俺は気付いたことがある。
嫌いなことは早く終わらせるべきだ。これは世の真理である。
例えば夏休みの宿題を最終日まで残したところでいいことなんて一つもない。
洗濯が面倒だからと後回しにしていたら臭いが服に染み付いて取れなくなる。
ブラウザゲームのイベントは初日から回っておかないと最終日までに間に合わない。
何が言いたいのかと言えば結局は...
世の中、要領よくやっていこうと言うことだ。
とはいえ世の中上手くいかないことの方が多い。
「もう...なんで俺ばっかりこんな目に...もっと鎮守府はあるんだから他のとこに任せればいいんだ...!君もそう思うよねぇ?」
俺の横で机に頭を伏っしながらブツブツ呟いているコイツのことだ。
コイツは性格上余程のことでなければ頼まれたらやり遂げようとする聖人じみた奴な訳だが今はそうともいかない。
数ヶ月前には大本営の命により欧州一部海域の奪還作戦に主戦力として参加した。
かなり大規模な作戦であったため鎮守府の艦娘はほとんど総出で救援に向かい大戦果をあげたところまではよかった。
大本営はコイツの人のよさに漬け込み例の新型まで倒せと言ってきた。
さながらブラック企業のように仕事は増え続ける。残業手当もなにもない。
あるのは上からの無茶な指示と民衆からの期待、ついでに艦娘たちのイラつきの対処という最大の課題だ。
制海権を握っているとしても常に哨戒を行わなければいずれまた海は奪われてしまう。
だからまともに休みがなければ彼女たちは全力を出せないというわけだ。
食料品の運搬を終えた報告をしようと執務室に出向いたら黙々と書類に字を書き続けていた。
俺を見つけるやいなやいつもの笑顔で
「お疲れ様。冬也」
と言ってくれたのはさすがだった。
「なぁ、大本営はいっつもお前らに難題を押し付けてくんだろ?たまには断ったっていいんじゃないか?」
「そういうわけにもいかないよ。提督という人材は限られてるからおれがやらなきゃいけないんだ。」
「でも艦娘たちも大事なんだろ?彼女たちを無理矢理働かせたりすんのは不本意だろ」
「簡単に言ってくれるじゃないか。俺は提督として国を守る為に日々働いているんだ。彼女たちは命を賭けて戦っていて、もし沈んでしまったらなんて考えると胸が張り裂けそうになる...。」
「おいおい、言ってることがどんどんめちゃくちゃになってるぜ。たまには休めよ」
そう諭したが湊はどうにも手を止める気配がない。
執務室のソファーに横になった俺はそれから2時間近く軍艦や数々の海戦の本を読んでいた。
詳しくなればなるほどかつて敵だった者たちと共闘できる精神に脱帽する。
神通やアメリカのタフィ3の連中なんて相当トラウマがあるはずなのによくもまぁ馴れ合える...。
気づいた頃には時計は9時を差していた。
このままほっとけば一晩中仕事をし続けるだろう。
それでもし湊が体調を崩して倒れでもしたら艦隊の運営ができなくなるし、何より艦娘たちが悲しむだろう。
そう考えた俺は、
「おい、まだ夕飯食べてないだろう?食いに行こうぜ」
「いや、いいよ。まだ書類は残っているし、もう食堂はしまっているだろうからね」
ふーむ、これは困った。
どうしても仕事を続ける気みたいだな。コイツは。
なら、
「そんならオレがなんか作るよ」
「何?君が料理をつくるだって?」
よし、引っ掛かってくれた。
「あぁ、俺は料理が趣味でさ。1つ上手いイタリアンでも作ってやるよ」
「そうか...君が作る料理が気になるから一口のるとするよ」
「オーケー。んじゃ向かうか」
俺たちは食堂に向かい始めた。
すでに9時をまわっているため食堂には人はほとんどおらず間宮さんや伊良湖が片付けをしているくらいだった。
「こんばんは。何か作りましょうか?提督、冬也さん」
「いえいえ、今日は俺が作るんで大丈夫です。厨房を使っても?」
「大丈夫ですよ」
二人に厨房を使う許可をとると俺は早速棚からスパゲッティとスパゲッティソース、玉ねぎとベーコンを取り出した。
「お前は座って待ってろ」
「いやいや、君が料理をするところは物凄く興味があるから隣で見させてもらうさ」
そう言い厨房の近くに立って俺が何をするのかという顔で見ていた。
「邪魔すんなよ」
「うんうん」
俺は大きめサイズの鍋を取り出し半分ほど水を入れコンロの上に置きスイッチを押した。
この間は特にやることもないためただ時間が過ぎ水が沸騰しお湯になるのを待つ。
だけではなく玉ねぎとベーコンを小さく切っておく。
こいつは後で使う。
俺は小学生の頃にもともと趣味で料理を始めたのだが作れば作る度に上達していくということに快感を覚え料理をすることにハマっていった。
最近は戦ってばかりで料理を作る暇もなかったからリハビリがてら俺の得意かつ大好きなスパゲッティを作る。
8分ほど経ち、お湯が沸騰してきた。
久し振りに自分の趣味に興じれることに喜びを感じつつスパゲッティを折り鍋のなかに放り込んだr
「パスタを折るなぁ!!」
「うおっ!?びっくりしたぁ!!」
怒鳴り声に驚き振り替えると特徴的なストラップが付いたメガネを掛けた茶色いボブカットの茶色の瞳の女が俺のことを見ていた。
「ちょっとRoma!ダメでしょう初対面の人にそんなに怒鳴ったりしたら。」
「やぁローマ、リットリオ。またポーラたちとお酒を飲んでいるのかい?」
「だって姉さん!この男は私たちItalianのまえでパスタを折るということがどういうことか分かってないのよ!」
「それはねRoma、住む場所によって料理の仕方は変わるんだからしょうがないことなの。はい提督。私たちはお酒とそのおつまみを取りに来たんです」
「そうなのか。俺も冬也に夕飯を作ってもらっているんだ」
3人はゴチャゴチャ喋っているが完全に俺は蚊帳の外、というやつだ。
一というかこの美人2人はどちら様?
湊に小声で聞いてみることにした。
「おい湊、この2人は誰なんだよ?」
「ん、この2人はヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の2人だ。メガネを掛けいてないほうが二番艦のイタリア。メガネを掛けているほうが四番艦のローマだ。2人とも、彼が前にうちで働くようになった冬也だ」
「あぁ、パスタの国の艦ってことか...」
と俺は1人納得していると
「まぁ、あなたが白露ちゃんたちを助けてくれた噂のdragonの...妹のRomaがすいません。」
とイタリアが頭を下げてきた。
驚きはしたけど怒ってはいないから大丈夫です。
「や、大丈夫です。この鎮守府で住み込みで働いていいます。清瀬冬也です。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
こちらが手を出すと向こうも手を出してくれたので握手をした。
優しくて包容力のありそうな人だ。しかも超美人。
そして隣のローマへと握手をしようと手を出す。
「あんたが例のトカゲ男ね。ローマよ。よろしく」
「なっ!トカゲだと?龍と呼べよ龍と。」
「なに?トカゲはトカゲでしょ?」
「トカゲは嫌いなんだよ。龍にしろよ龍に。」
「ふん、そんなことでムキになっちゃって。随分ちっちゃいのね」
「なんだと?」
白熱している俺とローマの間にイタリアと湊が仲裁にはいろうした。
「そんなに怒るなって冬也」
「Roma、初対面なのに失礼過ぎるわ」
「姉さん、初対面なのに礼儀をしらないのはコイツのほうよ」
「けっ、?器がちいせぇのはどっちだよ」
「なんですって...」
俺たちは数秒睨みあうと
「「ふんっ!」」
互いにそっぽをむいた。
「まったく、2人とも子供じゃないんだから仲良くできないの?」
黙ってなさいよ湊。
トカゲは大の苦手なんだよ俺は。
「Romaったら、まったくもう...」
俺はもう気にせずスパゲッティを四人前分鍋に放り込んだ。
一大体鍋が小さいから折らなきゃ入らないんだからしょうがないだろ...
フライパンを出しコンロに火をつけてスパゲッティソースの袋を開けてフライパンに入れた。
そして予め切っておいた玉ねぎとベーコンを放り込んだ。たかが市販のソースでもアレンジ次第では化けるものだ。
「市販のソースを使っているようじゃまだまだね」
「...」
俺はローマの言うことを耳にいれずに黙々と作業を続けた。イタリアさんがあたふたしているが放っておこう。
「ひき肉も入れないなんてスパゲッティとは思えないわね」
「.........」ワナワナ
鍋に入っているスパゲッティを箸でつついた。
まだ少し固い。
「今スパゲッティをつついたわね?細長さが取り柄のスパゲッティの形を崩しているようじゃ料理を冒涜しているとしか考えられないわね」
「うるせぇ!!というかしつけぇ!!」
「ほらまたそうやって怒っちゃって、それじゃトカゲじゃなくてもはや犬ね」
「お酒手にいれたんだからはよ帰んなさいよ!鬱陶しいわ!」
「嫌よ。」
「Why!?」
「だってそのスパゲッティが完成するのを待っているもの」
「は?食うつもりなの?」
「えぇ。その為に4人分作っているんじゃないの?」
なんて図々しいやつ。
俺と湊の2人分だというのに自分らの分もあると思っている。
というかさっき散々小馬鹿にしまくったやつの料理食うかね普通。
俺は仕方なく大皿2枚をしまい、中皿4枚を出した。
「あの、私たちはもう部屋に戻りますから大丈夫ですよ」
「いいですよ。せっかく4人分も作ったんだから食べていってください」
「...そうおっしゃるんでしたら...」
皿4枚に均等にスパゲッティを分ける。フライパンで作っておいたソースをスパゲッティの上に掛けた。
ベーコンと玉ねぎが香ばしい臭いを引き立てていた。
「どうぞ。召し上がれ」
「美味しそうだね」
「まぁ、見た目はいいんじゃない?」
ホンットに辛口評価しか言えんのかコイツ。
「「「「頂きます」」」」
全員手を合わせて食べ始めた。
イタリアと日本では食事の時の挨拶は違わなかったかと思ったが、きっと日本に合わせているということで勝手に納得した。
「美味いね!」
「delizioso!私たちはいつもひき肉をいれていますけどベーコンも合うんですね」
「Grazie。誉めてもらえると嬉しいですよ」
「なかなか美味しいじゃない」
「そこは普通に美味しいって言ってほしいな」
「なに、誉めてあげてるんだからそれでいいじゃない」
「だからRomaったら...」
相変わらず偉そうな事ばっかし言いやがって。
イタリアさんはこんなじゃじゃ馬妹をなだなきゃいけない苦労さには同情で涙が出そうになる。
でも俺ばっかりこんなに煽られてばかりでは面子が持たない。
一そういやぁトマトの面白い雑学があったな。
「ところでローマちゃんトマt「気持ち悪い呼び方しないで」
「...ところでローマ、なんでイタリア料理にはトマトが欠かせないかって知ってる?」
「知らないわよ」
「えぇっ!?イタリアンなのにトマトがなんで料理に使われてるのか知らないなんて俺トマトっちゃうなぁ」
「「......」」
「ふふっ...」
あっ、ローマは笑ってくれた。
イタリアさんは苦笑いしてて湊はまたか...って呆れた顔だけど。
俺はスパゲッティをフォークでクルクル巻きながら喋り始めた
「イタリアさんはどうしてトマトがイタリア料理に頻繁に使われているのかご存知ですか?」
「さぁ...イタリアでは大量にトマトが収穫されるものの、あまり美味しくないので調理法を工夫して大量に消費できるようにした...なんてどうですか?」
「湊は?」
「俺もイタリアと同意見だ。イタリアはトマトの収穫量が多いって話を聞くからね」
「んん~、二人とも不正解だ。トマトの収穫量が多いってのはそうなんだけど別の理由があるんだ。実はトマトの原産はイタリアじゃないんだ。南米のアンデス山脈がトマトの原産地でそこからメキシコなどの中央アメリカに。そして、1523年にメキシコを征服したスペインによってトマトがヨーロッパに伝播。その後、トマトは当時スペイン領だったイタリアの都市ナポリに上陸した。でもその当時のトマトを食べる人は誰もいなかった。なぜならヨーロッパの人々に恐れられていたマンドレイクっていう毒を持つ植物に形が似ていたから有毒で危険って言われてた。
でも、いろいろな色もあり、きれいなため、裕福層の間で鑑賞用として用いられていたんだ」
「有毒だって言われてたんならどうして食べられるようになったのよ?」
「それはなローマ、庭師が腹ペコだったからなんだよ」
「はぁ?なにいってんのよアンタ?」
「話は最後まで聞けって。
スペインに統治されていた当時のナポリは税金が高くてあまり食べ物が手に入らなかったんだ。優雅に豪華な食事を摂る貴族、それを羨ましがる庭師。庭師は空腹で倒れそうになっていてそこで目に入ったトマトを庭師は周りの制止を聞かず、トマトを口にした!」
俺は話に熱が入りどんどんとテンションを上げて大袈裟に身ぶり手振りをつけていく。
「『マンマミーヤ!なんて美味しいんだ!』、その庭師はトマトを家に持ち帰って自分の家の庭で育て始めた。これがトマトが食べれるようになった始まりの話ってわけだ。さらに品種改良が進んで身が柔らかく水分を多く含むトマトが誕生。また、ナポリがあるイタリア南部はトマト栽培に適した温暖な気候。各地にトマト作りが広まってイタリア料理にトマトが欠かせない存在になっていったというわけだ」
俺はドヤ顔で話を終えた。
ローマがどこか気に入らなそうな顔をしているが自分の知識をひけらかすときはこのくらい堂々としていないと面白くないのだ。
「知りませんでした。その話、どこで聞いたんですか?」
「たまたま面白い雑学を紹介するテレビ番組でやっていたんです。料理が趣味ですから覚えていたんですよ」
湊とイタリアさんは感心感心といった顔で俺を見ていた。
対してローマは俺の話を聞くのに嫌気がさしているのか、ムスッとしている。
「何よ、テレビでたまたま得た知識を偉そうに」
「テレビで得た知識も知識は知識だからな。それに上手かっただろ?」
「別に...もういいわ姉さん。PoraとZaraのところに戻りましょう 」
そう言うとローマは食堂を出ていってしまった。
片付けすらしないとは非常識なヤツ...
「あぁっ、もうっ!Roma が本当にすみません!あの子ほんとはとっても優しい子なんです!」
と謝ってきた。
内心このイタリアさんの困り顔のローマバージョンを見たかったがそれは叶わなそうだ。
「大丈夫だよ、イタリア。冬也はこのくらいで怒ってなんかないさ」
「そうですよ。俺も手料理を食べて頂けて嬉しかったです」
「そう仰ってくれるならいいんですけど...私も部屋に戻りますね、提督、冬也さん、buonanotte」
イタリア語でお休みなさい、そう言いイタリアさんも食堂を後にした。
「俺たちも戻るか」
「片付けをしてからね」
俺と湊は食器を洗い湊の私室へ戻った。
せっかくなので湊には酒をを勧めて共に飲むことにした。
二日酔いにはならないように度数は控えめだ。
時々艦娘たちに飲み会に誘われることがあるそうだが男と飲むのは久し振りだという。
艦娘や互いのことについて喋りながら飲み食いしていると
「ごめん冬也、艦娘たちの寮に明日の出撃表と遠征表を渡してくる。すぐに戻る」
「わーった。できるだけ早く戻ってこいよ」
湊が部屋を出ようとしたとき
ティントンティン♪ティントンティン♪
と、軽快なメロディが鳴った。
湊のスマホの着信音だ。
すぐにスマホの画面を見たが大本営と表示されていた。
「んっ、大本営からだ。これは長くかかりそうだな。冬也、君が艦娘たちに書類を渡してきてくれ」
「はぁ?冗談だろ。俺が行ったら怖がられるぜ?」
「時間がないんだ。任せる」
そう言うと湊はスマホを耳に当て喋り始めてしまった。
やれやれ、なんで俺がこんな夜に不審者みたいなことをしなければならないのか。
そう思い部屋を出た。
(イタリア艦たちの部屋が最後...か)
日本艦たちに書類を配布し終え、次は海外艦たちの部屋に向かっていた。
日本艦の、特に駆逐艦たちには不審感マシマシな目で見られたし、艦によっては半泣きされたり手を出されかけたりした。
せっかく頑張っているというのにおかしい。特に最後。
溜まっていた疲れに追加攻撃をしつつもイタリア艦たちの部屋に向かった。
廊下では海外艦たちとすれ違うわけだが...特に重巡や空母、戦艦たちは美人でなんというか大人な身体の艦たちのばかりで頭痛がしてきた。目に悪い。いや、いいのか。
「ここか...」
俺はItalyとオシャレに書かれているドアの部屋を見つけた。
これで最後と気を抜きノックをせずにドアを開けた。
「こんばんはー、明日の出撃編成の書類をもっt...」
ドアを開けるとそこにはパンツを一枚だけ履いて他には何も身に付けていないローマがいた。
「あっ!?あんた何して!!」
こちらに気づいて振り向いたローマの胸の双璧が上下に揺れた。
服を着ていても分かったがこれは...
「おっ...お前...、ローマ胸でっk」
「見るな!!」
彼女の右手が大きく振りかぶられたその瞬間、俺の頭は激しく震え、意識を失った。
自分で書いといてなんだけどローマはこんなキャラじゃない...