流れ出ずる豊穣   作:凍り灯

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お気に入り数100・・・越え・・・?
思っていた以上に評価されていて怖気が天元突破しました。
回生ができなければ死んでいた・・・

追記:見返すとおかしな日本語があったので少し修正しました。






零れ落ちる心中

「お主も、竜胤に魅入られたか」

 

アシナ城の天守望楼(ぼうろう)

見渡せばアシナの城下町全体を見下ろせるような景観が望める、アシナ城の中で最も高い位置にある部屋。

竜胤の御子・・・九郎と呼ばれる少年が、目の前に跪いている大男にそう言った。

 

九郎は細かく金の刺繍により文様が描かれた質の良い紀州茶色の着物を着ており、その堂々とした佇まいと合わせて未成熟とも言える若さなど物ともしない威厳を感じ取ることができる。

 

対して跪く大男・・・"梟"と呼ばれる老人は、十尺はあるのではないかという体躯を持ち、その大柄な体に見合った大太刀や、身にまとった羽蓑が目立ち。

正に言い表すならば「梟」といった格好だ。

特に、頭の後ろで結ばれた白髪がまるで注連縄のように大きく編み込まれ、その体躯程の長さを背中へ垂れ下げていた。

見た目通り九郎とは違った存在感を持っていると男と言えるだろう。

 

―――この梟は狼の義父である忍びであり・・・三年前の"平田屋敷襲撃"の際に死んだと思われていた男であった。

 

「話すことは無い。去るが良い」

 

九郎は冷たく言い放ち、背を向ける。

梟と交わした短い会話から、この男もまた竜胤の力を手中に収めようとしているのだと気づいたからだ。

ただでさえ死を偽って三年も身を隠していた忍びだ、疑うなと言う方が無理があるだろう。

 

そして梟は先程、取り繕った言葉ではあるだろうが「()()()()()()()」と言った。

しかしそもそも九郎が目指すものは不死断ち・・・()()()()への道だ。

どちらにせよ交わうことの無い道なのだ。

 

「あい済みませぬが」

 

しかし梟は突き放されたにも関わらず、気にした素振りもなく続ける。

 

「懐かしきこの眺めを、もうしばし堪能したく」

 

ゆっくりと立ち上がり、死角で()()()()()()()()()()()()()()()()の方を振り向く。

 

「満足しましたら、帰りまする」

 

九郎は一瞬立ち止まったが、そのまま振り向きもせずにその場を去る。

梟もその場で誰かを待つように、腕を組んで立っていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

義父上(ちちうえ)・・・ 生きておいで・・・だったとは・・・」

 

九郎と梟の会話を聞いてしまった狼は戸惑いながら自身の義父に言葉を漏らす。

なにせ三年前、当時九郎が預けられていた平田家が賊により襲われた際に―――迫る火の手により確実な確認がとれなかったとはいえ―――目の前で深手を負った義父を看取ったはずだったのだ。

 

そして本来喜ぶべきことであったはずなのだが、先程の不穏な会話からそうも言ってられないと狼は判断している。

 

(はかりごと)よ・・・お前こそあの夜、死んだと思うておったがな」

 

謀。

何の気なしと言った風に梟は答えた。

だが狼はそれにはあえて触れることなく、素直に疑問に応じる。

 

「御子様のお力にて、死人より帰りました」

 

三年前。

賊に焼き払われた平田屋敷にて狼は主である九郎を探し続けた。

そこで自身の忍びの技の師として、梟より宛がわれていた"お蝶"と呼ばれる老婆と九郎を巡り戦うことになってしまった。

仔細はわからないが賊を手引きしたのは、()()()状況から考えてお蝶だろうと判断していた。

 

辛くも勝利するが、狼はその直後()()()()よって背後から体を貫かれてしまったのだ。

そのまま傷が原因か、或いは焼け落ちる屋敷に押しつぶされるかで死ぬはずが、九郎により与えられた竜胤の呪いにて生還することができた。

 

「それよ」

「・・・は?」

 

梟は狼の言葉を聞き、満足げに口元を歪める。

 

―――その力こそ儂が求める力―――

 

 

 

―――梟には野望がある。

彼は今や老いた忍びだが、自身の武名を世に知らしめることを望んでいた。

忍びとは影の存在。

名を名乗ることも、正々堂々と戦うことも許されない。

いつしか、この齢まで生き延びてしまったが故に、ただ羽を抜け落としながらゆっくりと死ぬという未来に耐えられなくなっていった。

 

このままアシナに居続ければそうなるだろうが、ワノ国となると()()

そもそも忍びの定義すらこことは食い違っているのだが・・・

 

今はワノ国は()()()であるかの四皇の"カイドウ"と、復讐に飢えた小心者の将軍"オロチ"により支配されている。

オロチの政策は言うまでもなく暴虐無道。

 

梟の見立ててではワノ国の限界は近い。

いや、そもそもあの将軍は()()を望んでいるのだろう。

ならば、お膳立てされた幕引きの瞬間に静かに喰ろうてやろうではないか。

そのための()もある。

 

故に梟はアシナのような閉ざされた島ではなく、死に体のワノ国での栄転を企てた。

オロチはアシナを・・・竜胤を手に入れるために梟を利用しているが、利用しているのは梟も同じこと。

"影"のことならば梟の方が何枚も上手、オロチがアシナに送り込んでいる間者はそのたびに梟によって始末、或いは寝返っている。(それでも漏らした間者は一心が"鼠"と称して切り捨てているようだ)

そして既に下準備として逆にワノ国に梟の配下の忍びが幾人も潜んでいる。

 

・・・これらに加えて()のために必要な竜胤と、非常に高い武力を持つアシナの掌握が必要なのだ。

ワノ国に反乱の兆しが見え始め、そして一心の限界も近い今やらねばならない。

 

手始めに狼を引き込み竜胤の御子である九郎を手中に収める。

狼を差し向ければ楽に話が進む・・・というわけにもいかないだろうが幾分かは()()になるだろう。

出来るならば良し、出来ないというならばそれも良し。

その時はただ斬るのみ。

だが・・・

 

「・・・」

「父上・・・それ、とは・・・?」

「・・・」

 

先程から蚊帳の外なのを理解してか、狼の後ろで一度も口を開いてない女性が一人。

言うまでもなく、狼と共にアシナへ降りたオチの御子であるイブキだ。

 

「狼よ」

「は」

「その者は誰ぞ」

「オチの御子にございまする」

 

イブキは旅のためか尼僧のような恰好をしているが、梟の目から見ても彼女には教養があり、且つ人の上に立つ人間なのだと理解できるような貴い気品があった。

そして狼は必要以上に言葉を交わすことは少ないが、仙峯寺のあるオチの村の"神主"だということもわかった。

わかったのだが・・・

 

「狼よ」

「は」

「何故連れてきた」

 

梟はこれから、九郎に対する狼の心を問わなくてはいけないのだが、その前にわざわざ倅がイブキをここ(アシナ城)に連れてきた理由を知らねばなるまい。

 

―――大方竜胤の、不死断ちのことであろうが・・・―――

 

 

 

―――オチの村にはなにかと謎が多い。

梟は村が嘗て飢饉に襲われていたことも知っているし、それをなんらかの方法で凌いだことも知っている。

 

だが当時ワノ国との戦の真っ最中。

梟とて最初からワノ国と繋がっていたわけではなく、アシナのためと戦場を奔走していた。

由緒正しい仙峯寺があるとはいえ、たかだか山奥の小さな村に目を向けられるほどの余裕はなかったのだ。

 

しかし梟でも気になることをオチの村が始めたことが確かに過去、あった。

 

"竜泉"である。

 

アシナの民は源から流れ出ずる水をこよなく愛する。

それを使った酒もまた盛んで、多くの者がアシナの酒を愛した。

ワノ国との戦いが続く中、金剛山より降りてきた商人が持ってきた酒、竜泉もその一つだった。

 

最初は誰もがその値段の高さと生産数の少なさに目を見張ったが・・・既存の酒より明らかに美味かったのだ。

 

誰もがその酒に魅了された。

それは一心や梟も例外ではなかった。

大柄な図体の割に飲んで早速顔を真っ赤にしながらも商人に聞けば、オチの村で作られたと言うではないか。

 

それだけならば梟が気にする理由もないが、不思議と竜泉を飲んだ日は傷の治りもすこぶる早く、調子を崩していた者もたちまち元気になった。

 

梟の配下の忍びもやはり余裕があったわけではないが、()()があると(酒の魅力に少し気が傾いたとも言う)オチの村を探らせるために商人に扮させ、送り込んだ。

 

しかし戻ってきた忍びによれば、そこにはやたら武芸に達者な僧侶たちが村を守っており、不埒な部外者を跳ね除けていたという。

無暗に刺激する必要もないので、商売の範疇からは出ないように深い部分には手を出さずに探ったところ、ただアシナの水の恩恵を強く得た米の栽培に成功しただけとか。

 

アシナの水は元々とても質が良い。

 

水質汚染のひどいワノ国の住人が聞けば誰でも飛んでくるのではないかと言うほど雲泥の差がある。

特に河川へと湧き出る水源に近ければ近いほど質が上がると聞く。

オチの村もそうした山奥に位置するため、アシナよりも上等な酒ができてもなんらおかしな話ではなかった。

 

配下の忍びに聞く限りは特におかしな所もなく、戦にも関係がない重要度の低い事柄だったので梟はそれで納得することにした。

ついでとばかりに買い付けて持ってきてくれた竜泉を独り占めできることに頭が緩んでいたのは否定できないが・・・

 

多少疑問は残るが仙峯寺のある美味い酒の村。

これが梟の当時の認識であった。

 

今ならば竜胤や、噂の不死斬りがあるじゃないか、という話になるが梟は不死斬りの方は()()を知っていた。

不死斬り自体は特に気にする理由にはならず、最近の()()()()も真っ赤な嘘だと見抜いていたために不死斬りに関しては無視している。

 

―――となると竜胤関連の話しかない、と梟は当たりをつけたわけだ。

 

仙峯上人が築いたとされる寺、仙峯寺ではかつて竜胤の力を秘めた蛇柿―――これも梟は正体を知っているが―――を保管していたということを掴んでいる。

 

元々、蛇柿とは仙峯上人によって持ち込まれたもの。

仙峯上人が竜胤の力を振るっていたという話は伝えられてはいないが、だからこそ竜胤がどのような事態を引き起こすかを知っていたと言えよう。

 

・・・どういうわけか九郎の()()()の元へと流れ着き、仙峯寺からは失われたわけだが。

 

つまり狼は仙峯寺に辿り着き、そこで竜胤の御子となってしまった九郎の悲願である不死断ちのための、梟が知らない()()を掴んだ。

そしてそのために神主・・・イブキを連れてきたのだろう。

 

ではそれは何か?

これから利用するのだから梟にとってそれは非常に重要なことだ。

 

・・・実は梟もその後にオチの村に何もしていなかったわけではない。

当時梟が間者を無理にでも送り込んでいれば話は変わったかもしれないが、オチの村の守りは年々強固になるばかりだった。

梟が竜胤を利用することを本格的に考え始めた頃には、信じられないことに忍びを送り込む隙がもはやなかったのだ。

 

武力による制圧はできただろう。

狼は秀でているとはいえたった一人でイブキの元に辿り着いたのだから。

だが仙峯寺の僧侶ならば信心深いが故に、秘匿のためと言って寺に火をかけるようなこともまたあり得ると危惧していた。

 

だからこそ今まで慎重に事を進めており・・・結果として竜胤については()()()()()()()()()()以上は収穫がなかったというのが現状だった・・・

 

 

 

・・・現状だったのだが、オチの村の神主がまさに竜胤を手にせんとする瞬間にここにいる。

梟にとって天が味方したような心持である。

 

そういうわけで神主たるオチの御子、イブキの前では竜胤のために狼をそそのかすようなことをまだ言うわけにはいかない。

秘匿のためと自害でもされても困るので、なんとか事を荒立てる前に聞き出したい所である。

先程の会話は聞かれただろうが、ここで上手く話しの焦点を――――――

 

 

 

 

 

しかし、なんとここで狼が仕掛けた。

 

 

 

 

 

「義父上・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはぎです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・なんじゃと?」

 

「ですからお―――「聞こえておる」

 

倅が何か言いだした。

 

 

 

 

 

おはぎ??

 

 

 

 

 

梟は思わず狼の後ろにいるイブキに目で訴えた。

 

―――妙なことを吹き込んだのではないだろうな―――

 

その視線を読み取ったイブキは狼の横に並び、柔らかい微笑みを浮かべて漸く口を開いた。

 

「御子の忍び・・・狼殿は、あなたのおはぎがとても好きなようですよ?」

 

違う、そうではない。

梟は思わず目元を押さえて膝を折った。

 

―――忍びが食に流されるなど、なんと、情けないことか・・・―――

 

だが梟も義理とはいえ狼の親。

例え狼を使って竜胤を利用するために3年前の平田屋敷で()()()()()()()()()()()としても、しかと親が子に教えなければなるまいと決心する。

 

梟は斜め上の狼の発言に考えていたこととかいろいろぶっ飛んでいた。

 

「よいか狼よ。長い月日、その上死んだと思うておった儂に会えたからというて、おはぎとはなんじゃ」

「ですが・・・」

「わかっておる。お主が儂の作ったおはぎを食いたいと言うのはな。」

「いえ・・・そうでは―――「黙って聞くがよい」

「・・・あの」

「む」

 

イブキが説教に熱が入りそうだった梟に、恐る恐ると言った風に自分よりかなり高い位置にある顔を見上げて声をかける。

あまりにも身長の差がありすぎて少し首が辛そうだ。

 

「私がここに連れてきて欲しいと頼んだのです」

 

そういえばそういう話だった、と梟は思い出す。

いきなり倅が変なことを言うものだから―――いや止そう、今は情報を得るのが先決と持ち直す。

 

「しかしオチの御子とやら。今このアシナは非常に不安定。現当主である弦一郎殿も姿を隠し、かの剣聖一心殿も病に蝕まれておる。いかに強力なアシナ衆とて同時にその二人を失えば士気も落ちよう。ワノ国のこともある。今が鍔際なのじゃ。いかなる理由とて、これを覆すようなことでもない限りはとてもここにいるのは勧められぬ」

 

さて教えてもらおうか。梟はすぐ帰すつもりは毛頭ないし、イブキも、はいそうですねと帰るわけでもないだろう。

さりげなく指導者が不在なので自分のような者が動かねばならない、という建前をちらつかせるのも忘れない。

 

梟はオチの御子がどんな意思を持って、どんなモノをもたらすつもりかを聞きださねばならなかった。

ここ(アシナ城)まで来たということは必ず何かあるはずだ、と。

 

「義父上、イブキ殿は御子様のように人智を超えた力を持っているのです」

「ほう?」

 

まさかこの女もどこからか流れ着いた()でも食べたのかと考える。

アシナは外界から霧によって閉ざされているため知る由もないが、外へと行き来できた梟は知っている。

 

竜胤は()()特殊とはいえ、このような不可思議な力など、どこにでもありふれているということを。

 

「狼殿、後は私が話を―――」

 

そうしてイブキは仙峯寺で狼と交わした会話から見出した九郎と、アシナを救う仮説を話す・・・

アシナを枯れたような黄金色に染めていた日は既に落ちようとしていた――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梟はオチの御子の能力が今後利用できるものかを見定めようとていたのだが・・・聴かされた情報にひどく衝撃を受けていた。

 

―――()()()()()()()()!―――

 

梟はその長年の経験で驚愕が顔に出ないように抑えることには成功していたが、内心は狼狽していた。

それと同時に思考を回す。

 

曰く、血を対価に生命力を与える米を生み出す豊穣の力で、それはイブキの仮定ではあるが竜胤の対となる可能性がある。

そしてなにより梟にとって重要なのは、姿()()()()()()()()宿()()()()()()()()ということ。

 

 

 

―――梟はワノ国と繋がっているために、外へと行き来できる手段を持つ数少ない一人。

野心に溢れる梟はその名が表すように知識も人一倍求めた。

ある程度判明させたからこそ、アシナでは謎が多く危険とされている竜胤・・・いや、()()()()である"ヨミヨミの実モデルドラゴンロット"を利用することを考えたのだ。

誰だって計画に不確定要素などは持ち込みたくはない。

 

その力を調べる上で、ある程度の立場をアシナで持っているというのは非常に役に立った。

アシナの内と外の知識を合わせることで初めて理解できることが多くあったからだ。

 

そして竜胤の全てをワノ国が知っているわけではない。

今こそオロチも、そしてカイドウも不死を量産できるという竜胤の力を求めてはいるが、その副作用・・・竜咳の存在を梟は教えていない。

 

当然である。梟は竜胤の()()()()()()()()、副作用の竜咳をワノ国の海賊共やオロチの配下にばらまくつもりなのだから・・・

 

話を戻すが、悪魔の実の能力を調べていた所面白いことがわかった。

それはこの竜胤のヨミヨミの実と対となるような見た目が()()()の実があるとわかったのだ。

 

本来悪魔の実に竜咳のようなこれ見よがしな副作用はあまり見られない。

だからこそカイドウもオロチも梟の報告を信じた。

 

しかしこの悪魔の実は対となる悪魔の実と揃えることで真価を発揮する珍しい相補関係のある悪魔の実らしい。

"らしい"というのは、能力の輪郭を捉えてはいたが実の互いの関係性などに確信を持てる材料がなかったからだ。

梟もその実を追ったが・・・ついぞ捉えることは無かった。

 

そして梟は確信する。

イブキは仮説として話しているが、紛れもなく対となる悪魔の実なのだと!

 

・・・聞けば聞くほど梟は驚愕する。

 

その豊穣の力の強大さに。

 

―――兵糧が尽きぬではないか!―――

 

それだけではない、オチの村の状況やオチの御子自身の話を聞く限り怪我や病に効き、あまつさえ老いにまで効くときた。

ただでさえ竜胤で不死の軍団を生み出せるのに加え、その副作用である竜咳を排除し得る可能性を持ち、さらには死んで"回生"するまでもなく米による回復で死ににくいという悪夢のような状況を作り出せるのだ。

 

 

ふと―――何故か梟の頭にかつて戦を共にした、盃を交わすアシナの面々が浮かび上がる。

 

 

―――これがあればもしや・・・いや、しかし―――

 

そしてここで梟は気づく。

 

 

皆で奪い合った竜泉はアシナの水と、オチの御子から生み出された米で作られた酒だったのだと・・・

 

 

 

「"迷えば敗れる"」

「・・・む?」

 

イブキが話す間、相槌もせずに黙っていた狼が口を開いた。

 

「一心様がそうおっしゃっておられました」

「・・・あやつの口癖よな」

 

―――少しは成長しておるようだな―――

 

梟は、狼が何故こうも自身にこの話を隠すことなく伝えたのかを理解した。

 

―――まさか、儂が倅に見定められようとしているとはな―――

 

梟の中で、何かが動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――イブキ殿―――

―――・・・なんでしょうか―――

 

――――義父上に、全て話そうと思う―――

―――ですが・・・今の竜胤の御子との話を聞く限り、竜胤をこの国のために使うとはどうにも・・・―――

 

―――全て聞かせて、それから答えを聞きたいのだ―――

―――・・・―――

―――・・・―――

 

 

 

―――わかり、ました・・・―――

―――かたじけない―――

 

 

 

イブキは先ほどの狼との会話を思い出す。

梟は狡猾な男だろう。

この齢まで忍びとして生き続けたことが何よりの証だ。

 

だがその男が迷いを見せている。

これほどの男が迷っているのは自身の目的のためか、それとも違う何かのことか。

狼殿にはそれがわかっているのだろうか?と考える。

 

親子にしかわからない何かがそこにはある気がした。

そしてそれが羨ましかった。

 

イブキの親はオチの村の神主だったが、イブキを生んだ後間もなくして亡くなった。

親代わりになったのは、ずっと家に仕えてきた三人の従者だ。

イブキは今、自身の従者・・・オボロ、アヤ、キヌの三人に会いたくて仕方なくなった。

 

だけどこの親子の行方を見届けなくてはいけない。

何故ならイブキがここにいなければ()()()があったかもしれないのだから。

それが良いことなのか悪いことなのかはわからない。

 

例えこの二人が刃を交えることになろうとも・・・きっと見届けなくてはいけないのだ。

 

 

 

 

 

梟はどこか浮ついた気分になりながらも現状を冷静に整理していく。

 

何といっても、一心が少なくとも数年は戦えるようになるのは現状のアシナにとって大きいことだろう。

一心の病を知ったからこそ弦一郎は決心し、生き急いでいるのだから。

 

そして今、オロチはワノ国の()()()()()に悩まされているとはいえ、一心が倒れる隙を伺い続けている。

だがアシナのワノ国の間者はほぼ全てが梟の手の中。

一心が倒れたとてこちらの準備が整うまでは情報が流れるのを抑えるつもりだった。

 

カイドウが突発的に押し掛けることもない。

何故ならあの数十年前の最後の国盗り戦を境に、オロチはカイドウに「()()()()()()()()()()()()()()()()」と嘘をついているからだ・・・ここには特別な手段なくして辿り着くことは難しい。

 

オロチは一心を極端に恐れている。

なんせ最後の戦であのカイドウを一文字に斬り伏せて見せたのだ。

 

いかに竜胤の力が欲しくとも、カイドウをアシナという小国で失う可能性を考えてしまえば一芝居打つのは自然の流れだったのだろう。

だからこそ、一心が倒れればここぞとばかりにカイドウを差し向けるはずだ。

 

―――梟は()()()()()()()、そのままアシナを襲わせる予定だった。

もともと竜胤の力などカイドウ自身は必要としないだろうし、それは力ある"大看板"などの幹部も同じだろう。

死にやすい下っ端に与えて前線へと投入するはずだ。

 

アシナ衆は「死なず」であろうと後れを取るような者は皆無。

それはもう幾度も「死なず」を殺してくれるだろう。

そうすれば竜咳が()()()()()()()()()()()()()()()へ襲い掛かる。

竜胤の()()()や今回の騒動の経験から、例え能力者本人であっても竜咳に()()()()()()()()()()()()()ことがわかっているため、竜咳に罹った後に「死なず」になろうと無意味だろうと推測している。

 

気づいた時には既にどうしようもない状況になっているというわけだ。

 

当然、梟が"竜胤の雫"による治療法など教えるわけもない。

いつまで保つかはわからないが、後はじわじわと死んでいくのを待てばよいだけとなる。

 

・・・しかし一心が健在だと話が全く変わってくる。

"ワノ国にて反乱の兆しがある"

これを利用することになるだろう。

 

梟の手引きによりアシナの「死なず」の軍勢がワノ国に乗り込み、時を待つ。

反乱の機会に上手く乗じ、潜んでいる配下の忍びを一斉に()()()()()場を乱すことで一気に切り込むことができる。

老いたとはいえ万全の一心がいるならばカイドウ打倒も十分可能。

 

カイドウが竜咳でいつ()()()()()()()()正直見当もつかない。だから、竜咳でちまちまとやるよりも単純で確実ともいえる。

 

勿論、この攻めの案は元々の待ちの案と違い大して煮詰まってもいない考えではあるのだが・・・。

 

だが・・・だがしかし()()()()なのはオチの御子の存在なのだ。

 

ワノ国は各地で意図的に起こされた飢えが蔓延している。

さらには人工悪魔の実の副作用によってどんなに悲しくとも()()()()()()()()()()という苦しみを与えられた民もいる。

 

これらは例えカイドウとオロチが倒れようとも簡単にはどうにかできるようなものではない。

これはオロチの復讐でもあり、彼の望んだ()()()なのだ。

そこが一番の不安要素だった。

 

・・・もし、それがどうにかできてしまったなら?

飢えた民に彼女の存在は恐らく絶大な効果を発揮する。

こちらがワノ国で決戦の時を待つ間に各地の民を味方とし、ワノ国全土巻き込む大きな()を起こせるやもしれない。

 

各地に散っている配下の忍びによってワノ国の動きは既に掴んでいる。

それぞれでオロチの部下として()()を演じてもらうことで、民衆の心を動かすことも可能だ。

そしてその()を操ればワノ国を手中に収めることも決して不可能ではない。

 

そしてアシナの連中・・・一心は端からワノ国に興味はないだろう。

弦一郎もまた然り、ワノ国ではなくアシナに執着している。

一心が健在だとしても、この方向に舵を切ることによってアシナは梟の野望の障害ではなくなるのだ。

 

そして・・・

 

チラリ、と梟は自身の倅である狼に目を向ける。

 

―――米により身体が()()()()()()()こやつと命を賭した真の戦いが出来るやもしれぬ―――

 

 

 

 

 

梟の腹は決まった。

 

 

 

 

 




軽い感じで書きたいとはなんだったのか。
守れておらぬぞ・・・

お米ちゃんの出番が少なくて申し訳ないのですが、ルート分岐イベントなのでお許しを。

梟が狼にスイッチ入れられたせいで熱い男と化しました。
全部少年漫画とクロスオーバーしたやつが悪いんです。
(梟が好きだからとは回生してでも言えない)

それとようやく竜胤のこの世界での名前が出せました。

ヨミヨミの実モデルドラゴンロット(竜胤)
任意の人を「死なず」にする。
「死なず」が死ねばその当事者の周囲の親しい人から生命力を奪い"回生"する。
生命力を奪われた人々はそのたびに血が淀んでいき、最終的に竜咳という不治の病に罹る。(厄介なことに生命力を()()までが能力で、竜咳は結果として発症する病なので解除できる類ではない)
そのまま放置すれば死に至るが、唯一能力者の"竜胤の雫"(涙)によってのみ治療可能。
ただし涙であるため、量の問題から()()()()()()()()()()()()()()()()()
玉ネギを使ってもだめだった。
ただし対となる瓜二つの見た目の悪魔の実で対策可能らしいが・・・

書いてて思ったのは、ワンピースの世界観だと中々死なないので完全にハズレ悪魔の実である。(過去編は除く)
狼の珍プレーに関しては大した理由はないですが次回にて。

隻狼との違いまとめ

竜胤の力:悪魔の実のため(世界観に合わせるため)仕組みが単純化している。あれだけ見た考察サイトや動画は作者の中で灰塵と化した。
豊穣の力:コメコメの実という悪魔の実。おいしい加工のできる回復薬(ほぼ)を無制限に量産可能とかいうふざけた能力。チユチユの実に似ているが使うのは能力者の血で、他人から治癒力を分けてもらうようなことはできない。他の実には見られない特性があるらしい。
九郎:まだかっこいい。
オチの御子:プロパガンダに利用されそうな危機に気づいていない。
梟:少年漫画化した。ワンピースの常識を知るのは今のところ彼だけ。なんておいしい役回り。
狼:おはぎ。


ちなみに「零れ落ちる」は「今までの主従関係を離れる」という意味もあります。
次は私の予定上、一週間以上かかるかもしれないので悪しからず。
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