流れ出ずる豊穣   作:凍り灯

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大変お待たせしました。
そしてタイトルが二文字の時点でお察しください。

つまり、最終回前編です。

※ルビの誤りがあったので修正しました。







霧笛

 

 

「もう一度頼む!」

「このままではアシナ衆の名折れ!もう一度だ!」

「グ、グゴゥゥ…」

 

わらわらと寄って(たか)ってまだ若いアシナ衆がある人物…いや、猿に何かをせがんでいる。

言い寄られている巨大な猿、獅子猿はその勢いに若干引き気味のようだが、川蝉に言い聞かされているためか要請には従うようだ。

 

その場を見ればこれまた奇妙なもので、獅子猿の周囲にぐるりと円を描くようにアシナ衆が一定の間隔を空けて並んでいるではないか。

 

はて、一体何が始まるのか、などと最早言う者はこの場にはいない。

…どころか、あたり一帯には人が全くと言っていい程おらず、監視役、兼()()()として山内式部利勝(やまうちしきぶ としかつ)鬼庭主馬雅次(おにわしゅめまさつぐ)が少し離れた所で見守っているのみだ。

 

ここは城の裏手よりさらに離れた空き地。

今は(さる)(こく)、日も未だ高く、それを遮る木々すらもない場所。

 

と、そこで獅子猿が大きく息を吸い込む。

アシナ衆も見慣れたそれに一斉に気を強く持とうと全身を力ませた。

 

 

 

 

「グゥゥゥォアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

 

 

 

「あ―――」

「ぐ―――」

「くぅ―――」

「ふんんぬぅぅ」

 

突如爆音。

 

そう言っても差し違いない程の獅子猿の鳴き声、というよりは叫び声と言った方が良いのだろうか。

しかもただの大声ではないようだ。

若いとはいえ屈強なアシナ衆が次々と白目を剥き、或いは泡を吹いて倒れていく。

 

それもそのはず、これはアシナでは稀にしか見ることのできない鬼の剣気(覇王色の覇気)を乗せた鳴き声なのだから。

 

そうして叫び終わった後には()()()を残して全員が倒れ伏していた。

そう、今回は全員ではなかったのだ。

 

「ほぅ?」

「なる程…圧に慣れることもある、か…」

 

獅子猿が叫ぼうともそよ風を浴びたと言わんばかりに揺るがない山内と鬼庭は感心したように頷き合う。

伊達に彼らは"アシナ七本槍"と畏れられてはいない。

そうして山内と鬼庭と、今度は倒れなかった幾名かと共に気絶したアシナ衆を起こしていく。

 

獅子猿もどこか結果が実を結んだ所を見れてほっとしているようにも見える。

 

しかし獅子猿は知る由もないが、起きたアシナ衆に一体何度目かも知らない懇願を受けることになる。

その底なしの気力…というより意地に獅子猿がドン引きしているとは川蝉以外知り得ない事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにこれは全員が倒れないまで続けられたが、覇王色の覇気に慣れるなんてことは普通ではあり得ない。

アシナとは誠に摩訶不思議な(さすが一度殺しても死なない奴が多い)島国である。

 

そして哀れ獅子猿はこれ以降、エマ特性のイブキの米成分の入った喉飴を持ち歩くことになったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな修行が繰り広げられている時、アシナ城では微かに遠くから響き渡る獅子猿の鳴き声を聞き流しながら輪を組む一団がまた一つ。

 

「―――ええ、ミナモトの宮は一心殿との古い約定に従い、アシナのために尽力させていただきます。これは、私の個人的な意思でもあります」

「…だが仙峯上人(せんぽうしょうにん)はこの戦には介入しないと?」

 

九十九(つづら)屋での弦一郎との邂逅から数日後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経てアシナ城へと集うのは一心に弦一郎、九朗と狼にイブキとムジナ、加えてエマと川蝉だ。

 

…本当に色々あったと言える。

 

(川蝉)が唐突にでかい猿(獅子猿)魚人たち(宮の住人)を連れて表れたのを目の当たりにしたどこぞの()お蝶()はしばらく思考が停止するわ、実は落ち谷にいることを知っていたのを隠していたことが川蝉によってあっさりばらされた仏師(猩々)が数十メートルぶっ飛ばされるわと………主にそこの家族の問題だが…

 

「…弦一郎殿が仰ることもわかります。直接刃を交えたあなたならそう思う事でしょう。しかし、上人様には宮にいなければならない理由があります―――弦一郎殿は、何故ワノ国が"竜の故郷"と言い伝えられているか知っておりますか?」

「遥か昔、アシナに根付き、この国に仏教と並ぶ"水"の信仰を生んだと言う神なる竜。果たして本当に実在したかなどわからんが、それは西…つまりワノ国から来たのだと言われているからだと…それが何の関係が?」

「あるのですよ。ではアシナと言えば何が思いつくでしょうか?大事なことですのでもう少しお付き合いください。」

 

()らすような物言いに、これに対して九朗とイブキが答えた。

 

「島の回りを囲むように存在する深い霧、それの原因とされる金剛山の山頂に近づく程に温暖になる気候…確かに、思えば変わった気候であるな」

「…水でしょうか。山頂に近ければ近い程それは濃く、良質になります。オチの村もその恩恵を受けておりますから。その効能は顕著です、少なくともただの水と言ってしまうには」

「…山頂…?もしや、どちらも宮が関係しているということでしょうか?」

 

何かしらの関係性に気がついた九朗の問いにその通り、と言うように静は頷く。

 

「これから話すことは代々ミナモトの宮の長のみが口伝(くでん)のみで伝えられることです。ご心配なく、上人様から許可をいただいております。故にこの場限りの秘め事としていただきたい………全ては"ある一つの存在"から、この国が、信仰が始まったのです」

「ほう?」

 

ここで一心が反応を示す。

長く生きてる故に、この静の思わせぶりな話し方から解を得たのだろうか。

しかし面白そうに笑うのみで、一心は静に目線で続きを促した。

 

「―――"神なる竜"―――遥か昔から金剛山の山頂に眠る、この国の起源…そして今現在もこの国に流れ出ずる豊穣を与え続けて下さっている()()()が在られるのです―――その名を、"桜竜"と言います。上人様はその眠りを守るという誓いを、命ある限り全うしなければならないのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が傾き始め、城下町へと一段と濃い城の影が落ち始めた頃。

梟とお蝶()がアシナ城へと姿を表す。

 

これは多くがそうだが、まだ弦一郎は梟を信用できていない。

そのため梟が来てからは冬の空気が肌を刺すような、僅かな鋭い剣気(覇気)が場を満たしつつあり、空気が固い。

その対象である当の本人はいつも通りに腕を組み、彼らを見下ろしているのみ。

 

それを見た弦一郎はふんっ、と鼻を鳴らし、気に入らなさそうにしながらも剣気を緩めて静へと口を開く。

一触即発の空気が露酸したことで静は安堵し、同時にその鋭さに頼もしさを感じてもいた。

これから渡す物は、中々に()()()物であるために。

 

「それが不死斬りか」

「…不死斬り、とは民草がいつしか呼び始めたもの。赤を"拝涙"、黒を"開門"とそれぞれ銘があります」

 

静はミナモトの宮から背負ってきた刀袋から二振りの大太刀を取り出す。

鞘に収まっているにもかかわらず九朗やイブキでもわかるような圧を感じる刀だ。

どちらも見事な(こしらえ)で、同時に手入れされてはいるもののかなり古い物だと言うこともわかる。

 

ちなみに他に背負っていた大きな平たい半円状の布袋の中身は弦一郎の弓だった。

それは既に持ち主へと戻されている。

 

「知られる伝承のような人の理を歪めるような力はありませんが、間違いなく尋常ではない力を秘めた刀です」

 

仙峯上人がアシナの地を見つけるまで、そして国を(おこ)すまでの数百年もの間共にあり、苦難を乗り越えてきた刀だ。

静が言うには二振りとも黒刀ではないが、明らかにそれを凌駕している圧を誰しもが感じ取っていた。

 

それは一心が(うた)った無人(むろうと)(無色の剣気(覇気))の域の極みと言っていいだろう。一体どんな剣気を纏わせ続ければこうなるのか。

その一心は、ただ薄っすらと笑うばかりである。対してエマはその後ろで呆れていた。

 

「どういう風の吹き回しだ…?…いや、確かにあの時に渡すなどと、考えはせんか…」

「ええ…測るようで申し訳ないですが、今ならば渡しても良いと判断したのです…宮の時とは見違えたようです」

数奇(珍妙)な出会いあっただけだ」

「んぁ?」

 

もしや自分のことを言ったのか?と部屋の隅でムジナに絡んでいた川蝉が弦一郎へと視線を向ける。

 

「御伽話のような力などもはや求めてはいない。少しでも力となるならば是非とも借り受けたい」

 

が、無視された。

ひどいや弦ちゃん、なんてぼやきも聞かなかったことにされる。

その呼び方は巴と被るからやめてくれ、と言うのが彼の密やかな心情である。

 

「上人様が振るった二振りです。どちらも言ってしまえば妖刀。危険なのは変わりありませんので、全て終わった後に返していただけるならば如何様(いかよう)にでも」

 

何故かそこで川蝉がたじろいだ。

隣のムジナが疑問符を浮かべている。

 

「使わずに済むならばそれが良いだろう。一度目に入れば力を求める者がまた出てきてしまう、俺のような溺れた者がな」

「その心、忘れないことを願います」

「ああ…不死斬り二振り、確かに借り受けた」

「…お気を付けください。巷で噂の抜けば死ぬという話もあながち間違いとも言えない代物です」

 

静は不用意に刀を鞘から抜く前に忠告をする。

仕込んだ当事者の一人である"噂"の話をされて一瞬ドキリとしたイブキだったが、只事ではなさそうな静の表情を見て持ち直した。

 

「それは…"妖刀"と表現したことに関係があるようですね」

「はい。"拝涙"は担い手の剣気(覇気)を喰らうのです。生半可な者が抜けば干からびたように意識を失うか…過去には確かに死んでしまった者もいたと聞きます」

 

本当にあながち間違ってないことにもう一度ドキリとする。

従者のオボロたちがわちゃわちゃしながら考えていた内容だったからまさか、と言った心持ちだ。

 

"黄泉がえり"を行えると言う伝承がある"開門"と違い"拝涙"はその詳細が謎に包まれていた。

だからこそ妖刀()()()嘘を広めていたのだが、結果的に死者を愚弄するようなことをしてしまったと、人知れず傷心のイブキを置いて話は続く。

 

「ですが、これを上手く扱えたならば切れぬものなどありますまい。奪われた力は刃に乗せられるのです…赤黒い瘴気と共に」

 

妖刀と言われる由縁だ。

静はこの現象を"黒刀"という段階の上の、さらにもう一つ上の他に類を見ない段階に到達してしまったからだと見ている。

 

この刀は()()()()()のだ。

 

自らに()()()()()鬼の剣気(覇王色の覇気)を呼び起こすに至るまで。

それは黒の不死斬りである"開門"も同じ。

 

「"開門"は諸刃造り(両刃の刀)であり、その力は"拝涙"と異なります。この"開門"は流された剣気を()()()()のです。そしてそれ故に数百年分の上人様の剣気が込められており、刀から担い手にその剣気を与えることもできます」

「なる程…黒の不死斬りが人を蘇らせることが出来ると言う伝承が出回ったのはそのためか。持てばたちまち力を得るとなればな」

「死人が蘇るという話は聞いておりませんが、死にかけの達人が刀の剣気によって立ち上がり戦い続けたという話ならば…それがいつしか"黄泉返り"の話に変わってしまったのでしょうね」

 

弦一郎はその"開門"の刃を抜く。

 

そして再び川蝉がたじろぐ…何故?

 

受け取るまで気が付かなかったことだが、見た目よりかなり重く、"溜め込む"と言う性質の割にはやはり異質な剣気を弦一郎は感じた。

 

あの日戦った仙峯上人の剣気とも違う何か。ただ溜め込んだと言うにはどこか違う。

この刀もまた、きっと()()()()()のだろう。

話に聞いた"拝涙"の赤黒い瘴気とは違う黒い瘴気が鼓動し、渦巻いているのを嫌と言う程理解する。

 

その不気味さに、()しもの弦一郎も刀を鞘に収め直した。

川蝉もほっと息をついた。

弦一郎はいい加減に振り返って彼女を見た…が、無駄に綺麗な音色の口笛を吹いている。

………黙って静に向き直る。

 

「…かつて求めた刀とは言え、ここまでとはな」

「上人様はかつてこの二振りを扱う二刀流の達人でした」

 

まるで偉い父親を自慢するかのような物言いに、しかしこれらを同時に振るった仙峯上人という存在への驚きが呆れに勝る。

 

実際に刀に触れた弦一郎は仙峯上人との戦いの記憶を思い起こし、もし剣士として立ち会ったのならばどうなっていたかを考えずにはいられない。

あの時は全く異なる七支刀(しちしとう)を持っていた、それも一度だけ振るわれたのみなのだ。

 

そしてそれを考えたのは何も弦一郎だけではない。

 

「カカカカカカ…なる程のぅ、あの時(二十余年前)確かに只者ではないと思うておったが、惜しいことをした。一度手解きを受けるべきじゃったか」

「一心様、どちらかが息絶えるまで続くものをそう呼びはしませんよ」

 

この男。葦名一心である。

エマは相も変わらず呆れ気味だ。如何せん、元気になったせいで何をしでかすかわからない。

かつては戦の折、一心にも果たすべき責務があり、なんとか…そう、回りが無言で必死に圧をかけまくったおかげで踏みとどまり、和解に来たはずなのに一触即発だった一心と仙峯上人の戦い(大惨劇)は避けられた。

 

…多分その時に戦いが起きてしまっていたら巨大な"アシナ湖"が名物になっていただろう。

説明文は『アシナ跡地。生き残りは殆どなし。アシナは最も悲惨な殺戮の舞台となった』と言ったところだろうか。弦一郎殿は修羅に直滑降だ。

 

「教える者と教わる者の関係などそんなものよ!のぅ、お蝶!」

「あたしに振るんじゃないよ。狼を森に放り投げたこのじじぃ()はともかく、あたしは森の中では死なない程度にやったつもりさ」

「…?」

「なんか言いたいことがあるなら言葉にしたらどうだい。狼」

「え?狼ってお父ん()お母ん(お蝶)に直接叩き込まれたの?よく生きてたね。あたしと猩々以外だと再起不能か死んじゃってたもんねぇあれ」

 

梟が咳払いを一つ。

 

元気あり余り(一心)じじぃが好き勝手に話を振り始めればどんどん脱線する未来が見えた梟は、話が進まなくなりそうなのでさっさと本題に入りたくなっている。

なんで儂が抑え込む役割をせねばならんのだ。

 

「それで?不死斬りを扱うなれば、やはりこの中の誰かしかおるまい」

 

間違いなく強大な力。

使い手を選ぶだろうが、刀に振り回される人間は少なくともここにはいないと言うのは誰もが思っていることである。

それもあってか、弦一郎は一早く意見を口にした。

 

「おじい様。"開門"を」

「…弦一郎よ、何を心配しておるのだ…おまえが使うのが筋と言う物よ」

「しかし…」

「カカカカカカ…(竜泉)も飲んだ!米も食ろうた!…(みなぎ)っておるのよ!刑部から突き返された槍もあるからのぅ。不死斬りなんぞにかまっておる余裕もなかろうて!ものにして見せぃ…」

 

ただ弦一郎は心配だったのだ。

当主としての責任もあれど、心に余裕が出来た今は祖父の事を純粋に案じることができるようになっていた。

 

だからこその"黒"。

剣気(覇気)とは意志の力。

それだけでボロボロぼ身体を支えてきた一心に、弦一郎は持っていて欲しかった…

 

「…分かりました。皆、勝手で申し訳ないが、"開門"は俺に使わせて欲しい」

 

だがそんな憂いをすっぱり切り捨てた。

何故?そんなもの一心を見ればわかる。ただそれだけのことだった。

 

「妥当な線じゃな」

 

そう梟が呟く。

不死斬りは確かに強力であろう。

だがだからこそ、梟やお蝶などの戦い方がその身に染みている老練の忍びには逆に枷になってしまう。

 

お蝶はそもそも刀を扱う忍びではない。

刑部やムジナも然り。

半兵衛やエマ、猩々は辞退するだろうし、川蝉に関しては妖刀?ふざけんな!と結構ビビっている。さっきのはそれが理由か。

 

ちなみに一心は常に進化するので多分使いこなせるだろうというのが満場一致の考えである。出来ないわけがないだろう、とは梟の言葉だ。

 

それに聞いた限りでは"開門"の方が弦一郎の戦い方に合うはずだ。

巴流を扱う以上"刃の音色"を乱す可能性の高い、剣気を吐き出す"拝涙"よりは。

 

ではそうなると、"拝涙"は―――

 

 

 

「―――狼、おまえが使ってくれ…いや、おまえこそが相応しい」

 

弦一郎は真っすぐと、その迷いのない目で狼を見、かつての宿敵とも言える狼に歩み寄る。

竜胤を巡る争いの中で二人を見てきたエマにとって、それは口元が緩むような、眩しい光景だった。

 

アシナの当主に、九朗が問う。

 

「弦一郎殿…よろしいのですか?」

 

九朗の心配も最もだ。

まだわだかまりが解けて浅く、九朗ならばともかく狼となると彼にとって因縁とも言える相手だったのだ。

 

しかし九朗もまたアシナの当主、弦一郎を誤解している。

血は繋がっていなくとも一心の孫、ならば柔軟に全てを取りれるようにと育てられてきた。

火牛のような動物や異端の力をも使う様はまさにそれだ。

 

だからこそ躊躇しない。それが必要ならば。

…そしてもう一つ、当主ではなく弦一郎としての思いもあった。

 

「九朗よ…俺は何もできなかった。だが狼は違う。竜胤の力があったとて、到底成し得るとは思えないようなことを成し遂げたのだ…俺は…()()()()()()()()()。だから狼よ、共に背負ってほしい。この重荷を」

 

彼も己を打ち破った相手に見事と笑える男だった。

アシナだとかそんな執念がなければ、きっとそうだったのだ。

 

差し出された刀は"拝涙"。

背負うは不死斬りかアシナの行く末か。

 

狼は跪くことなくその刀を受け取る。

本来ならば弦一郎は今こそ頭を下げるべき相手、しかし弦一郎がそれを望まなかったのだ。彼らの関係は、ちょっと奇妙かもしれない。

 

だが、この二人の姿は少々堅っ苦しいが、どこか一心と梟の関係を思わせるものを九朗は感じた。

 

()の頃初めて知った一心と梟のようなやり取りを、弦一郎と狼がいつかするようになるのかと思うと九朗はつい笑みが零れてしまう。

それはエマも同じ気持ちで、ここに来て浅いイブキですら微笑ましく見守っていた。

 

「―――御意のままに」

 

「頼んだぞ…狼よ」

 

ここに二振りの不死斬りがアシナの手に渡った。

きっとこの担い手ならば正しく人のために使われると、そう確信するように刀が僅かに身震いした気がした。

 

 

 

 

 

「…して、静殿。一つ頼みがある」

「…?何でしょうか?」

 

 

 

 

 

「巴の…ミナモトの宮の剣技を知る者に、手解きを受けたいのだ。狼よ、おまえも是非とも知って欲しい。今は亡き主従(巴と丈兄様)の、あの"舞"を―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、頭を下げてくる弦一郎と九朗と狼とついでに一心に詰め寄られるお凛(宮の剣士)がいたらしい。

四名はその場で何曲か困惑を表す演奏を聞かされた後、お凛の師であり静の母でもある"(みなもと)流"師範の磯禅師(いそのぜんじ)が宮より引っ張り出されることとなった。

 

 

ああ、きっとその舞は白い桜のまぼろしを見せてくれるだろう。

そう遠くない内に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弦一郎殿はご存じでしょうが、ミナモトの宮の剣技は元々は神なる竜(桜竜)の恵みである水を尊ぶための舞だったそうです」

 

所変わって船の上。正面にはあたり一面を覆うあまりに濃い霧。

一寸先も見通せぬとはこのことだろう。

 

そう、既に一月以上が経ち、彼らはワノ国へと船を出したばかりだ。

 

今や使われることのなくなったあまりに古い木造帆船の弁才船(べざいせん)が三隻、霧を前に足を止める。

 

かつて海運のために使われていた帆船で、弁才船の中でも樽廻船(たるかいせん)と呼ばれる酒樽を運ぶために使われた貨物船らしい。

酒樽を運ぶ都合で船倉を広くした種であり、ちょうどよく人員を船内に収容できたのは幸運と言えよう。

 

ちなみに旗艦の名前は「九十九(つくも)号」だ。

茶屋(つづらや)の名前と同じ漢字を使っているが、実はどちらも九朗が考えた名前である。

九朗様とて気に行った言葉を乱用する衝動には勝てなかった。でも「おはぎ号」とか言わないだけましだと思う。

刑部が提案した「タイタニック号」は何故かすこぶる不評だった。

 

「故にその刀により奏でられた音色は()()()()()()()()ように研ぎ澄まされてきました。それは()であり()。霧はまぼろしを形作り、雲は雷を呼ぶ。霧を使った幻術は、稀ですがアシナでも見られるはずです」

 

精神を惑わす類ではなく、霧により()()を持ったまぼろしを作り出す術のことを静は言っている。

極めれば直接外傷を与えることができる程のものだ。

アシナの忍びが扱う幻術は基本的には精神への攻撃手段が主だが、例外はここにいる。

 

「あたしの幻術がそうだね。鈴の音を主に触媒に形作ってるよ…あんたや狼がもう少し器用だったらね」

「お母んのそういう器用な所は真似出来なかったからなぁ…あたしはいい感じの音色の笛が吹けるぐらいだし。お父んも出来るよね。油とか混ぜて燃やしてたけど」

「手の内を明かすでないわ」

 

そう言って梟は狼の方をちらりと見やり、聞こえてないことを確認しては少しほっとしたかのような表情をするのを、お蝶と川蝉は見逃さなかった。

このご老人、(川蝉)が戻ってきてからなのか(イブキ)のせいなのか、身体が闘争を求めてるというなんとも困った状況になってしまったのだ。つまりちょっと一心化が進んでいる。昔に戻ってきたとも言う。

 

しかし一度ずれにずれた彼の中の歯車は早々戻りはしないだろう。

今でもワノ国に野心を燃やし、狼との死合いを望んでいるのだろうか…

これは誰にもわからなかった。

 

「話を戻しますよ?つまり、この一面の霧の対処方はまさに我々の領分なのです。信仰もあるのでしょうが、この霧があったからこそこういった術を身に着けるに至ったのでしょうね」

 

二百年ほど前までは比較的開かれていた土地だったのだ。

霧を開く術があるのは当然で、逆に外海にその術が伝わっている可能性もある。

得心(とくしん)がいったと言うように九朗が感心する。

 

「なる程、どのようにして外海からアシナへ渡っているかと思うたらそういうことだったのですか。まさにアシナらしい歴史ある術ということですね。アシナや宮の守りの為にもあまり(おおやけ)にはできないのでしょうが、いつかこの土地の歴史について宮の者と語らいたいものです」

「ふふっ、ミナモトの宮のように昔から笛によってその音色を学ぶ我々ならば、このような霧はちょちょいのちょいですとも」

 

説明役が自分しかいない(お凛、シラフジ、シラハギはどう考えても向いていない)ために宮への賞賛の声も自分一人に集約される。

自分のことではないが静はちょっと調子に乗ってきていた。

 

「ふむ、ではさっそく見せてもらおうか」

 

ずいっと口を挟むのは梟だ。彼もまた渡る術を身に着けた男。

でもどこか挑発的な気が…

そんなことを考えた静ではあったが、アシナには伝わっていない笛を披露することに矜持やらなにやら刺激されてさっさと笛を取り出した。

 

さあ、宮の笛の心髄を、アシナに轟かせるのだ。

 

美しい音色と共に、それに乗せられた剣気があたりに穏やかに響き渡る。

それは思わず桜を幻視する程…いや、実際に霧で形作られた白い桜の花びらが舞っているではないか。

 

成程ミナモトの宮の長という肩書に恥じない術、同時に美しさをも極めたそれは確かに船に乗る多くのアシナ衆をも魅了した。

 

次の瞬間、目の前の濃い霧が蠢く。

それは目に見える速度で渦巻き、穴を穿つがごとく大きな空間が出来ていく。

一直線にまるで筒状に道が出来るように霧をどかし、遥か遠くに霧を越えた先の海がぽつんと見えている。

おお!と思わず、と言う様に辺りから歓声が聞こえる。あぁただ霧を開くだけでこの歓声...嬉しいぞ!

 

 

 

そんな感じで乗りに乗りまくっていれば隣から別の笛の音...

はて、一体誰の...?

 

ちらりと見やれば白髪の白髭の大男、我らが梟ここにあり。

その自分と謙遜ない演奏に静は思わず息を止める。当然笛の音も止まる。

 

この特技に驚かないアシナの人間がいるだろうか?いやいない。

一心やお蝶など旧知の連中は知っていたようだが、狼さえ目を瞬かせた程である。イブキは個人面談(カウンセリング)中に聞いたのか、感心はしていたが驚いてはいなかった。

 

それもそのはず、川蝉が指笛を扱うのは、それを教えたのが梟だったからだ。

笛の才能はお蝶ではなく梟から受け継いでいたのだ。

猩々もそのことは知っているので、船の奥で何故か半兵衛と共に仏を彫りながら懐かしんでいることだろう。

 

しかし...桜は舞っていない...!

後退(あとずさ)りしそうになった体を押し留めたのはそれだ。音色は素晴らしい。だが一流の笛とは!その最中にも花びらを舞わせるような小粋さを忘れないということ!

 

なけなしの矜持が靜に粗探しという批評的な思考へと誘う。

一流なれば己が喉にも届きうる牙をも笑って褒め称えるべきだったのだ。

 

ここに精神的勝敗が決していた。

 

そしてこれから、技術的にも彼女は打ちのめされる。

 

閉じかけた霧が再び蠢く。

しかし突如手前から四方八方に何かが飛び出す。

 

それは霧のカラスだった。

その数最早数えるのも馬鹿らしいほど!

目の前の霧がはばたき、カラスの群れが飛び去り晴れ渡る。

 

その群れはぐるりと彼らの船団を回ると再び霧の中へ飛び込み、その軌跡が穴となり先程のように道が開かれた。

 

ここにいるほとんどの者が知らなかったことだが、梟のまぼろしの練度はこの一点に限りお蝶のそれをも越える。

今はまだ霧とわかる見た目だが、本気のまぼろしは青白い確かな形で()と成り、姿を表すのだ。

 

そして対抗心で手の内を見せびらかしてしまった梟は己の年を自覚した。咄嗟に白いカラスにしたんだろうけど、やっちまったなぁお父ん。黙っておれ。

 

こうして静の矜持は踏みにじられた。

誠に大人げないじじぃである。

 

そんな人魚だけに死んだ魚の目をした静の矜持を置いて九十九号は進む。

先程までいた場所は霧に閉ざされた。静の口と心も閉ざされた。さらば長の自尊心。

 

それを揶揄(からか)ったシラフジとシラハギ姉妹はフライングドライブオーバーヘッドの鋭く伸びあがる蹴鞠を食らって海へ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イブキが()()の休憩を挟んだ静にお茶と、彼女が能力で生み出した米で作った煎餅をエマと共に持ってきた時のことだ。

 

「そういえばなのですが、この梟殿の永久指針(エターナルポース)が正常に動くのも、この霧渡りの(すべ)によるものなのですか?」

 

べべん…べんと三味線の音が聞こえる中、イブキは静に問いかける。

 

アシナを覆うこの霧は深く広いため、抜けるまではずっと()を維持しておかないといけないのだが、今はお凛が静の代わりを請け負っている。

 

…ただ、剣士としての腕は立つが霧を操る術はまだ静や梟の域に達していないようで、霧も縦列で航行する三隻の船の側面まで迫っていた。

 

御神木(桜竜)から溢れ、流れる温かい水による気温の逆転がこの霧を生む気候を形成しているということはお話ししましたね?」

「はい。それが源流で川に混じり、アシナ特有の水が生まれているという事も」

 

桜竜から生まれる水はそれだけで普通の水を越えているそう。

加えてアシナの山頂付近では"磁鉄"が手付かずだ。

 

磁鉄とは、それで鍛えると硬い鋼となるために、アシナにとって磁鉄は貴重な銭の種となる。

だがこれが採れる岩盤は稀で、採りつくされつつある。

 

だがミナモトの宮のある山頂付近では誰も行けないからというのもあるし、宮の人間が()()()()()()ためにあえて手を出していない。

 

どういうことかと言うと、川は"磁鉄"のある層を削って出来たらしいのだが、この手付かず故に強力な磁鉄の"磁力の間"を流れるために…―――結果だけ言うとおいしい水になる。

色々小難しい話はあるが"磁気活性水"というやつだ。

これは全てに作用するわけでもないが農業用水としても優秀で、まさに豊穣をもたらす水なのだ。

 

ただし、それは宮の中で諸説ある内の一つで、「桜竜から生まれた水が素晴らしいだけ」という事もあり得るらしい。

 

静はそのまま水の素晴らしさを語りたくなった…が、先ほど色々とべきりとへし折られたことを(かえり)みてやめた。

 

「…ともかく、この気候が生む霧によってアシナは守られているわけですが、それだけではただ視界が悪いだけなので問題なく永久指針でアシナに辿り着けます」

 

ではたどり着けない理由は?と言えば何らかの力によって指針が狂わされてるからにほかならない。

静の言葉を引き継いだのはイブキの隣のエマだ。

 

「今話にありました磁鉄が関係しているのです。アシナの地層に含まれる磁鉄が、流れ落ちる滝に僅かに削られ水飛沫(しぶき)と共に舞い上がり、それが霧に混ざり合うことが結果的に磁場を乱しているようなのです」

 

海へ流れ落ちる滝の中にはそういった磁鉄を含んだ層を通るのだが、これはアシナを守るための機能として働いているために採ることは固く禁じられている。

 

誰だって死にたくはない。特に、アシナの天狗が出ると聞けば尚更。

 

「そして何故指針が正しく機能しているかというと、それを私たちが抑え込むことが可能だからです」

 

ちなみに島の磁鉄が記録指針(ログポース)に作用して記録され辛いという話もあるが、それは関係ない。

せいぜい記録(ログ)が溜まるまで時間がかかる程度だ。

エマが霧のにより指針が乱れる実態を話す。

 

「冷えた霧の中で、外海からの風にかき混ぜられた磁鉄の成分を含んだ氷の粒子がぶつかり合い、静電気と共に小さな磁場があらゆるところで生まれるのです。そしてそれが指針を惑わせている…と考えられています」

 

寒暖の天地逆転の例えをいつしかしたが、これは所謂雷雲の生まれる過程に近い。

積乱雲のように分厚い()があるわけでもないので、種類の違う(プラスとマイナス)電気の電圧差が生まれないために放電は起きないが。

 

「その氷の粒子同士がぶつからないように抜け穴内部の表面で固定すると、それが逆に周囲の磁場からの遮断幕となり、ちゃんと先まで抜けてさえいれば指針がぶれることはなくなるということです…正直言えば私もあまり原理を理解してはいないのですが」

「ええ、私も確信を得ているわけではありません…何分、閉ざされた地ですので」

 

エマが残念がるのも無理はない。

アシナの辛いところは他国の事象や文献を見ることが出来ないことだろう。

稀に流れ着く者があるとは言え、技術が二百年前で止まってしまっているのだ。

ワノ国とは違った鎖国国家と言っても差し違えない。

 

…果たして偉大なる航路(グランドライン)の、ましてや新世界で起こり得る事象が参考になるかは疑問しかないのだが、それは今の彼女たちには預かり知らぬことだ。

 

「とは言え古くから伝えられ、理解できないなりにも洗練されているのは間違いありません。ただし、この霧渡りの術は当人の技量と体力に任せられるので、安全を期するならば交代要員は必須です…梟殿は一人でもいけそうですけど」

 

その言葉にイブキは梟の愚痴を思い出す。

 

確か、毎回毎回霧をどかすことのできる者が自分しかいないから大変だ、と言っていた。

 

「…もしや頻繁に行き来していたから鍛えられたのでは?」

「あー…道理で上手いわけですよ…」

 

ここでも年の功ですか…と静は溜息を一つ。

彼女もやはり長として悩みが多いのだな、とそれをイブキは労わる。

 

…指針の疑問は解消したがもう一つ、イブキには桜竜のことを聞いた時に気になっていたことがあったのを思い出す。

失礼なことかもしれないと遠慮していたが、もう思い切って聞いてみることにしたようだ。

 

「…その、桜竜は眠っているという事でしたが、目を覚ましてこの地を離れることはないのですか?ワノ国へ帰郷するようなことは…?」

「…わかりません。上人様は詳しくは教えて下さらないのです…ですがそうなっても喜んで送り出さねばなりません。数百年もの間、豊穣をもたらしたのは一重にかのご神体のおかげなのですから…」

 

―――あぁそうか、だから()はこの懐旧の念を抱いているのですね。

いつか、そういつかきっと―――

 

「―――いつか、()も帰られるといいですね…」

「………え?今、何と…?」

「―――え?私は何か言ったでしょうか?」

「んん?…いえ、違うならばいいのです」

 

彼って言いましたよね?と思いつつも当人がそういうのだからと静はこれ以上触れないでおいた。

エマも不思議そうにしてはいるが、追及する気はないようだ。

 

「?そうですか…その桜竜殿()は目を覚ましたことは一度もないのでしょうか」

「あぁ~私が生きている間であれば一度だけありましたね…ですがその…」

「何かあったのですか?」

「国盗り戦の十年ぐらい後の話です。私が長になる直前にお家騒動がありまして…丈様の義父がアシナに攻め込んだ話は聞いていますよね?」

「はい」

 

猩々が当時の長、丈の義父を討ち取り収まった戦のことだ。

青錆びの毒を仕込んだ小太刀を使ったのだ、とエマが補足をしてくれる。

 

「その一派がもう一度騒ぎを…ご神体(桜竜)を無理やり起こして…」

「まぁ…それは…」

「そして上人様の雷が落ちました、文字通りの意味の。本気の雷ですね…おかげで湖が一つ出来上がりまして…さらに暴走を止めるために止むを得ずご神体(桜竜)の左腕も…」

 

まさに弦一郎と仙峯上人が戦った湖とはそれだったのだ。

もし仙峯上人が逸らした雷が直撃していれば…どうなっていたかは想像に難くない。

 

十三年前ということだが、どうやらイブキはそのことについて心当たりがあるようでもしや、と口を開く。

 

「…それは十三年前の"白昼の大雷"のことでしょうか?」

「あぁ、私も思い出しました。驚いて、存命(ぞんめい)の道玄様が薬水をひっくり返したことを覚えています」

「そんな言われ方していたのですね…死火山の金剛山がもう一度火を噴くのではと思う程の衝撃と轟音でしたから、何かしら伝わってるとは思いましたが…」

 

しみじみと静は思い出す。

 

結局今回の弦一郎の時と同じで仙峯上人が速やかに鎮圧したので当のご神体(桜竜)の姿を見れなかったのだ。

余程腹立たしかったのだろうなぁ、とその解決速度に舌を巻いたものだ。

 

―――普段はそのご神木のお姿しかお見せになられないですからね…―――

 

ちなみに弦一郎来襲の際、静が観戦していた時に乗っていた大桜のことである。

罰当たりにみえるが、宮の長が木を守るための定位置の様なものなので誰も咎めたりはしない。

そこから長距離射程の神速の蹴鞠が飛んでくるわけで…

 

「そう言えば…十三年前と言えば九朗様が産まれた年のようですね『大雷の年に産まれたのだ』と言っておりました」

 

ふと思い出したのか、イブキはそんなことを言う。

静は目を細めてこう言った。

 

「おやそれは…面白い偶然もあったものです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ霧の道を弁才船が行く中、船内の一室にてその男たちは蝋燭の明かりを囲み盃を傾ける。

 

古い船故に木の軋む音があたりを包んでおり、遠くから笛の音が、或いは三味線の美しい音色を掻き消していた。

 

「ただオロチとカイドウを討てばよいわけではない。我々が首を刎ねただけではワノ国は変わらず死を迎えるのみよ。物騒な、しかし絶対的な力を持つ後ろ盾を失い、歪な格差が残り、汚された土地に絶望する。これでは助命ではなく、延命にしかならん」

「かの将軍も全く面倒なことをするものよ…水を汚すなど…アシナの怒りに触れるには十分と見える」

「ふん。所詮我らは部外者、だからこそ部外者なりのやり方がある…当事者の陰に潜むのよ。かの侍共(光月)のな。やつらが大義名分を持ってきてくれる。使わせてもらおうではないか、その御旗を」

「ほぅ?儂を御旗にするのではなかったか?」

「分かり切ったことを聞くでない。弦一郎が戻った今そうもいかぬだろう…それに、そんなものなくとも良い連中が多くなりすぎた」

「大忍びも随分と読み違えたものよ!儂らはもはや老害と言ったところか」

「…話を戻すぞ。侍共はせいぜい火祭りの夜に仕掛けることしかできんはずだ。後は紛れ込み、しかるべき時に仕留める」

「まるで梟のようなことを言いおる」

「これは狩りよ、一心、お前がいるならば」

「カカカカカカ!勝手に言いよるわ!では、"竜狩り"と洒落込もうではないか」

「斬るべき者を斬れよ一心。御子共との約束もあるからの」

「"最も血を流さぬ道"などとはな………あまりに甘い。だが九朗とあの御子(イブキ)…それに弦一郎までもが言うとなればな…面白い!戦の折には必ず大馬鹿者どもが現れよる!大馬鹿の先駆者(国盗りの体現者)として、若いもんの道をちぃとばかし開いてみようではないか!老害共がアシナの流れ旗を掲げて走ろうぞ!!」

「儂の得物も残しておけよ、一心」

「カカっ!お主もやはり馬鹿者じゃ!」

 

―――人知れず、そんな老人たちの会話が、あったと言う。

 

 

 

船は未だ霧の中。

だが一心と梟の頭の中に既に、それぞれ思い描く行く末がある。

 

"迷えば破れる、惑わば死ぬる"

 

五里霧中とは縁遠い彼らが神なる竜の故郷に辿り着くのは…もう暫し先。

気づけば笛、或いは三味線の音が聞こえてこない。

 

霧が晴れたのだ。

 

 

 

 

 






■言い訳タイム

程々に書けてきた
    ↓
隻狼のアップデートが来るも、クリアできないのでやり込む
    ↓
インスピレーションが湧いてくる
    ↓
文字数が跳ね上がるうえに書き直しも出てくる
    ↓
1話で収まらなくなる………ので断腸の思いで2話に分ける
    ↓
身体は闘争を求める ←今ここ
    ↓
アーマードコアの新作が出る



投稿遅れをアップデートのせいにする大馬鹿者がいるらしい。
私です。
あんなの見せられたら色々湧きますよ。
ゆるさねぇ!あんた(フロム)は今再びッ!俺の期待を『上回った』ッ!ごめんなさい。
ただし"死闘踏破"。あんたはダメだ。というかなんですあれ???見た時思わず爆笑でしたよ?

もう最終話はほぼ書き終えているのですが、冷静になってもうちょっと見直したいので時間を下さい。一週間以内には出せるはず…です…多分………



■(主に)隻狼との違いまとめ

桜竜:ワノ国より遥か昔流れ着いた。"木"であり"竜"である。仔細はいつかワノ国編にて。
不死斬り:覇気持ち長生き妖刀。ある意味噂通りだった。拝涙は桜竜関係。開門は覇気貯蔵庫。
幻術:音色で空気中の水を操る術。お蝶のまぼろしも巴流の雷も使い方が違うだけで同じ技術。
アシナを覆う霧:とんでも理論。触れるべからず。
イブキ:コメコメの実モデルアシナマイの植物人間。土地の特性に影響を受ける。
九郎:最近狼の回りも賑やかで嬉しい。保護者。
弦一郎:共に舞おう。アシナの桜をかの国で咲かせるのだ。
狼:おはぎ。
川蝉:あんま怒られなかったけど自分を見る両親の目が怖い。妖刀も怖い。
梟:笛が上手く、娘に受け継がれた。高身長から繰り出される体重を乗せた蹴りが炸裂した。
お蝶:幻術を娘は受け継いでくれなかった。人生で一番良いと断言できる蹴りが炸裂した。
猩々:川蝉の居場所を知っており、だから狼に落ち谷の情報を渡せた。あの蹴りはやばかった。
静:色々知ってる身なので出番が多い。大海賊キャプテンウィングを尊敬している。
磯禅師:史実にて、宿所に鎌倉の御家人たちが押しかけて宴会を催した時、彼女は舞を披露した。
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