ある深夜、ナザリックにて。
「で、エ・ランテルでは何が起こりそうなんです?」
モモンガとウルベルトはたっちとペロロンチーノを含めて四人で情報共有をしていた。
ペロロンチーノの問いにモモンガが答える。
「街を大量のアンデッドで襲撃し、最終的に街全体をアンデッドで埋め尽くす計画だそうですよ。実行は四日後。」
「それは…街が滅ぶのでは?」
眉を顰めるたっち。ウルベルトも珍しく似た反応を返した。
「まー街は別にどうでも良いんだが…後々になってもし此処の存在が知れたら、このアンデッド騒ぎがモモンガさんのせいにされるかもしれないんだよな。」
水を向けられたモモンガは頬を掻く。
「あ~…まぁ実際可能ですし。」
「っつーわけで、コトが起こる前に元凶叩いて始めから何もなかったことにする。余計な火種は撒きたくないし。」
「その元凶の組織、ズーラーノーンって言うんですけど、決行日に皆墓地へ集まるらしいんです。だから殲滅しやすいかなと。」
ペロロンチーノがふむ、と一つ頷く。
「俺らも法国潜入を一旦中止して王国行くべき?」
ウルベルトは一瞬逡巡したが、頭を振った。
「いや、調べた限りじゃそこまで大した奴らでもないようだし、助っ人も要らん。それより、法国はどんな感じなんだ?」
「うーん、スルシャーナってオーバーロードがいたことはわかったんですけど…あ、この世界って定期的にプレイヤーが飛ばされてくるみたいですよ!ね、たっちさん。」
「ええ、確か『百年の揺り起こし』とかそんな名前でしたね。プレイヤーはこの世界の面々に比べれば軒並み強く、人助けをするものも居れば悪事を働くものも居る……メタ視点ですが、中身人間だなぁって感じの動きをしていたようです。モモンガさん達がイビルアイって吸血鬼から聞いた情報とそんな変わりませんね。」
もしかして、とモモンガが尋ねる。
「現時点で存在しているプレイヤーが居たりします?」
「いえ、私達の他は皆、寿命や仲間割れによる闘争、現地住民からの攻撃などで死亡しているようです。」
「そうですか…生存者は0…」
「まぁ、プレイヤーが皆、寿命のない種族とは限りませんからね。100年も経てば死ぬのも道理でしょう。」
だらだらと机に伏せっていたペロロンチーノがふと顔を上げる。
「たっちさん、俺ちょっと図書室行きたいんですけど時間貰えます?」
「え?構いませんが…何か調べものが?」
「うん、確かめたいことがあってさ。」
「手伝いましょうか?」
「だいじょぶー。図書室のNPCと協力するから、たっちさんは休んでていいっすよ。言うて1時間くらいしか時間かかんないかもだけど。」
「では、お言葉に甘えて。」
席を立つペロロンチーノだったが、部屋の扉に一歩踏み出した途端にウルベルトが「あーそうだ!」と大声を出した。
「ペロさんまだ待て、ちょっと全員に聞きたいことあるんだった!」
「え、なんです?」
「ナザリックのコストカットがてら実験してみたいんだが、ここに現地の冒険者投入して良いか?」
「「「は???」」」
ウルベルト曰く、ナザリックの運営には大量の金、資源がかかる。それは単に食費やフィールドの維持費、周辺調査資金だけではなく、「ただそこに在る」だけで金がかかるトラップ類もあるのだ。
現在のナザリックに膨大な金貨が蓄えられているとはいえ、いつかは尽きる。ならば節約の一貫として、金食い虫と化したトラップは取り払うべきだ。
ではどのトラップを除くか。なくした途端に外部から侵入されるような重要なトラップは残しておくべきであるし、そうでなければ取ってしまって構わない。
だがその判断は現状できないと言って良い。プレイヤー達は同じプレイヤーがどのトラップにかかるかは知っていても、生身の人間がどのトラップにかかるかはゲームを基にした予測しかできないからだ。現在はアルベドが計算しつつ少しずつ撤去していっているが、確実なデータを得るには生身の人間で試すしかない。
ならば弱いとわかっているような人間でまず試して、ナザリックの脅威たりえる外敵の対策をしつつもコストカットを狙う。これが今できる精一杯だろう。
「っつーわけで拉致できそうな冒険者グループはこっちでいくつか見繕ってるんだが、どうだ?」
合理的とも言えるウルベルトの提案に、しかし心配な点を見つけたたっちが尋ねる。
「もし冒険者達が思ったより強くて、POPでないNPCが倒されたらどうするんです?若しくは逆に、冒険者達が弱すぎて死んでしまったらナザリックが怪しまれません?」
「POPじゃねぇNPCは持ち場から離れさせる。あくまでもトラップの試運転だしな。それと、冒険者達が死にそうになっても助けるさ。方法はいくらでもあんだろ?あとナザリックは怪しまれねぇよ。拉致なんだから場所バレはしねぇはずだ。」
「そもそもコストカットついでの実験って何ですか?貴方のことだからロクなことではないんでしょうが。」
「ロクなことだわ!…俺思ったんだよ。いくら蘇生魔法が希少にしても、ここの住人は弱すぎるって。なんかさ、違和感あるっつーか。」
「あ、それわかる~。」
「確かに…」
ペロロンチーノとモモンガが同意する。
「だから調べねぇと。たっちさん、言っとくがこれはアンタにも他人事じゃねぇからな。」
「と、言いますと?」
「もし、この世界の連中が弱い理由が、この世界特有の寄生虫にレベルを吸われてるからだとしたら?さらにもし俺らがその寄生虫に寄生されたら、あんたリアルまでその寄生虫連れてく可能性だってあんだぞ。」
「なっ…」
寄生虫。
予想もしていなかった言葉に息を飲む。
ウルベルトは更に畳み掛けた。
「寄生虫の話は極端にしても、『ありえない』はありえないからな。俺達に医学知識はあんまないが、病気関連についてはどんだけ慎重になっても足りねぇだろ。一応、NPCに死体の解剖を頼んじゃあいるが…どうせなら、観察眼に優れたあいつらにゃ『ナマモノ』の状態で見せたい。」
ふと気がついたペロロンチーノとモモンガが口を挟んだ。
「…あ、『この世界の人間』が俺たちの知る『リアルの人間』と同じ作りをしてるとは限らないのか。」
「まぁ『リアルの人間』は魔法なんて使いませんし…原子レベルから違うかも?」
「そういうこった。俺達は知らなきゃなんねぇ。そうじゃないと安心して帰れやしねぇ。徹底的に調べさせるぞ。いいな?」
「…まぁ、わかりました。しかし、非人道的なことは謹んでくださいよ。」
「その辺はまぁ…NPCに言ってくれ。」
確実に非人道的なことになると思いながらもウルベルトは言葉を濁した。
数日後。
エ・ランテルから「漆黒の剣」「クラルグラ」の2チームが数日行方不明になった後、戻ってきたら凄まじく強くなっていたと話題になった。
彼らは後に高難易度の依頼を次々とこなして、「生ける伝説」アダマンタイト級冒険者となる。しかし彼らがそのような英雄となってから驕り昂ることはなかった。特にクラルグラのイグヴァルジなどは別人を疑うほど謙虚になったという。
彼らを散々実験動物として使ったプレイヤー達はリアルの人間と同じ構造だったこの世界の人間に謎を抱くばかりだったが、寄生虫や病気などが無いと解ってとりあえず安心した。
その影でとある墓地が爆発したり、薬師の孫が田舎の村に引っ越すことがあったりしたが些細なことである。
ナザリックの図書室は広い。途轍もない量のデータが納められ、プレイヤーはいつでも閲覧できるようになっている。
モモンガとウルベルトが王国周辺で遊んでいる間、ペロロンチーノとたっちは図書室で調べものをしていた。
ペロロンチーノの要望によってだ。たっちは調べたいものはなかったが、法国で得た情報の整理がてら図書室に留まっていた。
「ねぇたっちさん。」
「はい、何ですか?」
本の形をしたデータを弄りながらペロロンチーノが問う。
「_神様って信じますか?」
「宗教勧誘ですか?」
「いや違…っうーん強ち間違いでもないのかなぁ…いや、違います。多分。」
「煮え切らないですね。どうしたんです?」
「ちょっとこれ読んでもらえます?」
たっちは手渡された本を受け取り、開く。
「…これは___!」
一方その頃モモンガとウルベルトはというと。
「オ゛ァァアぁぁ゛レイドボス!!!レイドボスナンデ!!!??〈大災厄〉!!!」
「なんでですかねぇ!!!しかも状態異常〈洗脳〉!!!??ユリ、応援呼びに行け!!我々だけだと時間かかる!!〈伝言〉!もしもしたっちさん!!!??ペロさん!!!!」
「はっ!」
散歩しに行っていた森で魔樹「ザイトルクワエ」に遭遇し、突然のレイドボス戦を強いられていた。
人の目がないとはいえ外のため、人型のシモベ以外は出せない。守りの要であるアルベドも留守番になり、駆けつけることができたのはプレイヤー2人とアウラ、マーレ、デミウルゴス、パンドラズ・アクターだけだった。
レベルカンストのキャラクターがここまで揃えば一方的だったが、レイドボス並みの体力を持つザイトルクワエの討伐は骨が折れた。
魔樹を消し炭にした後全員に礼を言って解散し、再びモモンガ、ウルベルト、ユリのみがその場に残る。
「つ、疲れた…てかモモンガさん、さっきあのザイトルクワエ洗脳されてるって言ってた?」
「ですね。アレ本来の意思で動いてはなかったっぽいですよ。」
「レイドボス洗脳ってできたっけ?」
「…できますよ。そう、〈世界級〉アイテムならね。」
「…つまり〈世界級〉アイテム保持者がこの世界に居ると…?」
「やべーーーですね。どうしましょ。」
2人のプレイヤーが頭を抱える。
「まだこの辺にいる可能性はあるか?」
「一応、探してちょっかいかけてみましょうか。ユリもそれでかまわないか?」
「御心のままに。しかしモモンガ様、ウルベルト様。我々シモベ共がその様な雑用はいたしますが…」
「いや、〈世界級〉を持っているレベルだと遭遇した時にNPCが負けかねん。プレイヤーは今のところ我々以外いないとされているが、最近来たプレイヤーの可能性もあるしな。〈世界級〉に対抗できるのは同じ〈世界級〉だけだ。」
「っ申し訳ありません、過ぎたことを申しました。ですが、捜索だけなら影の悪魔を動員しては如何でしょうか。」
「あー、そうだな…奴らは隠密特化だから、本当に慎重に索敵だけするならプレイヤーにもあまり見つからないか。ではそうしよう。」
モモンガとウルベルトの指示のもと、悪魔達が暗い森に解き放たれる。
ほどなくして、法国に向かう人間の集団を見つけたと報告が上がった。影の悪魔は情報収集に徹し、その集団の会話の内容から彼らの正体を割り出す。
「漆黒聖典?聖典っていうと…」
「法国か。〈世界級〉アイテムもかつてのプレイヤーの物かもな。あの国は本当…」
「やだ…法国のラスボス臭、強すぎ…?」
「もう滅ぼした方が早い気がしてきた。」
「ギルド相手ならそれで良いんですけどね。どうします?〈世界級〉アイテム。私としては奪れるうちに奪っときたいんですが。」
「そーだな。奪れなくても向こうのアイテムを知るに越したことはねーし。効果は〈洗脳〉だったか。対策していかねーとな。」
「ですね。さて、じゃあ必要なアイテムは_」
順当に装備を固めて悪魔から報告された場所に向かう。
そこには武装した集団と、チャイナ服を着た老婆がいた。
「!?」
「うっっっわキッツ…」
開いた口が塞がらない骸骨と直球な感想を述べる山羊。彼らはこの場の誰よりも、世間一般的な美の感性を持っていた。
「とりあえず…殺るか。」
「えぇ…チャイナコスしてるとはいえ、あんなおばあちゃん殺すんですか…?」
「俺らが死ぬより良いだろ。見かけより強いかも知れんし。」
「…そうですね。背に腹は代えられません。」
こうして、微塵も油断しなかったプレイヤー2人によって漆黒聖典は人知れず全滅した。
モモンガは〈世界級〉アイテム『傾城傾国』を手に入れてホクホクしていたが、宝物庫へしまう前にウルベルトに強奪され、容赦なくナザリックの洗濯係に提出された。
諸々が片付き、プレイヤー達が情報共有のため集まったある夕方。
「…で、法国にはまだ〈世界級〉アイテムが残ってるかもしれないので気をつけてくださいね!」
モモンガが法国調査組のたっちとペロロンチーノに言う。だが、ペロロンチーノはゆるりと首を振った。
「あ、俺らしばらく法国行かないことにしたから大丈夫だよ。」
「え、そうなんです?」
「そういや最近図書室にいたな。なんかわかったのか?」
「それなんですけどねー…」
ペロロンチーノとたっちが一瞬顔を見合せ、頷く。意を決したように口を開いたのはたっちだった。
「皆さん。神を召還しませんか。」