幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター) 作:ヌルポ撲滅の使徒
外部から破壊しない限り半永久的に動作する
が、結晶筋肉だけは別だ。
全く動かさずに幻晶騎士に埃をかぶせているならともかく、結晶筋肉はただ動かすだけで摩耗するものだ。ましては戦闘などで強い負荷がかかれば、それだけ結晶筋肉の寿命は短くなる。更に結晶筋肉は外装などと違って、強化魔法がかかった上であまり外部からの衝撃に強くない。
いかに結晶筋肉に余計な負担をかけずに幻晶騎士を動かせるかが、
結果、結晶筋肉の生産効率はそのまま幻晶騎士の稼働率に直結する重大な要素となるのだ。
***
「
「やっぱりかー」
先生への報告から更に1ヶ月。案件開始から2ヶ月弱経った頃。
無事新型
……のだが。
「トラブルなく終わると思ってたんだけどなあ」
そう、最初は順調だったのだ。順調すぎて、やることが無いくらい。
なにせ今回の技術でやっていることは、結晶筋肉を精製する際に板状にして背面や腰回りに取り付けたり、外装と内部構造の間の隙間に入れるだけ。
元々、結晶筋肉は人体同様、使用する部位毎に、それぞれ適した長さ、太さ、形状というものがある。そのため、精製段階で形を変えるという技術自体は錬金術師にとって基本であり、板状にする上での技術的な障害はまったくない。
《テレスターレ》と異なる配置を試した際に少々失敗……背面に目一杯積み込んで転倒したり、足回りに集中したら歩くのも一苦労だったり……したが、それらはある程度予想がついていた、所謂『失敗する事を確かめる』試験だ。トラブルのうちに入らない。
が、この調子なら珍しくスケジュールに余裕を持って報告書を提出できそうだなあ、なんてのんびり考えていた矢先のこと、全く想定外の部分から問題は発生した。
***
「ごめん。もう一回言って?」
「蓄魔力式装甲内の
はて? 板状型は《テレスターレ》を参考にしっかり固定しているし、各試験の開始前に簡易チェックも行っている。部品の固定ミスは新人から熟練までよくやる凡ミスの一つではあるが、複数の機体で一斉に起こったということは同一人物によるチェック漏れの線もない。
……だめだ。本気で理由がわからない。
「原因はわかってるの?」
「えっと、板状型の固定周りが、
……は?
「……うわあ、見事に割れてる」
一旦全ての試験を中断して、脱落した板状型を格納庫の一角に並べ、手分けして検分したところ、確かに報告どおりだった。どの結晶筋肉も見事に同じ部分からぱっくり割れている。
「固定の金属内格側はどうなってる!?」
「一番機異常なしです!」
「二番機も同様です!」
「三番機も同じく」
続いて各試験機を検分していた各チームにメガホン越しに確認すると、異常なしの返事。
「直接的な原因は、結晶筋肉の固定が疲労して割れたこと、ですけど……」
鍛冶師の一人が、脱落の直接の原因を口にしてれているが、そこまではこの場の全員がわかっている。
問題は、『何故』結晶筋肉が割れたか、だ。
「じゃあまず、原因として考えられる通常の結晶筋肉との差異を挙げていきましょうか」
格納庫に持ち込んだ移動式のボードに白紙の紙を貼り付けて、原因の候補をリストアップしていく。
「やっぱ形状か? あ、でも結晶筋肉の形状なんて元々千差万別か」
「伸縮させずに放置しているから、とか?」
「それだともっと万遍なく割れるんじゃないか?」
「固定方法じゃないっすか? 確か外装と同一方法で固定してましたよね?」
「「「それだ!」」」
なるほど。
確かに、通常結晶筋肉は縦に伸縮する力に対して強くなるよう、金属内格側の固定に対して端の部分を丸ごと結びつけるように固定する。
一方、外装の固定方法は、外部からの衝撃での脱落の防止と、整備時の付け外しを容易にするため、金属内格と外装に穴を開け、そこに固定用の部品を差し込むタイプだ。
「よし、とりあえず一番機のチームは、腕部のみ固定方法を既存の結晶筋肉と同一に変更した上で簡易試験。私達は他の原因がないか引き続きリストアップしていこうか」
「「「はい!」」」
一部のメンバーが一番機に向かってゆくのを尻目に、再度ボードに向かう。
「じゃあ、他に何か差異がないか、挙げていこうか」
そして、板状型の固定方法を少しずつ変えつつ、簡易試験を続けたのだが……。
「
「やっぱりかー」
改善作業は難航していた。
固定方法を既存の結晶筋肉と同一にした事自体には効果があったのだが、そこでまた別の問題が発覚したのだ。
何度も言うが、元の固定方法は装甲として機体が纏う、という配置に最適な固定方法だ。それを下手に変えればどうなるかと言うと……。
「……二番機と三番機、戻ってきました」
「どうだった?」
「戦闘を想定した模擬戦闘機動を十回する間に固定が外れての脱落が合計5枚です。前回の6枚よりは少ないですけど、誤差の範囲ですね」
この始末である。
更に問題がもう一つ。
「一番機の方の調子は?」
「だめですねー。特に足回りの干渉がひどいです」
結晶筋肉式の固定方法だと、板状型の配置が固定間に『張る』形になってしまう。そうなると、板状型の位置がより機体構造の内側に寄ってしまうのだ。その結果どうなるかと言うと……。
「綱型結晶筋肉にして太さを減らしても干渉するのか……」
駆動用の結晶筋肉との干渉だ。
そもそも幻晶騎士の結晶筋肉と外装との間の空間は、結晶筋肉が収縮時に膨張する際に外装と干渉しないようにするため、意図的に設けられたものだ。これがないと結晶筋肉が縮みきらずに動作不良を起こしたり、外装が内側から押し出されて変形、最悪の場合破裂することまでありえる。
蓄魔力式装甲はこの問題を、元々外装がある位置に板状結晶筋肉を配置し、その上に更に外装をかぶせるという形で解決している。だが固定方法を変えたせいで、せっかく元のままに確保されていた干渉よけの空間を圧迫しているのだ。
「しかも金属内格側の固定方法の変更がうまくいっても、新しい問題が解決できていないし……」
***
その問題は追加の板状結晶筋肉の精製していた錬金工房と、それを蓄魔力式装甲に加工する鍛冶師の双方から上がった。
せっかく板状という効率の良い形状で精製していた結晶筋肉に、固定用に無駄な『つまみ』を追加してしまったため、生産性が大幅に落ちてしまったのだ。
当たり前だが、複雑な形状で、しかも固定用に相応の強度が要求されるとなると、精製時の手間も難易度も遥かに高くなってしまう。
これが錬金工房からの問題点。そして鍛冶師から上がった問題点も、やはり生産性に関するものだ。
元々蓄魔力式装甲は、元々外装があった位置に板状結晶筋肉を配置して魔力蓄積量を確保しつつ、その上に同一面積の外装を被せることで強度を担保する、というものだ。
つまり設計上、結晶筋肉部分と外装部分の面積が同一になるので、生産が楽なのだ。
ところが、固定方法を結晶筋肉式に変更するとこの前提が丸ごと変わってしまう。
固定方法の関係上、結晶筋肉式では板状型に『つまみ』が追加される。それはつまり、固定先である
最終的に、疲れ果てた一人がつぶやいた、「もう外装を目一杯でかくして使いまわそう」の一声で一旦小康状態になったが、もちろんこんな手は今回限りでしか使えないのは明白だ。
これでは量産試作機には到底使えない。
「また堂々巡りかあ……」
固定方法を外装式にすれば結晶筋肉が割れて脱落。結晶筋肉式にすれば固定そのものが緩んで脱落。しかも追加の問題点が噴出する。
外装式は相対的に比較的長く(普通に歩かせたり走らせるだけなら最低でもおよそ1週間)持つのだが、結晶筋肉が割れてしまうため、結晶筋肉を交換しないと修理できない。結晶筋肉式は簡単に脱落するが、外れた部品を取り付け直せばすぐに復旧する。
一見すればどちらかを選ぶしかない状況なわけだが……。
「そもそも一週間しか持たないんじゃ話にならない」
幻晶騎士は、非常時や魔獣の襲撃が予想される状況で早馬の代わりに使われたり、王侯貴族の護衛として同行することが多々ある。街道の安全確保のための巡回として、長期行軍を行うことも多い。
よってせめて戦闘なしなら無整備で1ヶ月は騙し騙しでもいいから持たせられないと話にならないのだ。
ましてはここは魔獣との生存競争の最前線であるフレメヴィーラ。戦闘中の激しい機動や外部からの衝撃を考慮すると、必然要求される品質も高くなるのだ。
……うん。
「これはもう私達鍛冶師じゃ解決は無理ね」
余人が聞けば敗北宣言とも取れるセリフが口をついて出る。が、もちろん
「さて、
我ら第二工房には、鍛冶師の他に、頼りになる
この辺りから独自解釈だけでなく、独自設定が増えてきます。
固定が外れて脱落する欠陥については、開発中は付けたり外したりを繰り返していただろうこと、開発期間がわずか半年であること、テレスターレ移送時の親方の発言から所謂耐久試験(特に長距離行軍の類)で初めて発見される不具合は未発見であろうという推測から設定しています。