幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター) 作:ヌルポ撲滅の使徒
ここには日夜国内外から情報、技術、試作品、資材、人材などなど、
特にその第一工房ともなれば、国内最高峰の
では第二工房以降が落伍者なのかといえばそうでもない。
第一工房がまんべんなく優れた
そして、工房長たる私、ヨハンナ・アントーニア率いる我が第二工房の得意分野、ひいてはラボ内での役割は……。
「
「二番機が
「三番機またコケましたぁ!
日夜国内外から持ち込まれる厄介事、ピーキーな部品、じゃじゃ馬、用途を考慮していないとしか思えない素材などなどをテストし、調整し、組み合わせ、どうにかこうにか使い物になるよう帳尻を合わせるトラブルシューター兼テスト要員だ。
***
「貴様ら第二工房には、我ら第一工房が新型機……《テレスターレ》を解析、再現した新技術の調整を行ってほしい」
我が恩師であり、第一工房の工房長でもある、ガイスカ・ヨーハンソン工房長が、ドワーフ特有の豊かな白髭をすきながら発した今回のオーダーがこれだ。
本来各工房長は所長の元横並びの立場であり、いかに恩師といえど一方的に命令などできないのだが、例外的に第一工房工房長のみ、限定的だがラボ内の全工房への指揮・命令権がある。
例えば、
「今回の《テレスターレ》の解析及び次期量産試作機の開発は国機研全体への陛下からの勅命だ。生半可な幻晶騎士を出すわけにはいかん」
100年近いスパンでしか行われない新型機開発プロジェクトは、その典型的な例と言えるだろう。
***
「さて、みんな。いきなり予定が白紙になってうなだれたい気持ちもわかるけど、まず現状を整理するよ」
「「「うーす」」」
第二工房専用格納庫に併設された(国機研に限らず、大抵の工房の設備は格納庫に併設されている)会議室にて、まるで死霊のように生気のない部下たちに声をかける。
今回ほどの規模は前代未聞だが、こういった割り込み案件はうちの工房では割と慣れっこでもある。なにせ国機研内での立場がトラブルシューターなので、スケジュールどおりに仕事ができた試しはあんまりない。
「ことの発端は、ライヒアラ騎操士学園、私も含めてここの大半の人間の母校だね。そこで新型の幻晶騎士が開発されたことに起因する」
ライヒアラ騎操士学園は、
なにせ我がフレメヴィーラ王国は、セッテルンド大陸を東西に分けるオービニエ山脈東側唯一の国家であり、同時に常に魔獣との闘いを強いられている唯一の国家でもある。
そのため、この国には幻晶騎士に関わる人材は貴族だろうが平民だろうが、下手すれば王族だろうが諸手を挙げて大歓迎な国風が培われている。
現国王であらせられるアンブロシウス陛下など、即位前はよく騎士団とともに魔獣相手に大立ち回りを繰り広げていたそうだ。(なお、すでに老境の身でありながら、未だに一流の騎操士としてご健在である)
結果として、ライヒアラ騎操士学園は各地の見込みのある人材や学園周辺住民の子どもたちを、幻晶騎士関係以外の分野、具体的には服飾や建築なども含めた、総合教育機関として今日まで成長してきた。
「質問いいですか工房長」
「最後まで説明してからにしなさい。と言いたいけど、間違いなく我慢できなくなるだろうから許可します。ただし質問だけ。なおかつ議論への発散は禁止で」
絶対に収拾がつかなくなるから。
「なんで学生が新型機開発なんて無茶苦茶なこと始めたんです?」
「うん、当然の疑問だね。なんでも当時、師団級魔獣(幻晶騎士を師団単位で数を揃えないと対応できない魔獣のカテゴリ)との戦闘に巻き込まれた学園所属の幻晶騎士が、騎操士の無茶な操縦に耐えられずに半壊したらしい。半壊どころか崩壊したなんて眉唾物な噂もあるね。で、それに対応するために色々改造していたら
結果的にってなんだ。新型ってそんな軽いノリで開発できるものだった?
「……続きお願いします」
顔に出ていたのか、こちらの苦悩を察知した部下が続きを促してくれる。
「で、その新型、……《テレスターレ》っていうんだけど、それが陛下の耳に入り、我ら国立機操開発研究工房に持ち込まれたってわけ。『この新型を参考に、次期新型量産機を開発せよ』っていう勅命付きで」
「なるほど」
「それで直接命じられた第一が珍しく
第一工房は国内最高峰の名に恥じない実力者集団で、プライドも相応に高い。
その上、全ての工房が自工房内で全ての作業が完結するようになっていることと、各工房の
にもかかわらず、作業が行き詰まってからどころか、初日から、しかもあの凄まじく偏屈なガイスカ工房長自らが、命令の形をとっているとはいえ協力を要請するというのは、それだけの重大案件であることの何よりの査証だろう。
「さて、ここまでが案件の背景。ここからは具体的に我々が何をするかだ」
会議室正面のボードを示す。
普段貼り付けられている無数の小さな図面はまとめて剥がされ、代わりに貼られた真新しい大きな図面……もといスケッチが、その異質さをこれでもかと主張している。
「「「うわぁ」」」
異口同音にうめき声が漏れる。私が初めて《テレスターレ》を見たときと同じ感想を抱いたのだろう。
「《テレスターレ》に使われている新技術、いや新発明は大きく分けて3つ」
ロープ状の
板状にした結晶筋肉、
背面に追加で腕を付けて
「まだ解析が始まったばかりだけど、これらはそれぞれ、画期的だが割と致命的な欠点を持っているそうだ。つまり……」
そう、最初の狂気的な印象のせいでとんでもないハズレくじのように思えるこれは。
「喜べみんな。これまでのような手間の割に実入りの少ない貧乏くじから、今日この日からおさらばだ。なにせ、この仕事は単なる調整じゃない」
単純に、今回の案件が確実に成果が生まれる類の仕事である、というだけではない。
「こいつは
もしこの技術が国機研内、さらに国内、国外へと広まれば、同時に騎操鍛冶師達の常識が、限界が破壊される。
「断言する。この仕事が成功して、次期量産試作機が完成すれば幻晶騎士の可能性、発展性は飛躍的に高まる」
つまり。
「これから先、無数の画期的な、独創的な、刺激的な仕事が掃いて捨てるほど舞い込んでくるぞ。
「「「……」」」
みんなから息を呑む気配がする。
そう、スペシャリストといえば聞こえはいいが、幻晶騎士の開発が行き詰まっていたこのご時世、我々の仕事は決してやりがいのあるものではなかった。
だが。
「自称天才錬金術師どもの持ち込む、既存と大して変わらないくせに革命だのなんだのとうるさい材質を粗探しして叩き返すことももうない。
騎操鍛冶師の引いた、虫眼鏡で見ないとわからないような差異しかない図面をもとに組み上げた部品のレポートを作ることもきっとない。
騎操士のわがままに答えて、発展性が乏しくなる一方の幻晶騎士を専用機に仕立て上げるのに四苦八苦することは、……たぶんあるが、やり甲斐は雲泥の差だろう」
「「「……」」」
「さあ、みんな。いつもどおりだ。いつもどおりの仕事で、このじゃじゃ馬を歴史に残るほどの名馬にしてやろう。後にも先にも、私達
「「「おお!!」」」
***
「……と、意気込んで、これかあ」
あれから半月。次々と舞い込む報告、図面、テスト結果、トラブルを捌きながら愚痴る。
これは想定以上の難物だ。
「性能自体は文句のつけようがないのがまた悩ましい」
まず取り掛かったのは、
なにせやっていることは、既存の結晶筋肉を撚り合わせて強固に固定するだけ。第一の連中も目の前にお手本があるのもあって、真っ先に再現して品と図面を送ってきた。
で、早速テスト用に常備している幻晶騎士……現行量産機《カルダトア》の結晶筋肉と入れ替えて試験しているのだが……。
この結晶筋肉、性能が
「出力試験。試験機は一番機を使用。
問題の一つ目。強度不足。
綱型結晶筋肉……学園生達曰く、通称
まあ、これについては最悪第一工房に丸投げでいい。私達の役目はあくまで個別の新技術の調整であって、幻晶騎士全体の設計はあちらの領分だ。責任分界点は明確にしないとトラブルのもとだ。
「強度、疲労試験。試験機は二番機を使用。試験騎操士はドゥーズ・オーギュスト。試験継続中。途中経過報告。過去の最高記録の5倍を超えてなお継続中。ただし、一度目の試験にて、途中で幻晶騎士が
二つ目。出力相応に魔力を多く使う。
ある意味当然の現象ではある。より大きな力を出したということは、より多くの魔力を消費するということ。しかもこの報告書を見るに、結晶筋肉のもう一つの役目である魔力を溜め込む性質は据え置き。材質が同一なのだから当然ではある。よって純粋に燃費が悪い。
「巡航出力での各種動作試験。試験機は三番機。試験騎操士はトロワ・デオン。試験継続中。途中経過報告。転倒11回。駐機体勢からの立ち上がりの失敗3回。武器の破損2回。……まだ続くの? ええと、総評は……、これか。騎操士の負傷こそないものの、操作性に非常に難あり。常に出力過剰の傾向があるため、抜本的な操作術式の変更が求められる可能性大、と」
三つ目。操作性がとんでもなく悪化する。これが致命的だ。
まるでバケツを振り回しながら全力疾走しているかのようだとは担当試験騎操士の言だが、これではとてもではないが量産機には使えない。
なにせ《カルダトア》の売りは使いやすさ、動かしやすさ、整備しやすさの三点セットだ。
日夜多種多様な魔獣からの襲撃に即応することが求められる我が国の幻晶騎士には、とにかく汎用性と操縦性、整備性が求められる。だがこの綱型を搭載すると、そのうちの一つが事実上消滅するわけで、あまりにも痛い欠点。これをなんとしない限り、次期量産試作機の制作には取りかかれないだろう。
「さて、どこから手を付けるか……」
結局の所、綱型の欠点の根本は、出力が高すぎる事だ。だが、そもそも出力と耐久性を上げるための綱型の出力を下げてはせっかくの強みがなくなってしまう。だが出力を上げると問題が起きる。堂々巡りだ。
「どうすべきか……」
氷結魔法でよく冷えた果汁水を一口飲んで、伸びをする。
経験上、こういう煮詰まったときは、発想が根本的に間違っているか、なにか単純なことを見落としているかのどちらかだ。
そしてこういうときは、実際に手や体を動かすのが一番だ。下手に頭の中だけでこねくり回すのは時間の無駄だ。
「図面や報告書だけでなく、実物いじるか」
そもそも私自身ドワーフの騎操鍛冶師の一族に生まれた、根っからの叩き上げ技術者だ。
あたらしい
「うふ、うふふ、うふふふ……」
そう、いい加減部下たちが困惑と驚愕と歓喜が混ざった表情で作業しているのを、デスク越しに羨ましげに眺めているのも限界なんだ。
「ミラディ、試料2、3個個寄越して。いじりながら考える」
「あ、はい」
「うわ、
「これ今夜か明日辺りから俺ら眠れない流れじゃね?」
「全員交代で休憩入れー! 工房長が現実に帰ってきたら寝る暇なくなるぞー」
……聞こえてるからね?