幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター)   作:ヌルポ撲滅の使徒

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タスク6:幻晶甲冑(問題編)

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)は非常に重労働な職業だ。

 

 なにせ幻晶騎士(シルエットナイト)という巨大かつ重量のある構造物を組み上げるのだ。作業用に大型の釣り上げ滑車などの補助施設があると言っても、肉体的に大きな負荷がかかることに変わりはない。

 加えて転倒、落下、火傷などなどの危険性も考慮すると、生半可な覚悟でできる仕事ではない。

 

 必然的に、種族傾向として小柄だが力が強く、手先も器用で高熱に強いドワーフがその大半を占めることになる。

 

 そしてドワーフというのは誰も彼もが現場主義ばかりなので、私やガイスカ先生、あとは銀凰騎士団の騎操鍛冶師隊隊長など、現場の最高責任者にはドワーフの叩き上げ達が名を連ねることになる。

 彼らは皆、指揮能力だけでなく純粋な鍛冶の腕前でも最高峰だからこそ、部下達からの畏怖と尊敬を集めるのだ。

 

 ……さて、これらを前提に、もし筋力、体格、安全性、工作速度、精密性などなどが飛躍的に向上する工具が突然降って湧いた場合、どうなるだろうか? 

 

「こいつぁすげえ! 作業効率がダンチだ!」

「おい、次はうちの工房だぞ! わかってんな!?」

「はーい、予約名簿はこっちだからね!」

 

 答え:壮絶な争奪戦になる。

 

 

 

 ***

 

 

 

「とんでもない爆弾を置いて行ってくれたのう……」

 

 こころなしか普段以上に老けて見えるガイスカ先生が、遠い目をしながらつぶやく。

 

 その視線の先には、ちょうど第三工房での使用期間を終えて、国機研(ラボ)中央の大通りの脇に仮設された臨時格納庫に格納・整備されている幻晶甲冑(シルエットギア)と、待ちきれずにウロウロしている他の工房の鍛冶師達。

 

 そう、あの日、銀凰騎士団からもたらされた幻晶甲冑は、国機研の鍛冶師達の間で大人気になっているのだ。

 ……それこそ、需要に対して持ち込まれた数が全く追いつかないほどに。

 

「はあ。彼らがあれを置いていった意図は察しが付いてはいますが、ちょっとこの状況は看過できないですねえ」

 

 私を始めとした上層部がため息をついてしまうのも無理なるかな。最近の幻晶甲冑の争奪戦は、ちょっと目に余るほどに加熱していく一方だ。

 

 

 

 数日前、銀凰騎士団は団長、エルネスティ・エチェバルリア曰く、「プレゼント」として置いていった幻晶甲冑は、全身甲冑に似たシルエットの《モートラート》と、胴体に装甲がなく、手足が簡素化された黄色い《モートリフト》が、それぞれ5騎ずつ。

 

 ちょうど各工房で1騎ずつ使える計算だったので、私達国機研の鍛冶師は、各工房で一組ずつ配分して、とりあえず力仕事で使ってみた。

 

 ……翌日には争奪戦が始まっていた。

 

 なにせ幻晶甲冑は精密作業にこそ向かないが、非常に力持ちで、事故が起きた際の防具になり、《モートリフト》のみだが、鍛冶仕事での熱にも強いとくる。

 それまでは大型の工具やクレーン、台車、場合によってはそれこそ幻晶騎士が必要とされた大掛かりな作業の大半が、幻晶甲冑を身に着けたたった一人だけで可能になったのだ。それは誰でも欲しくなる。

 

 まず、重量機の開発を専門とする第三工房や、幻晶騎士(シルエットナイト)の戦闘以外……主に魔獣被害にあった土地の復興支援などに工具として用いる方面での研究を行っている第五工房所属の騎操鍛冶師(ナイトスミス)達が、他の工房に対して貸与を要求。

 それに対して、すでに幻晶甲冑の虜になっていた他の工房の鍛冶師達が猛反発。

 

 あわや国機研内で内戦が勃発するかと思われたが、そこに最近良く目にするようになった所長が一言。

 

「予約用の管理名簿作って、一括管理しようか」

 

 これにより、中立地帯(?)と言える国機研の中央大通りの脇に急遽幻晶甲冑専用の格納庫が(もちろん幻晶甲冑総出で)半日もせずに作られた。

 

 結果、昼も夜もなく常に誰かしらが幻晶甲冑を借りて、順番待ち……というか単に待ちきれないだけの行列が形成されては各工房長に連れ戻されるという、異常な光景が作られたというわけだ。

 

 

 

「本当に、これどうしましょうか?」

 

 ため息と共に、誰かが再度つぶやく声が聞こえた。

 

 ここは国機研の事務方の本拠地であり、実質的に城塞都市デュフォールの政治を司る場所。すなわち国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリー)本部楝、その会議室。

 

 そこに、所長やガイスカ先生を始めとする、国機研の上層部が勢揃いしていた。

 

 誰も彼もが、内乱一歩手前の現状に頭を痛めているのか、非常に難しい顔をしている。

 

「……とにかく、問題の根本は幻晶甲冑の数が需要に追いついていないことに尽きる。そこを解決しない限り何をやっても意味はないだろうて」

 

 ガイスカ第一工房長(せんせい)の言葉が、問題の全てだ。

 

 国機研の騎操鍛冶師は、全ての工房を合わせると、鍛冶師だけでも1000人は軽く超える。それをたった10騎の幻晶甲冑でカバーするのはどだい無理な話なのだ。

 

「とは言え、だ。結局の所、幻晶甲冑を追加生産する以外に方法があるのかな?」

「無論、現在我々第五工房で最優先で解析、設計、製造していますが……」

 

 所長の言葉に答えたのは、第五工房の工房長、グスタさん。通称棟梁。土木工事の専門家でもある彼は、暴走していないだけである意味この場で……いや、この国で最も幻晶甲冑を欲している個人だろう。

 ドワーフらしい髭もあって威圧感抜群なしかめっ面が、こころなしかソワソワしている気がする。

 実際、幻晶甲冑の増産を最初に提案し、許可されると同時に(恐らくは許可されなければ勝手に)製造を開始したのも彼だ。

 

「とは言え、実際に生産に入れたとしても、国機研全体の需要を満たすまでには相当時間がかかるのでは?」

 

 確かに。

 

 初日に好奇心に負けてちょっと調べてみたところ、幻晶甲冑の構造は非常に簡素だった。

 

 まず幻晶騎士の外装(アウタースキン)に相当する装甲。ここは普通に鎧だ。裏地に板状結晶筋肉(クリスタル・プレート)が貼り付けられていたりもしない。極々普通の装甲。

 国機研の鍛冶師なら、たとえ新人でも片手間で作れるだろう。

 

 そして、内部には動作させるための綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)銀線神経(シルバーナーブ)だけ。大きさが人間より一回り大きいだけなので、鎧部分のみで十分強度を担保でき、結果として金属内格(インナースケルトン)が不要なのだ。

 これだけで相当制作難易度が下がる。

 

 さらに、なんと幻晶騎士を構成する部品の中で、最も高価で希少品な魔力転換炉(エーテルリアクタ)を搭載していない! 魔力は乗り手の魔力を使うだけで、鍛冶仕事には基本魔法はあまり使わないドワーフでも十分賄える。仮に足りなくても、恐らく一月も使い続ければ魔力量が鍛えられて結果的に大した負担じゃなくなる。

 

 あとは小型の魔導演算機(マギウスエンジン)を搭載すれば完成。お手軽! 

 

 ……ただし他の仕事がなくて、なおかつちゃんと設計図があれば! 

 

「恐らく半年もあれば十分に行き渡るのでしょうが……」

「絶対に待ちきれなくて暴動になるな……」

「そもそも工房を一つまるごと、半年も止める訳にはいかんだろう」

 

 そう。いかに幻晶甲冑が簡単に生産できる夢の工具だとしても、あまりにも必要とされる数が多すぎる。

 

 もちろん、単に数が足りないだけなら待ってもらうだけなのだが、初日に工房長も含めて全ての鍛冶師と一部の錬金術師達がその味をしめてしまったのが問題だった。

 まるで麻薬の末期患者のごとく、誰も彼もが幻晶甲冑を求めているのだ。絶対に半年も待てないに決まっている。……私も含め、この場の全員が。

 

 断言してもいい。半年どころか一月経たずに幻晶甲冑の強奪事件が発生する。

 

「……処で、現場にいない私が言うのも何だが」

「む?」

「何でしょう、所長」

 

 と、ここで所長が何やら顔に疑問を浮かべて尋ねる。

 

「その幻晶甲冑、そんなに単純なら各工房で自前で作れないのかね?」

 

 ……。

 

「そう言えば!」

「なんで気づかなかった私!」

「一生の不覚!」

「……」

「……ぬぅ」

 

 ここに、問題はあっさり解決した。

 

 

 

 ***

 

 

「いやー、作業が進んで気持ちがいいねえ!」

「全くですね工房長(あねさん)!」

 

 あれから一週間。

 

 国機研の空気はこれまでにないほど爽やかだった。先日までのギスギスイライラとした空気は綺麗サッパリ消え、代わりに新しい工具(おもちゃ)を手にした高揚感と、作業がどんどん簡単になる開放感でみんなすっかりハイになっている。

 

 先日の会議で所長が発した一声は、正に快刀乱麻の解決策だった。

 

 まず数が足りない問題を、全ての工房で手分けして生産することで、生産スピートをあげて解決。他の作業の片手間とは言え、作れば作るほど後の作業が楽になると身を持って体験している鍛冶師達(と一部の肉体労働をする錬金術師達)は張り切って幻晶甲冑を生産した。

 おかげで私も自分専用の幻晶甲冑を作れてご満悦だ。

 

 さらに、待ちきれない鍛冶師達の間での奪い合いもすっかり沈静化した。なにせ欲しければ自分で作ればいいのだから。

 仮にも国内最高峰の練度を誇る国機研の鍛冶師だ。誰も彼もが自分の鎚の腕前に自信があるわけで、わざわざ他の工房や鍛冶師から強奪するより、自分で作ったほうが遥かに楽。

 材料だって、そもそもここはひとの何倍もの大きさの幻晶騎士を生産する工房だ。廃材も含めて山ほどあるから調達には困らない。

 

 しかも単純明快かつ拡張性の高い構造と、魔導演算機の動作補助により、魔法の演算能力の低いドワーフでも簡単に動かせる操作性をいいことに、それぞれでカスタマイズする鍛冶師が続出。

 

 あいつがこんな機能をつけた。あっちの工房ではこんな幻晶甲冑が流行っている。などなど話題にも事欠かない。

 

「いやー、今なら《テレスターレ》に匹敵する難題を持ち込まれても笑って許せそうだよ」

「全くですね工房長(あねさん)!」

 

 あっはっはと部下と一緒に笑いあう。

 

 ……そんな事を口走ったのが良くなかったのだろう。

 

「工房長!」

「ん? どうしたの?」

 

 突然走り込んできたミラディの言葉に振り向く。

 

「ちょっと、問題、が……」

「まあまあ、そう慌てずにお茶でも飲んで……」

「第五で大規模な人身事故が発生しました!」

 

 ……は? 

 

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