幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター) 作:ヌルポ撲滅の使徒
上記をご理解の上で、縁の下の力持ち、国機研の皆さんの奮闘と混乱をお楽しみ下さい。
案件開始:導火線に火がつく日
昔から、「器用なやつ」と言われていた。
手先の器用さもそうだが、むしろ対人関係も含めたバランス感覚に優れていた点をさしてのことだ。
物心ついた頃はドワーフの両親から手のかからない子だと言われ、一人実家の鍛冶道具や壊れた部品をおもちゃ代わりにしていた。
幼少期からは友人間のトラブルの調整役になることが多かった。おかげで「何かあったらとりあえずあいつに相談すればなんとかなる」が友人間の共通認識だ。
実家の家業を手伝うようになると、女だてらに飲み込みが早いことも合わさって、客毎の細かい注文に合わせて祖母や母と一緒に仕上げ作業ばかりやっていた。
そうやってトラブルや道具の調整ばかりやっていたせいなのだろう、私のところには、結構な頻度で相当な無茶振りが舞い込んでくる。
例えば……。
「とにかく人手を貸せヨハンナ! あの若造に目にもの見せてくれるわ!」
***
魔獣と呼ばれる生き物がいる。
人間が道具を用いねば使用できない<魔法>と呼ばれる力を生まれながらにして用いることで、多種多様な生態をもつこの生き物は、ある理由により、一般的に大きければ大きいほど肉体、魔法両面で強大になってゆく。
小さい魔獣なら、鍛えた人間やちょっとした魔法で対処できる。
人間大を超えてくると、複数人での連携やある程度熟達した魔法の使い手が必要になってくる。
そして、全高が成人男性の5倍前後を超える辺りになってくると、決闘級魔獣と呼ばれ、一握りの魔法の天才か、大規模な討伐隊でなくては対処不可能になる。
しかも、このサイズでさえまだましで、個体数こそ少ないが、決闘級の5倍、10倍の魔獣すら存在する。ここまで来るともはや生身での対処は事実上不可能になる。
だが、その魔獣は人類の生活圏の大半、この大陸の西半分には生息していない。一匹残らず人類が駆逐、絶滅させたからだ。
その理由こそが……。
「良いな! この
今私の目の前に鎮座する巨大な人型、
幻晶騎士は、元々巨大な魔獣に対抗するために、「人間を大きくする」という設計思想のもと発明されたため、その見た目、構造は人体の拡大、単純模倣したものになっている。
骨格を金属製の骨、
心臓である
頭脳である
その強大な質量と膂力、そしてまともな人間の
幻晶騎士の登場により、大陸の西側において、魔獣の存在は半ば伝説の存在にすらなっている。
そして、人類が魔獣を大陸西方から駆逐した1000年以上に及ぶ長い歴史は、同時に幻晶騎士の改良・洗練の歴史でもある。
より人体に近く、柔軟かつ頑丈に動作するよう、金属内格・結晶筋肉・外装の配置を見直すことに無数の鍛冶師が頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返した。
より強靭かつ力強い、なおかつ多くの魔力を蓄積できる結晶筋肉を精製するために錬金術師が研究を重ね、無数の実験を重ねた。
魔力転換炉と魔導演算機に至っては、数百年前にほぼ改良の余地が消えて久しい。
……つまり、何が言いたいのかというと、幻晶騎士は実質的に進化の袋小路に入っている。
恐らく相当画期的な発明、それこそ常識をひっくり返すような新素材とか、小さいパーツを強化魔法で強化接着している外装や金属内格を一体成型する鍛冶技術とか、そういった土台技術のブレイクスルーが必要だと思っていた。のだが……。
「なんですか、
思わずつぶやいてしまった程度には、目の前の幻晶騎士は異常……いや、
妙にずんぐりしたシルエットは不格好だが、これはいい。ある意味見慣れてさえいる。指揮官機や専用機を始め、より巨大かつ強大な魔獣を相手にするため、筋肉量を増やすというある意味単純な調整を好む乗り手……
問題はここからだ。
まず最初に目につくのは、正面からだと背負っているように見える二本の巨大な杖……幻晶騎士用のサイズまで拡大された魔法の発動媒体、戦術級魔法を発動するための
一見すると予備の魔導兵装を懸下し、必要に応じて手持ちと持ち替えるためのものに見える。
だが、機体の横に回ると全くの別物だ。なにせその背には文字通り
意味がわからない。当たり前だが人間に腕は2本だけだ。つまり人体の拡大、単純模倣である幻晶騎士にも腕は2本しかない。
これにはちゃんと理由がある。幻晶騎士を動作させるため、魔導演算機には幻晶騎士動作用に身体強化魔法を土台とした
これは、幻晶騎士を動かす騎操士が自分の体、つまり人体を動かす動きと同じ様に動かせるようにすることで、最小限の魔法行使と物理操作による直感的かつ簡易的な操作を可能にすることが目的だ。
仮に人体にないパーツを増しても、どう動かしてよいのか騎操士がわからないのだ。よって、どうしても人体にない機能が必要な場合は、幻晶騎士サイズまで拡大された武器や道具として手に持って使うか、単純なオン・オフの切り替えだけに留めることで補ってきた。
余談だが、この機能の典型的なものが意思疎通用の音声拡大魔法のオン・オフだったりする。この魔法が搭載される以前の幻晶騎士は、ジェスチャーや手話、ひどいものになると生身を露出させて大声で呼びかけあっていたことすらあったらしい。
だがこの幻晶騎士は違う。まるで子供が人形をばらして継ぎ接ぎしたかのように腕を増やしている。はっきり言って正気じゃない。だってこれはいわば、人間に腕を増やそうと思って、しかも実際に死体とかから腕を移植したようなものだ。まともな感性では考えないし、考えても生理的に拒絶反応が出て実行に移せない。
断言していい。これを作ったやつは狂人だ。
次に目についたのは、片腕だけバラされた腕部分の中身だ。
……
材質自体はありふれている。むしろ安価な二級品だ。だが、結晶筋肉がまるでロープのように撚り合わされている。
……なるほど、筋肉両端の固定が異様に強固になっていることと合わせると、出力増強のための工夫だろう。言われてみれば、撚り合わせれば一本あたりの長さが長くなり、結果として伸縮距離、つまり筋力が上がる。
理論は単純かつ真っ当だ。真っ当だが、やはり発想が狂っている。狂人だ。
一体どこに人間の筋肉をロープのように弄り回すやつがいる。やはり発想の根本に、先程の追加腕と同様の、幻晶騎士と人体を「別物」として扱う感性が感じられる。
そして最後、腕から外された外装の一部や、胴体の一部。
一部の外装の裏側や、可動範囲のじゃまになりにくい外側に、
……もはや筋肉ですらなくなってる。
よく観察すると、魔力を伝導するための導体であり、術式伝達のための神経でもある
これだとせいぜい魔力を貯めて使うことしかできないのでは? ……それが目的か!?
まるで水筒をいくつも持つかのように、結晶筋肉を
三度言わせてほしい。これを作ったやつは狂人だ。
「……ガイスカ工房長」
「うむ」
目の前の新型幻晶騎士を見ながら、背後の恩師に声をかける。
機嫌が悪いのだろう。返事はしてくれたが、常の余裕がない。かくいう私も同様だが。
「人手が足りない、というのは理解しました。分解、再構築、図面へのおこし、再現品の制作に動作試験……とてもではないですが一つの工房だけでは手が足りないでしょう。いかに国内最高峰の第一開発工房であろうと」
今私が立っているのは大陸は東、フレメヴィーラ王国唯一の幻晶騎士の公的研究機関、
「ですが、それならもっと手が空いている工房が他にもあるはずです。なのにわざわざ我々を呼んだのは……」
そして、会話の相手である恩師、ガイスカ・ヨーハンソンこそが、ここ第一工房の主、工房長であり。
「無論、貴様ら第二工房の得意分野だからだ。なれっこであろう? じゃじゃ馬を躾けるのは」
私の肩書は、第二工房工房長、ヨハンナ・アントーニア。
人は私、ないし我ら第二工房を