ブタイウラ   作:ちぇるの

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江ノ島盾子さんが書いてて楽しかったのでつい。


マイゾノサヤカ

 ――静寂が空間を支配していた。

 室内で対峙している二つの人影。

 

 片方は少女。

 アイドルの様に可憐な、実際にアイドルをしている少女。名を前園さやかと言う。

 彼女の視線は足元に取り落とした包丁に向けられていて、愕然とした表情をしている。

 

 もう一方は少年。超高校級の球児、桑田怜恩。

 彼は混乱気味の顔をしながら手に持った悪趣味な金色の模造刀と眼前の少女を見比べていた。

 

 二人が戸惑い静止している部屋に、唐突に床下から何かがせり上がってくる。

 

「はいアウトー!」

 

 白と黒で半分ずつのクマのぬいぐるみ――モノクマである。

 

「えー!?」

「マジで!?」

 

 緊張感のない声が部屋に響いた。

 そんな二人の様子にモノクマは両手を上げて威嚇する。

 

「えーじゃないよ! びっくりだよ! まさかの大びっくりだよ!

 最初からこんなに判定難しいのにするなんて先生聞いてませんよ!」

 

 怒るモノクマに、おそるおそる舞園が声をかけた。

 

「えっと……この場合どっちがどっちを殺したことになるの?」

「凶器判定のある模造刀で殴ったので舞園さんは怪我を負いました。その後シャワールームに立て籠ります。

 桑田くんは、あかない扉に業を煮やして自分の部屋まで一度帰り、工具セットを持ちだして扉を無理やりこじ開けたのです。殺害方法は舞園さんが持ってきた包丁を使用したのです」

「わ、私もっと頑張れるから! ほら、とっさに反撃したり」

 

 ぶんぶんと愛らしく手を振るさやかであったが桑田が若干疲れたため息を吐いた。

 

「やー、さやかちゃんじゃ無理っしょ……流石に正面からなら勝てるぜ」

「もう! フォローはないんですか」

「というか真っ先に殺される対象に選ばれたことがショックなんだけどよ……たはは」

 

 

 ――コロシアイ学園生活。

 希望ヶ峰学園の生徒同士を閉じ込めてコロシアイさせた場合、誰が最後まで

 生き残るかを調べるゲームである。

 勝ち残るとボーナスの単位やら賞金やらがもらえるので、みんなそこそこ本気である。

 

 ルールは、所定の道具以外は使用しない。

 動機が提示されるまではコロシを開始しない。

 モノクマ(=江ノ島盾子)が審判。

 

 ……うん、この中の人が超高校級のギャルの人なのだ。

 じとーっと舞園はモノクマを見つめる。

 

「……というか江ノ島さんノリノリだね?」

「そういうメタな会話は舞台裏でお願いします。

 では舞園さんはこれよりこちらのマネキンとなります」

 

 おもむろにモノクマが二、三体増えて長い黒髪のウィッグをつけてある目を閉じたマネキンを持ってきた。

 

「うお……微妙に似てる」

 

 舞園さやかに見えなくもない。

 ささっと適当にピンク色の絵の具とおちていた包丁のダミーを使って殺害現場を再現する。

 

「では舞園さんはこれ以降はモニタールームで過ごしてもらいます」

「うー……苗木クンとのデート権が……」

「何ぞ、それ」

 

 かなり関係ない理由で殺される相手に選ばれた桑田ががっくりと落ち込む。

 

「ちぇー」

「ちぇー」

「はいはい。舞園君はとっとと控室ににいってください。

 桑田君は一度自室から工具セットを持ってきてくださいね。整合性の都合で。

 その後、20分後に証拠を隠滅してください! それではスタート」

「うおおおお。すげえめんどくせえええええ」

 

 ぶつぶつと文句を言いながら桑田が自室から工具を持ってくる姿を背に、

 舞園さやかは一足先にその場所へと足を踏み入れたのであった。

 

 

 

『ダンガンロンパ脱落者ルーム』

 

 

 

 柔らかいクッションの上で舞園さやかがぐったりしている。

 男子女子共にくる可能性があるとはいえ、一応業務は終わっているので私服である。

 

「解せない」

「あっはっはっは。速攻で動いたのに笑っちゃった。やるね舞園さやか」

「絶望的です」

 

 普段の江ノ島盾子の口調を真似する前園に、江ノ島は更に笑った。

 

「あはは、やってみる? 絶望?」

「真正ドМの江ノ島さんと同じになるのは要求が高すぎですー」

「失敬な」

 

 モニタリングを続けながら江ノ島は腕を組んで、不満げな表情をした。

 液晶画面の発するノイズとなにかを操作する音だけが控室に響く。

 低く響くサーバの音と沈黙に耐えられなかったのか舞園は江ノ島に声をかけた。

 

「そう言えば、江の島さんに聞いてみたいことがあったんですけど」

「なんぞよ?」

「松田さんでしたっけ? 付き合ってる人いるんですよね?」

 

 唐突に振られた話題に江ノ島は苦り切った顔をする。

 

「付き合ってねー。……いや、松田くん追いかけてるとドキドキするのは確かなんだけど、

 それこそドМがどーたらの問題だろうから。現状、恋ではないと思われ」

「そうなんですか?」

 

 松田夜助とやらの話をする時の江ノ島は楽しそうだったし、割とまっとうな恋愛なのじゃなかろうか。

 その辺を前園が尋ねると江ノ島は素直に答えた。 

 

「私様的には凄い好みなんだけど、松田くん的には『江ノ島盾子』が好みじゃないっぽいんだよね。

 絶望的に趣味が会わないんだよ。私達」

 

 そういうこともあるのか、と舞園はあまり深く突っ込まずに納得することにした。

 

「大切な人ではあるけどね……」

「家族とかに近いと言う事ですか?」

 

 舞園の言葉に江ノ島はふむ、と考えてみる。

 お姉ちゃんと松田くんを比べるが、大切度は近い気がする。

 

「まあ、そうかも」

「ドМの江ノ島さんなら高いハードルの方が燃えません?」

「や、そういう変なハードル設定を設けてはいけません、と延々説教されたからね。

 まこちんに」

 

 しれっと江ノ島は言っているが、その頬が若干ゆるんだことに舞園は気づく。

 

「……あー、それが惚れた理由って奴ですか」

「ちげーし」

 

 あんまり説得力のない否定の言葉を江ノ島は返す。

 当然舞園は信じずにスルーした。

 

「そういうアンタはどこで苗木に惚れるのよ。あいつ普通じゃん」

 

 内心を見透かされたことを悔しがるように江ノ島は舞園に切り替えした。

 

「普通の人はドМの人を真剣に心配なんかしませんからね。そういうところですよ」

「ぐぬ」

 

 悔しそうに唸る江ノ島に前園は苦笑した。

 

「アイドルって知っても普通に友達として声かけてきたり、私の曲を全部知ってたり。

 逐一ツボなのです」

「苗木っちはあれだからね。大衆的なの大好きだからね」

「多分、どのファンよりも私の歌を好きでいてくれてると思いますよ」

 

 ふんす、とドヤ顔で語るアイドルに江ノ島は呆れた。

 

「とはいえ苗木は一般人じゃん? アンタはアイドルでしょ? いっちゃなんだけど、

 業界人でも性格含めていい奴は多いじゃん? そこんとこどーなのよ?

 声かけられたりぐらついたりしないの?」

 

 雑誌のモデルなどで業界の端っこぐらいはかじってる江ノ島が生粋のアイドルである舞園に質問する。

 舞園は顎に指を当てて軽く考えるような仕草をした。その所作のひとつひとつが愛らしい。

 これで作ってないというのだから超高校級のアイドルは伊達じゃない。

 

「なんでしょうね。口にしようとすると、どうやっても苗木君が勝ってるところなんてないんですけど……

 でも『好き』って気持ちはそんなものだと思うんですよね」

 

 江ノ島は砂を吐きそうな表情をした。

 

「……アンタが歌詞書いてるんだっけか。次もヒットチャートのトップだわ」

「ありがとうございます」

 

 皮肉を気にしないように前園はにっこりと微笑んだ。

 

 女子だけの部屋ともなれば、さっきまでのようなだれた姿を見せるとはいえ、

 こちらの強かにも愛らしい顔こそが舞園さやかの素である。

 江ノ島にとっては女としての完璧を見せられたようで思う所がある。

 

 普通に考えれば少し外面が綺麗なだけのギャルと、中身まで綺麗なアイドルなら

 後者を選ぶに決まっているだろう。

 言語化したくなかったが……恋敵にコイツというのは強敵すぎやしないだろうか?

 もやもやした気持ちを抱えながらも江ノ島はそれを飲み込んでため息を一つ。

 

「話は変わるけどさ。表側で言ってた『アイドルとして嫌なこともやってきたのに~』って何? 

 場合によってはカットしないといけないんだけど」

 

 枕営業とか、と言外に江ノ島は言ったが舞園は苦笑して否定した。

 

「これって放送するのって本気なんですか?」

「何故か本気らしいね」

 

 他人事のように江ノ島が言うのを聞いて舞園はため息を返した。

 

「えっと、カットで。枕営業じゃないですけどね」

「あ、違うんだ」

「違います」

 

 割とはっきりと否定されたので江ノ島はふむ、と頷いた。

 

「あんたも苦労してるんだね」

「だから違いますって。先輩後輩を事務所の力とかで押しのけた話です」

「そんなもんか」

「十分醜聞なので。表向きはカット。でも身内には知っておいて欲しいかな、と」

 

 私が身内扱いなのか、と江ノ島は変なところで渋い顔をする。

 

「どうせ押しのけた後で色々フォローしてんでしょ、アンタ。

 その損な性格どうにかしたほうがいいと思うよー」

「江ノ島さんのように絶望目的で困難に立ち向かうほどではないんですけど……!」

「心配してあげてるだけだってのに」

 

 ひっひっひと笑いながら江ノ島はモノクマを操作し終えたのかモニターから視線を外した。

 

「はい、おしまい。殺害現場完成。やー、やっぱり有能な妹様は違うね。完璧だね。

 あのモノクマのマニュピレーターでよくぞここまでやれるね」

「それは素直にすごいと思います」

 

 江ノ島の後ろからモニターをのぞき込むと舞園さやかを模したマネキンが

 死体となってピンク色の液体で彩られている。

 

「そろそろ遅いけど寝る?」

「そうですね。江ノ島さんも早く寝ないと肌荒れしますよ」

「や、私肌荒れとかなったことないのよねー」

「は?」

 

 なにやら聞き捨てならないことを言った江ノ島に対して、前園は思わず

 ドスの聞いた疑問符を出してしまった。

 

「徹夜も三徹ぐらいならよゆー。っつか人間そんな何時間も睡眠要らないと思うのよ」

「……なんか、江ノ島さんって普通に超人ですよね」

「あんがと」

 

 うっしっしと笑いながら楽しそうに江ノ島盾子は席を立った。

 

「とはいえ寝るよー! 今日は寝るよー! 寝ようと思えば二日ぐらいは連続で寝れるよー!」

「頭痛くなりますよ……?」

「若いうちに何でも経験しとかないとね。苗木と添い寝とか」

「は!?」

 

 舞園の慌てた表情を見てイタズラが成功したように江ノ島は笑った。

 

「いや、私はやってないけどね。そんなうらやましいこと」

「誰かやった人いるんですか?」

 

 舞園が剣呑な目つきになり、江ノ島が若干光の消えた瞳で返す。

 

「うちの、残念なお姉ちゃんがですね……?」

「ぶっころ。明日見せしめで殺しましょう」

「あー、ルール違反したらね?」

 

 コロシアイ学園生活。

 運営の江ノ島盾子は適当にやりつつも、本人の超人的な能力でごまかしているのであった。

 

 

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