幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター)   作:ヌルポ撲滅の使徒

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投稿ミスで作成途中の方を投稿してしまったため、投稿日の07:40過ぎ頃に投稿し直しました。

なので、既に読んだ方には申し訳ないですが、まだ続きがあります。

大変申し訳ありませんでした。


タスク9:紋章式認証機構(解決編)

 フレメヴィーラ王国に限らず、各国の主要街道は幻晶騎士(シルエットナイト)の行軍を想定しているため、道幅は広くなる傾向にある。

 

 中でもフレメヴィーラ王国では、魔獣被害に対する迅速な出撃と移動のため、街道整備に非常に力を入れている。そのため、特に主要都市間や国家間を結ぶ街道は大型の馬車でも余裕ですれ違えるだけの道幅がある。

 

 とは言え、それはあくまでも幻晶騎士や荷馬車が通ることを想定した、とりあえず最低限道として機能すればいい、という考えのもとで整備された道だ。

 

 ……つまり、何が言いたいのかと言うと。

 

「し、尻が痛い……」

「うぷ……」

「大丈夫? 酔い止めいる?」

 

 必ずしも、人を載せた馬車の快適さを保証してくれるわけではない、ということである。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ガタゴトと馬車に揺られて、私達工房長や各工房所属構文技師(パーサー)代表者達は、ライヒアラ騎操士学園へとたどり着いた。

 むろん、銀凰騎士団団長エルネスティ殿を教師に、彼の術式(スクリプト)について学ぶためだ。

 

 ……一部の人員は馬車のひどい揺れの影響で死体のような有様だが。

 

 移動には、城塞都市デュフォールから王都カンカネンを経由する、比較的整備された主要街道を通るルートを取った。だが、スケジュールが押していることもあり、大急ぎで駆け抜けた馬車はひどく揺れてしまうので、苦手な人間には地獄のような時間だっただろう。

 

国機研(うち)だけでも人馬型を導入できないか?」

「確かに、幻晶騎士数騎分をまとめて運べる輸送能力は画期的だからな」

「とは言え、量産化は一度見送られておるからのう……」

 

 馬車から降りつつ、何人かの工房長や構文技師が、先日銀凰騎士団からやってきた《ツェンドルグ》の輸送能力を思い出してつぶやいている。

 

 もし、今回の移動に《ツェンドルグ》と、専用の荷車が使えていたなら、速度、収容人数、場合によっては快適性も向上させることができていたはずだ。

 現時点では魔力転換炉(エーテルリアクタ)を2基必要とするという、とんでもない高コストの幻晶騎士のため、銀凰騎士団以外での量産化は国王陛下らの意向もあって見送られているらしい。が、今回のように大人数での移動や、完品の幻晶騎士を運ぶ、といった状況では非常に役に立つ。

 これは所長あたりを経由して、せめて国機研(ラボ)を始めとした主要な生産地だけでも配備できないか働きかけるべきだろう。

 

 ……決して、普通の馬車だとどうしてもお尻が痛いから、自分たちの移動用に使えないかとか、誰も考えてはいない……はず。

 

「お待ちしていました、国機研の方々!」

「おお、エルネスティ! 久しいのう!」

 

 と、そんな事を考えながら学園の門をくぐると、恐らくは先触れに呼ばれたのだろう、銀凰騎士団団長エルネスティ・エチェバルリアが満面の笑みで正面からやってきた。

 その斜め後ろには、以前も一緒にいた黒髪の女の子……たしかアデルトルート・オルター団長補佐、だったはず。その子が控えている。

 

「……なるほど、国機研では幻晶甲冑(シルエットギア)にそんな装備を……」

「……騎操鍛冶師(ナイトスミス)隊の編成なら、確かに我々を参考に……」

 

 早速少年の眼差しで盛り上がるガイスカ先生達を眺めながら考える。

 

 以前国機研に来た時にも思ったが、あの少女、団長補佐と言う割には所長やガイスカ先生とエルネスティ団長との会話に入らない。同じく団長補佐の少年の方のように、護衛のような形で周囲に気を配っているわけでもない。むしろ自分の団長を微笑みながら見守っているように思える。

 ……なるほど。見たところ彼女のほうが年上のようだし、恐らくは保護者か教育係のようなものなのだろう。彼女自身も相当若い……と言うより子供だが、それでもエルネスティ団長よりは人生経験が長いはず。礼儀作法や目上との会話などで失敗しないための自然なアシスト役、と言ったところか。

 

 自分にも覚えのある役割だ。昔から対人間調整が多かった私には、新人鍛冶師の指導役も多く回ってきた。そういうとき、事前・事後はともかく、本番中はよほどの失敗がない限りは口を出さないのがよい指導役だ。そういう意味では彼女はかなり適正が高い。騎操士(ナイトランナー)らしいから、きっと、将来良い教官になるだろう。

 

 ……と、そろそろ良い時間だ。

 

「ガイスカ工房長、そろそろ時間です。後いい加減エルネスティ団長を独り占めしないでください」

「むっ。……そうだな」

 

 そこで残念な顔をするから、最近所長にいじられるんですよ。

 

「では、エルネスティ」

「はい。学園の教室を一つ、今日明日分借り切ることができたので、まずはそこまでご案内します」

 

 

 

 ***

 

 

 

 久々に足を踏み入れたライヒアラ騎操士学園の教室は、私達が高等部を卒業した時と全く変わっていなかった。

 

「なあ、今窓の外通ったの、幻晶甲冑じゃないか?」

「うわ、建築科の建物前にズラッと並んでる……」

「というか妙に騎士科っぽい生徒が多いような……」

 

 教室以外は、そうでもなかったが。

 

「さて、先んじて届いた書状と資料を拝見させていただき、術式が解読できないことや、主な疑問点についてはこちらでも把握しました」

 

 教壇に立ったエルネスティ団長が、分厚い資料を片手に授業を開始する。

 

 私達にも、彼に面倒をかけている自覚はある。だが、何故か彼の表情には雑務を押し付けられたことに対する反発や、天才によくある簡単な(だれにもできない)ことを理解できない人間に対する侮蔑がない。それどころか、むしろ大好きな玩具を自慢したい子供のように、一刻も早く授業を進めたいという意思に満ちている。

 

 ……この顔には見覚えがある。新しいレシピや機材を持ち込んだ自称天才錬金術師達が、自分の作品を自慢する時に浮かべる顔とそっくりだ。違いがあるとすれば、この少年は本物の天才で、なおかつ彼らにあった暗い自己承認欲求が感じ取れないことだろう。

 

「これについてはひとえにこちらの責任ですね。本来なら、先日幻晶甲冑などを受け渡したタイミングで技術交流なり講習なりするべきでした。……とは言え、悪いことだけでもありません。時間がたった分、こちらの()()が整いましたから」

「態勢?」

 

 エルネスティ団長の言葉とともに、教官と思われる数名の男女が教室に入室してくる。

 

「紹介します。こちらは現在ライヒアラ騎操士学園にて、構文学を担当している教官方です。本日は僕と手分けして教師役を務めてくださいます」

 

 なんでも、現在ライヒアラ騎操士学園では、《テレスターレ》に代表される新型幻晶騎士関連技術に対応したカリキュラムを銀凰騎士団と共同で作成、実践しているそうだ。当然、その内容には構文学も含まれる。

 

 結果として、ライヒアラの教官及び学生は、皮肉にも国内において、銀凰騎士団に次いで新型幻晶騎士関連技術に詳しい集団となってしまったのである。

 

 その言葉に嘘がないことは、今も窓の外で元気に動き回っている幻晶甲冑や大勢の騎操士候補達が物語っている。

 

「では早速授業を始めましょう。一日目の今日は、新しい術式概念……《ボックス(カプセル)化》について説明します」

 

 

 

「……つまり、ボックス化の目的は、極論、相似術式の再利用による簡略化と、呼び出し側からの隠蔽による改善する手間の省略にあると言えます」

 

 エルネスティ団長の説明は、その年齢からは想像できないほど丁寧かつ思慮に富んだものだった。

 

 すでにライヒアラの授業で何度も繰り返したからだろう、エルネスティ団長や教官達の教え方は非常にわかりやすいものだった。特に教官達は、壮年に入って凝り固まった思考を持った人間が、新しい概念を覚えることの難しさを身を以て体験しているため、こちらが何がわからないのかをよく理解しているようだった。苦笑とともに失敗談を交えながら教えてくれる。

 もしこの授業が国機研で行われていたならば、恐らくはエルネスティ団長一人で、なおかつ国機研中から殺到した人員全てに教えなくてはならなかったであろうことを考えると、このタイミングで教わることになったのは不幸中の幸いだと言えるだろう。

 

 

 

「さて、午前中はひたすらボックス化の概要を詰め込んだわけですが。ここからは実際の術式を元に、実際にボックス化を行ってみましょう」

 

 授業が一段落ついて、最後に概要を簡潔におさらいした後、一度休憩を挟んだ午後。エルネスティ団長が術式を正面のボードに張り出しながら次の授業を始める。

 同時に、私達の手元にも、同様の術式が記述された紙が配られる。

 

「これは……」

身体強化魔法(フィジカルブースト)か?」

 

 間違いない。この術式は、授業用にだいぶ簡略化されているが、身体強化魔法の一部だ。

 

 身体強化魔法は幻晶騎士の制御術式の基礎でもあるので、幻晶騎士の製造に関わるなら知っていなくてはならない必須知識の一つだ。上級魔法(ハイスペル)の身体強化魔法を理解できず、騎操士や騎操鍛冶師になるのを断念する若者も多い。

 

「はい。皆さんも御存知とは思いますが、身体強化魔法は非常に複雑な魔法です」

「まあ、常識だな」

 

 骨格、筋肉、皮膚、血管、内臓などなど。人体を構成する物質は多種多様であり、それぞれ最適な強度強化比率が微妙に異なる。さらに、人体は機械と違って常に変化し続ける上、目的とする運動内容によって筋力強化の比率まで変化する。そのため、身体強化魔法の行使には、ただでさえ複雑な術式を、その瞬間々々で精密に制御する技量が求められる。上級魔法に分類される最大の理由だ。

 

「ですが、同時に、同じような術式が何度も繰り返し現れる代表的な術式でもあります。だからこそ、ボックス化の教材として最適な術式だと考えました。実際僕自身、この魔法の改良を通して現在の術式の記述方法を身に着けたと言って過言ではないです」

「つまり、この術式を元にボックス化を行う、と」

「はい、そのとおりです。もちろん、相談や合同での作業もありです。……とは言え、あまり大人数だと授業の意味がないので、協力するのは最大3人までとして下さい」

 

「では始めて下さい」との号令で一斉に課題に取り組む。

 

 どうやらほとんどの構文技師達は一人で、逆に鍛冶師は相談して作業するようだ。

 因みに私はとりあえず一人でやってみるつもりだ。

 

「……なるほど、実際にやってみると、意外と簡略化できる部分が多いな」

 

 エルネスティ団長曰く、ボックス化の概要は以下のようなものだ。

 

 まず、術式はある程度の塊……「箱」に分解できる。身体強化魔法なら、筋力を上げる術式と、強度を上げる術式、などだ。あるいは強化する部位ごとに分けてもいい。

 

 そして、それぞれの「箱」は、外部から見ると、術式の外から入力されるパラメーターと、術式の外に出力される結果しかない。つまり、「箱」の中身は極論なんでもいいのだ。

 

 さて、その上で身体強化魔法を見てみる。

 身体強化魔法は確かに部位・状況ごとに最適な強化比率が異なる。だがそれは裏を返せば、強化比率や制御用の各種パラメーターを除けば、どれもこれもが似たりよったりの術式の集合体なのだ。つまり、先程の考え方からすると、似たような「箱」がいっぱいある状態なのだ。それも、入力を変えるだけで他の「箱」の代用になりそうな「箱」ばかりが。

 

 つまり、乱暴な言い方をすれば、これまで各部位専用に設計していた個別の術式を、ボックス化を使えば全て単一の術式の使い回しで成り立たせることができるのだ。

 

 もちろん実際にはそこまで理想的に簡略化することなどできない。が、今手元で少しボックス化しただけで驚くほど術式が簡略化されている。事前にボックス化の概念を知らなければ、せっかく各部位専用にチューニングした術式を非効率的にしているようにしか見えないが、今ならこれがどのような術式なのかが手に取るように理解できる。

 それどころか、以前解読にあれほど苦労した背面武装(バックウェポン)システム用の術式すら難なく読み解けそうな気がしてきた。

 

「……時間が余ったな」

 

 気がついたときには、手元にはボックス化済みの身体強化魔法の術式。周りを見ると、同じような感じに手持ち無沙汰になっている人間はあまりおらず、他の課題が終わった者と一緒に盛り上がっているか、うまく行かずに教官達に質問しているかのどちらかのようだ。

 

 ……せっかくだし、余白を使って他の術式の改良案考えてみるか。

 

 

 

 ***

 

 

 

 最終的に、ライヒアラ騎操士学園での術式講義は大成功で終わった。

 

 2日目にボックス化を除いた細かな概念の説明を受けた上で、ライヒアラで使用しているテキストの写しももらえたため、今後は国機研内で教育できるだろう。

 

 因みに、すっかり存在を忘れていた紋章式認証機構(パターンアイデンティフィケータ)についてだが、鍵である以上相応の情報管理が必要になるため、機密性の高い仕事(公然の秘密だが、所謂諜報用)を専門とする第四工房が製造・管理を担当することとなった。

 

 また、現時点では数に限りがあること、魔獣被害に対する迅速な出撃との兼ね合いも踏まえて、銀凰騎士団所属を除いた幻晶騎士への搭載は、まずは騎士団長機等の専用機や実験機等の、個人用や秘匿性の高い機体を優先することとなった。

 

 最終的に、量産型は鍵を騎士団毎に共通とした上で、正しい鍵でなくては始動機を動かしても作動しない、ではなく、鍵そのものを始動機の起動スイッチとすることで仕様を確定。まずは《カルダトア・ダーシュ》に搭載して設計を洗練させることとした。

 

 ……これで、全ての憂いはなくなった。

 

「みんな、リベンジのときだよ!」

 

 さあ、背面武装に取り掛かろう!

 




なお、みなさん当然理解しているとは思いますが、アディが微笑んでいるのは単にエルを見て恍惚が漏れているだけ。見守っているように見えるのは少年の瞳でキラキラしているエルしか眼中にないだけです。

ボックス化については、エル自身は前世同様カプセル化と呼んでいるのですが、現地の人に「カプセル」だと伝わらないと判断して「ボックス」にしました。

個人的に、新しいプログラミング手法の最良の学習方法は、既存のプログラムの改良作業を実際にやってみることだと思っています。
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