幻晶騎士調整師(シルエットナイトコーディネーター)   作:ヌルポ撲滅の使徒

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第二案件:制式量産機開発計画
案件開始:新しい劇薬、そして予定外


 鍛冶師達、錬金術師達、その他多くの職員たちのざわめきが聞こえる。

 

 ここは国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリー)の正面入り口に位置する広場であり、同時に城塞都市デュフォールの中央通りを介して、街道までを直線で見渡すことのできる場所でもある。

 

 今、ここには国機研(ラボ)に属する殆どの職員が集まっていた。本来ならこんなところにいるべきでない事務職員や工房長まで勢揃いだ。

 

「! 来ました!」

 

 正門左右に聳える見張り塔から、当番の騎士……ではなく、待ちきれなかった騎操鍛冶師(ナイトスミス)が望遠鏡片手に叫んだ。

 本来なら窓から落ちそうなほどぎゅうぎゅう詰めになっている状況で追い出す側であるはずの騎士も、興奮した様子で中央通りを見つめている。

 

 そして待つことしばらく、段々と中央通りの人混みの向こう、城壁の正門を通ってその巨体がついに見えた。

 

「あれが噂の……!」

「本当に馬みたいだ」

 

 それは先日お披露目された前代未聞の人馬型、《ツェンドルグ》だ。

 

 通常の幻晶騎士(シルエットナイト)に倍する大きさと、人の上半身に馬の体を組み合わせた異形は、明るい緑系統の配色と相まって、まだ都市に入ったばかりの段階でも異様に目立つ。

 実際、事前に通達されていたにもかかわらず、一般住民からは驚愕とも悲鳴ともつかない歓声が上がっている。

 

 幸い、機体の全幅については人型の幻晶騎士とそこまで変わらないので、幻晶騎士の通行を想定している街道や都市内の主要通りでは問題なく通行できているようだ。

 

「銀凰騎士団団長、エルネスティ・エチェバルリア殿、並びに同騎士団団長補佐、間もなくご到着です!」

「ほら君たち! 野次馬に励むのもいいけど、このままだと搬入ができないよ?」

 

 速度を緩め、ゆっくりと進む《ツェンドルグ》に先立って、先触れが銀凰騎士団の到着を告げると、所長が集まった職員たちを解散させにかかる。

 

 今まではある種の連帯感で見逃していたが、これから銀凰騎士団から様々な発明品を受領し、各工房へ運び込まなくてはならないのだ。

 入口に入ってすぐのこんな場所に大勢屯していたら、邪魔でしょうがないだろう。

 

 当然そのことはみんな解っているので、元々出迎えを予定していた人員以外は名残惜しそうにそれぞれの持場に戻っていく。

 

「そこ! どさくさに紛れて残っているんじゃない! さっさと降りて持ち場につかんか!」

 

 いや、見張り塔に登っていた連中はこっそり残っていたみたいだ。当然のようにガイスカ先生に怒鳴られて、まるで土砂崩れのように降りてきている。

 ……いや多いな!? 一体あの狭い見張り塔のどこにあんなに詰まっていたんだ? 

 

 

 

 ***

 

 

 

「所長とガイスカ工房長以外の方々ははじめましてですね。僕が銀凰騎士団団長を務めさせていただいている、エルネスティ・エチェバルリアです」

 

 そう言って《ツェンドルグ》から降りてきたのは、先日のお披露目でも見かけた少女のような銀色の少年だった。

 そして他にも、一緒に降りてきた子達がいる。

 

「そして隣にいるのが……」

「アデルトルート・オルター団長補佐です!」

「同じく、アーキッド・オルター団長補佐です」

 

 恐らくは兄妹なのだろう、黒髪の溌剌とした少年少女こそが《ツェンドルグ》の騎操士(ナイトランナー)()()だ。

 

 ……そう、《ツェンドルグ》はその形状以外にも数多くの前代未聞の機能を持っている。

 

 その一例が、一つの幻晶騎士に対して二人の騎操士を必要としていることだ。

 

「それで、そちらの荷台にあるのが……?」

「はい、事前に連絡していた物です!」

 

 少々興奮気味に確認する所長の視線の先にあるのは、通常の荷馬車の荷台とは比べられないほど巨大な……それこそ幻晶騎士が丸々入ってしまうほどの大きさの荷台だ。

 

 無論、こんなバカでかい荷台を引くことのできる馬など存在しない。

 ……眼の前に悠然と佇む《ツェンドルグ》を除けば。

 

 これこそが、単純な戦闘能力以上の人馬型幻晶騎士の価値の一端。人型を遥かに凌駕する速度と馬力、そしてその巨体を維持する強力な強化魔法による剛性により、絶大な物資輸送能力を発揮している。

 

 そしてもちろん、現状世界にまだ一騎しか存在しない人馬型で運んできた物が生半可なわけがない。

 

「我々銀凰騎士団が新たに開発した選択装備(オプションワークス)……可動式追加装甲(フレキシブルコート)魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を始めとした各種追加装備群です。また、譲っていただいた《カルダトア》をベースにテレスターレを新造した際に搭載した、「容量特化型の板状結晶筋肉(クリスタルプレート)」のサンプルも持ってきました」

「「「おおっ」」」

 

 事前に伝えられていた手順で荷台から積み降ろされてゆく様々な装備品に、工房長達以外の騎操鍛冶師から思わず感嘆の声が漏れる。

 

 

 

 まず最初に降ろされたのは可動式追加装甲(フレキシブルコート)だ。

 確かこれは御前試合で白い塗装をしていた《テレスターレ》が装備していたものだったと記憶している。

 

 こいつの概要としては、背面武装(バックウェポン)用の補助腕(サブアーム)を改造して、魔導兵装(シルエットアームズ)の代わりに巨大な盾を持たせている。

 

 ……うん、御前試合では興奮していたのと《ツェンドルグ》の印象のせいで感覚が麻痺していたが、何故そういう発想になる? 

 

 補助腕は文字通りの「補助」腕だ。

 造りは通常の腕よりもだいぶ簡略化されているし、そもそも魔導兵装を保持することしか考慮されていないから、構造上の強度も最低限だ。そんな補助腕に武器どころか非常に負荷のかかる盾をもたせるとか何を考えているんだ? 

 しかもあの盾、私の記憶違いでなければ3つほどに分割されて個別に機体を守っていた気がする。

 

 ……いや、まあ、実際御前試合では問題なく動作していたわけだから、ちゃんとその辺りの問題点は対応済みなのだろうが。

 

 

 

 次いで降ろされたのは魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)。目の前のちいさな騎士団長殿の乗騎に搭載されていたやたら煩かったやつだ。

 

 こいつの機能は非常に単純。搭載した幻晶騎士を超高速で()()()()()。ただそれだけだ。

 が、その有用性はすでに御前試合で嫌というほど証明されている。

 

 幻晶騎士どころか、人馬型すらはるか背後に置き去るほどの速度。

 加速中にも関わらず、飛んでくる法撃を()()()ほどの空中での機体制御能力。

 そしてなによりも、幻晶騎士が、極々短時間とは言え空中を()()()()という事実は物理的にも心理的にも凄まじい衝撃だった。

 

 実際、御前試合にてその加速力を利用した打撃をもろに食らった《カルダトア・ダーシュ》の一騎は、一瞬たりとも踏ん張れずに転倒。そのまま試合の主導権を銀凰騎士団側に渡してしまったのだから。

 

 しかもこれは従来の幻晶騎士が倒されたのとはわけが違う。攻撃されたのは《テレスターレ》には劣るとは言え、最大出力を1.3倍強まで強化したダーシュだ。つまりそれは、既存の幻晶騎士はもちろん、例え新型やそれを元に改良した機体であろうとも、まともな手段ではあの速度を止めることはできないということ。

 これは敵としても味方としてもかなり厄介な代物だ。

 

 ……それにしても、一体この魔導兵装はどういう経緯で開発されたのだろう。

 

 目的はわかる。ある意味人馬型と同様に速度を求めた結果だろう。だが、一体どうしてそこから、巨大な爆炎を機体から噴出して加速するという発想になる? 

 

 そもそもあの爆炎での加速はどうやって起こしている? 単に爆炎を発生させる魔法を至近距離で発生させても、たとえそれが戦術級魔法(オーバード・スペル)であろうとあれだけの加速は不可能なはずだ。

 

 つまり、これまで通りの狂人の発想が必要なのだろう。

 

 

 

 そうして次々と降ろされる様々な装備達。

 

 赤い幻晶騎士が装備していた、雷を発生させる覚えのある装備もあれば、完全に初見のものもある。

 と言うか一部明らかに最低限の機能だけ作って、外装が未完成のものまである。恐らくは思いつくままに作ったものを片っ端から持ち込んだのだろう。

 

 ……と、その中に、明らかに異質なものを複数見かけた。

 

「……すまない、あれは一体何かな?」

 

 流石に見逃せなかったのか、所長がエルネスティ団長に尋ねる。

 

 それは一見すると大型の甲冑のようだった。

 

 だが、あまりにも大きすぎる。あれではよほど大柄な体格の男性でないとサイズが合わない。

 それに胴体部分が妙に大きい割に、その部分の装甲が少なすぎる。

 

 特に二種類あるうちの黄色い方。あれはもう鎧というよりは、第五の連中が作る特殊用途向けの幻晶騎士のような……。

 

「……まさか」

 

 いやいやいやいや、それだけは流石にn。

 

「ああ、そう言えば伝え忘れていました。あれは幻晶甲冑(シルエットギア)。簡単に言えば小型の幻晶騎士です」

「「「はああ──!?」」」

 

 なにそれ聞いてない! 

 




第二章開始。

そしてようやくの原作主人公初セリフ。
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