「...ろ!...きろ!...起きろ冬也!」
「んん...あぁ?」
俺が目を覚ますと、湊が俺の顔を覗きこみ、肩を掴んで揺らしていた。
時計を確認すると針はとっくに起床時間であるはずの6時を過ぎているのが確認できた。
「起きなよ冬也。もう7時になる。仕事の時間が近いよ」
寝起きで思考が安定しないなか、仕事と聞いて頭を左右に軽く揺らし微睡む脳を無理矢理起こす。
「...今日は仕事がある日だったか。よし、朝メシ食いにいくぞ」
『仕事』の言葉が出た瞬間俺はすぐに立ち上がると、服装を簡単に整えて食堂へと向かった。
「提督、おはようございます」
「司令官さん!おはようございます!」
「おはようございます、冬也さん」
食堂へ着いた俺と湊には艦娘たちの挨拶の声が飛んできた。
鎮守府に居座り続けて早いもので1か月半ほどたったが最近では駆逐艦の連中を中心に声をかけてもらったり整備や遊びの相手をしてあげたりしている。
最初は警戒されていたのが嘘のように駆逐艦たちにはなつかれた。
しかしどうもまだ重巡や戦艦たちといった艦娘たちとはあまり関わりがない。
だからどうにか関わるような機会が欲しいものだ。
そう考えながら料理を受け取り席に着いた。
湊も俺のとなりに料理と箸を持って座った。
白飯に卵、味噌汁に焼き魚、そして麦茶、いかにも日本人らしい朝食だ。
「おい、お前は俺とじゃなくて艦娘の奴らとメシ喰えよ。回りの視線がいてーんだよ」
俺は小声で湊に耳打ちした。
実際、冬也は湊が艦娘たちと仲睦まじく食事を共にする姿を頻繁に見ている。
今は冬也というよそ者同然の人間がいるため近づきづらいのだ。
「いいじゃないか。それにどこで食うかなんて俺の自由だろう?」
「はぁ、言っても無駄だな」
呆れてため息をついていると目の前に巫女服に似た服を来ている艦娘がやって来た。
(コイツは確か、金剛だったか?)
いまいち顔と名前が一致しないでいると
「HEY!テートクゥ!私も隣に座っていいデスカー?」
「おはよう金剛。俺の隣くらい勝手に座ってくれても大丈夫だよ。比叡たちもどうぞ」
「Thank You!」
「それじゃあ私たちも...失礼しますね」
金剛以外にも3人の艦娘、比叡、榛名、霧島が湊の回りに座った。
「あなたが提督の言っていた新しく着任した人ですね。私は金剛型戦艦の4番艦、霧島です。こちらが」
「3番艦の榛名です」
「比叡です!」
「Name Shipの金剛デース!よろしくお願いしマース!」
「おう、しばらく世話になる清瀬冬也だ。よろしくな」
しっかりと自己紹介に自己紹介で返すと向こうは笑顔で握手を求めてきて、俺はその手を軽く握った。
互い自己紹介を終えると四人とも湊と喋りはじめてしまった。
冬也は一瞬で蚊帳の外にされて少し傷ついたがしょうがないとおもいっきり黙々と食事をすることにした。
「そうだ冬也。いい忘れていたけど今日の仕事は町に出て艦娘たちの希望の品物を買ってきてもらうことなんだ」
「希望の品物?」
金剛姉妹との会話をやめたと思ったら唐突に仕事の話を吹っ掛けてきて、しかも買い物が仕事だときた。
「うん。彼女たちは日々国を守る為に戦いに出ているけど戦ってばかりだと疲労が貯まって全力で戦えない。」
「だから大本営は艦娘のメンタルケアの一貫として希望の品物を入手できるようにしてるんだ。だから君には今日町に出て要望の買い物を済ませて来てもらう」
「分かったよ」
話を聞き終わり食器を片付けにいこうとすると何者かに服の袖を捕まれた。
「!?」
「話は聞いたヨトーヤ。その買い物、私も付き合うデース!いいよねテートク?」
「なに?」
「そうか金剛、たまには君も町に出たいよね。いいよ、冬也と一緒に行って来るといい」
「お姉さまが行くなら私たちもお供します!」
「はい!」
「比叡も共に行きます!」
「なら決まりだね。冬也、いいかい?」
「...俺は別に構わねーけど。5人も車に乗れんのか?」
せっかくの交流のチャンスだしこの世界の横須賀はまだ一度しかいったことがないため地理的にもいい案内人が必要だ。
「それは大丈夫だ。うちの車は最大8人乗りの大型車だからその点に関しては問題ないよ」
「わかった。じゃあ9時に正門前に集合だ。準備しとけよ」
「分かりました。それではまた、冬也さん」
金剛姉妹は支度をするために食堂を出ていった。
「お待たせしました!」
「待たしたネー!」
あの巫女服ではなくまともなシャツに着替えてきた金剛姉妹が集まってきた。
まともな服を持っているなら最初からそれ着てろよと思ったが、口に出さないようにした。
「よし、全員集合だな。じゃあ行ってくるわ」
「金剛たちのこと任せたよ」
「それでは司令!気合い、入れて、行きます!」
「行ってくるネ!」
「それでは行ってきますね、提督」
俺たち5人は車に乗り込み横須賀鎮守府を後にした。
道中俺は運転に専念しつつ、金剛たちの会話に耳を傾けていると何気ない会話をしていた。テレビの芸能人がどうだとか、あの女優のあのファッションがいいだとか、ドラマのヒロインがなんだとか。
(やっぱり、艤装をつけないでいれば普通の年相応の女の子なんだな)
俺がそう感心していると
「ところで冬也さん。あなたの事を私たちに話してくださいますか?」
「あ?別にいいけど...急にどうしたよ?」
「いえ、司令官からはあなたがその...少しばかり特殊な事情で鎮守府に来たということは聞いていたのですが、それ以外あなたの事を何も知らなくて...」
「そういえば...そうですね」
「ワタシもトーヤはたまたま横須賀に流れついてたってことしか知らないネ」
「榛名も気になります。冬也さんの事、是非教えてください」
この流れ少し前にもあったなと思ったが、まぁ聞かれたら答えるのが礼儀だ。
「あんまり面白くもねーけど...俺はーーー
一一一っていうのが俺が横須賀に来るまでの話だ」
「...なるほど、随分とあなたのいた世界というのは大変だったようですね...」
「ひえぇ...」
「超能力者たちがたくさんいる世界...榛名、驚きました」
「トーヤは今まで大変だったんだネ」
「あぁ、自分で言うのもなんだけど俺はロクな生き方をしてねーな」
車内に沈黙が訪れた。少し場が暗くなってしまったか。
でも聞かれたことに答えた結果がこれならしょうがない。
これもまた交流の一貫だ。
「一つ質問してもいいですか?」
「何だ霧島?」
「どうしてあなたは同じ能力者たちとは共に新たに人間の支配者になろうとしなかったのですか?
世界の能力者の6割の人は力を持たない人間を倒し新人類になろうとしたんですよね?なぜあなたは同調しなかったのですか?」
「.........奴らは自分のたちを『人間を超越した存在』だって自称してたけど、あくまでも人間以上なのは身体能力とかだけだ」
「その能力を何に使うのかっていうのは、やりたいことをするだけ。そんな連中の目指す社会なんかにはなんの展望も感じなかった。...っていう事を俺らの母さんが言ってくれて、それに同調したまでだ」
「母さんというのは、あなたが幼い頃に引き取られた薔薇園という養護施設の施設長さんのことですか?」
「あぁ。母さんが俺たちに正しい生き方を今まで教えてくれた。だからその考えに同調することにしたんだよ」
「...なるほど」
「まぁ、そんなところだよ。そろそろ到着するからしっかり自分の荷物持っておけよ」
「よし、到着だ」
「運転お疲れさまでした」
俺たち5人は車を大型ショッピングモールの駐車場に停めた。
「それじゃあ四人とも、あらかじめ渡しておいた希望の品物が書かれた紙、それを持って二組に別れて買い物を済ませていくんだ」
「自分が欲しいものがあったら買ってもいいって許可は湊から出てるから無理のない範囲で行動してくれ。霧島と榛名は俺に道案内とアシストを頼む」
「「「「了解!」」」」
そして俺たち5人は2グループに別れて買い物を始めるのだった。
女性用品店についた俺たちは要望のあった品物を買い集めていた。
本や雑誌、食料品は金剛と比叡に任せて俺たちは生活用品を探している。
「なあ霧島、榛名。ここの駆逐艦の欄にブラジャーが欲しいって書いてあるやついるけど駆逐艦って全員中学生くらいの奴らだろ?そんな胸大きくないだろ」
冬也の発言に霧島は目を細め呆れたような顔をした。
「デリカシーがない発言をしますね。それに駆逐艦の中にはFカップを超える子だっているんですよ?」
「は?あの身長とあのみてくれでF?随分と成長するやつもいるんだな」
「ところで...もし冬也さんがひとりで来ていたらひとりで女性用の服を買わされていたんでしょうか...」
「あっ、確かに」
もしも彼女たちが付き添いしてくれなかったら通報案件だったかもしれない。
なんてやつだ湊あの野郎...。
そこから俺たち3人はスムーズに買い物を行い時間通りの1時ちょうどに店のフードコートに到着できた。
そして金剛と比叡も時間通りに来てくれた。
「いやぁ、いっぱい買いましたね冬也さん!」
「そうですね比叡お姉さま、こんなにたくさん買ってしまって車に載せきれますかね?」
「もし荷物が入りきらなかったら比叡には走って鎮守府まで帰ってきてもらうけどイイ?」
「えぇ!?でもお姉さまがおっしゃるなら比叡、気合い!入れて!走ります!」
「いやでも多分大丈夫だと思うぜ。行きもかなり余裕があったしな」
「多分って、適当ネー」
「にしても重巡や戦艦たちが欲しがってたファッション雑誌、あれ在庫切れしてたのが残念だったな。」
「えぇ、あれはこのお店の店舗でしか手に入らない者でしたから残念ですね。」
「ま、また来てそん時に買えば良いだろ。取り寄せもしたんだからな。それじゃ、軽く飯でも食べて帰るとするか」
そう言い俺は四人に千円札を一枚ずつ渡した。
「みんな自分の好きな物を食べていいぞ。全部湊の財布の金だから心配すんな」
「提督のお金を勝手に使ってしまっていいのですか?」
「いいんだよ榛名、あいつは俺に買い物の為に使えって金を渡したんだ。だったら俺らがメシ食うのに使っても、なんも文句は言わねーよ」
フードコートで食事をしている俺たちは雑談をしながら昼を満喫していた。
「そういや比叡、花は買い物リストにはなかったけどそれがお前の欲しいものがだったのか?」
比叡が片時も離さず抱えている花を見て聞いてみた。
「はい!わたしガーデニングが趣味なんですよ!」
「最近比叡はずっと花を見てばっかりだったからネー」
「いえっ!わたしは金剛お姉さまのこともずっと見ていますよ!」
さらっとストーカーじみた事を言ったように聞こえたが日常茶飯事なのか、榛名と霧島はじゃれあうふたりを笑顔で眺めていた。
4人とも食器を店に返したことを確認すると駐車場に向かって歩き始めた。
時間はもう2時を過ぎていた。
俺は自分が持っている買い物袋を見てもしも彼女たちがいなかったら倍以上の時間を要していただろう、と考えた。
「じゃあ車のリアに荷物を積み込んでくれ。傷がつかないように注意を頼むぞ」
一声かけると金剛たちは大量の荷物を黙々と車に積み込み始めた。
俺も手伝いつつ最後の荷物を積もうとした時だった。
「あっ!あのすいません!」
「なんですか?」
俺の後ろにいたのはさっきの女性用品のところの店員だった。
頭を下げつつ
「先ほど商品は完売したと言ったのですが実はもう一冊残っておりまして...もしよろしければお買いになりますか?」
「何かと思ったらそういうことか。分かりました。買います」
「ありがとうございます。ただいま商品を持って参ります」
そう言うと店員は雑誌を取りに店内へ戻っていった。
だがまた戻ってこさせるのも一苦労だろう、そう考え俺は店員を追うことにした。
「悪い。俺は店員のとこに行ってくるから四人は待っていてくれ」
「待ってください。あのお店は女性用品のお店です。冬也さんひとりで行くのは世間体的によろしくありません。私と榛名も行きますよ」
霧島の言葉を聞いた榛名は首をたてにふった。
「さんきゅ、じゃあ行くぞ」
俺と霧島、榛名はもう一度店内に戻っていった。
「みんな行っちゃいましたねー」
「そうだネ」
2人残された比叡と金剛は駐車場の車の前で3人が戻って来るのを待っていた。
金剛は比叡が車に花をおかずに抱き抱えているのを見て
「どうして比叡はずっと花を持っているノ?車に置けばいいのニ」
と質問した。
「それはですねお姉さま!花は結構デリケートですから、もし車の中に置いたりして他の荷物に潰されたりしたら大変です!だから土に植えてあげるまで肌身離さず持っていなきゃダメなんですよ!」
と、比叡は手をぶんぶん振りながら金剛に説明した。
そんな妹の姿を金剛は笑顔で見つめていた。
「なるほど~、一生懸命頑張れる比叡は良い子だネ!」
「いえいえ~それほどでもないですよ!」
比叡は謙遜しているようだが金剛に誉めてもらえたからかとても笑顔だ。
頬も少し赤くもなっている。
「それにしても今日は暑いですね。喉がカラカラです」
「じゃあ向こうに自販機があるから買いにイク?」
「そうですね。行きましょうお姉さま」
そして二人は車から離れて駐車場を出た場所に設置してある自販機へと向かって行った。
金剛は紅茶、比叡はスポーツドリンクを買い、金剛はゆっくりと、比叡は勢いよく豪快に飲み干した。
「ぷは~、生き返りますねお姉さま!」
「そうネ!じゃあ戻りまショ」
比叡と金剛が駐車場に戻ろうとしているとそこに突然大きなグリルから3人の若い男たちが現れ金剛を取り囲んだ。
「ねェお姉さん!よかったら俺たちと遊びに行かない?」
「お金もたくさん持ってるんだよ!」
「おいおい初対面なんだから敬語使えよ」
金剛は突然の出来事に慌てて、何より男たちに囲まれてるという状況から少なからず恐怖を感じているのか何も答えず「えっ...あの」と言い口をパクパクとさせていた。
比叡は最愛の姉に危険が迫り咄嗟に男たちと金剛の間に割り込んだ。
「お姉さまを困らせるのはやめてください!」
愛する姉を守るため金剛の腕を掴んでいる男の肩を掴み、引き剥がそうとする。
だが艤装を装着していない状態の比叡はただの見た目相応の力しか発揮できない。
そんな比叡を見てか
「お!君もめちゃ可愛いね!」
「姉妹なの?全然似てないね」
「君も俺たちと遊ぼうよ!楽しませてあげるからさ」
比叡の言葉に耳を傾けず男の一人が二人の腕を掴み自分達の車へと引っ張った。
「ちょっと!放して!」
「私たちは今から帰るところなんです!」
「いーからいーから。ほら暴れないで!」
必死に抵抗する金剛と比叡の言葉を無視して男たちは強引に二人を車へと引きずり込もうとしている。
周りに助けを求めようと辺りを見渡すがここはショッピングモールの裏の人気のない場所。周りには誰もいない。
金剛の半身が車へと押し込まれそうになり比叡が息を大きく吸い込み叫んで助けを呼ぼうとした瞬間、
金剛の腕を掴んでいた男の手を、どこからか現れた灰色の服を着た男が掴んだ。
「おい、やめなって。その子達、嫌がっているじゃないか」
「あ?誰だテメェは?」
「今いいとこだったんだから邪魔しないでくれる?」
灰服の男は金剛と比叡の腕を掴んでいた手を無理矢理男たちから引き剥がした。
比叡は引き剥がされた衝撃で手に持っていた花を地面に落としてしまった。
「おいテメェ、自分が何したか分かってんのか?3人相手にいい度胸じゃねぇか!」
「カッコつけやがって!ヒーロー気取りかぁ!?」
と言い、男たちは灰服の男を睨み付けた。
「その汚い手で彼女たちに触れるなよ。この美しい肌が、お前たちの汚い手垢だらけの手で汚れたらどう責任をとるつもりだ」
「んだとコノヤロウ!!!」
と顔を真っ赤にした男の一人が灰服に殴り掛かろうとした。
灰服は避けようともせずその場に立ち止まったままだ。
「あぶない!」
金剛が声をあげる。
だが、男のパンチは灰服の顔の目の前で、ほんの数センチのところで止まった。
他の男たちはなぜパンチを止めたのかと不思議そうな顔で見ていると
「ぐああああっ!!いっでえぇぇ!!!」
パンチをした男が自身の右腕を掴み地面にゴロゴロとのたうち回った。
右腕は本来あり得ないであろう方向にぐにゃりと曲がっており折れてることは一目瞭然だ。
(いったい何を...)
金剛と比叡、二人の男が驚いている。
灰服は男二人を睨み付け
「お前らみたいな女性の扱い方も分かっていない連中と、こんな美人たちを同じ空間に1秒でも一緒にいさせてるだけでもとことん胸糞悪くなるんだよ。とっととどっか行きな...」
灰服の男は二人に向かいいい放つ。
男たちの間を通り、尻餅をついている比叡のもとへ向かっている。
「舐めやがって...ぶっ殺してやる!」
「おおかた、なんかおかしな手品でも使ったんだろ!」
男たち二人は灰服の両サイドに回り込んだ。
「へへっ、こーやって殴ればさっきの手品もできねーだろ?」
「じゃあ死ねや!」
二人の男は同時に助走をつけて灰服へと殴りかかった。
それでもなお、灰服の男は避けようともせず、歩みをとめない。
「避けて!」
比叡が今度こそまずいと思い叫んだ。
が、既に男たちのパンチは同時に灰服の顔に当た...
「「えっ!?」」
らずに灰服の顔面を突き抜けるように透過し、互いに互いの拳が顔面にぶつかり合い男たちはぶっ飛んだ。
二人のパンチは男へと当たらずその頭を透けていったのだ。
「なっ!なんなんだテメーはぁ!?」
「ばっ、化け物かぁ?」
灰服は尻餅をついている男たちに歩み寄ると
「これが最後の忠告だ...さっさと消えろ。さもないと次はお前らの体を透明にして地面から出られなくでも、してやろうか...?」
と言うと男たちを突き飛ばした。
男たちは「ひぇぇぇ!」と悲鳴をあげながらから逃げ出して行った。
灰服の男は比叡の花を拾い、ぺたんと座り込んでいる比叡に腕を伸ばした。
「大丈夫ですか?」
「っ!、はい。あなたこそ、どこもなんともないんですか?殴られたんじゃないかと思いましたけど...」
「えぇ。あれはまぁ手品のようなモノですよ。それとこれを」
男は比叡に花を渡した。
その花は地面に叩きつけられてしまったからか、もうボロボロだ。
「すみません。こんな風にしてしまって...弁償しますよ」
「いえいえ!全然大丈夫ですよ!こちらこそ助けてくれてありがとうございます!弁償なんて結構ですって!」
「む、そうですか...では、代わりといってはなんですがこれを...手を出してください」
そう言われ比叡は自身の手を男の前へとつき出す
すると男は比叡の手のひらに自身の手のひらを重ね彼女の手をトンッ、と軽く叩いた。
すると比叡の腕には一輪のバラとリモニウムが現れた。
「「えぇっ!スゴい!!」」
金剛と比叡は同時に驚き目を見開いた。
良いリアクションみしてくれた二人に満足し男はにっこりと笑っていた。
「バラの花言葉は『愛』、リモニウムの花言葉は『永遠』だ。身を挺して姉を守ろうとしたあなたには、この2輪がよく似合いますよ」
「花言葉に詳しいんですか?」
「えぇ。家庭菜園とガーデニングが趣味でね。花言葉には精通しているんです」
「そうなんですか...」
「ところでアナタ、名前は何て言うノ?お礼をしてあげたいデース!」
「私は神崎、『神崎雄二』です。お礼なんて結構ですよ」
「ソウ?でも何かしないと申し訳ナイネ」
「いえいえ、そうお気になさらないでください。にしても惜しいですね」
「何がデース?」
「比叡さん、あなたにはどうやら花は似合わないようだ」
「えぇっ!どうしてですか!?」
「アナタのような美人の前だと、どんな花も掠れて見えてしまう」
「なっ!?」
「えっ!」
雄二の突然の一言に二人は驚いた。
金剛が口を開けてポカンとしているのに対し、比叡の顔は紅く紅潮している。
「っと、もう時間もかなり遅い。私は用事がありましてね。そろそろ帰らなければ」
雄二は二人に背を向け歩き始めた。
手を軽くあげ、
「さようなら、相思相愛姉妹思いのお二人さん。もし縁があったら、またどこかで...」
「あっ!ちょっと待って!」
比叡が追いかけ、道に出たときには既に雄二の姿はなく、赤い夕日彼女の真っ赤な頬を照らすだけだった。
駐車場に戻ると同時に冬也と霧島、榛名も戻ってきており5人は車に乗り込み鎮守府へ帰り始めた。
「比叡姉さま、そのバラとリモニウムはどうしたんですか?最初と持っている花が違いますよね」
「あぁ、俺も気になってたんだが。比叡お前、顔真っ赤っかだぞ?日焼けでもしたのか?」
「えと、実はこれは...
ということがあったんです...」
「俺たちが離れてた間にそんなことがなあ」
「姉さまたちは大丈夫なんですか?どこも怪我してませんか?」
「大丈夫ダヨ、霧島。あのcoolboyが助けてくれたものネー」
「とにかくお姉さまたちが無事で良かったです...」
「ところでそのキザ男の名前は聞いてこなかったのか?」
「えぇ!もちろん聞いておきましたよ!
『神崎雄二』さんって言うんです!」
「うそ!?」
冬也は車を急停止させた。