「何だって!それは本当かい!?」
夜の横須賀鎮守府、子供はもう寝静まったであろう時間に二人の男がものすごいテンションで語り合っていた。
「あぁ!俺の仲間がこっちの世界に来ているかも知れないんだ!っというか来てる!」
「そうか...君以外にも君の仲間がこの世界に...」
「その可能性が高いんだ。だからどうにかして探し出すことは出来ないのか?」
「どうだろう...もしも君の言う神埼くんがここにいるとしても君と同じで戸籍もなにもない人間だ...
だから探し出すのは困難だろう...」
「ん...そうか...」
湊の発言に冬也は肩を落とした。
つり上がっていた目蓋は下がり落胆は目に見えていた。
「でも神埼くんも君と同じでここだと住むところもないだろうから路頭に迷っているんじゃないのかな?
だとしたら金剛たちを助けてもらった手前、保護してあげたいところなんだけど...」
「うーん、あいつは住み場所ならともかく、食べ物には困らないだろうなぁ」
「...まさか君みたいに能力を使って泥棒を働いてるんじゃないだろうね!万引きや盗み許容できないな...」
「あー、ちがうちがう。奴なら自分の力で食べ物くらいなら作り出せるんだよ」
「......へぇ。それは興味深い。もしよければ神埼くんの力はどういうものか教えてくれるかな?」
「いーや、それはあいつに会えた時に本人に聞いてくれ。俺が勝手に喋る訳にはいかないからな。能力ってのは基本、無闇に他人にゃ喋らないもんなのさ」
「そこまで言っておいて教えない事はないだろう...」
「わりーな、でもまぁ万能なやつだってことだけは確かだな」
「そうなのか...」
話題が終わりを迎え、落ち着きを取り戻した二人はそれぞれの仕事へ戻った。
湊は出撃の総合書、備蓄資源の整理書の作成を行い、冬也は間宮に貰ってきたのか、食べ終わったプリンについていたスプーンでジャグリングをしている。
「そういえば、比叡のやつはどうやらユージのやつにすっかり惚れ込んじまったようだな。
帰りの車んなかで顔真っ赤にしてたぜ。」
「へぇ」
と、湊は一言軽く返す。
「おいおい冷たいなぁ?可愛い部下の恋愛話だぜ?」
「見て分かる通り俺は今仕事をしてるんだ。後二時間で終わらせるから静かにしていてくれ。
...それに、あの金剛LOVE~な比叡がよりにもよって初対面の男に惚れるなんて結構驚いているんだよ」
「まぁユージは女たらしを形にしたようなやつだからな。しかも暴漢から守ってやったと来た。こりゃ惚れたっておかしくないわなぁ」
「そういうものなのかい?」
「そういうもんさ」
同時刻、横須賀鎮守府から離れた廃病院にて。
「う、ううう...」
鼻先に絆創膏を貼った男の呻き声ががらんと広がった薄暗い空間に小さく響いている。
その男の前には3人の男たちの姿があった。
浅黒い肌の男、小柄な中高生程の見た目の少年。
灰色の服を着ている男、"神埼雄二"もいる。
「日本ってよぉ。凄い国なんだよ、知ってたか?」
ぶつぶつと一人つぶやき始める。
「今から100年も前にあったドイツが発端で始まった未曾有の死者を出しちまった第一次世界大戦。
1918年に休戦条約が結ばれてな。その次の年の1919年にパリで講和会議が開かれたんだよ。
なんと!ここに日本はイギリス、アメリカ、フランス、イタリアと共に五大国の一員として参加したんだよ!
50年前は植民地ドーゼンだったっていうのに世界の五大国にまで登りつめたんだ。
ほとんどのアジアが当時列強と恐れられていた国々屈服していってた中だからその凄さがよーくわかんだろ?」
ゲホっと、急に喉が鳴った。ぼっと、何かが飛び出し、痰のように見えたそれは少しだけ血の赤色に染まっている。
「そしてなんとなぁ!この場で日本は世界初の人種差別撤廃を訴えるんだよ!
当時は今よりも差別ってのが激しい時代で日本としても重要な問題だった...。
それでも日本は世界初の人種差別撤廃を訴えたんだよ!
偉大なことだよなぁ!」
その男の話を聞いている小柄な少年は全身から冷や汗をかいて、眉間には険しいシワを刻んでいる。
緊張の最上級にある。
「そんで国際連盟委員会で17票中11票を獲得した。
『おっ、過半数とれてるじゃん』って思うだろ?でもアメリカのウッドウィルソンっていう大統領が"全会一致"を主張して破談になっちまったんだよ。
ウィルソンはきれいごとはベラベラとのたまう癖してこーいう大事な事には目を瞑るんだよなぁ」
「むぅ......」
「何が言いたいんだよ“挟持“...」
挟持(きょうじ)と呼ばれた男はその質問を無視し話を続ける。
「1922年にはアメリカのワシントンで“軍縮“についての国際会議が行われたんだ。
当時の世界は当初予想もしてなかった大戦争でみな辟易していたからな。これが有名なワシントン会議ってやつだ。」
「だがこの会議が日本の大きな転換点になる。」
「ここでは三つの重要な条約が交わされた。"四ヶ国条約"、"五ヶ国条約"、九ヶ国条約"だ。
まず日本の繁栄に大きく役立ってくれた"日英同盟"がこのワシントン会議の四ヶ国条約で廃止された。
日本とイギリスからの挟み撃ちにビビり散らしたアメリカがイギリスに圧力をかけて日本に撤廃を申し出させたんだ。」
「アメリカが『日本とイギリスの挟み撃ちをくらう~!!』なんてのは妄想に過ぎないんだけどな。まぁそれだけ日本を大国として認めてたんだろうなぁ...」
「日英同盟の破棄が四ヶ国条約に明記されて、アメリカはさぞ喜んだんだろう。
日英同盟を結んで日露戦争に実質勝利し、不平等条約を撤廃して、欧州戦線に突入して世界の五大国になる......。
日本の繁栄は常にイギリスと...日英同盟と共にあったんだ。
日英同盟を破棄してから日本が破滅に向かってくことを考えると、やっぱワシントン会議は日本の転換点とも言えるんだよなぁ...」
一人で延々と、まるで歴史教師のように喋り続ける挟持に痺れを切らしたのか浅黒い肌の男は
「だから何が言いてえんだよクソ野郎が!」
「俺はなぁ!お前のようなクソアメリカンが日本の邪魔ばっかしなけりゃこんな中が付く国にも劣るような国になったりしなかったってことだよ!分かるか"マンルート"よぉ!」
叫んだマンルートと呼ばれた浅黒い肌の男は挟持の襟首を掴む。
すると挟持もマンルートの服の胸元を掴み、互いに睨みあった。
マンルートは空いている左手で挟持の鼻に着いている絆創膏を勢いよく剥がした。
するとビリッという音とともに大きな痛みに教われた挟持は自分の鼻先を抑えた。
「ウギャアッ!!イッデェ!!」
「ハッ、コレデ少しは頭が冷めたかァ?」
「ふっ、ふざけやがって...!今日こそマジに殺してやろうかクソ野郎がぁ!!」
そう吠えた挟持は落ちてある鉄のパイプを拾うと右手に持ち替え「ふうぅぅ...」と力を込めた。
すると鉄パイプが光を発し始める。
その光景をみたマンルートはファイティングポーズを取り応戦状態に入った。
そして互いに数秒ほど睨みあい、挟持がパイプを振り上げた瞬間
「いいっ加減にしてくださいっ!!!!」
「「!!」」
「黙って見てれば喧嘩ばかりして!それでも僕より年上ですか!?大人ですか!?恥ずかしくないんですか?挟持さんはそうやって差別をするような発言は慎んでください!」
「うぅっ...」
突如として叫んだ少年、露崎辻風(つゆざき つじかぜ)は二人を止めに入る。
その迫力に気圧され挟持は黙り込む。
「ケッ、ツジの言うとおりだぜ。」
「シーモアさん!貴方もです!!」
「エ?」
「いくら挟持さんに煽られたからって暴力で返すのはダメですよ!そんなんだから野蛮だなんだと言われ続けるんです!」
「ぐっ...」
辻風に正論を言われてしまい何も言い返せない二人は互いを睨み合う。
そんな姿を見ても雄二はあっけらかんとして、一人どこから拾ってきたのか新聞を読んでいる。
「雄二さんも!しっかりしてくださいよ!」
「え?なんでオレも?」
「貴方はこの四人の中で一番年上なんです!
だから本来は雄二さんが僕らの指揮を執らなきゃいけないというのにこの世界に来てからあなたはロクにお金を入手しようともしないでここに入り浸ってるだけじゃないですか!!」
「それにフラッと出掛けたと思ったら何もしないで帰ってくる!まさかまた女性に声をかけまくってるんじゃあないでしょうね!?」
辻風の発言に雄二は目をそらした。
だがその瞬間を見逃される筈もなく。
「......まさか図星なんですか?本当にナンパしてたんですか?」
「いや待ってってパパ。確かに俺はお金稼がないで神奈川練り歩いてたよ。
でも人助けしたのよ人助け。拉致されそうになってた女の子を助けたんだって」
「本当ですね?」
「ホントホント。信じてって。めっちゃ可愛かったんだから」
雄二はヘラヘラと笑いながら説得をする。
そんな姿を見て気に入らなそうな視線を送る辻風だった。
「ならこれ以上は咎めません。が、明日からはしっかり情報収集と合法的にお金を稼ぐ手段を見つけてきてくださいね?」
「分かったよパパ」
「なら良かったです。
それじゃ皆さん、夕飯にしましょうか」
そう言うと辻風はどこからかビニール袋を取り出しそのなかに入っているコンビニのサンドイッチやおにぎり、ペットボトルのお茶を三人に渡した。
「「「おー!さすがパパ!」」」
「パパって言わない!」
四人はそれぞれ自分の好みの食事を選んでいく。
「それにしてもツジの能力は便利だよなぁ」
「あぁ、ひとりサーカスと呼ばれるだけのことはある。町中で芸をして小遣い稼ぎするには適当過ぎるな」
「あなたたち、僕を小馬鹿にするときだけは仲がいいんですね...」
「そーいや誰か"アイツ"のいる場所の手がかりは掴めたの?」
雄二が他の三人に質問をとばす。だが誰も何も言わず首を横に振るだけだった。
「なぁ、やっぱりもう死んじゃったんじゃないの?」
マンルートはボソリと、しかし響くような声で呟いた。
「なんてことを言うんです!僕らはあの人を探しに雄二さんの力を使ってはるばる世界を越えて来たんですよ!そんな縁起の悪いことを言わないでください!」
辻風が声を荒げて叫ぶ。
雄二はそんな辻風の肩を掴み、
「まぁ落ち着きなよパパ。確かにアイツを探すのは至難の技だ。それにこんな状況にしちまった俺にも責任がある。
だから偉そうなこたあ言えないけどきっと見つかるさ」
「その自信もあなたの力すか?」
「ただの勘だよ」
「不安しかないですよ...」
(にしても、どこにいるのかねぇ...)
((((冬也(さん)...))))
この4人の男たちこそ、冬也と同じ養護施設、❲薔薇園❳の出身者であり、能力者の集団なのだ。