「いい感じ、いい感じ!」
彼女、白露型駆逐艦の❲村雨❳は敵の空母凄姫に対し、最後の砲撃を行った。彼女の主砲では相手の装甲を破壊することは難しい。
それこそ、同行した長門が持つ46cm連装砲でなくては有効打を与えることは不可能に近いことは分かっている。
これで空母凄姫とは何度目の戦いになるだろう。今回、彼女たちの鎮守府は制海権の奪還任務を行っていた。
私たちの鎮守府は設立されて3年以上の時が経っている。
そしてその任務に対し、司令官こと湊は長門を旗艦として酒匂、球磨、プリンツ、村雨、そしてSaratogaの六人で艦隊を組み、そして任務に望んだ。
「オノレぇ、ヤメロ……ヤメロヨォオ!!」
村雨の最後の主砲が空母凄姫をかすめ、代わりに周囲の随伴艦を焼いた。空母凄姫がこの海域にこだわる理由は分からない。
だが彼女を無力化することが出来れば……姫級たる彼女を轟沈させることができれば、それは深海棲艦全体にダメージを与えることにつながる。
「よくやったクマ! あとは頼んだクマ!サラさん!!」
球磨がそう叫んだ。設備や装備を空母凄姫に攻撃を与えられるようになるまでに弾薬をほとんど消費して徐々にしかダメージを与えられなかった。
そして今回、敵である集積地棲姫に蓄積させつづけたダメージがついに限界を迎えつつあるようだった。空母凄姫は、今まさに崩れ落ちようとしていた。
「これでLast!サラの子達!お願い!」
Saratogaは自身の飛行甲板から艦爆隊を発艦させた。妖精さんたちによって操縦された数機の艦載機たちが、空母棲姫に向かって飛んでいった。空母棲姫の頭上高く舞い上がった艦爆隊たちは次の瞬間急降下をはじめ、甲高い音を発しながら爆撃を行った。
今の疲弊しきった空母棲姫に対しては決定打となりうるであろうことは想像に難しくない。私達が見てそれが分かるほど、空母地棲姫は疲弊しきっていた。
そしてSaratogaの艦載機の爆撃が空母凄姫に直撃し大爆発を起こす。
「グアァァ!オノレェ!オノレェ!コレデオワッタとォ...思ウナヨォ!!」
空母凄姫の艤装はボロボロになる。そして立っていられなくなった彼女は、怨嗟の声をあげながら...沈んでいった。
「やりましたね!」
「あぁ!我々の勝利だ!これで奪われた海を奪回できる!」
「お疲れ様でした!」
『みんなお疲れ様。今からそっちに援軍を向かわせて残りの深海凄艦の掃討を行うから今すぐ6人は帰って来てくれ』
「了解だ」
「了解です」
「ねぇ、長門さん...」
「ん?どうした。村雨?」
「あれを見てください」
村雨が指を差す方向には、ひとつの小さな島が見えた。そこに誰も住んでいないことは確認済みだったはずだが何事かと思い、目を凝らす。
島には蠢く巨大な影があり、影は腕をこちらへ向けて来て、
ドン!!
と一発、右腕に装備している巨大な砲塔から弾が発射された。
「っ!村雨!!危ない!」
長門は村雨の前に立ちはだかった。
「はい。というわけで本日御三方は何をしてらっしゃったのか、ご報告をお願いします。まずは挟持さん。」
「海沿いの町の連中に冬也の事を知ってるかっつって写真を見せて回ったけど。誰ひとり知ってる人はいなかった」
「そうですか。残念。次はジェームズさん。」
「横浜とか横須賀で冬也さんを知ってる人がいるか聞き込みして回ったが、有益な情報は得られんかったぜ」
「お疲れ様でした。次は雄二さん」
「俺も横須賀に向かったんだがな、冬也の目撃情報...見つけたぜ」
「「「本当ですか!?」」」
雄二の一言に3人は声を挙げて驚く。
そんな3人の反応を見て満足げに
「あぁ。役所によって写真を見せたんだがな。最近来たそうなんだよ」
「そ、そうなんですか!で肝心の冬也は今どこに?」
「聞いて驚けよ挟持.........冬也の奴は今、鎮守府にいる」
「鎮守府?それはどこにあr「鎮守府ですってぇ!!あの艦娘たちがいる鎮守府ゥ!!?」
夜中の狭い廃病院に挟持の大声が響いた。
そのうるささに辻風とジェームズはとっさに耳を抑えた。
「冬也は今横須賀の鎮守府にいるんですね!早速行きましょう!今すぐ行きましょう!ちゃっちゃと行きましょう!」
「落ち着いてください挟持さん。あなた鎮守府に潜入する口実欲しいだけでしょう?雄二さんの話も終わってないんだから黙っててください」
「冬也の兄ぃが鎮守府に...!まったく羨まし過ぎるぅ...!」
辻風の静止を聞かずブツブツと喋り始めた。
ジェームズはため息を吐く。
「このボケナスはダメだ。ほっとけ。それより雄二さん。その話の出所は何です?」
「役所に聞いてみたんだがな、最近冬也は鎮守府のバッジと証明書を持って来て近隣の工場からトラックでものすごい量の食料を持っていったんだと。それが目撃情報のソースだ」
「なるほど。で、どーするんです?早速乗り込みますか?」
「あぁ、さっさと乗り込んで冬也を回収して元の世界に帰ろうぜ?」
「ちょっと待ってください。鎮守府は聞く限りだと政府の施設。しかも生物兵器の艦娘がいます。もしも見つかったらただじゃ済みませんよ」
「そこは冬也さんをさっさと見つけりゃ何とかなるだろ。俺は行かねーけど」
「ちょっと皆さん待ってくださいよ。そもそも鎮守府の場所も知らないのに『能力』で跳ぶことできるんですか?」
「安心しなって。鎮守府の回りには常に監視カメラがあるから一般人は出入り出来ない。が外観はだいたいわかった。これなら建物のすぐ近くへ跳べるさ」
「分かりましたよ。侵入する準備は整っているんですね...後は誰が行くか、ですね...」
「俺!俺が行きます!鎮守府俺が行きます!行かせてください!」
「まぁ俺もパパも行く気はねーんだ。もしもに備えて2人以上で行った方が専決だ。それでいいか?雄二さん。パパ」
辻風は少しばかり考えると、
「まぁいいでしょう。でもいつ行くんですか?」
「いつってそりゃあなぁ?」
「もちろん!!」
雄二と挟持は互いに手を握りしめる。
「今すぐにだ!!」
雄二はポケットから半透明のケースを取り出し、カードを一枚抜く。そこには『T』というアルファベットと2人の人間が描いてあった。
「「しばしの別れだ!」」
そう言うと2人はその場から一瞬にして消えてしまった。
『第一艦隊、帰港しました!!』
「村雨!大丈夫!?」
「長門は?長門は無事なの?」
鎮守府はあわただしい雰囲気に包まれていた。
それも当然だ。艦隊の旗艦たる長門が敵の砲の直撃を受け大破、気絶して戻ってきたというのだ。
また、同艦隊の村雨も同時に被弾し中破してしまっていた。
ドッグに向って多くの艦娘が集まってきて担架に載せられている長門と村雨を囲んだ。
2人とも意識が無い。
長門の担架は彼女の血で真っ赤に染まっている。
その時、長門の、目がピクリと動いた。
「うっ、ここは...?」
「長門、もう大丈夫よ。鎮守府に戻ってきたわ」
「む、そう...か...情けない姿を...見してしまったな...」
「あなたは村雨を庇ってやられたのよ。何も恥じることなんて無いわ」
彼女の妹の陸奥と同艦隊のSaratogaが長門を励ます。
2人を囲む集まりの中にひとりの男、湊提督が入ってくる。
「村雨!長門!大丈夫か!?」
「提督よ。私なら心配はいらない。この程度なら少し休めば大丈夫だ。私よりも村雨を心配してやってくれ。彼女があの深海凄艦を見つけなければ私たち6人は全滅していただろう」
「だがお前がこうなったのは俺に司令官である俺に責任がある。謝らせてくれ」
「止せ。貴様が謝罪する必要は無い...ただ、今は少し休ませてくれ...」
「あぁ、今すぐ入渠を行って医務室で横になるんだ。話はそれからだ」
「了解だ」
長門がそう返すと担架は明石たちによって運ばれていった。
「ついに俺たちにも例の新型の手が迫っていたという訳か...」
「クマ?」
「新型?あの右腕にデカイ砲台つけてバイザーを嵌めてるってやつか?」
「あぁ、今の球磨の報告を聞いて解った。君たちを襲ったのは新型の深海凄艦、『湾岸戦鬼』だ」
「「湾岸戦鬼!!」」
執務室では湊と冬也、そして球磨が件の事件についての会議を行っていた。酒匂やプリンツ、Saratogaは長門たちの看護を行っておりここにはいない。
よって今話を聞ける唯一の艦娘、球磨に話を聞いているのだった。
球磨の話を聞くと湊は大本営から発表された新型のイメージと一致させ今回長門たちを襲った深海凄艦はその『湾岸戦鬼』だと確信していた。
「いずれこの鎮守府も狙われると思っていたが襲われたとなればこちらも迎撃を行う。ちかいうちに全艦種のリーダーを集めて今度会議を行うと皆に伝えといてくれ。以上だ」
湊の眉間には太い皺が出来ており、目も鋭くなっていた。
真夜中の鎮守府の正門の内側。静寂に包まれたそこに突如として2人の男が現れた。
「乗り込めましたね...」ボソッ
「あぁ、ここが鎮守府ねぇ...」ボソッ
「そうです!日本を守護したかつての英霊が人の形を取り再び蘇った。そんな救世主の住まう場所がここ鎮守府です!」
「声がデカイよ。バレんだろ」
バシッ
「はは、すんませんつい興奮しちゃって」
「お前さっきからずっとそんなテンションじゃないか?いくら夜中といえどここは国の施設だ。さっさと冬也を見つけて帰るぞ」
「了解」
「くれぐれも見つかったりするような行動は慎んでおけよ」
そして、2人は鎮守府へと入って行った。
雄二は全員へため口。
挟持は雄二へは若干敬語。
マンルートは冬也と雄二へ敬語。挟持へは辛口。
辻風は全員へ敬語