停止したプレス機の向こう側。
穴に落ちた苗木にモニタールームで見ていた一同がぽかん、としていた。
「ドッキリ大成功ー」
「学園長権限ずるいです!」
舞園が今の学級裁判の判決に不満そうに言う。
「ゲームとして破綻してはいないかね?」
「いや、今の場所で私様を指摘しなかったんだから仕方ないじゃん。割と証拠あったのに」
石丸の指摘ももっともなのだが、江ノ島にも言い分はある。
江ノ島の想定では追い詰められたモノクマをみんなが論破してくれると思ってたのだ。
「一応ロジック的には難しいんじゃないかな?」
「死体の付け爪とかあったからね」
「ああ……!」
不二咲は言われた気づいたようにはっとした。
ヒントはひと通り揃ってるし、あの場所で江ノ島盾子を指摘して欲しかったのだ。
「というか服装は全部私に変装したお姉ちゃんのだしね。観察力があるなら気づいていいのに」
「霧切の野郎、やりすぎてはいけないと思って控えめにしてやがるな」
「いつもの霧切君ならとっくに気づいているだろうしな」
仕組まれたトリックであればトリックであるほど探偵の目には容易く映るのだ。
大和田と石丸の言っていた通り、おそらく本来であれば江ノ島の名前を一瞬で言い当てるはずなのだが、『自分は前提知識を何も知らないはず』という言葉に縛られて本来の力を出せていないように見える。
「さて、霧切はどうするかね」
「助けに行くんじゃないかな。見た目よりもずっと情が強い子だし」
江ノ島のぼやきに戦刃が自分なりの見解を示した。
「その辺はむしろ江ノ島盾子殿こそ分かってると思いますがね」
「まあねー。その辺含めてドラマチックに。次の学級裁判では私様の登場なわけです」
「演出ですな……フフフ」
山田が怪しげに笑った。
他の静かにしているメンバーは何をしているのかと江ノ島が後ろを振り向くと案の定セレスと桑田がトランプを持っていた。
「あら、残念7カード。私の勝ちですわね」
「そこ、ブラックジャックしない」
一応クライマックスなのに緊張感のない話である。
「いや、セレスはやっぱ強いわ。運もだけど、技術がすげえ。イカサマなしでこれだぜ?」
「ブラックジャックには伝統的にカウンティングという技術があるので。1セット程度のカードでは
勝負になりませんの」
「カウンティング……? イカサマなのか?」
「イカサマというよりは超絶技術だね……」
桑田は勝負に負けてぐでっていた。
不二崎が説明のためにインターネットでカウンティングについてのサイトを開いている。
「大神はいつもみたいにトレーニング?」
「おう、さっきまでは俺も付き合ってたぜ。流石に本職には負けちまったが」
「僕も早朝のランニングまでは一緒だったがね。いや、大神君は流石だよ」
大和田と石丸はうんうん、と頷いていた。
「さーて、いよいよ大詰め。ふっふっふっふ……と言ったはいいけどしばらくやることなさそうだし
解散してていーよ。解散かいさーん」
(苗木が疲れて眠ってるしそれを眺めるのは私の特権)
「駄目ですよ。私も見ます」
「エスパー!?」
江ノ島と舞園は割といつも通りのやり取りをしていたのであった。
//
『江ノ島盾子ちゃんでーっす!』
ばばーん、と効果音が出そうな登場シーンをした江ノ島が腕を組んで学級裁判の場へ登場する。
その姿を見て戦刃は恍惚とした表情を浮かべた。
「盾子ちゃん、楽しそう……」
「楽しそうというか、テンションおかしなことなってない?」
舞園の言葉に大和田が頷いた。
「普段はもっと、なんてーかこー……ダウナー系だろ、あいつ」
「そんなこともないと思うが」
石丸が首を捻るが、まあハイテンションであることには違いはない。
「キャラがぶれまくっておりますなー」
「『私様』のキャラが好きかも知れませんわ」
「そちらもぐっときますが、拙者はあの露骨に媚びてる姿がなんだかんだで嫌いではないですぞ」
「……普段を知ってると若干痛々しくていい感じですわよね?」
「うむ。やった後で自分で後悔しそうなキャラな当たりが江ノ島盾子殿本人とのギャップ含めて高評価ですぞ」
山田とセレスが何故か変な意気投合をしてた。
「これ、江ノ島が負ける予定なんだろ?」
「霧切達がミスしなければ」
「罰ゲームどうすんだ? モノクマ動かせるのあいつだけだろ?」
桑田が戦刃にもっともな質問をしている。
「ボク、オートパイロットのプログラム組まされたよ」
「ということは罰ゲーム自分で受ける気まんまんか」
ドMだなぁ、と全員が口を開かずに思っていた。
そんなことを言っている間に裁判は急展開を見せている。
絶望をまくしたてる江ノ島に苗木が超高校級の希望を叩きつけた。
「苗木君かっこいい……」
「いいよね」
「ステキですわ」
女子3人は苗木に釘付けである。
「この後は罰ゲームかね?」
「だろうな」
「うわぁ……江ノ島さん凄い嬉しそうにボタン押した……」
そしてものすごい手の込んだセットがせり上がってきた。
「おお。拙者が手がけたパネルがいくつかありますぞ」
「そんなことしてたんだね、山田くん……」
不二崎が山田に呆れていると、超高校級のお仕置きメドレーが始まった。
全員の感想は、まあ……。
「自罰的すぎるのも良くないと思うぞ」
「盾子ちゃん輝いてた……」
「江ノ島さんって変な方向にタフな時ありますよね」
「あのバイクの上で腕くんで余裕ってのはすげェぞ」
「いや、1000本ノックは回転が辛いんであって別にビニールボールは大したことないんだぜ?」
「あ、一応消防車まで込なのですね」
「我の場合、思わず反撃してしまいそうだな」
「うーむ。ピタゴラスなアルゴリズム的な物を感じますぞ」
「よかったぁ、全部うまく動いてくれた……」
こんな感じであった。
//
そして全てが終わった後。
生き残りの6人と江ノ島の座談会が開かれる。
「えー、私様と見事に戦って勝ったわけですがどんな気分でしょうか?」
「今はアナウンサーキャラかな? あはは、まあ僕がどうこうというよりも江ノ島さんが隙を見せて
くれたからどうにかなっただけかな。勝ちを譲ってもらった気分です」
「そんなことないです。苗木くんの言葉が胸に当たってキュンキュンしました」
江ノ島が苗木にしな垂れかかると、霧切の皮手袋がその肩をがっしりと掴んだ。
ぎりぎりと江ノ島と霧切の視線が火花を散らす。
「なんで貴女はそうやって苗木君にべたつくの」
「好きだから」
「嘘」
「……苗木に判断してもらうからいーし。別に」
「苗木君、どうなの?」
二人から視線を向けられて苗木は困った顔で他のメンバーを見渡した。
そしてある人物に目を向けて露骨に救いを求める。
「十神君はどうだった? 今回のコロシアイ学園生活」
「たわけ。俺としてはこのゲームの勝敗などどうでもよかったのだ。ひたすら傍観に徹したわけだしな」
「あ、やっぱり」
十神は全てにおいて超高校級と言うだけあって、実際に全ての性能スペックは圧倒的だ。やろうと思えば江ノ島盾子にすら一部に置いては凌駕するほどである。
その十神が全体的におとなしかったので違和感があったのである。
「はっきり言って表面をなぞる程度で証拠を集めるのを止める具合を調べるのに苦労したぐらいだぞ」
「道理で十神くんにしては調べ方が甘いと思ってたんだ」
「ゲームでなければあのような無様な姿はそうそう晒さん」
「それは嘘だべ」
葉隠の言葉に十神がそちらを睨む。
「……どういう意味だ」
「無様な姿晒してなかったらみんなと仲良くなってないべ」
「ぐぬ……」
それは否定できなかったのか十神はうなるだけにした。
「私は裏切り者役やりたかったなぁ」
「どういうこと?」
苗木が疑問符を浮かべたので、江ノ島が答える。
「苗木が夜更かししてモノクマと戦う大神を目撃してしまったせいで急遽シナリオ変更したの。本当は朝比奈が裏切り者役でした」
「はーい。家族を人質にとられてました」
「軽っ!?」
そういう裏設定と言うだけなので、こんなものである。
「あーっと。霧切。五番目の学級裁判で私が犯人だと言えなかったのは何で?」
「……発想が飛躍し過ぎかと思ったのよ。手元にない素材で判断してはダメでしょう?」
「いや。付け爪の時点で十分変だから」
江ノ島に言われて霧切も確かに、と少し落ち込んでしまう。
答えがわかっているからこそ、自分でハードルを上げてしまったのかもしれない。難儀な性格である。
「まあ、モノクマが理不尽だったというのもあるけどね」
「それは確かに、だべ」
強制的に終わらせたり、苗木をクロに決定したりとやりたい放題だった。
「つーか、クロじゃないのをクロだって言われたら駄目だべ!?」
「証拠はかなり揃ってたのに霧切が回答できなかったことの方が驚きだったっつの。おかげでボーナストラックつけちまったじゃねーかよ」
「そういうことだったんだね……」
江ノ島のネタばらしに苗木は少し納得できたようだ。
「はい。最後。腐川」
「ボッチであるが故に誰も殺せず、誰にも殺されませんでした……ふふ」
「十神が守ってたからだと思うよ」
江ノ島が優しげにほほ笑んで凄いことを言い放つ。
「おい、江ノ島……! お前……!」
「呼ばれて飛び出て邪じゃじゃじゃジャーン!! え、なに、十神様がついに私の愛に答えるって?
ヤーハー!」
「言ってない。ひっこめ!」
ジェノサイダー翔が現れて会場は混乱の中、閉幕するのであった。