赤いランプで描かれたかなり幻想的な魔女裁判の様なセットの上で楽しんでた所を巨大な消防車の形の風船で吹っ飛ばすと言うどちらかという精神的に悔しいタイプのお仕置きを受けたセレスが控室の扉を空けて戻ってきた。
「お、セレス」
意外なことに江ノ島がわざわざ椅子から立ち上がって迎える。
そして人差し指と小指を立てた両手をクロスさせて凶悪な表情でベロを出した。
「イェーイ」
「イェーイ」
セレスも同じポーズと似たような凶悪な表情それに乗る。
その後、二人で握手する。やり遂げた表情だ。
舞園も二人のやり取りを見て思いついたように中指を立てて割とアイドルとして見せられない類の凶悪な表情をしてセレスに声をかける。
「ヤー!」
「ヤー!」
セレスも同じくメイルリングのついた方の手で中指をおったててお世辞にも上品と呼べない感じの顔で舞園と同じ掛け声をあげる。
その後、二人とも笑顔で軽くハグをする。成し遂げた表情だ。
その様子をしばらくぼーっと見つめてあと桑田はぴたん、と己の額に手を当てた。
「あれ、俺、久しぶりに理解できない状況に遭遇してね?」
「大丈夫だよ桑田くん。ボクもさっぱり理解できなかったから」
不二咲が桑田をフォローする。
「はっはっは。仲がいいのは羨ましいな」
「いや、女子にあるまじきハンドサインとか注意するべきじゃないか、これ」
大和田の突込みを石丸は笑顔でスルーした。
融通を聞かせたのか、女子が怖いのかいまいち分かりにくいが、恐らく後者だろう。
石丸は学習する男なのである。
「うちの女子どもは時々よく分からないテンションの一致を見せるよな……」
「あれは何なのだろうか」
「毎回突発的だよねぇ」
ちなみに朝比奈もこの流れに混ざることは多い。
「セレスと江ノ島って割と仲いいよな。そう言えば」
桑田に話を振られたセレスが何故かモノクマを抱えていた。
「退廃的で絶望的な耽美な世界を理解してくださるので」
「なるほど。素直に納得できたわ。……で、モノクマ抱えてるのはなんで?」
「デザインが好きだからです。このプリチーなものを表側では抱きしめられなくって……」
はぁ、となまめかしいため息を吐くセレス。
桑田は微妙な笑顔にならざるを得なかった。
「うぷぷぷ。まあ僕の可愛さは世界共通だからね。
むしろ僕を可愛いと思えないとか感性が終わってるんじゃないかなー?」
「江ノ島は咄嗟にモノクマのキャラで喋れることがすげえよ」
「キャラって何? 僕モノクマ。中の人とか言ってる子はお仕置きだべさー!」
「いや。今までとは別の目線で尊敬するわ。マジで」
桑田が妙な所で江ノ島に感心していた。
そんなモノクマを抱いているセレスの後にぬっ、と戦刃が現れた。
無機質な冷たい瞳でセレスを見下ろす戦刃。陶器の様な作り物めいた笑顔で応えるセレス。
おもむろに二人は両手を挙げた。
「セレスちゃんイエーイ」
「むくろちゃんイエーイ」
物凄く事務的な声で二人はハイタッチして、そしてぎゅっと抱きしめあう。
戦刃の耳が少し赤いのを見て不二咲は『あ、あれ恥ずかしかったんだ』と思ったが口には出さなかった。
抱き合った二人は挑戦者の面持ちであった。
「ついに戦刃まで加わっちまったか……」
「オレは戦刃と霧切という組み合わせのも見たことあるぞ」
「拙者は霧切響子殿と江ノ島盾子殿が物凄く嫌そうな顔をしながらハイタッチしているのを見たことが」
「何故そこまでしてやるのだろうか。婦女子の考えと言う物は僕には一生分からないかもしれない」
石丸の呟きに関しては男集は頷きを深くするしかない。
「そもそもこの習慣は何故生まれたのでしたっけ?」
舞園が不思議そうな顔をしてセレスに尋ねた。
これには江ノ島が回答した。
「苗木に社会復帰の一案として人と絡むようにと勧められたので、セレスにいろいろなパターンで挨拶した結果、最もしっくりいったパターンが最初」
「江ノ島さんと私が最初だったのですか。仕方ありませんね。ソウルフレンドですし」
うんうん、と江ノ島は頷いた。
そしてヤンキーのようなガンをセレスに唐突に飛ばして中指をおったてる。
「ファック!」
セレスは一度微笑むと、とても放送出来ないような顔芸を披露して中指をおったてる。
「ファーーック!!」
江ノ島は何故かそれを見て破顔してセレスに力強く抱きついた。
「セレス大好き!」
「私も江ノ島さんを愛してますわ!」
何故か『いい話だなぁ』みたいなムードを出している女性陣。
しかし、桑田がつぶやいた『なんだそりゃ』というセリフがその場の男勢全員の気持ちの代弁であった。
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隣に座ってのんびりしている江ノ島に向かってセレスは何気ない質問をした。
「モニタリングはしていなくて平気ですの?」
「学級裁判後は大体すぐ寝るだけだから見てても暇なのである。むしろ私様はとっとと寝たい」
「監督役、お疲れ様です」
舞園がちらりと江ノ島を見る。
(今の発言、言外に苗木くんの行動主体で観察していることが分かりましたが、深くは突っ込みません)
(こいつエスパーか……!)
エスパーみたいに視線だけで会話したように見えるが、二人とも洞察力が高いだけである。
他の人には真似できない意思伝達方法である。
「私様は最後まで生き残りのメンバーの面倒を見るのである。お前らは適当に自室で寝るように」
「はーい」
「おう」
「了解ですぞ」
「ですぞー」
「分かりましたわ」
「分かったぞ。江ノ島君!」
「了解」
「ういーっす」
全員が思い思いに答える中、舞園だけが江ノ島の隣に笑顔で近づいていく。
「まあ、私は少し残って江ノ島さんと一緒に監視しますけど」
「……チッ」
「うふふふふふ」
何やら怖い雰囲気を感じたが全く理由が分からない戦刃は疑問符を浮かべながら自室に戻っていった。
第三の裁判の夜はこうして更けていくのであった。