「痛ぇ...」
ズキズキと痛む頬に手を添えながら俺は目を覚ました。
回りを見渡すといつも通りの自分の部屋だった。
きっと誰かが、湊辺りが俺を運んでくれたのだろう。
「...謝りに行かなきゃ、不味いよな...」
焦りからかつい思ったことが口に出てしまった。
昨日のアレは完全に俺の不注意が原因だ。
俺自身は別に他人に裸を見られるのが嫌な訳じゃあないが相手は女性。
あんな性格でももしかしたらかなり傷ついちゃってるかもしれない。
それにローマとはそこまで仲が言い訳じゃないから最悪、鎮守府から出ていけと言われることもあり得る。
「何が不味いって?」
「!?」
「おはよう冬也。話はイタリアから聞いたよ。昨日はやっちゃったみたいだね」
ニッコリと俺に笑顔を向けてくる湊だったが今この状況で言われるとなんだか殴りたくなる気がする...。
「ふんっ、ありゃお前が最初っから自分でやっときゃ良かったんだ」
「ごめんよ。君と艦娘たちとの交流の一端になればいいと思ってやったんだけど、まさかこんな事態になるなんて」
少し面白がっているかのように少しだけ笑いながら返してきた。
お前がそんなヤツだと思わなかったぞ。
「ただしバッドなことをしてくれたな。申し開きはあるか?」
「.........違うんだ。あれは俺も疲れがたまっててついノックもせずに部屋に入って、下心はないんだ」
「世の犯罪者は一瞬の気の迷いで犯罪に手を染めたというがそれじゃ君も同じだよ」
「今から精神誠意謝りに行こうとしてたんだ」
「ならグッドだ。ローマはいつも今くらいの時間にイタリアと朝食を食べているから早速行くとしよう。大丈夫、俺も着いていく」
「アイアイサー」
「みんな、おはよう!」
食堂に着くといつものように艦娘たちが集まり思い思いの食事を楽しんでいた。
彼女たちは湊に気づくと「おはようございますしれぇ!」だの「おはようございます司令官」だの「私たちと一緒に食べましょ!」だの言ってきている。
湊は艦娘たちからとても好かれているというのを改めて思い知らされた気がした。
あと一人一人に対してしっかり返答してあげてる湊もさすが。
「あんた、冬也!」
はっきり言って会いたくなかったな。
食堂の端っこにはローマとイタリアが空になった食器を前に会話をしていたようだが気づかれた。
俺は急いでローマの元へ向かい頭を下げた。
「すまん!昨日は俺の不注意で勝手に部屋に入ったりして」
まわりの艦娘はなんだなんだと呟いている。
頭をあげると俺をみたイタリアが
「こちらこそローマがいきなり叩いてしまってすいません!ほら、ローマも許してあげ一」
「許すわけないでしょ!?この変態!」
「うおっ!?」
ローマは顔を赤く染めて叫んだ。
「勝手に人の部屋に入ってきて裸まで見る変態なんて!」
「ちょっ!」
なぜよりにもよってまわりの艦娘が聞いているところで叫ぶのか。
俺は訝しんだ。なんてふざけたこともいってられなかった。
まわりの艦娘はヒソヒソと俺を見ながら
「今の聞いた?」とか「勝手にローマさんの部屋に入って覗きをしたんですって」とか「危険ですよ扶桑姉さん」とか言ってる。アカン。
「もっ!もうローマ!冬也さんもしっかり謝ってるんだから許してあげなさい!」
「でも姉さん!こいつは勝手に一」
「だからローマ!」
イタリアが必死にローマをなだめるが彼女は食堂から駆け足で出ていってしまった。
その光景を見て湊は苦笑いしている。
なんの為についてきたんだよコイツは。
まわりの俺への視線がどんどん痛くなってきて急いで食堂から逃げるように出ていった。
遠い遠い先まで続く水平線を見ていると嫌なことも忘れられる。
そんな気持ちで俺は海岸沿いを歩いていた。
食堂にいたのが6時くらいでかれこれ一時間くらいここをほっつき歩いている。
はっきり言って俺の第2の人生が詰んでるんじゃないか感が満載だがあれやこれやと考えていても仕方ないのでもう一度ローマのどこに謝りに行ってみよう。
それでダメだったら、もう諦めざるをえない。
そんな思考を巡らせていると俺の視線の先一海の岩場で一人座っている女の子がいた。
見た目は一度見たら忘れないであろう露出度がかなり高めな服、島風だ。
「暇だなぁ...」
そう一人呟いていた。
その顔は誰が見てもわかるくらい萎れていてどこか悲しげな雰囲気を纏っていた。
「お前、こんなとこでなにしてんだ?」
俺はつい気になって話しかけてしまっていた。
「おうっ!?お兄さんだあれ?」
「俺は冬也。清瀬冬也っていう。最近鎮守府で住み込みで働くことになった。湊には聞いてないのか?」
「提督が言ってた龍に変身できるっていうお兄さん?イタリアの部屋に侵入したってひと?」
「そうだけど語弊があるわ!。そういやなんでこんななんもねぇつまんなそうなとこに一人でいるんだ?」
まったく、口止めしておかなかった俺にも問題はあるがいくら互いを知るためとはいえ俺のことを何でもかんでもばらしすぎだ。
普通の人間からしたら怪物に変身するなんておかしな話なのに。
そう心の中で呆れた。
「...あたしは、姉妹艦がいないからいつも一人なんだ...だからこーやって出撃しないときはここにいるの」
「姉妹がいないんだったら他の娘たちと仲良くならゃいいんじゃないのか?」
「もちろん仲がいい友達もいないわけじゃないけど、そんな子達と一緒にいていつも思うんだ。やっぱり島風はですひとりぼっちなんだなって...」
「...おまえ...」
姉妹艦がいないことは知っていたがそれがこれほどまでコンプレックスとなっていたとは知らなかった。
俺自身もいとこや兄弟がいないことを気にしていたからどこか寂しさを感じていたりもしていたが...
「実は俺もな、兄弟といとこがいないことをガキのころに気にしてたんだ」
「!、冬也も家族がいないの?」
「あぁ。俺がまだ赤ん坊だったときに家が家事で焼けて、それで親が二人とも死んで、父さんにも母さんにも兄弟はいたけど子供の時に亡くなってたからいとこもいなくてじいちゃんもばあちゃんもいなかったからずっと一人だったんだ」
「冬也も、ひとりぼっちだったんだ...」
体育座りをして顔を埋めていた島風は俺の方を見てそう呟いた。
「おう。で、そっから施設に預けられて同じような境遇のやつらと仲良くなって、兄弟みたいに大人になるまで過ごしたんだ。おまえも、こんなとこで一人でいないで駆逐艦の仲間を、家族を増やしてみればいいんじゃないか?」
「...そうだね!冬也のお陰で元気がでたよ。ありがとう!もしよかったら島風とおいかけっこしようよ!」
「お?いいのか。俺は速いぞ?」
と自信満々に答えて見せた。
さすがに全力で追いかけるつもりはないが舐められるわけにもいかないからね。
「いいのいいの!じゃあトーヤが鬼ね!島風を捕まえられるかな?」
そう言うと島風は海岸を走り出した。
「はやっ!?」
しかもかなりの速さだ。艤装を装着すると艦娘は身体能力が向上すると聞いたが偽装もなしにしかも女の子があんな速さで走るのは驚いた。時速30kmくらいは出てるんじゃないのか。
俺は負けじと追いかけたがいつまで経っても追い付かないばかりか逆に差は広まるばかりだ。
「おっそーい!トーヤって遅いんだねえ!」
あんのやろう。
生身でダメなら俺も本気を出して追い付いてやる。
そう考えた俺は自身を馴染みのある龍の身体へと変化させ一瞬で島風との距離を縮め島風の肩をタッチし人間態へと身体を変化させた。
「はい俺の勝ち」
「っ!?ずっるーい!!自分だけそんなふうに力を使うなんてフェアじゃないよ!!」
「悪いな。俺はいつも全力で勝負に挑むのさ」
「おうっ!酷いよぉ!!」
島風は叫ぶと手を目元へとつけ今にも泣き出しそうなか顔になっていた。
さすがにやり過ぎた。
というか大人げなかった。
「げっ!ごっごめんな島風。俺大人げなかったなハハハ」
こんなとこを誰かに見られたらただでさえボロボロの俺の好感度は地に落ちる。
そうなるのは非常に不味いと思い必死になだめるが彼女は泣き出してしまった。
(しゃあねえな。あれをしてやるか...)
「なぁ島風。俺の背中に乗れよ。おんぶしてやる」
「なんで?イタリア艦の人たちみたいにまた手を出すつもり?」
「ちげーよ!いいから乗れって!大丈夫だから!」
「おうぅ、分かったよ」
そう言うとしぶしぶ島風は俺の背中に飛び乗った。
そして俺は身体に力を入れ再び自身を龍一巨大な翼竜の飛翔態へと変身させた。
「うぁっ!ほっ、ホントに龍みたいになれるんだ!」
「しっかり捕まってろよ。舌噛むぞ?」
俺の言うことを聞いてくれたのか、島風は俺の背中の突起を掴んだ。
しっかりと握られたことを確認した俺は翼を動かし空へと飛んだ。
「すっごーい!空を飛ぶなんてあたし始めて!」
「だろう!でも危ないから黙ってたほうが身のためだぞ!」
「あははっ!風が気持ちいいー!」
まったく聞こえてないみたいだ。
でも楽しんでくれてるなら、オーケーとしよう。
海の向こうには夕日が見えて美しく輝いている。
俺はよくこうやって夕日を見ていてあまり珍しくわないが島風はいつもと違う場所から見れたからか「うわぁぁ...!」と見惚れている。
翼を生やすだけでも結構エネルギーを消費するのだが喜んでもらえたならよしとしよう。
出る杭は打たれるとはこの事だろうか。
いや、きっと意味が違うだろうが似たようなものだ。
あのあと数十分程島風と空を飛んでいると他の駆逐艦たちがみな集まってきて乗せて乗せてとせがんできた。
さすがに島風だけ特別なんてよくないだろうし朝の一件からのイメージを払拭するチャンスだと思い皆乗せて飛んであげた。お陰で肩が痛いのなんの。
腕の付け根から腕を回すだけでもバキバキという音が鳴った。
切り傷とかは力の一環ですぐ治るのだがこういう生活習慣病だけはどうにもならない。
そんなわけで駆逐艦たちと別れたあとに一人自室で横になっていた。
あっ...あっ...(ポックル)
そんな呻き声をあげながらベッドで寝ていると部屋の扉がドンドンと乱暴に叩かれた。
(湊か?いや、湊はもっと優しく叩くはずだ...ということは艦娘か?)
恐る恐る扉を開けるとそこにいたのは...
なんとローマだった。
「なっ!?ローマ!なんのようだよお前俺にぃ?」
「冬也、ちょっと用があるからついてきなさい」
俺の質問を華麗にスルーし一言言うとローマは廊下へ出ていってしまった。
俺が呆然としていると、
「何ボーッとしてるのよ?早くついてきて」
「あっ...あぁ、分かった」
俺は彼女に言われるがまま着いていくことにした。