橙色の空を見上げ、白い病服を着た男がベッドで横になり、水平線の彼方を見据えている。
周囲にはコンクリートに打ち付ける波の音、吹き荒ぶ海風が港に掲げられた旗をはためかせる音が響いていた。
そんな海辺の音に耳を傾けていると、ドアをノックする音が聞こえ、扉が開けられ湊が入室してきた。
「やぁ、思ったよりも時間がかかっちゃってね。それも読み終えて暇だっただろう?」
「いや、大丈夫だ。まだ読み終わってないしな」
「なら良かったよ。それじゃ予定通り俺が鎮守府の中を案内してあげるよ」
「......そんな予定聞いてないぞ...」
「今考えたんだよ。ホラさっさと立ちなって」
そう言い湊は冬也が横になっているベッドを揺らした。勢いよく揺らしたため冬也はベッドから転げ落ちそうになり横のパイプを掴んで体勢を保っていた。
一病人に対する態度とは思えない
「ハイハイわかったから揺らすなって」
やれやれと声を出し冬也はベッドから立ち上がり医務室を後にした。
そして、湊提督による鎮守府の案内が行われた。各部屋や施設を歩きながら行われた説明である程度冬也は横須賀鎮守府についての理解が深まった気がした。
「それじゃ飯でも食いに行くか」
「いいのか?さっき少し食べたし別にいいけど」
「いいのいいの。それにもう9時だから食堂には艦娘はいないよ」
「そういう問題じゃないんだがな」
と言い冬也と湊は食堂へと歩き始めた。
気がつけば時間はもう夜の9時を回っていて駆逐級や軽巡級の艦娘は就寝の準備を初めており廊下で出会う艦娘も少なくなっていた。
「ところでさ、気になってたんだが艦娘や深海凄艦っていったい何者なんだ?さっきの本にはそこら辺詳しく書かれて無かったから気になるんだよ」
「そうかぁ...」
湊は顎を人差し指に置き考える仕草をとり始めた。
「艦娘や深海凄艦については正体も何もかも解らないことが多いんだ」
湊は続けて、
「深海凄艦型録ってやつと艦娘型録って奴を見て何か思ったことはない?」
湊の急な質問に対し、冬也も頭を抱え考え始めた。
「そうだな...あまり言わないほうがいいのかもしんないが..........深海凄艦の中に艦娘と姿が似てるやつが稀にいたな。主に人形のタイプで」
「あぁ、一つが艦娘と深海凄艦は実は同一の存在だと考える[表裏一体説]がある。深海凄艦型録の中でイロハ以外の鬼や姫クラスのやつは全て人間に近い姿をしているだろう?それはその説の裏付けを行おうとして付けられた名前であって、本当のやつらの名前は実際問題わからないんだ」
「なるほどな」
分かってきたというように冬也は相槌を打った。続けて
「他には[表裏一体説]の派生として[複合説]なんてのもあるけどこれはないと思うね」
「なんでだ?」
「...だって、もしもその説が本当だとしたら彼女たちは自分達自身と戦っていることになるんだろう。そんなの悲しいじゃないか...」
「お前...」
「...ごめん、湿っぽい雰囲気にさせちゃったね。いい気分じゃないよね」
そう冬也に謝罪をした。冬也に下げた頭を上げた湊の目はどこか悲しげだった。
「最後の説は深海凄艦は大戦時の軍人たちや艦艇達の怨念や亡霊だとする説。非科学的だけど一番あり得ると思うよ」
「なるほどね。怨念がおんねんってわけか...」
「.........」
数秒ほど二人の間に沈黙が訪れ食堂への足も止まった。冬也の唐突な寒すぎるギャグに対して湊は真顔で冬也を見ていた。
「...や、違うんだって!湿っぽい雰囲気をどうにかしたくてさ!つい思ったこと口に出しちゃっただけなんだって!」
「静かにしろ。もう寝ようとしてる子達もいるんだから...まったく。」
湊はすっかり呆れていた。
「ほー、ここが鎮守府最大サイズの施設のレストランルームか。やっぱ200人近い艦娘の飯を作るにはこんぐらいなきゃダメなんだな!にしても広いなぁ」
レストランルームに到着した二人であったが冬也はあまりの広さに驚きの声をあげていた。
先程静かにしろと言われたとは思えない大声であったがそれに対し湊はきっと長い間戦ってたからまともな食事を摂れるのも久々なんだろうと考え多めにみることにした。
レストランルームの奥のキッチンでは補給艦の間宮と伊良湖が料理の後片付けをしており、湊を見つけると声をかけてきた。
「こんばんは湊提督。すみません、もう片付けをしてしまっていて...」
「大丈夫だよ。こっちで何か適当に作るからさ。キッチンと食品使わしてもらうね」
「それならよいのですが......あら、そちらの方は?」
「紹介するよ。今日からこの鎮守府で働くことになった清瀬冬也だ。前に話した夕立たちを助けたっていう男だよ」
「まぁ、あなたが夕立ちゃん達を助けてくれた冬也さんですね。私は補給艦の間宮です」
間宮は拭いていた食器を置くと冬也たちの方へ近づき冬也に対して頭を下げた。
「あなたのお話は聞いています。この度は夕立ちゃんや時雨ちゃんの命を救ってくれてありがとうございました!」
「いえいえ!俺もあの子達にたすけてもらったからおあいこですよ!」
「それでも助けられたの事実ですよ!今は何も御礼をできないのが残念です。ですが湊提督、なぜ冬也さんが横須賀鎮守府で働くということに?」
「あぁ、それはだな」
と言い湊は間宮に冬也が何故横須賀に流れ着いていたのかを話した。
「なるほど、そんなことがあったんですね。ですが今は体を休めていてくださいね。明日も私と伊良湖が甘味や料理を作っていますからサービスしますよ」
「では、明日またお邪魔しようと思います。これからよろしくお願いします!間宮さん」
そう言い二人は互いに握手を交わした。
間宮がキッチンに戻った頃には伊良湖が食器拭きや片付けを全て終わらしており二人ともレストランルームから湊たちへ挨拶をし出ていった。
「なぁ冬也よ」
「なに?」
「お前間宮さんに見とれてただろ?」
「んなっ!、そんなことねーよ!」
湊からの質問に驚き焦る冬也。だが慌てているのは図星といっているようなものだった。
「まぁまぁそう照れるなって。俺も初めて間宮さんの美貌を見たときには心臓がバクバクしちゃったからさぁ」
と言ってのけた湊に冬也は恥ずかしくなりため息をついた。
「湊おまえさ」
「なに?」
「こんな美人ばっかりの職場でよく理性保ってられるな...」
冬也は感心したように呟いた。
「軍人たるもの色事で平常心を失うなって教えられたからなぁ。それに長くいるとなれてくるものだよ」
「やっぱり凄えよ...」
冬也は一瞬だけ実は湊がソッチ系だったりもしや不能なんじゃないかと考えた。
だが間宮さんを見て鼻の下を延ばしていたためそれはないなと勝手に納得した。