幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター) 作:ヌルポ撲滅の使徒
フレメヴィーラ王国は王都カンカネン。
大陸を東西に分割するオービニエ山脈の麓にあるこの都市は、かつて人類が初めて東側に進出し、魔獣が跳梁跋扈する森……ボキューズ大森林の開拓拠点となった砦をその起源とする、由緒正しき都市だ。
そのような来歴のため、建国以来拡大を繰り返してきた現在でも要塞として十分に機能する堅牢な都市であり、同時にそれにふさわしいだけの軍事力……すなわち
そして大規模な騎士団の本拠地となっている都市、例えば我ら
無論、それは王都カンカネンも例外ではない。
むしろ御前試合や各種式典、非常事の際の緊急避難場所としても機能する演習場は、他のどの都市よりも広大かつ頑丈に作られている。
よって、公的にはこれが初のお披露目である新型幻晶騎士のお披露目の場として、これ以上にふさわしい場は存在しないと言ってよいだろう。
***
「やあ、せっかくの良き日に、ずいぶん機嫌が悪いようだね?」
「解っているのなら話しかけないでいただけますか?」
新型量産試作機のお披露目当日。
王都カンカネンの郊外に位置する、近衛騎士団所有の演習場。そこに併設されている格納庫を眼下に眺めながら、私は今はあまり顔を合わせたくない人に話しかけられていた。
見た目はいかにも優男と言った風情の、20代の男性だ。
背はひょろりと高く、温和に見える表情を浮かべる頭部には、トレードマークとなって久しいターバンを巻いている。
「とは言え、上司としては結果を出した部下を労うくらいはさせてもらいたいね」
「おっしゃりたいことは承知していますが……」
そう、上司。
このどう見ても『若造』にしか見えない男性こそ、我ら
普段は自身の執務室で政治的なやり取りや、王城との折衝、各工房への仕事の割り振りなどをしているため、滅多に現場に足を運ばない人物なので顔を合わせることは少ない。よって、ガイスカ先生を筆頭に、特にベテランを中心にあまり良く思っていない
かくいう私自身はというと、ガイスカ先生の顔を立てる意味もあり、普段は無関心に近い中立派だ。だが、今日は
正直さっさと貴賓席に行って欲しい。
「確かに最終的に
「それは、ありがとうございます」
言っている内容は正しいし、一月以上前なら、むしろ諸手を挙げて賛同する意見だ。
幻晶騎士の納品などで直接的にやり取りのある一部の騎士団や貴族ならともかく、よく知らない人間からしたら第二以降の工房は第一工房のおまけみたいなものだ。ひどい場合は、そもそも第一工房しか存在しないと思っている人間すらいるほどだ。
だが、いくら今まで言う機会がなかったと言っても、タイミングが非常に悪い。
「ただ、正直、最後の最後でデッドコピーしか作れなかった私からすると、嫌味にしか聞こえないです」
言いつつ、最終整備が終わって格納庫から演習場に出ていく幻晶騎士を視線で示す。
視線の先で悠然と進んでゆくのは、パッと見現行量産機である《カルダトア》に見える。
だが、細部の意匠の違いや、何よりもその背に取り付けられている
これこそが、我々国立機操開発研究工房が総力を上げて……
……そう、結局私達国機研は
「
単純に新型機開発と言う功績に執着しているガイスカ先生は、(完成度についてはともかく)それなりに満足そうではあったけど。
「謙遜も過ぎれば嫌味だよ? 実際、私の目から見ても素晴らしい機体に仕上がったのは確かだ」
まあ、私達騎操鍛冶師のプライド云々を除いて、各国の量産型幻晶騎士や《テレスターレ》と単純に比較すれば、妥当な評価だとは思う。
改善された燃費も合わせて、最終的な連続戦闘可能時間は《テレスターレ》の倍……つまり、《カルダトア》とほぼ同等を維持することに成功している。無論、これは背面武装により使用機会が増えた
つまり、総合的には部品の増大による整備性の低下以外は何一つケチの付け所のない機体に仕上がっている。次期量産試作機としては、
「……ですね。考えようによっては、今日のお披露目さえ恙無く終えれば、背面武装の改良に注力できるわけですし」
そうして、先程ダーシュが出ていった先を見る。そうだ。今日さえ
***
「……は?」
そんな儚い願望は、あっけなく砕け散った。
楕円状の構造の演習場、その貴賓席のすぐ横にある関係者席にて、私も含めた国機研からの出向組は自分が夢でも見ているのではないかと、今本気で思っている。
「……馬?」
「いや、でも、槍持ってないか?」
「人が乗っかっている?」
その原因は、今日の御前試合の対戦相手だった。
てっきりこの演習場の持ち主である近衛騎士団が相手だと思っていたのだが……、いや、そんなことはどうでもいい。
目の前で狂気が音を立てて駆けている。
なんだ、あれは。
「人の上半身に、馬の体……?」
そう、それは《テレスターレ》も含めた、既存の幻晶騎士の大前提をひっくり返す存在だった。
幻晶騎士は人間を巨大化した存在だ。武器も、魔導兵装も、そして背面武装でさえ、その前提は覆さなかった。
背面武装はあくまでも
だが、この幻晶騎士……今聞こえてきた開発者の少年、銀鳳騎士団団長エルネスティ・エチェバルリアが言うところの《ツェンドルグ》は根本的に違う。もはや根本的に人型である事を前提にしていない。それどころか、馬の形ですら無い。
人の上半身と馬の体を組み合わせた、空想上にすら存在しなかった形状をとっている。
「しかも、大きいぞ? 一般的な幻晶騎士の倍近くある」
「それにあの走行速度、魔力蓄積量が大きさ相応だとしても、とてもじゃないが魔力が足りないだろ」
各工房を代表してきている他の工房長達の言葉がうるさい。
ああ、《ツェンドルグ》に圧倒されていて気づくのが遅れたが、馬に似せているだけあって巨大な荷台に幻晶騎士を複数載せている。しかもこれらも《テレスターレ》並には異形の姿だ。
きっととんでもない狂気の発明が載せてあるに違いない。
「……あは」
こみ上げてくる衝動に、思わず
私はさっきまで何を考えていた? 背面武装の改良の失敗? 今日を
「馬鹿じゃないのか?」
半年前、部下たちの前で言ったことを思い出せ。あの時私はなんと言った?
『これから先、無数の画期的な、独創的な、刺激的な仕事が掃いて捨てるほど舞い込んでくるぞ』
そうだ。高々一つの仕事で満足行かなかったから何だと言うんだ。それくらいで拗ねているようで、この先の技術開発の流れについて……いや乗っていけるとでも思っていたのか?
そもそも《テレスターレ》を生み出すような狂人がいるんだぞ? なんで
『
……そう、私は無意識の内に、あれで終わりだと思いたかったんだ。
なんてざまだ。これじゃガイスカ先生を笑えない。
「エルネスティ、エチェバルリア……」
ようやく意識を向けることに成功した少年は、想像以上に幼かった。
小さく、そして華奢な体。少女のような銀色の髪に顔。そして、そして……。
「先生……?」
いつの間にやら対面しているガイスカ先生と二人、同じようにキラキラとした、少年のような興奮した顔で意見を交わし合う姿。
その姿に、私は……。
「「「ずるい!」」」
思わず、他の工房長達と異口同音に叫んだ。
何抜け駆けしてるんだあのジジイ!
第一章が終わってようやく原作主人公が(顔見せ)登場……。何だこの作品?
それはともかく、ようやく一章あたりの構成が固まりました。サブタイトルなど、色々迷走してご迷惑おかけしました。