流れ出ずる豊穣   作:凍り灯

9 / 11
そう、これは始まりの話







源流

雪の積もる深い谷間である"落ち谷"を渡り、小さな湖の岸壁を越えた先に、天然の洞窟を利用した砦がある。

 

その砦の中、木製の三脚に鉄の器を乗せただけの簡易的な篝火によって岩肌が橙に照らされる広間では、複数の人間が対峙している。

 

片や顔中を包帯によって白く隠している、蓑を肩にかけた女性たち。

それは顔だけにも留まらず、腕や足にも同様に施されている。

そこから僅かに覗く肌は青白く、口には特有の牙が覗く者もありその正体は魚人だということがわかる。

中には三十を超えた人魚もいるようだ。

 

彼女らは六尺ばかりある棒状の鉄器を肩に担いでいる。

 

片や背の高い二人組。

 

一人は中年から壮年に映り替わろうとしている齢に()()()女性。

熨斗目花色(のしめはないろ)の着物を着ており、灰色の混じり始めたぼさぼさの長髪をうなじ辺りで雑にまとめて背に流している。

その背には身の丈にも及ぶ大太刀が背負われており、女性の長身から見積もっても刃渡りは五尺以上はあるだろう。

 

さらに特徴的なのは左腕に独特な篭手のような物をはめていることだろうか。

糸巻き機のような細長い鉄製の"軸"が腕の横へと沿うように取り付けられており、そこには縄が巻かれている。

 

腕に棒状の手摺が付いているような見た目だ。

難しい機構はないようだが、初見でこれを何に使うかわかる者はいるのだろうか。

 

そしてもう一人。

長身であることに変わりはないが、隣の長身の女性よりやや低い身長の男。

こちらも対峙する彼女らと大差ない程に包帯を巻かれていて、それは真新しい傷のようだ。

 

そう、千峯上人によりミナモトの宮の滝下へと落とされた弦一郎その人である。

 

「"川蝉(かわせみ)"…その小僧は誰だい?」

「弦一郎だ」

 

会って早々挨拶もなしに始まる会話は殺伐としたものだった。

ただどこか気安さがあるように聞こえる。

 

男が誰かを問うた女性、"シラフジ"は、"川蝉"の答えにその少ししわがれたような声で、皮肉を言うように返す。

 

「…そうかい、アシナの当主と同じ名前だねぇ…?…あんた、私たちがなんでここに砦なんて構えたかぁわかってんのかい?」

「あ?アシナに喧嘩売って負けたからだろう?」

 

その言葉にシラフジの周りの"蛇の目衆"の殺気が静かに膨れ上がる。

当時の戦から二十余年と経っているが、それでも触れて欲しくないこともあるというものだ。

 

ましてや一族の長の首を獲った男の、その相棒から言われれば尚更。

シラフジや、一部の者は対して気にした様子もないが…

 

川蝉自身もやっちまったなぁと思いながら、自身の背後の、数打ち物の刀故か緩んだ切羽(せっぱ)から出る小さな金属音に意識を向けた。

 

明らかに目の前の蛇の目衆より弦一郎の殺気の方が高い。

ちらと見れば既に左手は腰に差した刀の鞘へ伸びており、既に鯉口は切られ、(つば)との間に鈍い鏡面が顔を出していた。

 

その鬼気迫る様子に、しかし誰もが臆する気配など微塵も見せない。

シラフジは弦一郎の殺気の根源を冷静に読み取り言葉を続ける。

 

「成程…過去からは互いに逃れられないみたいだねぇ」

「そういう貴様は淤加美一族の者と見るが」

「魚人を全部そのくくりに入れるのはどうかと思うが、間違いないねぇ…国盗り戦の折にアシナに愚かにも踏み込み、無残にも逃げ帰った生き残りさ。ま、一部は宮に戻ったようだけど…それで?やんのかい?」

 

静かに言い放った言葉だったが、彼女らは噂に聞く目だけでなく耳も良いらしい。

砦の外に控えていた他の蛇の目衆までもが壁の穴から鉄の得物―――"石火矢"の銃口を突き出させた。

対する弦一郎は静かに剣気と殺気を上げながら見返すのみ。

 

シラフジはそれを"殺る気がある"と解釈し、笑みと共に自身の、刃を取り付けた石火矢に手をかける。

石火矢の火縄の燃える僅かな音が緊張感を掻き立てる。

 

「地の利と数の利…卑怯とは言わせないよ?」

「笑止」

 

弦一郎が刀を抜き始めた頃。

 

その一式触発の空気の中、川蝉はいつも通りの空気を晒しだし、困ったように二人を見た。

 

「あ~~…終わったら教えてくれ」

 

「………しらけるねぇ…川蝉。あんたぁ、面倒な火種を持ってきて、じゃぁ後はよろしくってそれだけで済むと思ってのかい?」

「面倒と言いつつ笑ってるじゃない…思ってはいないがよぅ、あたしも混じっていいの?」

「恥を晒したくなきゃやめとくんだね、こんな狭っ苦しい所でその大太刀が振り回せるとでも?」

「たかが狭いだけででかい刀を振り回せないとでも?あんたら、一人残らずあたしの()()()って言ってんのよ」

「試してみるかい?」

「…いや、やらん」

 

川蝉はそうさっぱりと言い切ると、徐々に高めていた剣気を一瞬で露散させる。

 

そういえば争いに来たわけじゃなかったと思い出したらしい。

 

「………相変わらずつまらないねぇ。この前久々に面白いやつとやり合ったから気分が高まってるってのに」

「あぁ~あいつね()()()()()の男。いつもより五割り増しの包帯はそういうことだったのね。うちの獅子猿もすっぱり切られてなぁ」

「死んだのかい」

「いんや止めた。ようやく一端の剣術が身に付き始めたわけだし?ちょうどあたし以外の格上にも出会ったことだし?素質あるから勿体ないだろう?」

鬼の剣気(覇王色の覇気)、ね……あんたに似てあの大猿もいつかここにカチコミしてくんじゃないかと、うちの奴らが冷や冷やしてんだよ。」

「あ。すまん、連れてきた」

「………何だってぇ?」

 

川蝉が顔の前で両手を合わせて心無い謝罪をした瞬間、外の砦が俄かに騒がしくなる。

大柄な獅子猿だと洞窟の中に入れないために大きく迂回する道を行かせたのだろう。

 

しかし銃声が響くことはない。

外で見張りをしている蛇の目衆はその獅子猿の実力を知る故か安易に手を出さず、シラフジの指示を待って行動に移すつもりらしい。

 

「…まだやられた傷が癒えてないもんがいる中じゃぁさすがに分が悪いね」

「まぁ~だやる気だったのか」

「後ろのやつに言うんだねぇ」

 

そうして川蝉はすっかり放っておいた弦一郎へと身体を向ける。

先程のように鯉口を切るような臨戦態勢ではないが、相変わらずその眼力はシラフジら蛇の目衆を油断なく捉えている。

 

刀を納めたのは二人の会話に何か思い当たることがあったからだろうか。

 

「一つ聞くが、その義手の男は何をしに来たと?」

「質問したいならその剣気を抑えることだねぇ…そう、それでいいんだ。というより、そこの隣の女が知ってんだろうよ」

「…何?」

「んえ?聞かれなかったしなぁ」

 

弦一郎とシラフジの鋭い眼差しに川蝉はとぼけたように答える。

 

いや、きっとこれが素なのだろうと、会って間もない弦一郎ですら思い始め呆れていた。

シラフジも「そうだろうねぇ…」と大きなため息を吐いて、気勢を削がれたのか蛇の目衆に合図をして石火矢を下げさせ、結局シラフジが答えた。

 

「…はぁ、しらけるねぇ……"不死断ちの方法を探している"だとさ。あたしは落ち谷に行くだけ無駄足だっつったんだけどねぇ…結局その通りになったみたいでしょぼくれて帰っていったよ」

「…どういうことだ」

 

ということは目的の不死断ちの方法を知ることが出来なかったということだ。

そもそもこの先は落ち谷。

 

そうなると必然的にいるのは川蝉と獅子猿、または毒沼の先の洞窟を住処にしている主の白蛇ぐらいか。

果たしてその中に不死断ちを成せる"材料"があるかと聞かれると疑問だ、と彼は思う。

 

「あ~それあたしのせいだな。猩々の奴に昔、不死の大猿をぶった切ったって自慢しちまったからなぁ…大方あたしが不死を殺る方法を知ってるかも、みたいな話をしたんだろうね」

「あの大猿も不死だというのか?」

「いや全部誇張」

「………」

「いや、だって、首に刀ぶっ刺しても戦える大猿なんてもう不死みたいなものでしょ?…まぁそのあと蹴っ飛ばしてあたしが勝ったんだけど。結局死ななかったし?全身真っ白だし?こりゃぁもう不死の妖怪だーっつってもいいじゃない、ねぇ?」

「私じゃなくてそいつ(弦一郎)の目を見て言いな」

「見栄張ってついた嘘を信じてはるばるやって来た若人を説得したあたしの身にもなってくれ。似たような年頃だから思い出しちゃう」

「自業じゃないかい」

「そうだけどさぁ~…」

 

そんな会話を聞き流しながら弦一郎は考える。

"義手の男"と"不死"とくれば間違いなく狼のことだ。

 

そして御子(九朗)と狼が求めるのものが不死断ちだということもわかる。

御子を置いて動けるということはおじい様(一心)がやはり協力したということだろうと、自分が敗れればそうなることは想像がついていた。

 

 

―――俺は何ができたというのだ?―――

 

おじい様の言葉を聞かず、ただアシナを生かすためにと全てを捧げる覚悟だったというのに。

 

狼は愚直だが、止まることのない男だ。

すすき野原で切り捨てた時、城の天守望楼で相まみえた時、いや、それまでにも多くの障害があり幾たびも乗り越えてきたのだ。

 

それに対して自分は何て様だ。

 

 

―――…俺は、結局何もできなかった―――

 

竜胤を手に入れることも叶わず、不死斬りすらも零れ落ちた。

この命はまだあれど、果たしてこれ以上アシナのためにできるというのだろうか?

 

 

仙峯上人に穿たれたあの恐ろしい色の雷を目の前にした時、光の奔流に呑まれんとした時…

 

―――これで全てが終わるのか―――

 

そんなことを考えていた。考えてしまった。

 

 

死を前に諦めが顔を出したのだ。

そのことが何より重くのしかかっている。

…狼は最初に死んだ時、やつはこの感情を抱いたのだろうか。

 

かつてアシナに仕えていた忍びである川蝉に気まぐれから救われ、言われるがままに落ち谷を登りここまで来た。

目の前にいる、かつて憎しみすら沸いた淤加美一族を前にしても、実のところさして浮かぶ激情もなかった。

 

ただ忘れないようにと、忘れてはいけまいと繋ぎとめてきた感情が辛うじて立ち上がってくれただけだった。

 

 

弦一郎は、自身が思ってる以上に身も心も限界が近かった。

 

 

「―――ぃ…――――おい――――…おいっ!呆けてんなよ。どうした?」

「さっきの威勢はどこにいったんだか…まるで抜け殻だねぇ」

「お?カワ蝉だけに――――」

「あ゛?」

「いやすまんって………で?おばちゃんたちに言ってごらん。正直そういう話に飢えてるんだ、猿と能天気ばっかだからな」

「鏡いるかい?ったく、そんな言葉で素直に言うやつがあるかい…」

「………………かつて国盗り戦の折に、両人、争ったのだろう?」

 

その言葉に川蝉とシラフジは互いに目を合わせる。

どっちが話すか目線で揉めているらしい。

やがて目線だけでなく顔の動きで静かに議論した結果渋々川蝉が語りだす。

言い出しっぺの自覚はあったらしい。

 

「あぁヤったね。なんならこいつの部下を目の前で殺してる。でもお互い様さ、あたしの仲間も殺された………なんて話が聞きたいわけじゃないだろう?」

 

彼女は一転して真剣な表情を作り出す。

 

「遠回しにやんのは嫌いなんだ。……あの滝のずっと上っていったらミナモトの宮だろう?なんのためにそこに行ったのか知らんが、アシナの当主が街をほっぽりだしてしかも一人で行くなんて余程のことじゃないか。国のためかそれとも誰のためか知らんが……それで?なぁに諦めようとしてんだい」

 

彼はその言葉に僅かに眉をひそめただけだったが、その仕草は川蝉にとって答えを言っているようなものだった。

 

「あたしらを見ろよ。互いに殺し合い、憎しみ会った仲でも今ではこんなんだ…何が言いたいかってあんた、()()()()()がだめだったからって足を止めるにゃ早いっつてんだよ。どんな人間にも、ほんとはどんな道でも残されてんだ…こいつの姉貴らを知ってっか?国撮り戦に敗れた後に、こいつらと違って宮へ戻った連中だよ。聞けば今じゃ罪人っつーことでアシナの底の毒沼で番人さ。宮の連中であれば()()逃げ出す道もあったのに、ここで生きることを選んだのさ。それはこいつ(シラフジ)もなぁ」

 

一呼吸入れると、彼女はシラフジへと近づきその肩を強引に引き寄せた。

心底迷惑そうな顔をしているも、周りの蛇の目衆も誰も止めようとはしない。

 

「刃じゃなく、気まぐれで酒でも飲み交わしてみりゃぁ以外にどうにかなるもんさ。()()()()()()ね。アシナから逃げ出したあたしが言うのもなんだがね、他の道がまだあるとわかってる以上は幾たびでも立ちゃぁいんだよ。まだ若いんだろう?立ち上がれるんだろう?待ってるやつらがいるんだろう?やっぱり諦めきれないんだろう?谷底で()()()拗らせてたあたしみたいになんじゃないよ…ばばぁでいんなら話は聞く、なんならここまで来たんだ、首根っこ掴んで山を越えてやる………だがね、やるからにゃしっかりやんな。抜け忍ばばぁとはいえ安くはないんだよ。ほら、あんたに期待するバカが一人増えたんだからね」

 

川蝉は一気にまくし立てる。

それは所謂、激励のつもりだった。

 

シラフジが「宮に行っただって…?」と呟いているが無視している。

 

かつて捨てたアシナに思うことがあるのか、それとも弦一郎のその姿をいつかの自分と重ねてしまったからなのか。

或いは自身のせいで左腕を失った時の相棒を思い出したのか。

 

何にせよ、彼女は自分で話している間に熱くなってしまっていた。

 

 

川蝉はこの言葉は大して響きやしないだろうと思っている。

当然だ。会って間もないどこの誰だか知らない責任放棄のばばぁにいくらなにを言われようが知った話ではないだろう。

獅子猿と分かり合えたように、シラフジと言葉ではなく刃を交え、時に酒を交わすことで分かり合えたように、本来自分たちのような人種は言葉など大して重要ではないと思っていた。

 

だから見ず知らずの婆さんが老婆心から心配していたということがわかればいい。

そしてこれからする()()があれば、こんな状態の人間でも"いける"と彼女は思っていた。

 

 

さも自信ありげに、弦一郎が言葉の羅列を咀嚼しきる前に川蝉は小指を出し構える。

さぁこれが本命だ。

 

 

「…」

「…」

「…?」

 

「…」

「…」

「…いや、いや、指切りだって。え?もしかしてもう古い?若いもんは知らない?」

「他になんかあんだろうよ…童じゃないんだよ…」

 

しまらないねぇ…と呟くシラフジに、川蝉は気にした風もなく弦一郎の手を引っ張って無理やり小指を絡ませる。

 

「よし」

「もし私にやったらその指切り落とすからね。後、宮のことも吐いてもらうよ」

「お!指き―――なんでもないよ」

 

 

そんな中、弦一郎はと言うと………よくわかってなかった。

 

話せと言うからまず相手のことも話させることで多少の相互理解を得た後に徐々に本題に持っていこうとしたのにぶった斬られ、突如核心に大跳躍で踏み込もうとしたかと思えば、それをする理由もなく激励されてなんか指切り強要されてる。というか説明下手。

 

纏めるとこんな感じである。

 

 

だが確かに、川蝉の考えたやり方が唐突すぎるが間違っていなかったけではなかった。

彼女の魂胆が成功した…わけではなく、彼女の自分本位の調子(マイペース)が弦一郎にほんの少しだけ響いたのだ。

 

弦一郎が思っている以上に彼の精神は擦り減っている。

 

狼に敗れたその身のままアシナを飛び出し、単身ミナモトの宮へ赴いた。

鍵縄もなく葦名の底へ降り、毒だまりを越え、霧の蔓延する森を抜け、宮の存在を隠したがる村を駆け、そこから断崖絶壁のような宮への道なき道を行ったのだ。

狼のような忍びであれば話が違ったのであろうが、遥かに困難な旅路だったことは間違いない。

 

全てが極限状態の中宮へ入ろうとするも拒否され、押し入り、門番を退けた先には想像を超えた化物(ムカデ)

それに敗れ、遥か下、落ち谷の底へと落とされたのだ。

 

自身がしていることが正しいかと疑問を抱いた時もあった。

伝承通りの力があったとして、今更不死斬りを手に入れた程度でどうにかなる話なのかと思いつめた時もあった。

 

その結果が()()なのだ。

立ち上がれること自体すでに常人の域を凌駕する精神性だ。

 

孤独に戦い続けた彼には、川蝉のひょうきんな態度、所謂 空気間(世界観)の違いという下らない日常を想起させるような態度が枯れた心にほんの少しの水を差した。

 

 

それに加えて全くの偶然だが、"指切り"はどうしても巴との短い子供時代を思い出す。

巴の亡くなる直前、アシナを争いのない国にすると約束したあの時、叶いもしないと理解したながらも互いに弱々しく切った"指切り"。

 

間も無く巴が亡くなり、弦一郎は子供でいることを捨てた。

九郎とそう変わらぬ齢の時の話だ。

 

だから彼は久しく笑みを浮かべた。

ほんの小さな、力ない笑みを。

 

 

川蝉はそれを自身の魂胆が上手くいったと勘違いしていたが。

 

 

「お、弦ちゃんが笑った!」

「その呼び方を止めろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで、若い頃の弦一郎は知らなかったことだが、川蝉は梟とお蝶の娘である。

お蝶の言う"あの子"とはまさに川蝉のことだった。

 

忍びの仕事はこなせるが明るく、能天気だがどこか憎めない川蝉は梟とお蝶と、そして猩々の心の支えでもあった。

 

小言女と腹黒男が合わさった結果、一体どんな化学変化が起きたのか、正直者でマイペースな彼女が生まれたわけだが、猩々はそのことを指して生命の神秘と謳ったらしい。

 

だからこそ忍びには向いていなかったのだろう、彼女がアシナを去ったのは必然だったのかもしれない。

 

そして彼らは支えを失い、それでも狼により辛うじて梟とお蝶は繋がっていたが、猩々は忍びをやめた。

 

当人はアシナを出たことに後悔はない。

良くも悪くも自分本位なのだ。

 

さて、その後アシナへと弦一郎を無事送り届け、ただ気まずいからというだけで父と母(梟とお蝶)に会おうとしなかった川蝉だが…

 

「決して通すな!物の怪だ!我らが倒れることはアシナの民が死ぬことぞ!」

「一心様にお伝えしろ!如何なる手段を使ってでもここに縫い留めろ!」

「おお、山内殿!七本槍が来てくれたぞ!皆の者、続けぇ!!」

()()()と一匹とて侮るな!尋常の剣気ではないぞ!」

「夜鷹衆を走らせろ!こうも堂々としているのだ、陽動かも知れん!」

 

「………なぁ、川蝉ぃ?」

「おい、あんたも止めなかったろ。そうだ、弦ちゃんが一人飛び出す事態が起きてるんだった。よくわからんがピリピリしてるもんなぁ。誰かあたしのこと覚えてるやつがいればいいんだけど…」

「…二度目の城下町も戦ってねぇ、三度目までありそうだよ。」

 

ある意味、ここにきて日頃の行いの罰が当たったというべきか。

 

盤双六(ばんすごろく)で負けたせいで(川蝉はこの手の賭博が滅法強い)付いてくるはめになったシラフジはさっそく辟易していた。

ただし、それに巻き添えを喰らったのはなにもシラフジだけではない。

 

騒ぎが起こる前に偶然合流した三人。

 

誰かと言えばミナモトの宮より降りてきた"静"と、その道中で毒沼から拾われた蛇の目"シラハギ"、そして城下町に興味があった水生村のうら若き用心棒"お凛"である。

 

静は大きな平たい半円状の布袋に入った何かと、刀の入った長い刀袋を二本背負っている。

当然蹴鞠は脇に抱えていた。

シラハギとはシラフジの姉であり、彼女と非常に似通った格好をしていた。

 

「私たち三人、関係ありませんよね?シラハギさんの妹と聞いて食いつくんじゃありませんでした…」

「愚妹が悪いねぇ静。しかしあの長をヤった()()()()の相棒とつるんでるたぁなかなかどうして分らんもんだねぇ…」

「むざむざ涙と鼻水で彩った顔で宮に戻ろうとした姉貴にはわからんだろうねぇ」

「あ゛?」

「あ゛ぁん?」

「ううう…うう…」

「何泣いてんの?お凛ちゃんだっけ」

「久方ぶりの姉妹の再会だというのに…悲しい…」

 

ベン…ベン、とこんな中でも三味線を悲し気な音色を奏でた。

 

お凛はミナモトの宮から水生村に派遣された用心棒である。

その桜色と薄桜色によって川の流れを模様にした着物によって隠されているが、まだ二股となっていない若い人魚であり、一本伸びる尾ひれのみで陸上に立ち、それでも謙遜なく移動を可能としている。

 

彼女は悲しいとは言うが、深編笠を被っているためにその表情は読めない。

きっと表情の代わりがこの三味線の音なのだろう。

 

「ヴォォゥ…」

 

それ同調するように獅子猿が身体を縮めさせて鳴く。

騒ぎの原因が自分だとわかっているからだ。彼がいなければこうまで大事にはならなかっただろう。何故連れてきたのか。

 

しかし石火矢を持った包帯だらけの魚人姉妹は止まらない。

積もる話があるのだろうか。

 

「久しぶりに会っても相変わらずお肌が白くて羨ましいねぇ…おや?悪い悪い、全部包帯だったのかい。姉貴は昔からその包帯代わりのボロ布みたいなザラザラ(サメ肌)の肌だったから気が付かなかったよ」

「そっくりそのままお返しするよシラフジぃ。そういうあんたも随分とオシャレに気を使うようになったじゃないの、白に赤い斑模様なんていい(悪い)趣味してるねぇ…おんやぁ?よくみりゃぁ血じゃないかい。あんたは昔っから青白い死人みたいな肌色(魚人の肌)してっから、赤い血なんて通っていないと思ってたよ」

 

薄っぺらい話である。

 

「相変わらず安い挑発ねぇ…面白いやつとヤり合ってね。義手の男さぁ………国盗り戦の時とは違うやつだったがね」

「…姉妹揃って因果なものだねぇ、()()が過去から殺しにやってきたとは」

「…何にやられたってんだい」

「当主殿さ。この兵共の」

 

こうまで平然と言い合ってはいるが、そんな中でもアシナの兵や将軍たちは距離を開けたまま動かず様子を見ている。

彼らの人数はこちらの約三倍、二十人程がこちらを取り囲んでいる。

 

しかし彼らもまた生中な鍛え方をしていない。

正しく彼女らの実力を理解しているからこそ、七本槍である"山内式部"はともかく、他では分が悪いと判断して応援が来るまでの時間稼ぎをする腹積りだ。

 

それを横目にシラフジは姉のシラハギの言葉を咀嚼する。

 

「当…あぁ、そういやアシナからは姉貴のいるとこ通るんだったか、宮へは。」

「知ってる口だね」

「さっきまでそこにいたのさ。なんせ、連れてきたのがそこの(川蝉)だからね」

「何?…ってことは宮の谷から落ちて生きてたのかい」

「獅子猿が見事に受け止め(ダイビングキャッチ)てくれた。弦ちゃんのこと知ってるのね」

「ヴォウァ」

 

遥か高所から落下する人一人を受け止めるのはいくら川蝉と言えど無理だった。

代わりに獅子猿が滝の途中まで登り大きく跳躍して受け止め、落下後回転して受け身を取ることで見事に成し遂げたという。

 

弦一郎の真の命の恩人…恩猿である。

 

「道中、静に聞いのさ…あぁ、あんた(シラフジ)そっち(落ち谷)側にいたから知らないか。今の淤加美一族の長だよ」

「お初にお目にかかります、シラフジ殿。静と言います。貴方の話はシラハギから」

「私は敬うんだね」

「もはや宮の人間ではありません故」

「律儀な子だねぇ。名前は知ってるよ、磯禅師(いそのぜんじ)の娘だね。戦の折から務めてんのかい?随分と若いころから引き受けたもんだ」

 

かつてシラフジら姉妹がミナモトの宮にいたとき、穏健派の磯禅師とも交流があった。

この姉妹は当時の長の考えに共調したけわけではなく、アシナへ戦を求めに下ったというのが正しい。

 

朱の橋で自分たちを引き留めようとした友人、その娘がいまや宮の長というのだから、戦後に宮へ戻らず鉄砲砦に引きこもっていたシラフジには感慨深いだろう。

 

「凝り固まった思想を持つ恐れがある一族の大人は軒並み除外されましたからね。選ばれたその頃から上人様に育てられ、長となったのです」

「苦労をかけたね…謝りはしないがねぇ。後でいろいろ聞かせてもらうよ」

「わかりました………さて、これ、どうしましょうか…」

 

勿論自分たちを包囲するアシナの兵たちのことである。

末端の若い者まで静かにどっしりと構えているのを見れば、一筋縄ではいかないだろうということが彼女にもわかった。

 

 

―――何故かワノ国から音沙汰がない―――

 

それは嵐の前の静けさのように兵に不安が募っていた。

一心が何事もなく、いやむしろかつてないほど元気一杯とはいえ、弦一郎が戻っていないという状況もある。

 

そこで獅子猿のような、さらには鉄砲砦の蛇の目衆、加えてかつて攻め入って来たミナモトの宮の者と思われる面々が揃えば警戒しないわけがなかったのだ。

 

そもそも弦一郎がいれば話は非常に簡単だったのだが…何故か彼は城ではなく別のところ(九十九屋)を目指したようだ。

 

「静ぅ、あんた、自分から首突っ込みにいくのになぁんも()()がないのかい」

「全く。内緒で遊びに行ってましたが、本来不干渉の契りがあるので」

「…思ったよりやんちゃじゃないかい。川蝉!どうにかしな!」

「おーい山ちゃん!あたし!川蝉だよ!ほれ、この左手のわけわからん忍具!…だめだ!警戒しててうんともすんとも言わない」

「その大猿を連れてきたことがまず間違いなんだよ!とりあえず責任者(一心)がでてくるまで暴れるか…?」

「ヴゥォ…」

「…悲しい…うぅ…」

 

 

ベン………と悲しそうに三味線の音が響くが、その音を聞いている者はここにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アシナの城下町の端でその騒ぎが起きる少し前。

 

およそ一月ぶりの再会を果たした九郎と弦一郎は、その幕を沈黙によって開くことになる。

 

イブキはその二人の間から数歩下がった位置で見守っている。

その手には九郎が先程持っていた盆が乗せられていた。

 

夕暮れ時に差し掛かった西日が九十九屋の前にいる弦一郎の背を照らし、九郎はその表情を眩しそうに眼を細めて見極めようとしている。

 

僅かにみえる彼の目を見ても、それが表す感情を読み当てることは出来なかった。

 

あれ程の激情も、執念も今は感じられない。

 

風に吹かれて飛ぶような弱々しさがあるわけではない。

不安定なわけではないのだ。ただどこか、心の中の枷が緩んだような…

九郎もそれを上手く説明はできなかった。

 

少なくとも今までのような、なりふり構わずに突き進むことはないと思える。

 

間もなく、この二人の会話は弦一郎が口を開くことで始まった。

 

 

「少し、背が伸びたか」

「…そういうあなたは、少し、痩せましたね」

 

それはまるで、久しぶりにあった親戚の叔父が言うような、不器用な切り口だった。

あの竜胤の騒動以降、初めて弦一郎は"竜胤の御子"ではなく"九郎"を見ることを選んだのだ。

それ故の言葉だった。

 

「…茶屋は、とても繁盛していると聞く……おじい様(一心)も、よく来るのだと噂で聞いた」

「…はい、一人お酒を持ち込んで、よく、古くから住む方々とお話をしています。国盗り戦の事…亡くなった戦友のこと…そして、あなたのことも」

「そうか…」

 

どこまでもぎこちなく。

それを見守るイブキも思わず口を挟んでしまいそうな会話。

そこに先ほどまであった九郎の威厳はなく、どちらも等身大の自分自身で会話をしている。

 

ここは茶屋。

城もなく、兜もなく、弓すらない雑巾のような着物の弦一郎はまさに一人の親類として話の幕を開けたのだった。

 

 

 

他愛もない、些細なやり取りが続く。

 

それは誰が茶屋に来ただとか、誰と話したとか、最近の好きな食べ物だとか、あの本が良いだとか。

おおよそ今までの弦一郎からはない気の抜けた会話。

 

しばらくそんな会話を続け、弦一郎が再び口を閉じる。

そこに口を挟むことができない気がして九朗もそれにならって黙る。

 

そしてそれは正しく、彼の発する雰囲気が少しだけ固くなったように思う。

 

()()よ。俺は思っていたよりもこの国を知らなかったのだ」

「…はい」

「俺は…ずっとアシナのために足掻いてきた。竜胤がアシナを救うのだと、そう思っていた。いや、今でも思う。恐らく竜胤を用いればアシナは変わるのだろうと」

「……はい」

「だが、俺が昔誓った言葉の意味を、つい最近まで忘れていた。"平和の国"にする、と…指切りして、約束したことを」

 

自身の"指切り"と言う言葉に思わず笑みを零す。

懐かしむような、気恥ずかしいような、そんな小さな笑み。

 

―――必ず平和な国にするから―――

 

「そう、約束したたのだったな…巴…」

「弦一郎殿…」

 

あぁそうか、と九郎は気が付く。

 

一心という強大な個の穴を埋めるために彼はなりふり構わず走り続けた。

それが辿り着く先はもはや彼が約束したと言う"理想の平和"はなく、流した血によって固めた地盤の上に立つ平和だ。

 

しかし彼は敗れ、だが幸運にもアシナはかつて自分が夢見ていた理想を叶えんと動き始めていた。

 

"自分は何もできなかった"

他の者がやってしまったのだ。彼と言う全てを捧げ続けた男がそれを認めるのはどれ程辛いことなのか。

 

それでも弦一郎は"理想の平和のために頼る"ことを決意したのだ。

 

もはや彼が一人だけで背負うこともないだろう。

 

過去を思い出しているのか、一度も見たことのないような、そんな優しい笑みを弦一郎は浮かべている。

 

九郎は初めて、"弦一郎"を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも弦一郎はさほど間違いを犯してはいない。

 

全てが瀬戸際で、あの時、異端の力に頼る以方法はなかった。

多くの犠牲を出さずに凌ぐことなど、到底あり得なかったのだから。

それを間違いと、一体誰が言えるのか。

 

では何が間違いだったのか?と言うならば、結果から見てしまえば竜胤を見出してしまったことだろう。

 

それは全ての呼び水だったのだ。

一心を、九郎を、狼を敵に回し、弦一郎自身もそれを手に入れるために躍起になった。

そしてなによりそれらの自身を阻もうとする勢いを()()()()()()()()()()()ことだろう。

 

見誤ったのだ。

彼らの強さを。

 

それがつまり、竜胤に手を出したことを間違いと言える理由。

 

 

だからこそ彼の"強さ"を知った時点でも、川蝉の言う"別の道"を探すべきだったのだ。

こうして今のように、アシナの中に解決の答えがあったのだから。

 

だが、それを求めるのもあまりに酷だろうか。

 

多くの要因が絡み、一心はそんな弦一郎を止められず、九郎は拒否以外の道を示せず、狼は戦うことだけを選んだ。

エマも板挟みに身動きが取れず、刑部は友のためとただ槍を掲げるだけで、梟は全てを俯瞰しながら笑みを浮かべていた。

 

一心が意欲的に口を挟み、道を示せばまた変わったのだろうか。

九郎が竜胤のことだけではなく、他の手段を模索するように協力的になれば変わったのだろうか。

狼が刀を降ろし、主を救う以外にもアシナのことを心髄に考えていれば変わったのだろうか。

 

全ては過ぎたこと。

知っての通り弦一郎は敗れ、アシナのために不死斬りを探し、狼は主のために不死斬りを探した。

 

…だが、互いの辿り着いた先で出会った人物が全てを変えたのだ。

 

イブキと出会ったことで豊穣の力を見つけ、梟が協力関係になりまた多くの竜咳の羅患者が救われた。

仙峯上人と戦ったことで不死斬りという弦一郎の向かう先を()()()()()()()がなくなり、川蝉と出会いアシナに戻ることが出来た。

 

そしてこれからここで、"竜胤"を必要とする夜は終わり、"豊穣"を待つ朝が始まることになる。

 

 

 

 

 

「イブキ殿」

 

ずっと行く末を見守っていたイブキは二人が話す中、背後から名を呼ばれる。

振り向けば狼が一本の刀を持って立っている。

 

「狼殿…?」

「これを、九郎様へ」

「…これは?もしや、弦一郎殿の刀、ですか?」

「そうだ。九朗様へ…必要になると思うのだ」

 

イブキはまだ手に持っていたままの盆を降ろし、言われるままに刀を受け取る。

 

 

 

―――刀を渡すのは如何なる意味があるのか。

古くは敬意を"物"として形に表わすために使われ、または家臣への褒美として忠誠心を繋ぎとめるために渡す場合がある。

 

外海でそうであるようにアシナでもそれは昔から変わらないが、ここではもう一つだけ、刀を渡すことに意味がある。

 

 

共に歩むと誓い合う時だ。

 

 

九郎が狼に"楔丸"を渡したように、弦一郎が九朗に竜胤の契りを求めたように。

何よりも固い約束をする意思の表れとして必要だ、と思った者が行う行為でもあるという。

噂では討ち取った敵将から奪った槍を、部下に与えた隻眼の男からだとか…

誰が始めたかもわからない、誓いの証。

 

再度、イブキが視線を感じて振り返れば、狼の存在に気が付いた九郎と弦一郎がこちらを見ていた。

 

「狼…」

「………」

 

狼は弦一郎の呟きに何も応えない、だがそれは敵意があるからではないだろう。

イブキへと手渡された刀がその証。

 

彼はそのままイブキの後ろへと下がり、代わりにイブキが九郎へと歩みを進める。

 

「イブキ殿」

「これが必要になるでのしょう?…そうですね、狼殿には結局渡すことが叶いませんでしたから…」

 

言葉を区切り、彼女はその穏やかな様子を一変させる。

 

その出で立ちは仙峯寺にあった時の、神主としてのもの。

突然のことに思わず九郎も背筋を伸ばした。

 

 

「覚悟がおありならば…改められよ」

 

 

刀は横に水平に持ち上げられ、九郎の前へと差し出される。

一瞬呆けた九郎であったがすぐに持ち直し、真剣な表情を浮かべて刀を受け取る。

 

 

「確かに…もらい受けました」

 

 

「…」

「…」

 

「…ふふっ」

「…戯れが過ぎますよ…イブキ殿」

「そろそろ一度肩の力を抜かねば、些細なことですが後に響くというものです」

「…ええ…ありがとうございます」

 

そうして九郎は自身の肩に力が入っていることに気が付く。

やはり以前の関係性を思えば、弦一郎との会話にはどこか気負ってしまうものだ。

 

果たしてこれが意図したものかはわからないが、イブキのこの行動は一見おどけたようでも弦一郎の雰囲気をも和らげることに成功している。

彼は今までの自身の九郎への扱いを思えば、九郎が自然体で笑えることに対して安堵に似た感情を得られたからなのかもしれない。

 

九郎を支えると誓った彼女は微力ながら、それでも確かにその役割を務めている。

 

 

 

気付けば周りにはいつのまにか九十九屋の中から出てきたのか、今日ここに集められた人物たちがいた。

 

 

相変わらず一心は久々の孫との再会だというのにお猪口を片手に槍を抱える刑部と話している。

それは自分が最早できることなどないと確信したからか。

 

梟は何があったのか、お蝶から延々とその背に小言を言われている。

徹底的に無視しているようでその額には僅かに冷や汗が見えた。

 

半兵衛とムジナは息があったのかワノ国の侍について先程まで話していたらしい。

今はこちらを見守る様に少し遠くから見ていた。

 

狼とエマは何も語らず、ただ九郎と弦一郎へと視線を向けている。

そこには期待の眼差しが含まれていた。

 

 

それら視線に、九郎と弦一郎は少しこそばゆく感じてしまう。

 

弦一郎は彼らを見渡す。

 

これだけの大物が今日ここに集っていることに、何故か疑問を抱かない。

彼は、まるでこの光景こそが日常だというように受け入れられた。

 

 

―――きっと、俺が目指すべきアシナの姿なのだ、と。

 

 

 

そんな中、久方ぶりの弦一郎を見て一心はかつての戦の最中、酒を皆で飲みまわす時に全く同じような顔をしたことを思い出す。

 

「カカカッ…やはり儂の孫じゃのぅ」

 

そう呟いたとか。

 

 

 

 

 

「弦一郎殿、今度は逆ですね」

「あぁ…」

 

九郎は受け取った弦一郎の刀を持ち、イブキがしたように両手で水平に持ち、彼へと刀を差しだす。

 

 

 

「アシナを平和な国とする"約束"を、私と結んでください」

 

 

「約束する…俺たちでアシナを生かそう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしおじい様…お身体のご様子は大丈夫なのですか」

「おう!米を食ったら治った!」

「………米?」

「…」

「…なんだ狼………おはぎ…?」

「食え」

「…」

「狼よ、米は生で食べた方が効くぞ?」

「九郎よ…米は炊いて食べるものだろう?」

「?もちろんです。弦一郎殿」

「…?」

「あらあら」

 

 

 

 




後少しだけ続きます。

※数話まとめて誤字報告ありがとうございます!反映させていただきました。
※久々に見返せば明らかにおかしい会話だったり説明不足の箇所があったので修正しました。


そういえばお凛が一番女性で若いという事実。(本作の設定では)
平均年齢の高齢化が止まらない。
怒られそうですが、いつものコーナーの所に括弧に年齢のイメージを書いておきます。

ちなみに川蝉はワンピースを意識して性格を描写しています。
終盤に持ってきたのはこれからそちら側(ワンピース)に近づくにあたっての緩衝材的存在のため。

熨斗目花色→灰みの強い深い青色、名が表す通り川蝉の色のイメージだがさらにくすんだ色。
盤双六→江戸時代後半まで人気だったが、衰退した。バックギャモンに似ている。


■(主に)隻狼との違いまとめ

弦一郎:アシナの最後のピースが戻った。(約30)
川蝉:性格が忍びに適してなかった。獅子猿に食われず返り討ちにした。若い頃の巨大な刀は獅子猿へ。忍義手は彼女の装備を元に作成。指に空けた穴と指輪は包帯で隠してる。(約50)
獅子猿:アシナでは珍しく覇王色の覇気を持つ。川蝉に首を一突きされたあげく蹴り飛ばされ負けた。以降、落ち谷のヒエラルキーが変化。また大太刀を扱う。弦一郎の恩猿。(約100)
シラフジ:戦後、宮に戻ることを恥と思い一部の者で鉄砲砦を築く。戦いに飢えてるも今は分別はある。鮫の魚人。(約50)
シラハギ:戦後、恥と知りつつ宮へ戻り、大人しく罰を受け続けている。二十年ぶりでも姉妹仲は悪くない。鮫の魚人。(約50)
お凛:人魚の用心棒。深編傘で顔を隠す。尾ひれで立ち、回転するような剣技を扱う。舞うような巴の剣技も、人魚故に身に付いたものであった。(約20)
静:一心らに助力するために来たので困っている。色々持ってきたのに…(約35)



















"理想の平和のために頼る"
現実と諦めの先に一心を蘇らせたときとは明らかに違う行為。


"共に歩むと誓い合う時だ"
刀が人から人へ渡されることに、隻狼では何か特別な意味があると思っていました。
勝手に意味を追加したのは、九郎様が楔丸を渡す時に何を思ったのかを想像して。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。