ブタイウラ   作:ちぇるの

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イシマルキヨタカ、ヤマダヒフミ

 

 舞園と戦刃の見ているモニターにはモノクマの前に積まれた札束の様子が移されていた。

 非常にチープに見える。

 

「これって本物なの、江ノ島さん」

「ん? 偽物だよ。本物っぽく作ってはあるけど」

「本物の百億円だともっとすごかったりする?」

「んー……実はサンプルとして実際に五百万ぐらい帯付きでだしてもらったけど……あれは現実感ないわぁ。

 結論として作りもので良いと言う事になりました!」

 

 なんで一般のギャルが五百万持ってるのとか突込みはあるが、超高校生級なのでおかしくはない。

 が、一応戦刃が尋ねた。

 

「サンプルの五百万円は盾子ちゃんの?」

「まあモデルやったり、江ノ島ブランドのアクセサリとか服とかデザインしたりでそれなりにお金は

あるからね」

「そういえば、私も傭兵時代のお給料が結構あるかな。

 円建てじゃないからすぐには引き落とせないけど」

「いいなぁ……私は成人するまでお小遣い制になってるんだよね。

 洋服買うのも領収書が必要なんだよ! それ、私の稼いだお金!」

 

 舞園の結構特殊な家庭の悩みに、後ろで聞いてた不二咲は苦笑した。

 不二咲も特許や仕事の契約金に対して、莫大な預金があるが親にマネージメントされてしまっている。

 新しいPCを買うにしろ開発資金として必要なものは領収書が必要になるのだ。

 

「ここで勝ち抜けたら本当に100億円もらえるの?」

「んー」

 

 江ノ島は目の前のコンソールをぴぴぴ、と操作してアナウンスで電子手帳を見るように、と伝えた。

 全員の電子手帳にメッセージが届いている。

 

『実際にはクロ抜けしても1万円です』

 

 画面内のセレスが露骨にテンションを下げたようだ。

 人形みたいな微笑みから、いつも以上に人間味が失せるので比較的分かりやすい。

 ついでに山田も画面内でそれを察したようだが、セレスに突込みはいれなかったようだ。

 何故か相性が悪くない二人である。

 

「ということです」

「これで人を殺す動機になるの?」

「傭兵してたくせに変な事聞くよね、お姉ちゃんは」

「戦争に動機は必要ないよ……?」

 

 舞園は久しぶりに戦刃の住む世界は自分たちと違うことに気が付いて背筋が粟立った。

 が、すぐに最近の馴れ合いで可愛い所が目立ってきた戦刃の姿を思い出す。

 

(そういう怖いところもある戦刃さんと同じ学校で仲良く笑えることを喜んだ方が建設的だよね)

 

 舞園がそう考えた時に、江ノ島は舞園の方に一瞬だけ視線を向けた。

 その行動だけで舞園は江ノ島に胸の内を読まれたのに気が付いた。

 お互いに超人的な洞察力である。

 

「まあ、舞園が今考えたようなことを苗木に一週間ぐらい言われたんだよね」

「だから恋したんですか?」

「まさか。お寒い説教はむしろ嫌いですよっと」

 

 江ノ島は笑い飛ばすが舞園は特にツッコミはしなかった。

 江ノ島自身もごまかせているとは思ってない。

 

「なるほどなるほど」

「……私のことはいーのよ。つーか、あんたは?」

「私、素直に綺麗なもの好きなんです。

 私みたいに上っ面だけじゃなくて、心の底から綺麗なもの。

 だから惹かれました。割と普通の理由ですよ」

「まあ苗木は普通の人より心の根っこのほうからあんな感じだーね」

「ですです」

 

 二人が何の会話を始めたのかが分からずに戦刃はぽかんとしていた。

 

「あの、どうしたの二人とも。突然?」

「「エスパーですから」」

 

 江ノ島はシニカルに。

 舞園は花のように。

 二人して笑った。

 

 

//

 

 一晩寝て目が覚めた朝、モニタに写った山田の工作の結果を見て全員が感嘆していた。

 

「すげー! 山田すげー!!」

「おう。なんつーか、普通にすげえな」

 

 ジャスティスハンマーとジャスティスロボを見て感動する桑田と大和田。

 

「一日でこれだけの工作が出来る人間がいればヴェロッセンの攻略作戦でどれだけ楽が出来たことか……過去は戻らないとはいえ口惜しい」

「ヴェロッセンってどこ?」

「一般人は知らないと思う。ノヴォセリック公国という国の辺境だよ。

 樹よりも岩が多い、そんな場所だった」

「流石傭兵。世界中回ってんだな」

 

 大和田の賞賛に戦刃は特に感慨もなく頷く。

 桑田はノヴォセリック公国、ノヴォセリック公国、と何かを思い出すかのように腕を組んでた。

 

「もしも木からあのレベルの工作をしてくれる人間がいたならば、私たちはさも当然のように岩に紛れて敵に近づけただろう。

 だけど実際には私達の手元にあったのはギリースーツだけだった。

 勝てはしたけど、決して少なくない血が流れた」

「なんか、戦刃は素直に実体験を手記にするだけで爆発的な人気が出る気がするぞ」

 

 大和田が生々しい体験に唸っていると、不二咲が同意する。

 

「アハハ……。実際山田くんは結構前から言ってたよね。

 『軍人っ娘とは現実ではなかなか見られないレア属性! しかも美少女。これは売りだせる!』とか。実際にはクラスメイトを売るとかやらない人なんだけど」

「山田はアレだな。逆風が楽しいから突っ張ってるだけで、他の奴のこと気遣い出来るだけの心意気

ってのはある奴だ」

「そうそう」

 

 意外と男勢からは評価が高いことが発覚した山田なのであった。

 

「ああ、思い出した。マカンゴの国。ノヴォセリック王国だ!」

「……!」

 

 ぴく、と珍しく戦刃の表情が変化した。

 かすかに頬も赤い。

 

「なんか凄いんだってなマカンゴ。なあ、戦刃。昔からマカンゴって気になってたんだよ。

 マカンゴの写真とかあるか? あったら見せて……うぼぁ!?」

「……っ!!」

 

 戦刃が無言で桑田を殴った。

 そして、桑田の胸ぐらをつかんでもう一度立ち上がらせてから更にもう一発殴った。

 

「うぼぁ!?」

 

 周囲がしーんとなる。

 戦刃の顔は何故か耳まで真っ赤だ。

 

「傭兵生活通しても、人生で最大のセクハラだった!」

「なんじゃそりゃ……?」

 

 理不尽な理由で殴られた桑田は意識を失うのであった。

 

 そんなコントをしている中、江ノ島の見ているモニターの中で葉隠がジャスティスロボになっていた。

 本格的な偽装工作である。

 

「あー。ミステリィってこんな感じでイロイロやらないといけないんですね」

 

 舞園は感慨深く頷くが、江ノ島は何気なくフォローを行った。

 

「舞園は割と上手くやれてた気がするけどね。むしろ問題点はアレ。

 模造刀を何で部屋に配置したん?」

「予備のつもりだったんですよ。鈍器判定の道具を持ち込んでおけば刃物判定の包丁で失敗した時にもなんとかなるかな、って」

 

 用意周到な舞園の案にうんうん、と江ノ島は頷いた。

 

「悪くないね。ただ相手は別のがよかったかも。『江ノ島盾子』とか」

 

 ちらりと戦刃に視線を向けた江ノ島。

 視線に気づいた戦刃は私? と疑問符を浮かべている。

 

「や。戦刃さんは絶対無理だから」

「そういうメタな考えは禁止ですー」

「だから諸々鑑みて油断しそうな桑田君にしたんですよ」

 

 舞園は苦笑した。

 

「やっぱり不二咲くんが良かったかな……?」

「ボクを殺す作戦をボクのいるところで立てるの止めてよ」

 

 不二咲が流石に二人に突っ込んだのであった。

 

 

//

 

 

 石丸が死んだ。

 コロシアイ学園生活というゲームの中ではあるが。

 

 炭酸飲料のふたを開けた時にも似た軽い排気音と共に開いたドアの向こうから石丸がやってくる。

 大和田が立ち上がって石丸を出迎えた。

 

「おう兄弟。俺の魂が入った結果どうなった?」

「止めてくれ兄妹。これでも演技している時のことをを指摘されると恥ずかしいのだ」

 

 へっへっへ、と二人で笑いあう大和田と石丸。

 

「相変わらず仲がいいよね、二人とも」

「オウ。大事なダチだからな。お前もだけどよ、不二咲」

「うむ。大事な友達だ」

 

 ふふふふ、へへへへ、はははは、となにやら『は行』が怪しい会話になりつつある。

 

「しっかし、石丸の演技はすげえな。明らかに他の奴に比べてMVPだわ」

「よしてくれたまえ。実際にあの状況で兄弟があのような愚挙に出たならば……僕は泣く。

 当たり前のことだ。演技というほどのものじゃないさ」

「……そっか。そうだな。俺も泣くわ。お前が誰にも相談せずにコロシなんかしたらな」

「だろう」

「そうだね」

「うむ」

 

 しんみりしているが、実際には誰も死んでいないのでIFの話でしかない。

 

「まあ座れや」

「うむ。ありがとう」

 

 石丸は笑顔でソファーに着席する。

 これで管理人の江ノ島含めて7人がここに集まった。

 

「ほぼ同じ時間に死んだ山田くんはどうしたの?」

 

 舞園の質問に石丸が答える前に部屋の扉が再び開いた。

 

「お疲れ様ですぞ」

「ですぞー」

「ですぞ」

「ですですぞ」

 

 みんな仲が良い。

 

「死ぬ間際にヤスヒロというところまでがトリックだったらしいので、死体役をやってきておりました。

 ですので頭についた塗料をシャワーで落としていたのであります」

「そんな小芝居してたのか」

「いや、小芝居についちゃ兄弟は人の事言えねぇと思うが」

「はっはっは。違いない」

 

 石丸は笑って大和田の追及を受け止めた。

 

「ポートピア連続殺人事件だね」

「ポートピアってなに? 不二咲くん」

 

 戦刃の質問に不二咲は答える。

 

「ファミコンで出たっていう昔の推理ゲーム。ずっと相棒をしてたヤスって人が犯人で、解答編で犯人はヤス、って答えられるとか。

 それだけでネタバレになるとかでずっとネタになってる」

「ファミコン……って聞いたことがあるような」

「ボク達が生まれるよりもずっとずっと昔に世界的に流行ったゲーム機だよ」

「そうなんだ傭兵ばっかりやってたからゲーム機とか良く知らなかった」

 

 江ノ島は『うわ、うちの残念なお姉ちゃんがまた何か残念なこと言ってる』と思ったが口には出さず表情だけで表現した。

 

「いえいえ。私もアイドル稼業で歌って踊ってばかりだったのでゲーム機の事は知りませんでした。

 全然おかしくないと思いますよ」

「そこのエスパーはどうでもいい内容で心読まないように」

 

 いちおう江ノ島は舞園に突っ込んでおいた。

 

「しかもゲーム機の事は知らないとか言って、苗木と話題合わせるためにCell4買ってるでしょう」

「いえ、本当にあまり知らないんです。チャートで上位のソフトを触るぐらいで」

「私と同じ内容の努力されると時代を先取りするギャルとしてのアドバンテージが減るので止めて欲しいんですけど」

 

 なんのために若干趣味ではないヒットチャートの上位とか微妙に眠くなる大衆RPGに手をだしていると思っているのだ、と江ノ島は前園に八つ当りする。

 

「うーん、江ノ島さんなら一般的アプローチで迫るよりシリアス調で迫るのが一番効果的なような」

「あんたの方がそう言う意味じゃ正攻法が通じやすいでしょ。ギャルよりアイドル」

 

 苗木は真面目な子が普通に好きなタイプだろう。

 所謂お嫁さんタイプな前園の方がウケが良いに違いない。

 

「リアルな話、アイドルと両立できないから24,5ぐらいまでは恋愛できないという」

「げ。マジ?」

「マジなんです」

 

 うわぁ、と江ノ島は若干引いていた。

 

「いっそギャルとかモデルのが良かったかも、って思う時もありますけどね。アイドルはアイドルで

やっぱりやりがいはあるんです」

「好きな人諦めても、ってか」

「え? 諦めませんよ? 苗木くんの女性遍歴が今後7年でどう変わろうとも、そこから奪い取りますから。元アイドルとして」

「おい」

 

 全然安心できない発言をされて江ノ島は慄いた。この女、略奪に対して忌避感がない。

 

「分かった。とりあえず高校卒業と同時に妊娠目指すわ」

「あら。7歳にして母子家庭のお子さんが可愛そうですね」

「おい」

 

 見えない火花が散る。

 その様子を遠巻きに眺めていた男勢がひそひそ話を始める。

 

「うーむ、苗木誠殿は修羅場に巻き込まれるのが決定ですな」

「羨ましい通り越してもはや憎いんだが。うちのクラスの巨乳組に好かれるとか」

「巨乳でいいなら大神にでも告白しろや」

「普通に断られたぞ。好きな人がいるからとか言われた」

「すでに撃沈済み、だと……!」

 

 大和田は桑田の発言に戦慄する。

 

「でも胃が痛くなりそうな恋愛は大変そうだよね。ボクは応援するしかないけど」

「あえて触れてなかったが霧切も参戦確定だからな」

「ヤスヒロティア・ルーゼンタエコ殿も実は苗木誠殿を狙っているのではないかと吾輩は推測しているのですが」

 

 キラリン、と眼鏡を光らせる山田。

 でもセレスが聞いたらその場で山田を張っ倒しかねない危険なセリフだった。

 

「山田君はしっかりと人を見ているね。その観察力はあやかりたいものだ」

「ふふふ! 人間を観察せずしてどうしてキャラ萌えが描けましょうか。同人作家の必須スキルの一つでありますぞ」

「うーむ……。やはり僕もそう言った空気を読める力を持つべきなのか」

「兄弟はそのままでいいと思うぞ。割と本気で」

 

 最初こそ派手にぶつかり合ったが、今では石丸がいないとそもそも自分のクラスがまともに動かないという事実に全員が気付いている。

 とはいえ好きかどうかと、苦手かどうかは別の話なのだが。

 

「苗木ばっかりモテて許せねー」

「あァ? 桑田はモテてるじゃねえか。俺とか本当の意味ではモテてない不二咲と一緒にするな」

「フォローありがとう大和田くん」

 

 桑田は野球のおかげで正統にモテている。

 

「いや、別の学校の女子とかどーでもいいのよ。もっと身近に恋したいのよ」

「我儘な……。じゃあお前も苗木みたいに身近な女に接してみろよ」

「苗木みたいに?」

「江ノ島と一週間籠って説教するとか」

「おいおい勘弁してくれよ。説得するために生まれたみたいな苗木が一週間かかったんだろ? 超高校級の説得を一週間耐えるような女は俺には扱えねえよ」

 

 舞園と江ノ島はちらりと聞こえてきた会話に『確かに超高校級の説得だ』と心の中で同意した。

 二人は決して仲が悪くない。それ以上に敵ではあるが。

 

「さっきと言ってること違うぞ」

「女にちやほやされてんのがムカつくんだよ。理屈じゃねーんだよ!」

「分かるぞ、桑田君」

「分かるけどね」

「分かるがなァ……」

「分かりますぞ……」

 

 男五人の悲哀なのであった。

 

 

 

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