モモンガはウルベルトとたっちの後に〈転移門〉をくぐったことを若干後悔した。
移動した先では全て終わっていたのだ。
森の中、少女が妹らしき子供を抱き抱えている。その前にたっちがおり、更にその前方には騎士だったであろう物体が転がっていた。
モモンガはたっちに尋ねる。
「その騎士の死因って爆死ですか?」
「あ、モモンガさん。いえ、殴殺です。小手調べに殴ったら弾け飛んで…」
「種族特性切ってる私達相手にそれですか…弱すぎでは?」
少し離れた所からウルベルトがやって来た。
「俺もそう思うぜ。別の騎士に〈龍雷〉打ったら即死しやがった。」
「というか、人間形態で人殺しってもっと嫌なものかと思ったんですが。多少の不快感で済みましたね。」
「ふっ、騎士共だって同じ人間をあんだけ殺してたんだ。人が人を殺すのって案外不快でも無いんだろうよ。」
「貴方に同意を返すのは癪ですが、そうなんでしょうね。さて、モモンガさんもパンドラも来ましたし村に向かいましょう。」
モモンガは足元に転がった空き瓶を見つけ、拾う。
「ポーションの瓶?」
「あっ悪ぃ、それ俺がそこの娘に中身あげたやつ。ゲームだと瓶ごと無くなるから拾うの忘れてた。」
「はぁ、なるほど。これ要ります?」
「要らん…が、ここに捨ててゴミになるなら持って帰るさ。ポーションも消耗品だし、ウチで製造できたら良いんだがなぁ。」
「ですねぇ。って、たっちさんもう行きましたか。まだやりたいことあるんですけど…」
「何すんの?」
「アンデッド作ってみようかと。」
「良いねぇ。どうせ村はアイツがどうにかするさ、作ってみれば?」
「そうしましょうか。」
その頃、ナザリックにて。
「_ただいまぁ!モモンガさん達もう行った!?行ったよね!?!?」
「戻りんした!」
「お帰りなさいませペロロンチーノ様、シャルティア様。…ペロロンチーノ様、御髪に葉がついておりますので取ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ありがとセバス。で、村は?どうなってんの今?」
デミウルゴスが〈遠隔視の鏡〉をペロロンチーノに向ける。
「概ね解決しております、ペロロンチーノ様。こちらをご覧ください。騎士達のレベルは、推定で10だとか…」
「…はぇ?マジで言ってる?」
「ペロロンチーノ様、この世界の実力はどうにも著しく低いようで…恐らく、蘇生魔法の使い手がいない、或いは滅多にいないためレベルが上げ難いのでしょう。それでも低いですが。」
「あぁ、そっか。死んでも良いってぐらいの気持ちが無いと強敵に立ち向かったり無理なレベリングしたりできないもんね。蘇生できないんじゃしょうがない。」
「ペロロンチーノ様、ここに向かうのでありんすぇ?」
「うん。援軍は必要無さそうだけど、折角戻ってきたから行こうか。〈転移門〉お願いねシャルティア。セバスとデミウルゴスはどうする?」
「不肖セバス、同行させていただきたく。」
「申し訳ありませんペロロンチーノ様、私は留守を任されているので、こちらから見守らせていただきます。」
「おっけ。行くのは俺、シャルティア、セバス、あと俺の影にいる誰かさん達ね。いってきます!」
「いってらっしゃいませ。」
ペロロンチーノ達が消えていくと、デミウルゴスは〈遠隔視の鏡〉を手に取り。
戦力の心配と私欲を考えた結果、ウルベルトに映像を集中させた。
「困っている人がいるなら、助けるのは当たり前!」
「ま~たやってるよこの馬鹿が。良いかお前達、俺達は対価が欲しいから騎士共を殺したんだ。それなりに報酬を貰おうか。あぁ、頼んでないじゃあ済まされないぞ?もしそう言われたら、この怖ぁいデス・ナイトが暴れだしちゃうかもなぁ…」
たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、両名本日も絶好調である。
「飴と鞭かな?」
ペロロンチーノは鼻をほじる。
「ウルベルトさん、第一村人に素を見られたから今回は素で行くんですね。」
モモンガはどうでも良いことに意識を飛ばしていた。
「てかモモンガさん、デス・ナイトって盾役じゃなかったんで?」
「盾役だったんですけどねぇ。なんか思ったより動き出しちゃって。」
「ふーん。って、あれ?騎士の死体数少なくないですか?」
「あぁ、拷もげほっげほっ、尋問用に数名ナザリックに入れてます。それ用のNPCもいますし、情報は期待できますよ。あとわざと逃がしたのもあるので結構数は減ったかと。」
「そうですか。俺もう帰って良いか………ん?」
「どうしました?」
「敵……?か?いやわかんないですけど、なんか近づいて来てますよ。集団、二組。別方向から。」
「ふむ…まだ問題は終わっていないようですね。…………すみませんウルベルトさん、貴方が思ってたよりデメリットを重く見るべきでした。ペロさん、パンドラ。見に行きましょう。」
「りょ!」
「御心のままに。」
届きはしない謝罪をウルベルトに送り、モモンガとペロロンチーノは集団の様子を探りに行くのだった。
村長の家は奇妙なことになっていた。
「ベル」と名乗る男と「ミィ」と名乗る男は村の救世主四人のうち二人だが、この二人、大変仲が悪い。
更にこの二人の仲を取り持っていたというか放っておいた「モモ」と「チーノ」はどこかに散歩へ出てしまった。遠くの国から来たというから散策したいというのは無理もないが…
ベルとミィが喧嘩しているのを赤の他人である村長が宥め、ようやくどうにかマトモな話し合いになるという酷さだ。
ひとまず、と提示されたベルからの報酬は、少量の金銭と、常識のような情報、本、文字表。数頭の家畜、ちょっとした備品、…引き取り手の無い死体。
それらの報酬に関してミィは全く口を出さない。彼らの中に暗黙の了解が存在するのか、単に拗ねているのかは村長には判断がつかなかった。
安すぎる、そして怪しすぎる報酬を訝しんだが、グズグズしていると二人が殺し合いを始めてしまう。すぐに「そんなもので良いなら」と返事をする他無かった。
話も纏まりかけたころ、村人の一人から「騎士風の者達が近づいてきている」という情報が入った。
それを聞いたベルは帰りたそうなそぶりを見せたが、ミィが無理矢理引き留める。直後、モモとチーノがどこからともなくやってきた。短い協議と意味深なアイコンタクトの末、とりあえず四人と村長で騎士風の一団を迎えることになった。
相変わらず言い争うベルとミィ、他人事の様に笑っているモモとチーノに村長は純粋な疑問をぶつけた。
「皆様はどうして共に旅をしていらっしゃるのですか?」
四人は顔を見合わせ、ほぼ同時に口を開いた。
「運命ですかね」「腐れ縁だ」「ノリと勢い!」「家庭の事情です」
言っていることはバラバラだった。
騎士風の集団を待っているプレイヤー達の横で、犠牲になった村人達や村を襲った騎士達の葬儀が行われようとしている。
泥を被りながらも穴を掘る人間達を見てシャルティアは眉を顰め、すぐ傍にいたペロロンチーノはその表情に気がついた。
「シャルティア、人間は嫌い?」
「私にとって人間とは下等生物。脆弱な玩具。弄ぶその瞬間にしか価値の無い存在であり、__」
シャルティアはペロロンチーノを見上げて言い淀む。
「ん?どしたの?」
「_そして、至高の御方々が今の現身として選択していらっしゃる種族。御身の御意向に思うところはありんせんが_妬いてしまうのはお許しなんし、ペロロンチーノ様。」
憎々しげな態度から一転。おずおずと控えめに、シャルティアは人間という種族に嫉妬していると言った。
「…え、シャルティアそんなことで妬いてくれるの!?かわいっ…え、シャルティアが今日もかわいい…」
語彙力が無事死亡したペロロンチーノがシャルティアを抱き締める。
「えへへ、ペロロンチーノ様ぁ…」
抱き締められ、ペロロンチーノから顔が見られなくなったシャルティアがだらしなく笑う。
恍惚と、しかし計画が上手く運んだような狡猾な笑みをウルベルトは見た。そして納得する。なるほど、稀に見る蠱惑的な駆け引き上手というのはこんな風に賢くなっていくのか、と。
落ち着いたペロロンチーノがプレイヤー三人に〈伝言〉を飛ばす。
《さてさて、さっきモモンガさん達と調査に行った結果なんですがね。今から来るのは多分無害ですよ。けど、その次に来る奴らは確実に誰かしら殺る気です。そんな話してたので。》
モモンガが続ける。
《で、その有害そうな方の集団ですが、監視魔法がついてたんですよ。私が影で近づいたから自動的にカウンターが発動してしまったんですけど…きな臭いんですよね。生け捕りにして情報は引き出したいですが、ナザリックには入れたくないというか。》
《ふむ…たっちさん、セバスちょっと借りるぞ。》
《え?》
ウルベルトはセバスを手招きし、人化アイテムをいくつか渡した。
「セバス、一度ナザリックに戻り、手が空いているトーチャーや拷問官、あと回復魔法使える奴を人化させて連れてこい。道具、いや器具?も持たせてな。」
たっちが嫌そうに顔をしかめる。
「ベルさん?セバスにそんなことの小間使いさせないでくださいよ。」
「あ?じゃあパンドラかシャルティアでも良いが。というか拷問が汚れ仕事だとでも思ってるのか偽善者。」
「考え方の違いです。私もセバスもそういったことを好む性質ではありません。が、貴方はソウイウコトが好きでしょう?お使いなら貴方が行けば良いではありませんか。」
モモンガは彼らをよそに〈転移門〉を開き、セバスをナザリックに戻した。セバスは後ろ髪引かれる思いで戻っていった。
「ベルさん、ミィさん、時間切れです。来ましたよ。」
騎士風というにはやや粗末な装備に身を包んだ男達が、馬に乗ってやってきた。
騎士風の集団を率いるリーダー、王国戦士長。ガゼフ・ストロノーフという男は実直で情に篤く、民や部下に慕われている男だった。得体の知れない相手でも、恩を受ければ頭を下げるような器の大きさもある。
そんな彼と話して、プレイヤー達の印象はそれぞれだった。
「気に入らねぇ。」
ウルベルトが吐き捨てる。そこにはガゼフの恵まれた待遇や体つきへの嫉妬も多分に混ざっていた。ガゼフは平民の出身ではあるが、ウルベルトには与り知らぬことだ。
たっちは「私は好ましく思いますが。」と短く返したが、意外にもそれ以上の擁護はしない。彼もガゼフには羨ましいと感じるところがあったからだ。
自分もこの豊かな自然のある世界で健康に生活し、秩序を守る者になれたらと。
そういった羨望を持たないペロロンチーノとモモンガの方が色眼鏡無く彼に好感を抱いた。
「普通に良い人ですよね。」
「ですね。強さがちょっとアレですが…まぁこの世界ではこれがデフォなのでしょう。」
ウルベルトが宙を睨む。
「弱くて正義感のある奴なんぞただの死にたがりだ。ま、強くてもめんどくさいだけだがな。」
因みにこの場にはガゼフもその部下達もいない。ガゼフは村の外で、後からやってきた害意ある者達と交戦していた。部下達も村の入り口付近で警戒している。
四人が村でこうして雑談しているのは村の守護のため、そしてガゼフが死にかけたら助けに行くためだ。
有害な一団と今回村を襲った騎士は同じ国、スレイン法国という国から来たらしい。狙いはガゼフの抹殺。プレイヤー達から見れば雑魚でしかないガゼフは、それでも近隣諸国から危険視される実力者であった。
標的が己だと分かったガゼフの行動は速かった。
まず四人とシモベ達に共闘者として雇われてくれないか提案。リスクが高いと断られるや否や、依頼内容を村の守護へと変換させ頼み込んできた。最初からこれが狙いだとわかるほどの熱意の差。プレイヤー達は折れた。
〈遠隔視の鏡〉で戦況を眺めながらたっちが聞く。
「ところで、なんでガゼフさんが死にかけるまで待つんですか?」
モモンガは画面から目を話さずに答えた。
「恩を売るためですかね。ただ助けるより、『自分が勝てなかった相手を倒す強者』からの助けの方がありがたいでしょう?けど、ガゼフさんが相手方の戦力を削るようならすぐにでも飛び出しますよ。ガゼフさんが消耗させた敵を掠めとるような真似では恩が売れませんからね。あと、スレインとやらの戦力も気になりますね。強いと言われるガゼフさんを殺せると考えたから殺しに来たんでしょうし。」
ペロロンチーノも同意する。
「かわいそうだけどねー、まぁ死なせないし回復もさせるからプラマイゼロってことで。ウルベルトさんは別の考えもありそうだけど。」
「俺、あーいう『強いと自負してる奴』がボロクソにされるとこ見るの大好き。」
たっちは反射的に噛みついた。
「明日は我が身ですよ。」
「どうしたいきなり自己紹介なんかして。」
「「………」」
ペロロンチーノが不穏な気配を察知して止める。
「あの、無言で武器構えないで二人とも。」
その時セバスから〈伝言〉で準備ができたと連絡がきた。
モモンガが〈転移門〉を開くと、セバスの後に見知らぬ人々、に扮した拷問官その他諸々が現れる。
「ただいま戻りました。」
ウルベルトが武器をしぶしぶ下げ、答えた。
「…おかえり。良いタイミングだセバス。ガゼフもボロボロになってきたしそろそろ行くか、モモさん?」
「そうしましょうか。にしても、なんですかねあの天使の数。しかも弱いのばっか。」
「100くらいいません?ここまで多いとコバエの群れみたい!」
「なぁ、どうせだし勝負しないか?単体攻撃で天使倒した数を競うゲーム。」
ウルベルトの、ゲームという言葉にペロロンチーノは目を輝かせる。
「お、良いですね!そんぐらいしなきゃモチベ上がりませんし。単体攻撃だけですね!」
モモンガがふむ、と顎に手を添える。
「範囲、全体攻撃は反則ですね。まぁこの面子なら単体攻撃のやりようはあるでしょう。カウントは誰がします?」
パンドラズ・アクターが挙手した。
「我々シモベにお任せください、モモンガ様!」
「ふむ?では頼んだ。」
たっちが鏡をつつく。
「あの、皆さん。ガゼフさんが死にそうです。」
一行は慌てて転移した。
プレイヤー達の検証と遊びが多すぎてNPC達の活躍がががが