ナザリック、円卓の間にて。モモンガが資料をガサガサ鳴らしながら言う。
「本格的に、外の探索を始めましょうか。」
机に地図が広げられる。きちんとした地形が書かれているわけではないが、国や森、山などを大雑把に把握できるようにはなっていた。
ウルベルトが指で国を示す。
「国に行くなら王国、帝国、法国の三択か?帝国は魔法が栄え、法国は裏がありそうだ。王国は純粋に近いから手軽だな。どこ行く?」
たっちは法国を、ペロロンチーノは王国を指した。
「私は法国ですかね。先日訪ねた村__カルネ村を襲撃した連中の出身国でしたよね?彼らを尋問した情報だと、法国は昔プレイヤーがいたそうですし、何かリアルへのヒントがあるかもしれません。」
「んー、法国と王国の二択かなぁ。ガゼフさんとのコネが新鮮なうちに使っときたい気持ちもあるんですよねー。モモンガさんどう思います?」
「では二手に別れましょうか?たっちさんが前衛、ウルベルトさんペロさん後衛で、私は〈戦士化〉の魔法で前衛いけますから二人ずつに分けられますよ。」
ウルベルトは亜空間からチェスを取り出し、白のナイトをたっち、黒のナイトをモモンガ、白のビショップをペロロンチーノ、黒のビショップをウルベルト自身の前に置いた。
そして
「たっちさんが法国ならモモンガさんは強制的に王国だな。あとはペロさんと俺がどっちに行くかだ。」
ペロロンチーノは白のビショップを手に取った。それを法国に置く。
「あー、王国を候補にいれた癖に悪いんですけど、俺は法国に行った方が良いっぽいですね。法国って冒険者ギルドとか無いから、正攻法での情報収集って無理じゃないです?だから潜入調査になると思うんですよね。索敵できる俺はこっちのが向いてる気がします。」
「そうだな。じゃあ俺は王国か。モモンガさん、王国で何する?」
「ガゼフさんが言ってたあの、武技とかタレントとかが気になりますね。ユグドラシルに無かった要素は確認しておきたいです。」
「なるほど。まぁ王国って腐った国みたいだし、書籍とかで集められる情報も改竄されてるだろうから…情報収集は直接体験しながらになるな。」
モモンガはとりあえず何事もなく決まってホッとした。
もしこれでたっちとウルベルトが組むことになったら一悶着どころでは済まない騒ぎになっていたところだ。この二人を組ませて野に解き放つのは不安があった。
「では決定で。アルベド達にも意見もらってきますね。」
「よろしくお願いします。」
「いてら。」
「よろ~。」
意気揚々と円卓の間から出ていったモモンガは___しばらくしてしおしおと項垂れながら戻ってきた。
「『御方々だけじゃ駄目です』ってぇ…」
「だろうな。」
事も無げに相槌を打つウルベルトにモモンガは非難の目を向ける。
「ウルベルトさん予想ついてたんですか?だったら教えてくれても良かったのに。」
「いやまぁ悪かったよ。でも思ったより色好い返事じゃないか。俺達『だけ』の外出が駄目、つまりNPCを同伴させれば良いんだろ?俺、てっきり外出そのものが許可されないもんかと。」
「最初は外出そのものが駄目でしたよ。ゴネたらこうなったんです。妥協点として。」
「うん、モモンガさんに交渉任せて良かったわ。俺だったら言い負けてた。多分たっちさんでもペロさんでも無理だしな。」
「そうですね。ありがとうございます、モモンガさん。」
「モモンガさんありがとー!」
「あー…もう。次こういうことがあったら一緒に来てもらいますからね!」
丸め込まれたモモンガはため息を一つ。
「それで、誰をお供に連れて行きましょうか。」
至高の会議は踊り、それでも進む。
翌日、玉座の間。
モモンガ達は各階層守護者とプレアデスを呼び出した。
モモンガは玉座の前に立ち、ゆっくりと話し始める。
因みに他のプレイヤーが頑なに玉座に座ろうとせず玉座の付近に立つので、モモンガも一人座ることに気後れがして立っている。おかげで玉座は空席になり、代わりのようにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが立て掛けられていた。もはや玉座というより台座の役割が大きい。
やや締まらないが、支配者がロール開始される。
「既に知らせてある者もいるが…私達は王国と法国の調査に行くことにした。といっても基本的には毎夜帰ってくるのだが。ひとまず私達の人数振り分けと連れて行くNPC達の確認をするぞ。…ウルベルト。」
「はい。私とモモンガは王国で冒険者となり、民衆から直接情報を仕入れます。伴うのは戦闘力とカルマ値、仕事量の分散率を鑑みて、ユリ・アルファが適任と判断しました。ユリ、任せて良いでしょうか?」
「この命に代えましても。」
ユリがお辞儀をする。
実は最初、王国へ行くメイドはナーベラル・ガンマの予定だった。が、彼女が別件でかなり忙しくしていることと仕事がナーベラルに偏ってしまうことからユリが選出された。首が物理的に飛ぶ不安要素はあるが、チョーカーをより頑丈にして対応するということで話はついている。人化アイテムを着けるならすぐに解決するのだが、護衛役の能力が制限されては本末転倒ということで、今回は人化アイテム無しで人型のNPCが抜擢された。
モモンガは次にたっちとペロロンチーノを促した。たっちが先に口を開く。
「私とペロロンチーノは法国で潜入調査をします。一緒に来てもらうのはシャルティア・ブラッドフォールンとシズ・デルタになります。」
「まぁシャルティアは〈転移門〉が使える存在だから、俺達が独占するわけにもいかないけどね。シャルティア、シズ。お願いできるかな?」
法国組がシャルティアを供にすることも〈転移門〉が理由である。王国組はモモンガの力で帰れるが法国組はそうもいかない。とはいえシャルティアには階層守護者としての役割と他の物資などの移送役があるため、法国組に貼り付くことはできない。
故にシャルティアは送迎と護衛役を、シズはシャルティアがいない間の護衛と、集めた情報の記録役を担う。ガンナーであるシズの武器を外に出すリスクはあるが、潜入調査の法国組はそもそも誰にも見つからないことを前提に組まれているので考慮しないことになった。
「お任せしておくんなんし。」
「…御心のままに。」
モモンガは深く頷く。
「プレアデスには負担をかけてしまうな。…例えば、ソリュシャン・イプシロン。この人選によってナザリックのメイド達は手が足らなくなってしまうのではないか?」
ソリュシャンがかぶりを振る。
「恒久的にであれば問題が生じるでしょうが、一時的ならば心配は不要にございます。私達と一般メイド達で充分に補える範囲です。夜にお帰りいただけるのでしたら尚更。」
「ふむ、そうか。では、この件で異論がある者はいるか?…………いないな。ならばこの場は解散とするが、アルベド、パンドラズ・アクター、装備について意見を頼るので執務室へ。」
「「はっ」」
そのときモモンガ達の脳内にペロロンチーノの声が響く。
《ねぇねぇアレやりません?バッて変わるやつ!》
モモンガは一瞬何の事か呑み込めなかった。
《アレ?…あぁ、公で使うことになるかもしれない奴ですもんね。私も練習がてらやってみたいです。たっちさんとウルベルトさんはどうです?》
《はい、やりましょうか。》
《タイミングはモモンガさんに任せるぞ。》
モモンガは玉座からスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取る。シモベ達に向き直り、
《それじゃ、せーのっ》
彼らは同時に人化を解いた。四人の人間が四体の異形の姿になる。
そして、号令をすること自体に意識を取られ若干タイミングの遅れたモモンガは、慌てるあまり間違えて〈絶望のオーラⅤ〉を放った。
すさまじい威圧が場を駆け巡る。
押し潰されそうなオーラにシモベ達は極度の緊張状態に陥った。身体の震えを必死に抑え込み、それでも至高の存在から賜る力に酔いしれる。
モモンガの周りにいたプレイヤー三人は威圧こそ感じなかったものの、突然何かしらを放ち始めたモモンガを訝しげに見た。が、モモンガがリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移していったのを見て各々も転移した。
プレイヤーが居なくなった玉座の間では、集まったシモベ達が短い歓談を交わしていた。
例外としてコキュートスは数名の戦闘メイドと共にその場を去った。モモンガとウルベルトによる「遊び」が大詰めに差し掛かっていたからだ。
マーレが頬に手を添えてため息をつく。
「す、すごいオーラでしたね、モモンガ様…」
アウラは弟の言葉に勢いよく同意した。
「ほんとほんと!さすがモモンガ様!他の御方々のオーラも…受けたかったけど、受けていたらきっとあたし達死んでたなぁ。けどあんなにすごいお力を感じたのは久しぶり!あと、異形のお姿を拝見したのも!」
デミウルゴスも嬉そうにしている。
「しばらくは、昼間のナザリックに御方々がいらっしゃらなくなるからね。私達を鼓舞するために一瞬だけお姿を見せてくださったのかもしれない。それにしても、シャルティアは同伴できるなんて羨ましいよ。」
「そうでありんしょう!まぁずっとではありんせんが。でもペロロンチーノ様の正妻である私の責務を全うするでありんす!」
ペロロンチーノの妻。ユグドラシル時代、そして転移直後からペロロンチーノがシャルティアを己の嫁と称してきたが故の言葉であり、それを誰も否定しない。
それよりも、至高の御方の妻という言葉からシモベ達はあるNPCを思い浮かべる。
彼女は今のところ至高の御方々にご執心だが、誰にアタックを仕掛けているのかシモベ達は知らない。というのも、アルベドが近くにいる時、プレイヤー達は大概忙しくバタバタしているのでアルベドと関わる時間があまり無かったのだ。
マーレがおどおどと疑問を口にする。
「ア、アルベドさんはどなたに愛を伝えるのかなぁ?」
「気になるよねー。」
シャルティアはツンと「ペロロンチーノ様でなければ、」と言ってから口をつぐんだ。ペロロンチーノでなければ誰でも良いと言うのは他の御方々に不敬だと考えたからだ。が、周りのシモベ達は咎めなかった。
当然、飲み込まれた言葉を察した面々もいたが、ペロロンチーノの正妻としては正しい思考であるとしたからだ。それに、女の嫉妬は恐ろしいので出来るだけ関わりたくないという心情もある。
デミウルゴスは少しシャルティアから距離をとって言う。
「まぁアルベドのことだからそれなりにしっかりとやるだろう。だからこそ『お守り』も託してきたのだからね。」
アルベドがこの場に居ないのはパンドラズ・アクターと共に調査組の装備品候補を挙げているからだ。プレイヤー達と供のNPCは二人が決定した装備を身につけることになる。
その中に紛れ込ませてきた、NPCの総意を具現化したようなアイテムがある。
シャルティアが記憶を辿る。
「確か、じぃぴぃえす機能?というのを搭載したペンダントでありんしょう?私達が『お守り』として贈るのは。」
今頃はアルベドから『シモベ全員からのお守り』としてプレイヤー達の手に渡っているはずだとデミウルゴスは考えていた。そのプレゼントは拒絶されないであろうとも。
「正確にはその模倣品、と言った方が正しいが。図書館の本にペンダントの作り方が載っていたから、急遽パンドラズ・アクターと作ったんだ。アレさえ身につけていただければ、御方々がどこにいらっしゃろうと私達は把握できる。」
そもそも、御方々二人ずつに対して供が一人二人というのはあり得ないというのがシモベ達の共通見解であった。世話役としても肉壁としても足りていないと。例え影の護衛達がいるとしても、あまりに少数だと。
故にシモベ達は御方々の位置を常に知っておくことにした。万が一にでも彼らに危険が迫ったとき、即座に出向いて守るために。
かくして、プレイヤーは愛情と執念で出来た首輪を着けたまま外へと繰り出して行くことが決定したのだった。
やっべ書き溜め尽きた
ちょっと一週間くらい書き溜めの旅に出ようかなというか出ざるを得ない
まぁ書籍版3巻くらいで完結する予定ではあるけども