幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター)   作:ヌルポ撲滅の使徒

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幕間:宴会の席で

 首都カンカネンから馬車に乗り、街道を南方に数日ほど揺られると、城塞都市デュフォールがある。

 ここはフレメヴィーラ王国の主要な都市の例にもれず、かつての大森林開拓の折に拠点となった城塞から発展した都市だ。

 

 ただ、一つ他の都市と異なる点があったとすれば、ここデュフォールは城塞だった頃から幻晶騎士(シルエットナイト)の開発・製造が最も盛んだったため、都市の発展がそのまま開発工房の発展でもあった点だろう。

 その結果、現在のデュフォールはその都市面積の大半を国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリー)が占めている。

 

 つまり、実質的に国機研(ラボ)の職員とその関係者が住民の大半を占める特殊な都市であり、国機研の職員が休日を過ごすのも、この都市である、ということである。

 

 

 

 ***

 

 

 

 うちの第二工房長(あねさん)は、職人気質な人間の多いドワーフにしては身だしなみに気を使うほうだ。

 

 騎操鍛冶師(ナイトスミス)なんてやっている人間はどうしても作業しやすい、汚れや汗を考慮した格好をする。だから男女問わず、大抵はタンクトップや通気性の良いシャツなどの動きやすい格好の上につなぎを着て、髪の毛は作業の邪魔にならいよう束ねているもんだ。

 

 ライヒアラを始めとする学園生の鍛冶師の中には浮ついてアクセサリだの香水だの付けているやつもいるが、アクセサリは作業中に痛い目を見て外すようになるし、香水などの化粧もしょっちゅう汗やら油やらで汚れるので日を追う毎に適当になってゆく。

 

 そんな中で、ヨハンナ姐さんはいっそ異端と言ってもいいくらいに小綺麗にする。

 

 もちろん余計な装飾品を付けたり、ケバい化粧を付けたりもしない。

 だが、自室で休めるときは必ず身を清める(らしい)し、工房外の人間と会う際は簡単にでもメイクはする。男の俺にはよくわからんが、ミラディさん曰く他にも「他人を不快にさせない」事を念頭に、色々気を使っているんだそうだ。

 まあ、しがない一鍛冶師としては、偉くなると大変なんだなあ位の感想しか浮かばない。

 

 が、そんな姐さんでも気を抜くときっていうのはもちろんある。

 

 例えば……。

 

「それで結局私は何も話せなかったの!」

「はいはい」

 

 国機研内の演習場を占有しての、案件終了祝の宴会とか。

 

「あんのクソジジイ! 結局最後まであの狂人(エルネスティ)を独り占めしてぇ!」

 

 姐さんの酒癖は程々に悪い。他人に絡んだり理不尽な命令をしたりはしないが、こう、なんというか、子供っぽくなる。

 

 ドワーフの女性は全体的に色々小さい人が多いが、姐さんはその中では比較的高身長だ。と言ってもあくまでドワーフの中での話で、今みたいに言動が幼いと普段よりも小さく見える。アルコールに弱いせいで、飲んでいるのがほとんどジュースと変わらないくらい度数が低いのも子供っぽさに拍車をかける。

 追い打ちのように、大抵隣で飲んでるのが男性顔負けの高身長のミラディさんなので、余計おさな……小ささが強調される形だ。

 

「おうおう! もっと言ってやれ嬢ちゃん!」

「嬢ちゃんじゃない! 私はもう二十代だ!」

 

 すっかり酔っ払って喚いている姐さんに、他の工房長達が乗っかるように囃し立てる。あの人達も内心は同様だからか、誰も彼もが全くもって遠慮がない。

 

「ええい、そのことについては何度も謝っておるだろうが!」

 

 で、当然ここには話題の中心人物の片割れである、ガイスカ工房長もいるわけなのだが……。

 

「まったく……。ヨハンナ! いくら無礼講と言っても飲み過ぎだろうに! ……ほれ、水でも飲んで大人しくしておれ」

 

 なんか、妙に人当たりがいい。

 

 え、なんだあれ。あの人基本飲み物は注がせる側だし、こういった席でも自分の権威付けに余念がなかったよな? 

 なのに、口調は相変わらずだけどいつもみたいな理不尽な八つ当たりじゃないし、それどころか直弟子とは言え気を使って手づから水を注いでいる。

 と言うかジジイ呼びされると必ず金槌付きで反論していたのにそれもない。

 

 他の連中も、工房長達以外はみんな俺と同じような反応だ。この宴会が始まって……いや、王都から戻ってきてから、人が変わったかのように丸くなっている。

 

 さらに言えば、工房長達もみんな大なり小なり雰囲気が変わっていた。なんと言えばいいのか、全体的にスッキリした顔をしていた気がする。

 

 第三の脳筋連中の頭目であるハゲの大男は空元気じみた暑苦しさが、カラッとした暑苦しさになった。

 

 第四のトップは嫉妬込みの根暗さが薄れていたし、第五の棟梁はいつものしかめっ面がちょっと笑っていた。

 

 そして、

 

「ありがとせんせい! んぐんぐ……」

 

 姐さんは、なんというか、()()()()()感じだ。

 

 確かに前から酔うと子供っぽくなってたけど、今の様子は、まるで解き放たれたかのように喜怒哀楽の感情表現が素直だ。

 

「……」

「……ん? ヨハンナ?」

「……すぅ」

 

 てか、ついには寝ちまったぞ。いくら酒に弱いとは言え、男だらけの宴会の席でここまで気が抜けてるのなんて初めてじゃないか? 

 

 隣のミラディさんも呆気にとられてる。

 

「……はあ、しょうがない。私が自宅まで送ります」

 

 この街の性質上、職員の階級が近いと住む家も必然的に近くなる。俺らのような下っ端は下町の下宿やアパートメントなどの集合住宅。工房長を筆頭に要職につくような人は、家族で暮らしてでもいない限りは比較的高級な住宅街だ。

 特にあの二人は学生時代からの腐れ縁なせいか、住む場所も近い……らしい。個人的にはお近づきにはなりたいが、流石に家の位置まで把握するようなことはしていない。

 

「って!?」

 

 と、女性の、それも錬金術師の細腕で意識のない人間を支えるのは難しかったのか、ミラディさんが姐さんごと倒れかけ、周りの男連中がとっさに立ち上がった、が。

 

「っと、危ないじゃないかい」

 

 その誰よりも先に二人を支えたのは、第一工房の……たしかデシレア、だったか? ドワーフの女性だ。ドワーフとしても小さな体に、騎操鍛冶師にしては長い髪を編み込んでいる。

 記憶が正しければ、若手の割に、腕利き揃いの第一工房でも有数の鎚の腕前だとか。

 

「ヨハンナさん、大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫なようです。ありがとうございます」

 

 礼を言いつつも、相変わらず眠ったままの姐さんを支えながらミラディさんは進もうとするが、足取りは危なっかしいままだ。

 

 ……しょうがない。うん、こういうときこそ男手が必要だろうから、しょうがない。

 

「……ヨハ「まったく危なっかしいねえ、私も一緒に送ってくよ!」

「あら、よろしいので?」

 

 ……。

 

「構いやしないさ。今日は家の爺さんも飲みすぎないようだしね」

「……では、お言葉に甘えて」

 

 ……飲むか。

 

「まあ、そう気を落とすなよ」

「そうそう、どっちにしろお前じゃ脈無いって!」

 

 うるせえよ!

 




主人公の外見は、漫画版やアニメ版のモブドワーフ子を大人っぽくした感じでイメージしています。
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