俺はローマに連れていかれ海外艦寮の小さなキッチンが設営されている食堂に来ていた。
ローマはキッチンの目の前の椅子を引き、
「座って待ってて」
「おい、なんで俺をここに連れてきたのかをまず教えろよ」
「いいから座ってなさい」
「むう...」
理由も説明されずに命令されるのは納得がいかないがこちらは今逆らえるような立場ではないのだ。
もしコイツの機嫌を損ねてまたあることないこと回りに言われたらここで生きていけなくなる。
嫌々座っているとローマは何やらし始めた。
(料理か?たしかに腹は減ってるけどなにか俺に食わせるつもりなのか?)
俺は彼女が用意していた材料を見て何を作るのか察した。
白い生地の塊にトマトソース、バジリコ、ローマはピザを作るつもりだ。
だがなぜ俺の目の前でピザを作るのかがわからない。
困惑している俺のことはつゆしらず、ローマは黙々と料理を始めた。
生地を手先に乗せてくるくると回し平らに広げていく。
「器用なもんだな」
「当然よ」
手際よく広げた生地にソースを伸ばし具材をのっけていき、キッチンの奥にある釜戸に生地を放り込んだ。
「驚いたぜ。釜戸まであんのか」
「えぇ、提督にわたしと姉さん、Zaraが頼んで買ってもらったの」
「へえ」
数分経つとローマは釜戸からピザを取り出し大きな皿の上にのせた。
モワモワと湯気が上がっていて匂いもとんできて腹が刺激された。
「どうぞ」
「えっ、いいのか」
ローマが出来上がったピザの皿を俺が座っている椅子の前のテーブルにおいた。
俺はあまりに急な出来事に言葉を失い困惑した声を出した。
「あんたに食べてもらう為に作ったんだから、早く食べないと冷めるわよ。わたしはワインを飲むけど、あんたは何が飲みたい?」
「あー、じゃあ俺は牛乳で」
「分かった」
そう言うとローマはグラスにワインを入れ、続けて牛乳をコップに入れ、俺のもとへ運んできてくれた。
「どーも」
俺は手を合わせた。
「頂きます」
「召し上がれ」
あらかじめ切られてあった生地は指で端をつまんで引っ張るだけで取ることができた。チーズが甘い匂いを飛ばしながら糸を引いている。
俺は生地の上の具材をこぼさないように注意しながらピザを口に運び咀嚼した。外の生地はカリッとしているが口のなかで飲み込むともちっとしていて食べごたえもあってとても上手い。
「美味いなこのピザ。ピザなんて冷食でしか食べたことなかったけどこいつは外はカリッと、中はもちっとしてる。さすが本場は違うな」
「当然よ。あと、ピザじゃなくてピッツァ」
「はあ?ピザもピッツァも同じだろ」
「違うわよ」
「何が違うんだ?」
「何もかも、例えるなら豆腐と納豆くらい差があるわ」
「じゃあ全然違うじゃねえか」
「そういうことよ」
俺はローマが澄ました顔でいうものだからつい口が綻んでしまう。
そんな俺を見てかは分からないがローマも少し笑っていた。
「昨日は悪かったな。いくら疲れてたからって配慮がなかった」
「いいの。私こそたたいたりしてごめんなさいね」
「ん、お前が謝る必要は別にねーのに」
今朝と比べるとかなり落ち着いてるな。そう考えているとローマは
「ねぇ冬也、あんたのことを聞かせてくれない?」
「は?それってどういう」
「言葉通りよ。提督からあんたのことは鎮守府で働くことになったドラゴンになる男だってことは聞いたけどどうしてここに来たのかとかもともと何をしていたのかは聞いてないの」
「あいつ、ホントに俺の大事な秘密ベラベラしゃべってんだな。でも面白い話なんかじゃないぜ」
「それでもいいの。ほら、ピッツァのお礼だとでも思って」
「はぁ、んじゃピッツァのお礼に教えてやる。ちょっと長くなるけど、覚悟しとけよ」
「一一一っていうのが俺がこの世界の横須賀に来るまでの経緯だ。どうだ?あんまり面白いモンでもなかったろ」
「一一あんたもこの世界に来るまで戦っていたなんて、正直驚いたわ」
「戦ってたつっても今考えりゃただの負け戦をやってただけだよ。勝ち目も何もかもなかったからな」
俺は自虐的にそう言った。それに、事実そうだった。
「ねぇ、あんたは自分がいた元の世界へ帰りたいとは思わないの?」
ローマの質問内容に俺は少し驚きどう返すか考えた。
「そうだなぁ、帰りたいわけじゃないと言えば、嘘になるけど正直戻れたとしてももう俺の仲間は誰も生きていないだろうし戻ったところで俺も殺されてそれで終わりだ。だから帰れる方法があったとしても帰ろうとは思わねーよ」
「そう...」
「それに俺はまだお前たち鎮守府の連中に命を助けられた恩を返していない。それまではどのみち居座るよ」
「あんた以外にあんたがいた世界の仲間が来ている可能性はないの?」
「さぁ?来ているんなら会いたいけど、会う手段なんて無いからな」
俺は食べ終わったピザの皿を台所へ置き軽く水をかけた。
「洗い物は俺がやっとく。お前はもう部屋に帰れよ」
「えぇ、そうさせてもらうわ。あんたの世界のはなし、面白かったわ」
「そうか?俺はお前のピッツァの味に感動したよ。あんなに美味いイタリアンは食べたことがなかったくらいにな」
「そう。Grazie」
「アディオス。ローマ」
俺がそう言うと彼女はにこりと微笑み食堂をあとにしていった。
後片付けも終わり入浴も終わらせて寝ようかというところに再び部屋のドアをノックする音が鳴った。
「湊か?」
「そうだよ」
というとドアがひとりでに開き、湊が顔をだした。
せめて俺が開けていいと言うのを待って欲しいものだ。
「こんばんは。ローマとは和解できたようだね」
「あぁ、おかげさまでな。」
「おや、気づいていたのかい」
「あぁ。お前がローマに何か吹き込んだんだろ?」
「いや、俺はイタリアにちょっとちょっかいをかけてローマに君と話す機会を与えられるよう仕向けただけさ」
「ったく、余計なことばっかしやがって」
俺はため息まじりにそう答えたが
「でもよかっただろう?」
「余計なお世話だよ」
そう言ってやると湊は俺の部屋を出ていった。
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」