僕とやべぇお嬢様は能力者   作:悲しみの向こう岸

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ギリギリですわぁ!!!!!


第一話

「貴方、時間はよろしくて?」

 

 用もなく適当に街を歩いていた僕に向かって、福神漬けのような赤い髪にカレンダーの土曜日の色と同じような青いジャージを着た少女はそう言った。

 何のようなのだろうか……と言っても、知らない美少女が話しかけてくるのは宗教勧誘だと相場で決まっている。適当に用事があると言って断ってしまおう。 

 

「この後家の用事があるんですが……」 

「そうですか。それは残念ですわね」

 

 この反応はすんなり返してくれそうだ。もう少し食い下がると思っていたのでちょっと意外──

 

「家の用事を済ませれるのはだいぶ後になりそうですもの」 

 

 その瞬間とてつもなく背筋が凍ったような気がした。何を言ってるんだという疑問よりも、早くこの場から逃げ出した方が良いという気持ちに駆られ、後ろを振り向き全力で走り始める。どういう訳か分からないが今はとにかくこの感覚に従った方が良い気がした。

 

「即座に逃げる……良いですわね。他の人にはなかった反応ですわ」

 

 後ろで少女が何かを言っているようだが、まるで耳に入らない。既に少し遠いというのもあるが、そもそもそんなことを気にしてられないのだろう。それよりも早く逃げなくては。少女は動いていないようだし視界から隠れてしまえば逃げ切れる筈だ。早くそこの曲がり角で曲がってしまえばいい。そう思っていた時だった。 

 

「ですが私相手には関係ありませんわね……『Deep river』」

 

視界が突然暗くなり、突然のことに立ち止まる。だが、すぐに明るくなりなんだったんだと周りを見渡せば……そこは既に先ほどまでいた街中ではなくっていた。

 コンクリートできていた筈の地面は土に変わり、手前には先ほどまでなかった筈の川が流れていて、遠くのビルやマンションの全体図が見えていた筈の場所は山へと変わっていた。周りは水の流れる音が聞こえるほど静かで、先ほどまで聞こえていた車の通る音が嘘のように聞こえなくなっている。

 まるで一瞬で別の場所に移動してしまったかのように……いや、実際その通りなのだが。

 

「さて、始めましょうか。抵抗してくださっても構いませんわよ?むしろ推奨しますわ」

「……始めるって何を?」

「当然、戦い(殴り合い)でしてよ」

 

 その言葉が聞こえた時には、既に腹を殴られていた。突然の痛みに動くことができず、そのまま顔も殴られ、僕の体は地面へと倒れ込んだ。

 少女は何か考えているのか倒れた僕を見ながら少し止まっていたが、そのまま攻撃をし続けることにしたようで蹴りを入れようとしてくる。

 このままじゃ駄目だ……そう考えた僕は()()()()()()()()()()()()()()()。 

 けたたましい音と共に銃弾が空を切る。少なくとも、少女を驚かせることには成功したようで、突然の銃声にある程度距離をとってくれたようだ。その間に痛む腹を抑えるのを我慢し、銃口を少女に向けながらゆっくりと立ち上がった。

 

「殴り合い……だっけ?ごめんね、そういう能力じゃなくて」

「いえ、気にする必要はありませんのよ?寧ろ、はっきりと抵抗する意思を拝見させていただき嬉しいぐらいですわね」

 

 そう言って、少女は笑う。銃口を向けられているというのにどうしてあんなに余裕そうなのか分からなかったが、脅しに使えないないとしたら不味い。僕はこの銃を使いこなせるわけではないのだから。

 この能力があると分かったときの三度の発砲でこの銃に殺傷能力があると言うのは十分に理解している。そして、撃った時の反動があり連射できないということも理解していた。

 初撃を外せば二発目を撃つこともできず少女に詰め寄られてしまう可能性がある。かといって、一発で当てれる自信もない。もし、当てられるチャンスがあるとするならば……向こうから近づいて来た時だろう。こちら側に向かって来ている時なら避けられない筈だ。

 

「……まだ、撃ってきませんの?」

 

 幸いというべきか少女はこちらが動かないことに苛ついているようで、今にでも飛びかかってくるんじゃないかと思うほどの迫力を出していた。あと数分もしないうちに痺れを切らして本当に飛びかかって来れそうだ。

 そしてその時、足を撃つ。胴体を狙った方が当たりそうではあるが、ここまで銃にビビらない少女が痛み程度で動けなくなるとは思えない。だが、足ならば多少なりとも機動力を削れる筈だ。胴体を狙ったりするのはその後でいい。

 また、水の流れる音が聞こえ出す。普通ならそんな自然の音に心は安らぐのかもしれないが今の僕の心は、急いでいる時に限って定時に来ない電車を待っている時のように落ち着くことはなかった。

 今にも来そうなその時を待ち続け……何分が経ったのだろうか。もしかしたら、一分も経っていないのかもしれないが、その時はやってきた。

 

「動かないようでしたら、こちらから参りますわよ?」 

 

 そう言ってこちらに向かってくる少女の足に向けて、できるだけ速く、できるだけ正確に、銃口を向け──発砲した。狙いは完璧だった。数ミリのズレもないと言えば、それは嘘になるだろうが、狂いがなかったのは間違いなく、撃った瞬間から当たったと確信できる程だった。撃った場所に少女の足があればの話だが。

 

「足を狙うという考えは良いと思いますわ。上手く行けば相手を無力化できますもの。ただ、狙いがバレバレなのはどうかと思いますが」

 

 いつの間にか目の前まで来ていた少女はそう言う。まだ、拳銃を持つ手は押さえられていないから撃てる筈だが、撃つ気にはなれなかった。あれを避けられたのだ、例え零距離でも当たる気がしない。

 

「無駄に撃たず確実に当たると思える時まで待つのも、撃つことにためらいがなかったのも素晴らしいのですが、やはり慣れていないようですわね。街中に発砲音を鳴らすわけにはいかないでしょうから仕方ありませんが」

「……どうやって避けたんですか?」

「どうもこうも、撃たれる場所が分かっているのですから引き金が引かれる瞬間に移動すればよいだけですわよ?」

 

 流石に無理でしょ……という言葉を喉に抑え込んで、どうしたらいいのかを考えた。恐らくこの空間から逃げれはしない。かといって、接近戦でこの少女に勝てるとは思えなかった。もっと距離を取れれば銃を持っているこちらの方が有利になれる筈だが、あいにくこの場所で距離を取れる方法などあるわけがない。あればもうとっくに思いついているだろう。

 

「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

 

 ああ、どうやら終わりになるらしい。まだ、終わりたくないと辺りを見渡すがこんな大自然の中、あるのは川のみで……川?川があるなら……向こう岸に渡ればいけるかもしれない。

 そこまで考えた僕は、拳を構える少女を横目に全力で川へと走りだし、飛び込んだ。川の中は流れはあるがそこまで強いわけではない。服が濡れ重くなるがそんなことも気にしてられない。向こう岸まで渡って、そこから何度も銃を撃ち続ける。長期戦になるだろうが、そんなことを考えているの場合ではない。負ければどうなるのか分からないのだから。

 無我夢中で泳いでいるうちに向かい側にはたどりついたらしく目の前に土の壁があった。あとは上に上がるだけ、そう思い浮上しようと足を動かしたが()()()()()()()()()()()()()

 


 

「……手間が省けてしまいましたわね。まあ、もう終わらせるつもりでしたからありがたいですが」

 

 川に飛び込んだ少年を見て少女はそう言った。そして、空を見上げながら地面へと座り込む。そうやって、ボーッとしていたが少年は川に飛び込んでから一切浮上してこない。

 

「向こう岸に行って向こうから銃を使うという発想は悪くないですが、この川が……というよりこの川がある空間を作り出したのは私だと忘れているのが残念ですわね。殴り合いで何も能力を使っていないのですから、川に何かあると考えるのが普通でしょうに」

  

 愚痴を溢すかのように独り言を呟く少女。その後ゆっくりと立ち上がり、能力を解除しようとしたところで銃声が鳴り響いた。

   

「まだ、意識がありましたの!?」

 

 少女が銃声の聞こえた方を向くとゆっくりと、浮かんで来なかった筈の少年の体が浮かび上がってくる。だが、それはまるで死体のように動くことはなく、川の流れによって岸に押し上げられた。

 

「自殺……?いえ、あり得ませんわ。そんなことをする理由があり得ませんもの。ならば何故──」

 

 そこまで言ったところでまた銃声が鳴り響いた。銃弾は少女には当たらなかったようだが、少女にとってそれは問題ではなかった。

 少女がもう一度向こう岸を見たとき、先ほどまで死体のように動かなかった筈の少年の体は立ち上がり銃口を少女に向けている。

 

「……成る程。第二ラウンドの始まりというわけですね」

 

 少女のその呟きは三度目の銃声によってかき消された。

 

 

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