幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター) 作:ヌルポ撲滅の使徒
再投稿する前の前話しか読んでいない場合は、前話から読むことをおすすめします。
実を言うと、フレメヴィーラ王国で運用される
理由はもちろん、魔獣対策だ。
フレメヴィーラ王国内で人間が住んでいる領域は、実は驚くほど少ない。元々大陸の東側はその全てがボキューズ大森林であり、人類はその中でも比較的安全な場所に、飛び石のように生活圏を築いてきた。
そうして少しずつ人類の領域を広げてきたことで、オービニエ山脈の麓にある王都カンカネンを中心に、各地の街や村を網の目のような街道がつなぎ、それ以外の殆どを魔獣の生息する森が占めるという、正に魔獣に襲われる危険性との隣合わせの環境となったのだ。
結果、人類が各地の森を分断する形となったため、ボキューズ大森林と接する国境付近はもちろん、国内に出現する魔獣にも、地方ごとの傾向というものが産まれ、当然有効な戦術や魔法も異なるようになった。
そうなると、各領地の魔獣傾向に合わせ、防衛する騎士団毎に幻晶騎士のカスタマイズが行われるようになる。《カルダトア》を始めとするフレメヴィーラ王国製の量産型幻晶騎士の性能が、意図的に平均的になっている理由の一端がこれだ。
つまり、多種多様な魔獣へ対応するための様々な現地改造が行われることが、幻晶騎士の運用上の大前提になっている以上、機体の拡張性は非常に重要となる。
その意味でも、「武装の選択肢が大幅に増える」という一点において、
***
「1番機から3番機のチームは、第一工房から届いた再現品の稼働試験を進めて」
「はい!」
「
「承知しました」
「私達鍛冶師はひとまず分類から始めましょうか」
「了解です
ここは第二工房の格納庫。今日から私達第二工房は、久々に本来の新技術の調整役としての役目を果たすために動き出していた。
矢継ぎ早に指示を与えると、部下達が素早く反応して各々の持ち場に戻ってゆく。その顔には、並々ならぬ決意と自信に満ちている。
当然だろう。今回調整するのは
かくいう私も同様だ。早く新しいおも……技術を試したくてしょうがない。
「さて、どんな感じかな?」
幻晶甲冑によって次々と分類、並べられてゆく選択装備を、比較的背面武装に近い装備から順に確認してゆく。
「ふむ、これは《
一つ目は御前試合の日に赤いテレスターレ型が装備していた背面武装だ。
基本的な仕様は通常の背面武装と同様で、
例えば、通常の背面武装は魔導兵装を持ち替えることができる。これにより既存の魔導兵装をそのまま流用でき、なおかつ状況に応じた汎用性を持たせることができている。
だが、この背面武装は、完全に
総じて、近接戦を好む
「でもこれ、量産には向かないなあ」
むろん、デメリットもある。先程挙げた通常の背面武装のメリットが全てなくなってしまったことだ。騎士団長などの専用機ならともかく、量産機に装備させるのには向かないだろう。
あえて言えば、生産性が比較的高くなるので、一刻も早く数を揃えるのには向いているかもしれない。魔導兵装部分も、持ち手になる部品が必要なくなったために小型簡略化され、生産しやすくなっているし。
「で、次は……例の盾か」
二つ目、こちらは届けられた際にひときわ目立っていた盾持ちの補助腕《
構造としては、縦長の3つの盾を個別に保持し、組み合わせることで一つの大型の盾を形成している。普段は大型の状態で、機体を不意の攻撃や大雑把な法撃から保護。近接戦などでは分解した状態にすることで死角を減らし、細やかに相手の攻撃を捌きつつ自身の攻撃を隙間から通すという運用だ。何気に、三つの盾の先端が尖っているので、打突武器としても使えるのがいい。
攻撃能力が直接的に増強されるわけではないので表面的な戦果に直結はしないが、被弾しやすい新人から技量に長けた玄人まで、幅広い騎操士の生存性を飛躍的に高める良い装備だと言える。
問題点としては、まず盾の大きさに見合うだけの重量があること。
御前試合では背中の左側に取り付け、左手に持たせた通常の盾と合わせて効果的に運用していたようだが、片側だけの配置だと重心が偏ってしまい、操作性に著しい悪影響があるはずだ。
この問題について、ライヒアラに行った際にガイスカ先生と一緒に聞き出したところ、カウンターウェイトも兼ねて、右側の背中に多めに
次に、以前見たときにも疑問だった補助腕の強度についてだが、単純に強化魔法の出力を上げて対処しているようだ。ただ、それだけだと可動式追加装甲だけで相当な
「よし、次はワイヤーの射出機……ああ、あの電撃系の魔法を使ったやつか」
三つ目は結構印象に残っていた装備《ライトニングフレイル》だ。
御前試合の後、運用データの取得も兼ねてダーシュの整備を行ったのだが、内部まで高熱にさらされ、結晶筋肉や銀線神経が動作不良を起こしていた、電撃系魔法の直撃を受けた時特有の損傷のあった機体が何騎かいたのだ。
騎操士に聞き取りをしたところ、ワイヤーのようなものを打ち込まれた次の瞬間に、ワイヤーを伝って電撃を打ち込まれたそうだ。
電撃系の魔法は、命中すれば絶大な威力を発揮するが、離れた相手に対して使用すると狙った場所に飛んでいかずに拡散してしまうという欠点がある。そのため、電撃を目標まで誘導するための術式を追加で組まなくてはならないため、どうしても術式が複雑になり、魔力も余計に消費してしまう傾向にあった。
だがライトニングフレイルは、まずアンカーを
電撃を目標に誘導する部分を機械的に解決しているため、術式や魔力消費が軽くなり、ワイヤーそのものも運用に応用が効く。
射程限界こそワイヤーの長さに依存してしまうが、元々電撃系の魔法は遠いと加速度的に魔力消費と術式の難易度が跳ね上がり、近すぎる状態で制御を失敗すると自滅するという魔法なので、むしろ使いやすくなっていると言える。
「これ多分、将来的には生身での魔法運用の常識にも影響出るやつじゃないですか? 工房長」
「むしろ、幻晶甲冑に組み込むやつが現れるほうが先だと思う」
いつの間にか隣で作業を手伝っているミラディのつぶやきに答える。
と言うか、このワイヤーアンカー機構そのものがすごい便利だ。確か《モートラート》にもこれの小型版が組み込まれていたし、後で高所作業用に調整した上で、《
「で、最後は……これかあ」
さらに多種多様・玉石混交な選択装備を検分し、最後に残ったのは、他のどの分類からも仲間はずれにされた装備。恐らく部下達の誰もが他のどの装備とも類似性を見いだせなかったのであろう装備だった。
その名も《
設計図や術式の写しを見る限り、どうもこの装備は主に前後二つの漏斗状の部品を、細い部分でつなげたような構成になっているようだ。
まず進行方向からみて前半分。ここは漏斗部分に刻まれた大気圧縮推進を応用した魔法で、圧縮空気を作り、後ろ半分に向かって送り出す役目がある。
そして後ろ半分。こっちは送られてきた圧縮空気を燃料に、爆炎系魔法を発動させる。その威力は、仮に幻晶騎士に直撃させた場合、文字通り
……うん、やっぱりあの少年は狂人だ。
そもそもこの装備、原理自体は単純だが、実現するとなると容易ではない。ぱっと思いつくだけでも3つはクリアしなくてはならない課題がある。
1つ目。単純な強度。
圧縮空気を作る際も、爆発を発生させる際も、推進器そのものにとんでもない圧力や摩擦がかかるはずだ。なので相応に頑丈に作った上で、かなり強力な強化魔法を掛ける必要がある。
2つ目。魔力をバカ食いする。
事実上三種類の戦術級魔法を同時に、かつ連続で発動させるに等しい魔力消費のはずだ。恐らくは可能な限り小型化して、なおかつ最小限の発動にとどめているはずだが、御前試合ではこの装備を積んでいた団長機は飛んで体当りする奇襲を2回した以外何もしていなかったので、それでもなおこの問題は解決しきれていないと見た。
そして3つ目。爆炎魔法の調整だ。
一般的に、爆炎魔法は爆炎を爆発寸前の状態を維持した球体を目標に向けて発射し、着弾と同時に爆発させることでダメージを与える魔法だ。が、それを素直に魔導噴流推進器内で爆発させると、推進器に無駄にダメージが行く上に、反動が
なのに、エルネスティは上記の問題を、完全ではないとは言えわずか半年足らずで解決してしまった。
……改めて感じる。末恐ろしいなんてものではない。普通の人間なら、例え同じ発想に至ったとしても半生をかけて完成させるような技術を、彼は短期間で、なおかつ他の作業と並行して完成させてしまったのだ。
正直、《テレスターレ》以来、異形の技術に慣れてきた今でも、時々驚きを通り越して恐怖を覚えてしまう。彼のあまりにも隔絶した能力に、それによって加速してゆく技術革新に。
そして、なによりも、その事を本気で
「やばいなあ、ガイスカ先生の事笑えないや」
多分、隣のミラディの目から見ると、今の私はガイスカ先生のような少年のキラキラした瞳をしているのだろう。
「負けられないなあ」
あの御前試合の日にした誓いを新たにする。
いいだろう。無理難題、じゃじゃ馬暴れ馬、なんでも来いだ。全部調査して調整して調教して、そして全世界に叩きつけてやろうじゃないか。フレメヴィーラの、銀凰騎士団の、そして
***
さて、気合を入れ直した所で、現時点での主な問題点を挙げよう。
個々の装備の問題点はそれこそ挙げていくときりがないが、全装備に共通する課題は以下の2つだ。
1つ目。単純に装備の設計が違いすぎる。
背面武装から派生した装備はまだマシだが、他の装備は装着位置も運用方法もてんでバラバラ。これでは量産機に採用しても、使いたい装備が量産されていない、なんてことになりかねない。
2つ目。装備を変更した際の
《テレスターレ》が作成された際、空き領域に術式が追加されたり、操縦席が改造されたりしていたが、あれはあくまで現地で独自改造したときのための余白だ。だが、選択装備を制式に実装する場合、最初から魔導演算機と操縦席に組み込む、ないしは組み込める状態にしておかなくてはならない。
……これだけ多種多様な装備を適切に運用できる術式と操作装置を? 最初から? せっかく自信を取り戻した構文技師達が、死んだ魚のような目になるのが今から予想できてしまう。
……ああ、なんてやりがいがあるんだろう!
「うふふふ。さて、どうしてやろうかなあ」
「……うわ、やべえ。
「うん、あれだけ大量の玩具が来た時点で予想できてた」
「大丈夫。いま錬金工房で栄養剤を量産しているから」
「「「さすがミラディさん! でもできれば事前に止めてほしかった」」」
だから聞こえてるってば。
《カルディトーレ》の開発ってダーシュからの再調整が主とは言え、わずか2ヶ月で完成しているんですよね。
国機研の本気が垣間見えます。