻ります?」
「そうですね。」
デミウルゴスの問いは流されてしまった。
その日の深夜。
「「「「酒が飲める飲めるぞー♪」」」」
愉快に歌っているのは至高の御方々と呼ばれる異形種達だが、現在は人間の姿をしている。ウルベルトが持っていた人化アイテムにより変身したのだ。
人間種嫌いの彼がなぜそんなものを持っているのかギルドメンバーが聞いたところ、
「人間種のふりをして仲間を集め、一緒に冒険し、そいつらが異形種に対しての悪口を言った瞬間に変身を解いて殺す遊び」
を一時期していたらしい。本来は一つあれば永久に人間種と異形種とを切り替えられるのだが、ウルベルトは十個ほど持っていた。なんでも正体を現して殺され、アイテムを奪われる確率が高かったので沢山所持しているとか。
そこまでして嫌がらせがしたいのかとたっちが呆れ、そこから喧嘩になっていたもののいつの間にか酒盛りが始まった。
現在、モモンガの私室。護衛も部屋の外に払っている。そして失態を咎めそうな者がいなくなると彼等は状態異常無効の装飾品を外した。
酒が進み口が軽くなり、リアルに帰りたいかという共通の話題から本音が出てくる。
「もうやだお家帰りたい……妻と子が待ってるんです…私は親なのに、夫なのに…」
限界まで沈むたっち。若干泣いている。
「あー面倒な事態になったもんだよ本当。帰りたいかって言われたら微妙だが残りたいかって言われても微妙だな。それに、なんか心が冷たくなってく感覚がして、気味悪ぃ。」
ウルベルトが不快を露にして背凭れに身体を預けた。
「んむーシャルティアがかわいいから俺は残っても良いけどね。…姉ちゃんの無事さえ分かれば。」
未練たらたらといった様子でペロロンチーノはグラスをなぞる。
「俺はむしろ残りたいですがね。リアルに戻されるのが怖いくらいです。あーでも、ウルベルトさんの気持ちも分かりますよ。俺が俺じゃなくなってく感覚がして嫌ですよね。」
一人称が崩れたモモンガは更に酒を呷った。
ふっと沈黙が訪れる。社会人の彼等は、リアルではもっと質の悪い酒を飲みながら自身の許容量を把握していた。故に、最後の理性を失う者は誰も居なかった。
ウルベルトがポツリと話す。
「…最悪の想像はいくらでもできる。だが…例え俺達の理想が真逆だったとしても、俺達は対立しては駄目だ。俺達に許されたのは、一塊になって最短距離を走ることだけなんだ。」
モモンガが自嘲気味に笑った。
「俺とたっちさんのこと言ってます?ここにいたい、あるいはここから出たいっていう。」
ペロロンチーノが茶化す。
「まっさかぁ、俺達の理想は皆バラバラですよ。人間だもん、当たり前のことです。でも今の俺達は、理想を叶えるための過程が同じで…それに、部下がいるから責任も増えた。モモンガさんが残りたいって言っても、こんな重いものをモモンガさん一人に負わせて俺達だけ帰るなんて、今更できないよ。」
「まさしくその通り、ペロさん。モモンガさんが独裁したいなら俺達は邪魔ですらあるんだが…もしそうなら俺達はもう追い出されてるはずだろ?」
「独裁なんかしたくないですよ。ギルメンには出てってほしくないし、いっそ増えてほしいくらいです。でも俺にたっちさんを止めることはできない。お子さんの気持ちを考えると…帰ってきてほしいって思うんだろうなって、そう考えたらもう引き留められないじゃないですか。」
「ぅう、モモンガさん…」
「子供をダシに使うなたっち、汚ぇぞ。」
「黙れ、草でも食ってろ山羊畜生。」
結局喧嘩になったのだが。
酔いのせいでコントロールが狂った魔法と剣筋が爆音を立てたので控えていた護衛達が一気に流れ込み、その晩はお開きになった。
そこから数日。たっちは図書館で情報収集、ペロロンチーノは外で範囲を広げた索敵、モモンガとウルベルトは魔法やアイテムを確認していた。
因みに彼等は皆人間形態である。どうやら精神の異形化は異形種の種族特性を全て無効にすると止まるようだ。人間化アイテムを使えば有事の際に一瞬で切り替えができるため、プレイヤー達は心と身体を守るために常にアイテムで人間化するようになった。
そのことについてシモベ達は嫌悪を示さなかった。曰く、至高の御方々は人間化していても特殊な威厳や気配を放っている、とか。
その日、モモンガとウルベルトは〈遠隔視の鏡〉を弄くっていた。
「……あ、映った!」
「っしゃ!」
「「いえーい!」」
拳を軽くぶつけ合う。彼等の後ろではパンドラズ・アクターとデミウルゴスが喜んでいた。
「さてさて、何が映りますかねー?現地の祭りとかやってたりして!」
「そうだったら現地の人間に紛れて行こうぜ。あいつらも誘って。」
「良いですねそれ!」
モモンガがわくわくと覗き込んだ先。
そこは鮮血に塗れていた。
「「……………」」
一気にテンションが底をつく。
ウルベルトが天を仰いだ。
「祭りは祭りでも、血祭りだったな…」
「上手いこと言ったつもりですか。さてどうします?」
「それは助けるか否かってことか?」
「えぇ、もちろん。」
鏡の向こう側では何処かの騎士達が村人らしき人々を虐殺している。村人達も抵抗はしているが、このままだと全滅は免れない。
「メリット・デメリットどちらもあるな。デメリットとしてはまぁ危険ってことだ。騎士達の強さがわからん。下手すりゃ俺らが死ぬ。
あと、助けた後の始末も面倒だ。この騎士達のバックに絶対目をつけられる。
騎士達の目的もわからん。この村を救えば、この騎士達に襲われる他の村も俺らに依存しかねん。」
「デメリット多いですね…」
「まだあるぞ。襲われる要因が村人側にある可能性もある。まぁ…見る限りこの線はほぼ無いが。もし疫病とかならこんな接触のある殺し方はしない。
「…んで、メリットは?ウルベルトさんっていつも自分が通したい案を後回しにしますよね。簡潔にお願いします。」
「流石モモンガさん。メリットは、まず俺らと騎士達の実力が測れる。騎士は戦う職だ。俺達が異形種である以上、人間のこいつらといつか接敵するのは必然になるだろう。今回のこれはちょうど良い物差しになる。
次に、騎士達に万が一でもナザリックの場所がバレない。鏡で見て最初に映ったんだ、この村はナザリックに近い。騎士達が村を乗っ取ったら、ここまで足が伸びてくるかもしれない。
次、後々このことがたっちさんにバレてみろ。リアルに帰る前に正気がバイバイフォーエバーしかねん。」
「あぁ…確かに…」
仲間が把握してた虐殺を自分は知らなかったとなれば、あの正義漢はきっと己を責める。ウルベルトはそう考え、モモンガも納得した。
「最後、単純に俺らが不快になった。俺は、罪もない弱っちい奴らが必死に抵抗してたら、報われても良いと思う。モモンガさんだって、バラエティーを期待したのにスプラッタが出てきて嫌な思いしただろ?」
「全くもってその通りですよ。」
「よし、決まりだな。たっちさんとペロさんには行くかどうか俺から聞く。〈伝言〉」
「………すぅ、はぁ。さて、気合入れていくか。パンドラズ・アクター、デミウルゴス、聞いていたな?ナザリックの警備レベルを引き上げろ。私とたっち、ウルベルトで行く。護衛はパンドラズ・アクターと影の奴らだけで良い。実力を測りに行くから無理そうなら逃げる。故に多人数は邪魔だからな。後から来るペロロンチーノには、この鏡で敵の実力を知らせた後に来るかどうか確認しろ。そこから先は任せた。」
「モモンガさん、ペロさんは行くけど外にいるからちょい遅れる、先に行けって。言われなくても置いてくが。たっちさんは_」
その時たっちが転移してきた。後ろにセバスが控えている。
「モモンガさん、近くの村人が虐殺されてるんだって!?」
「えぇ。」
「行くぞセバス!」
今にも飛び出しそうなたっちをウルベルトが止める。どちらも顔が真剣だった。
「待てたっちさん、セバスは置いてけ。あんたは俺らと行くんだ。セバス、とシャルティアは後続のペロさんの護衛で一緒に来させる。」
「…わかった。すまんセバス。」
「いえ、必ず後から参ります。御武運をお祈りしております、たっち・みー様。」
モモンガはパンドラズ・アクターに指示を出す。
「パンドラズ・アクター。誰でも良いから人間形態をとれ。逃げ隠れに特化しろ。」
「かしこまりました。」
ウルベルトは留守番がほぼ確定したデミウルゴスを見やった。
「デミウルゴス、この場にセバスを残す意味がわかるな?今回はこいつの管轄だ。」
「承知の上にございます、ウルベルト様。貴方様の叡智の一端に触れる機会を得て恐悦至極にございます。」
「は?ちょっと何言ってるかわかんねぇわ。後で話し合おう、じゃあな。」
「行ってらっしゃいませ。」
モモンガが〈転移門〉を開き、先行組はそこへ駆け込んで行った。後にはセバスとデミウルゴスが残り、ペロロンチーノを待つのであった。
あれこれタイトル誤字ってね?(要員と要因)
誤字修正報告ありがとうございます!