小鳥のチュンチュンという気持ちのいい鳴き声で目を覚ました。
体を起こそうとすると酷い頭痛でとっさに頭を押さえる。
「俺は...なんでここに........」
ベッドの横に山積みにされてある本と酒の瓶を見て頭のなかに昨日の事が波のように流れ込んできた。
(そうだ、確か湊のやつに奨められるまま飲みまくってたらそのまま眠っちまって...ここに運んできてもらったのか?)
痛む体を起こして立ち上がり、部屋を見渡すと全く知らない部屋だった。多分昨日鎮守府を回った時に見た査問官達の客間だろう。
ふと机を見てみると山積みの本の上に一枚の紙が置いてあった。確認をしてみると文字が書いてあり置き手紙だと俺は考えた。
紙には『起きたら執務室に来てくれ。』と一言書いてあり、俺は服装を整えて湊の待つであろう執務室にへ向かうことにした。
(やっぱ先にごはん食べてから行こ)
レストランルームに着いた俺に向けられたのは艦娘達の奇異の視線だった。小声で「どうしてここに提督以外の男性が?」だの「凄い寝癖ですわね...」だの「お客さんじゃないのか?」だの言われている。
寝癖が直りづらい体質なんだよ悪かったな。
「多摩、いい加減スープ飲めクマ。もう冷めたはずクマ」
「い、嫌にゃ...まだ熱いにゃ」
「頑張って多摩さん!」
(あれは確か軽巡の多摩と、あとなんだけっけか...名前通り猫みたいなやつなんだな)
寝ぼけていて意識が朦朧としているためか、冬也は気にせず間宮のところへ向かった。10秒程メニュー表を眺め自分の今の気分にあったものはないか考えた。
「おはようございます間宮さん。チキンドリアと野菜スープをお願いします」
「おはようございます冬也さん。朝からなかなか重いものを食べるんですね?」
「えぇ。エネルギーのつくもの食べなきゃ頑張れませんからね。それに今日はきっと初仕事ですから。」
「分かりました。テーブルに持っていくので座って待っていてください。出来上がったら席までお持ちしますね」
冬也は間宮に頭を下げてレストランルームの空いている席に座った。
数分ほど経つと軽く煙を挙げながら上にチーズが乗ったドリアを間宮が持ってきた。
「おまちどおさまでした。」
「ありがとうございます」
冬也が感謝の言葉を述べると間宮も頭を下げて厨房に戻っていった。
冬也は目の前のドリアを眺めているばかりで全くてをつけようとしなかった。
その姿を見た艦娘たちは小声で冬也の方を向きながらしゃべり初め、
「どうしたのかしら。知らない人、ラーメンが来たのに食べないわ」
「しかもすごく不機嫌そうなのです…!」
「アレじゃドリアが冷めちゃうクマ」
(うっせぇなぁ)
彼女たちは冬也に聞こえない声でしゃべっているつもりだったが冬也の耳は自身の能力によって研ぎ澄まされているため筒抜けだった。
だがその姿を見た一人の艦娘が冬也に近づき彼の隣の席に座った。
「お兄さん、ドリア食べないのかにゃ?」
「冷ましてんだよ」
「猫舌なのかにゃ?」
「そうだよ。なんか悪いか?」
「悪いことなんかじゃないにゃ。多摩も猫舌で苦労してるにゃ」
「!......お前も、熱いものは苦手なのか?」
「そうにゃ。克服しようとしてるけど全然体が慣れないにゃ」
「お互い大変だな。俺は清瀬冬也って言うんだ。今日からここで働くことになってんだ。よろしくな」
「んにゃ!?よろしくにゃ」
「凄い...多摩ちゃんったらあんなに打ち解けてる」
「この鎮守府で働く人なんですってね」
多摩と打ち解け始めた冬也は少し冷めたドリアにスプーンを挿し込み食べ始めた。
「どうして多摩は熱いものが苦手なんだ?」
「どうしても体が受け付けないんだにゃ」
「そいつは面倒な体質だな。」
「うるさいにゃ。そういう冬也こそ、なんで熱いものが苦手なのにゃ?」
「...俺は...小さい頃に両親が火事で死んじまってな。そんときの記憶はほとんどないんだけど、それから熱いものを受け付けなくなったってじいちゃんとばあちゃんが言ってたんだ。多分それが原因だな」
多摩は髪の毛をピコッと立たせて驚くと同時に申し訳なさそうな顔をした。それに気づいた冬也は
「悪いな。飯のときにするような話じゃなかったよ」
と謝罪しお盆に乗っていたオレンジジュースを多摩に奨めた。
「大丈夫にゃ」
「そうか?」
多摩がジュースを飲み終わる頃にはドリアを食べ終えてお盆を返しにいった。
「喋り相手になってくれてありがとうな」
「こちらこそありがとうにゃ。これからよろしくにゃ」
「おう!よろしくな」
そう言い冬也はレストランルームを後にした。
「おはよう湊。またせたか?」
と言いながらノックもせず冬也は執務室に入っていった。湊は机の側に立ち真剣な表情で電話をしていた。
冬也が来たことに気づいた湊は椅子を指さした。
一ハンドサインだ。椅子に座って待っていろってことか。
と考えた冬也は椅子に座って湊が電話を終えることを待つことにした。
「確かに陸から400km圏内の制海権は我々がもっています。はい、ですがやつらに侵入を許してしまいました。はい、もしかしたらレーダーに掛からない新型の深海凄艦の可能性もあると各鎮守府にお伝えください。はい、失礼しました」
相手が前にいるわけでもないのに深々とお辞儀をした湊は受話器をおいた。
「待たせたな冬也。朝飯はもう食べたか?」
「ああ、でも艦娘たちから不審者扱いされたぜ。俺が住み込みで働くって伝えてくれてなかったのか?」
「ん、夕立には皆に教えてあげてくれと頼んだはずなんだけど…夜遅かったから伝達できなかったのかな」
「まったく、お陰で向こうから俺への第一印象最悪だろうぜ」
「悪かったね」
湊は冬也の反対方向の席へと座った。
「さて、ここに呼び出したのは冬也、君に最初の仕事をお願いしたいからだ」
「ン?ついに初仕事か、何をすりゃいいんだ?」
「君には洗濯を頼みたいんだ」
「洗濯ぅ?そりゃ随分平和な仕事だな。てっきり資源でも採ってこいとか深海凄艦倒してこいとか言われんのかと思ってたぜ」
「いやいや、あくまでも君は雑務員だからね。戦闘に駆り出したりはしないさ」
「そうか。俺は鎮守府の役に立てるなら別に何を依頼したっていいんだぞ?」
「深海凄艦は艦娘が倒すものだからね。君には彼女達の膨大な量の洗濯物を頼みたいんだ」
「そうか。この鎮守府には200人近い艦娘が着任してるんだよな。そりゃ洗濯物の量も多くなるわけだ」
「あぁ、いつもなら鳳翔さんと非番の艦娘が洗濯をしてるんだけどそれでもなかなか終わらなくて。だから君に頼みたいんだけど、いいかな?」
「もちろんだ。俺はここでなんでもやるって決めたからな。...その鳳翔さんてのは確か、空母の艦娘だったよな?お前がさん付けで呼ぶなんてそんな偉い人なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、なんとなくかさん付けで呼ばなきゃいけない気がするんだ。実際、駆逐艦から戦艦まで、皆鳳翔さんのことをさん付けで呼ぶのさ」
「なんとなくってなんだよ」
湊の曖昧な解答に冬也は笑った。
「ところで冬也、初仕事の前にひとつだけ聞きたい事があるんだが」
「ん?」
湊は真剣な表情で冬也へ質問をした。
「お前があの海岸で深海凄艦を倒し、夕立たちとあった
ときに深海凄艦がどう襲って来たか、覚えているか?」
「ん?いや、急に襲われたから覚えてないな。それがどうかしたのか?」
「いや、分からないなら大丈夫だ。君はランドリールームへ行ってくれ。そこに鳳翔さんがいる」
そう言うと湊は真剣な表情からいつもの柔和な表情へと戻った。
「なら行ってくる。お前も自分の仕事を頑張れよ」
「うん、君も頑張れよ」
冬也が執務室の扉を閉めて出ていくと湊は自分の服をピシッと整え自分の仕事に取りかかるのだった。
「ここがランドリールームね。レストランルームと同じか、それよりも広いな」
執務室を出た冬也は数分程歩いてランドリールームに辿り着いた。実はここに来るまでに少し迷っており、冬也は鎮守府の広さに少しウンザリとしていた。
「ん、んっ!すいません。湊提督に頼まれて来ました。水瀬冬也です」
軽く咳払いをし扉をノックして声をだす。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けるとそこには大量の洗濯機があった。
一まるでコインランドリーみたいだな。
そして鳳翔と思われる女性が洗濯機から服や布団をだしてカゴに種類ごとに分けて放り込んでいた。
「あなたが提督の言っていた水瀬冬也さんですね。私は航空母艦の鳳翔です。今日はよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
そう言い2人は握手を交わした。
「では早速ですが、洗濯機から服と布団と種類分けをしてこのカゴにいれてください。カゴがいっぱいになったらカゴを持って外に出て、ここからすぐにある物干し竿があるところに置いてください。これを繰り返して全部運び終わったら干し始めます。いいですか?」
「分かりました」
「はい。それでは始めましょう」
(つっっっっっかれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
冬也は体をベランダの物干し竿の末端にもたれかけて、大粒の汗をかいていた。
対する鳳翔はふぅ、一息つくと冬也のところへ来て
「お疲れ様でした、冬也さん。午後の4時からは乾いた洗濯物を畳みますからそちらもよろしくお願いしますね」
「エッ!えぇ!はい!午後も頑張りますので休憩をもらいますね!」
「はい。しっかり休んでおいてください」
「ありがとうございます!一度部屋に戻りますね!」
そう言うと冬也は足早にベランダを後にして自分の部屋へ帰っていった。
(何であれだけの量を運んで戻ってを繰り返してあんなに楽そうなんだ...)
冬也がバテバテなのに対し鳳翔は汗ひとつかかずにいた。というかまた別の家事をしようとしていた。
(あれが艦隊の母、鎮守府のおかんって言われている所以か…)
昼飯を食べ終えて1時間程昼寝をした冬也はそこからさらに一時間程読書をした。鎮守府には本を読むくらいしか娯楽が無いため仕方なく読んでいた。
一応娯楽室がありはするが艦娘たちがいるから行かないようにしていた。
そして午後の3時50分、再び巨大なベランダに辿り着いた。そこでは既に鳳翔が服がかかったハンガーを部屋のなかにいれていた。
「こんにちは、冬也です、手伝いに来ました」
「こんにちは。それでは洗濯物の取り込みをお願いします。」
「分かりました」
そう言い冬也も洗濯物を部屋のなかに放り込みはじめた。
部屋のなかで横にして置いた膨大な量の洗濯物を2人は黙々と畳んでいた。
冬也は外から声が聞こえてそちらのほうを見ていると
「朝に遠征や出撃を終えた子達が帰って来たんですよ」
と鳳翔が答えた。
「なるほど」
そこからまた沈黙が続いた。冬也はしっかりと手を動かしていたが静かなままだとどうもつまらないので会話の話題を頭の中から探していた。
そこで彼は思いきってずっと考えていたことを鳳翔に聞いてみることにした。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「あなたは、あなたたち艦娘は、一体何者なんですか?」
冬也は鳳翔の目を見て話し始めた。