誰もが寝静まっているであろう深夜12時。
この横須賀鎮守府の正面玄関の横に2人の男が潜んでいる。
雄二と矜持の2人はボソボソと小声で会話をしていた。
「この時間帯なら建物の連中はもう眠ってんだろ。入るとするか?」
「俺はいつでも構いませんが...『Clear』のカードは使わないんですか?」
「あぁ、『Clear』ね。忘れてたよ」
雄二はポケットからカードケースを引っ張り出した。するとケースからCと書かれて共に人間の身体の輪郭だけが描かれているカードを取り出した。
「手を掴め」
矜持は雄二がカードを握っている手とは逆の手を掴んだ。
それと同時に雄二と矜持、2人の体が一瞬にして透明になったのだ。
「よし、完了ですね」
「あぁ、でもこの透明の効果が続くのは10分くらいだ。早急に冬也を見つけて帰るぞ」
「オーケー、分かりました」
深夜ともなれば年中無休を貫く鎮守府でさえも暗闇に包まれている。
そんな中、矜持たちは共に鎮守府の中を散策していた。
黒いプレートに白い文字で『食堂』『娯楽室』『ジム』『ランドリールーム』と様々な部屋を見て回るが冬也を見つけることはできないでいた。
「ホント、ここはやたらと広いな。一階だけで『薔薇園』の校庭ぐらいの広さがあるぜ?」
「どうするんですか?このままじゃ冬也を見つけられないで夜が開けちゃいますよ?というかその前に透明化の能力が解けちゃいますよ?」
「どうするっていったって、時間の許す限り探し続けるしか無いだろ」
この横須賀鎮守府は4階構造になっている。
まず1階には執務室や工廠、ドックなどがあり、残りの2階、3階、4階は全て艦娘の個人部屋、姉妹部屋となっている。
ちなみに海外艦は鎮守府のとなりに海外艦僚として隣接している。
彼らは今まで一回の部屋を1部屋ずつ開けて回っていたのだが、冬也の部屋は一回の執務室を入ってさらに奥の部屋、いわゆる査問官や御偉いさんが来た場合の客間となっているのだ。
何故客間が執務室の奥にあるのかというと、艦娘による査問官たちへの暴行等を防ぐため。といわれている。
「一階の一番奥に来ました...が、ここが最後の部屋。ですけど」
「電気が点いて、扉が半開きになってるな...」
一階の一番奥にある部屋。医務室だ。それは怪我を負った艦娘が傷を癒す入居施設以外の、かすり傷や切り傷ぐらいの簡単な怪我を治す為ともうひとつ、意識が戻らない艦娘の安置場所ともなっているのだ。
「俺たちは今、『透明になってる』んだから覗く分にはバレやしない。中に誰もいないのを確認したら入るぞ。いいな?」
「分かりました」
相槌を打った矜持は雄二へと着いていく。
半開きのドアから中を覗き、誰もいないことを確認した。
「よし、入るぞ」
内装はなんてことはない高校や大学にある保健室のようなものだった。ソファーに椅子、ベッドがある。
そのまま奥まで進むとそこには中途半端に開いているカーテンが目に飛び込んできた。
「あそこ、見てください。もしかしたら...」
「あぁ」
2人はゆっくりと歩きながらカーテンを開ける。
すると、
「「!!」」
ベッドで横になっていたのは白い患者衣を着た2人の女だった。
1人は大人の、もう1人は多く見積もっても高校生くらいの女性だった。
雄二はゆっくりとカーテンを閉じる。
「あ、危なかった...もしこの2人に意識があったと思うとヒヤッとしちゃったぜ」
「.........」
「どうした?」
顎に親指を当て何か考える体勢を取る矜持に雄二は質問をする。
「今の2人、艦娘ですよ」
「!...ほー、今のが艦娘。全員美しい容姿を持っているという話は聞いてたが...どうやら嘘じゃ無かったらしいな。」
「だが冬也じゃ無かったんだ。そろそろ『Clear』も解ける。ひとまず今晩は撤退するぞ」
医務室を後にしようとした雄二。だが彼の肩を矜持が掴んだ。
「?」
「待ってください。今の2人、酷い怪我でした。...あなたの力で治してあげられませんか?」
「...治すってお前、『phoenix』を使えっていうのか?」
「はい」
「ふぅ、しょうがないな。準備だけしたらさっさととんずらするぞ?」
「!、有り難うございます!」
雄二は再びカーテンを開ける。そしてポケットからカードホルダーを取り出した。そしてカード群から『phoenix』というアルファベットと赤く燃えている鳥が描かれているカードを一枚、『copy』というアルファベットと2枚の紙が描かれているカードを一枚取り出した。
『copy』のカードを強く握るともう片方の手に持っていた『phoenix』のカードが二枚に分裂する。
そしてカードを一枚ずつ、艦娘一一一長門と村雨の胸の上に置いた。
カードから煙のように出てきた赤と青の線は長門と村雨の身体をゆっくりとら優しく包み込んだ。
するとみるみるうちに2人の身体のアザや怪我が消えていき、苦痛にうなされていたうなっていた2人は安らかな笑顔となった。
「よし、これでひとまずの処置は完了だな。顔も痛みで歪んだ顔じゃなくて元の美しいお顔に戻ったしね」
「雄二さん。ありがとうございます」
矜持は雄二へと頭を下げた。
矜持は目の前で礼をする雄二の頭をあげさせる。
「わざわざ感謝されることでもねーよ。お陰で美人の寝顔を拝めたんだからこっちが感謝してーくらいだぜ?」
「...本当にあなたという人はどこにいてもぶれませんよね...」
「それ、ちょっとけなしてる?」
「いいえ、ちっとも」
2人は数秒程顔を見合せる。
「フッ」
「はははは...w」
互いに笑いあった。
「んじゃ、冬也は一階にはいないのが分かっちゃったし、日を改めてまた来るとしよう」
「じゃあ、帰りましょうか」
雄二はポケットに手を入れ再びカードホルダーを取り出した。
矜持は医務室を出ようと振り返る。
その時だった。
背後から、『カチッ』という金属音が聞こえた。
「あなた達、何をしているの...」
「「!!!」」
医務室の入り口に1人の艦娘、『陸奥』が銃を構え、2人を睨みつけていた。
(なんで見られている?)
雄二は驚き透明化している自分達が見られた理由を考える。
透過の力はカードに触れた者が得られて、透明化したもの同士でしか視認出来ないはず...
(まずい!あの艦娘2人に気を取られ過ぎててもう10分過ぎてしまっていたんだ...!)
場所は変わってここは森の中にある廃病院。
「フッ!フッ!ハァッ!!」
マンルートは上裸になり身体を左右にジャンプさせながら拳を前に突きだし、引いては突きだしを繰り返していた。
そして一汗かいてくると動きを止める。
木片を集めて持っていたライターで火を起こした。
火の中へ鉄板を置き、ポケットに突っ込んでいたアワビを鉄板へ乗っけた。
「何してるんですか?」
「見てわからネーカ?アワビ焼いてんダヨ。2つ、オメーの分もあるぜ?」
「アワビってそんなものどこで買ってきたんですか?」
辻風の質問にマンルートはチッチッチッと口を鳴らした。
「海で取ってきたんダヨ。俺にかかりゃチョチョイのチョイダ」
「海って...この世界だと深海凄艦がいるから入ってはいけないはずでは?」
「アー、そーいやそんな看板あった気がスンナー」
「あのですねぇ!昨日も言いましたけど僕らはこの世界では戸籍が無いんですよ?個人を証明するものが無いときに問題を起こして捕まったらどうするんですか!?一生出してもらえませんよ?」
「そんなカッカスンナって。ホラ焼けてきたゼ?」
鉄板を見るとアワビが炎の中でピクピクと動いていた。
「アワビは焼いてくうちにプルプル動いて動きが止まったら食べごろナンだぜ?知ってたか?」
「知りませんよ...」
辻風はあまりの自由さに呆れ果てている。この人には何を言っても通じないのだろう。
彼はマンルートによって差し出されたアワビを食べ始めた。
「それにしてもオセーな雄二さんタチ」
「侵入する所はいくら日本とはいえ国が運営している施設です。施設員が寝静まるまで待機してるんじゃないでしょうか?」
「アーナルほど。じゃーソロソロ帰ってくるトコロか?」
「...どうも胸騒ぎがしますね...何も無ければいいんですが...」
「まっ、待ってください。俺たちは怪しいものじゃありません。人探しをしているんです」
「人...探し...?」
陸奥は疑り深く雄二を観察する。
「はい。それに今俺たちはこの艦娘の治療を一一一」
と弁解をするために雄二は横になっている長門の身体へと手を伸ばす。
だが、
「長門に触るなッッ!」
そう叫んだ陸奥は下ろしかけていた銃を再び2人へと向けた。彼女の瞳は憎悪に満ちていた。
(長門...?ってことは、もしかしたら目の前にいるこの艦娘は...)
矜持は銃を構える彼女の正体になんとなくだが分かり始めていた。
「矜持、逃げるぞ」
雄二は小声でそう呟くとポケットから『time』と書かれたカードを素早く取り出して矜持の腕を掴んだ。
「っ!何を!」
陸奥が叫んだ瞬間には、2人の姿は消えていた。
(今のは一体...)
陸奥は2人の男が消え去った後の医務室に呆然と立っていた。
そして最愛の姉の姿を確認するためカーテンを開けベッドに横たわる長門を見た。
(ウソっ...)
なんとあれほど痛々しかった長門の傷は完全に無くなっていた。隣の村雨を見てみると長門程では無いにしろ傷を負っていたハズなのだがその跡も綺麗に消え去っていた。
長門が目をパチパチと上下させ、目を覚ます
「...陸奥よ......どうした?そんな驚いた顔をして......」
「あぁっ!良かった!目を覚ましたのね!!」
陸奥は長門へと抱きついた。
今度は長門の方が目を大きく開き驚かされていた。
医務室の窓から雄二と矜持は一瞬だけ時を止めて陸奥の前から逃げたのだった。
「良かったですね」
「あぁ、そのうち隣の子も目を覚ますだろ。じゃあ俺たちは撤退だ、な」
そうして2人は闇夜へと消えていった。
再び山奥の廃病院にて...
「さて、申し開きはありますか?」
「「ねぇです......」」
「さすがの僕も頭が痛くなってきましたよ?」
「あれだけ目立つ行動だけは避けろ避けろ避けろ避けろ避けろと再三どころじゃあない数注意をしたのによりにもよって鎮守府で見つかるなんて...もしもカメラにあなた達の姿が写っていたら明日から仲良くお尋ね者ですよ?」
「い、いや落ち着けよツジ?俺らの透明化が溶けたのは医務室だ。さすがに医務室にはカメラついてないだろ?なぁ矜持?」
「え、えぇ!そうですそうです!だからダイジョウブですよね!」
矜持は食いぎみに雄二の言葉へと便乗した。
マンルートはそんな3人の姿を見てニヤニヤしている。
「そういう問題じゃあ。無いって言ったよぉ...」
2人が再び辻風の姿を見たとき、彼の身体の一部はは元の人の姿とは似ても似つかない怪物の姿へと変貌していた。手首からは刃が、爪は鋭く、15cm程の長さへと伸びていた。
「オ~イツジ?力が若干出ちゃってるぞ~」
雄二は恐る恐る辻風へ答えた。
ここで、今まで沈黙を貫いていたマンルートが口を開けた。
「まぁ待テヨ。雄二サンの話聞く限り、どう考えてもワリーのは矜持ダゼ?こいつの勝手な考えで艦娘ニテェ出したんだからナァ?」
「ばっ、馬鹿お前ぇ!!」
マンルートの余計な一言に矜持は焦る。
一方の雄二はどこかホッとしているように見えた。
「確かにそうですね...」
「ジャー決マリだな。お得意のケジメ、見せてくれヨ?」
正座をしている矜持の元へゆっくりと辻風は歩み寄る。
そして矜持は自身の顔の前で大きく手を振った。
「待て待て!今のお前の右手、『蜂の腕』だろ!アレルギーもちの俺が食らったら冗談にならねーって!!」
「や~れっ!や~れっ!」
マンルートが相槌を打つ。
「煽り立ててんじゃねーっよ!」
漫才を始める矜持とマンルートを見て辻風は
「はぁ...」
とため息をつく。
「もうこの件についてはこれ以上は咎めませんよ...」
「「おぉっ!」」
「た、だ、し!」
「2人は町に降りる事は禁止です!理由はもちろんお分かりですね?」
「うっ、それはちょっと辛いぜ...?」
「艦娘達のニュースが得られなくなっちまうよ...」
それぞれ反論する2人だったが辻風は厳しく返した。
「ダメなものはダメです。もし捕まったら面倒なんですから山籠りでもしててください。冬也さんは、僕とマンルートさんで見つけます」
「「ハハァ...」」