3.
翌日。
ガラス越しにニンゲン達が自分を興味津々に見ている、いつもの時間。
「やっぱり、子供、欲しいよな」
「唐突にいきなり何だ」
プテラがいきなり口に出した言葉に、カブトプスは驚きながら聞いた。
「いやー、……段々分かって来たんだよ。俺達が死ぬって事はさ、他の生き物が死ぬって事と全く違うんだよ。
また、絶滅するって事なんだよ。生き返ったにせよ作られたにせよ、俺達は、プテラというのは、カブトプスというのは、俺達しか居ないんだ」
「……そうだな」
俺達は珍しいからこうやって人々に見られているんだよな、という言葉をカブトプスは何となく飲み込んだ。そんな事を言っていると、のんびりと日々を謳歌していただけプテラが、カブトプスが好きなプテラがどこかに行ってしまいそうな気がした。
ただ。自分がそんな事を言わなくても、きっとその内行ってしまうんだろうとも思った。
昨日の対話で、広い世界への扉は開かれてしまった。その扉はもう、閉じる事は無い。
「カブトプスは、何か思ったりしたのか?」
プテラが続いて聞いてきた。
「んー、そんなに特に、なあ。俺達は作られたポケモンだから何かをするとか、そんなトクベツな事をする必要のないだろ? サーナイトも言ってたようにさ、俺達は生きる為に特に何もする必要もないし、お前みたいにそこまで何か考えたりとか、やりたい思いにも駆られなかった」
「……今のところは、とかでなくて?」
「いや、分かんねえや。俺、そこまで考えるの好きじゃねえし」
爪を軽く振り回して、こうやって体動かしている方が好きだしな、と付け加えた。
カッケー、とニンゲンの声が聞こえてきて、カブトプスは少し照れた。
「バトルとかしてみたいとかは?」
「いや、このツメじゃ倒すより殺しちまうだろ」
次、対話の機会があったら聞いてみればと思ったが、その機会があるかどうかは分からないのだ。
もう、聞けもしない。
そして、時が経つに連れて。プテラがドームの外を良く見るようになったのに、カブトプスもアベも気付き始めた。
けれど体調を確かめる時とかにアベが外に出てみたいのかと聞いても、プテラは曖昧に目を逸らすだけだった。
まだ考えが纏まっていないのだろうとアベは思ったが、言った。
「近いうちに外、出てみるか」
そう言うと、プテラは嬉しそうに頷いた。
それから更に数日後。
また今日の展示は中止との旨が書かれた立て札が立てられ、アベと共にプテラとカブトプスは外へと出た。
それから暫くの間船に乗り、プテラが早速船酔いになった。
飛んでいた方が楽そうで船の上を飛んでいると、海鳥達が自分をちらりと見て来たりした。
ただ、妙な奴が居るなと言った位の視線で、町で見られる程興味を持たれる事は無かった。
フェロが言っていた事だ。野生では、作られた命かどうかなんて関係ない。
……その野生を、俺は知らないんだよな。
ガラスの中で見世物にされている事が嫌いな訳ではなかった。あの場所は生きるのに窮屈では全くなかった。
そしてアベは良く外に連れ出してくれたし、傷を負えば手厚く治してくれた。
ただ、それは自分にとって当たり前なだけだったのだ。
他のニンゲン達、そしてポケモン達がどうやって生きているのか、プテラは知りたくなっていた。
陸地が見えてきて、プテラは先にそこへ降りた。
そこは自分が住んでいる町よりも、更に長閑な場所だった。
他の人達と共にアベとカブトプスが船から降りてきて、アベが言った。
「それじゃあ、どうする? 今日中には帰らないといけないから、遠くには行けないけど」
そうアベが言った後、船からナミとフェロが降りてきたのが見えた。
「お久しぶり」
アベが振り向いてその瞬間、その手がぴくりと動いた。白衣の下から何かを取り出そうとするような動き。
「待ってって。興味があるのは私じゃなくて、フェロだったのよ」
「……」
ナミは軽く両手を上げた。
アベはそのサーナイト、フェロの方を見てから言った。
「……なら、こっそり付いて来るような真似は止してくださいよ」
ナミと、特にフェロが数瞬怯えたのをプテラとカブトプスは見逃さなかった。
その手は、何を取り出そうとしていたのだろう?
分からないけれど、アベは何かを白衣の下に隠し持っているようだった。自分達にも知らせていない何かを。
アベが自分達の方を振り向いて、言った。
「まあ、人に危害を加えたりしなければ、好きに遠くに行ったりしても良いよ。
……あー、うん。君達がどこに行っても、探せる術を僕は持っているんだ」
探せる術? 色々と引っかかったが、アベは続けた。
「少し、僕はナミと話さなきゃいけないからね、ちょっと遠くに行ってもらえると助かるんだ」
どうやら、アベには秘密にしておきたい事があるらしい。
気になりながらも、カブトプスが「行こうぜ」と声を掛けてきて、プテラは頷いた。
今は話してくれないのだろう。
森の中をぶらぶらと歩いて、話は真っ先にアベの事になった。
アベは、何を隠し持っているのか。
「まあ、ポケモンだろうなあ」
「あの白衣の下にモンスターボールを持っている、か」
「それで多分、俺達がどこに行っても探し出せる術ってのも多分それだろ」
「で、ポケモンだとしてもさ俺達、どういうポケモンが居るのかとかそんな知らないよなあ」
「だよなあ」
それ以上は分からなかった。野生で生き抜いてきたというサーナイトが怯えるほどで、そして自分達がどこに行っても探し出せる。
そんなポケモン、全く知らなかった。
「ただ、俺達にも見せた事が無いんだよな」
少しだけ、裏切られたような感覚を二匹は覚えていた。
アベが自分達が大きくなって、大きな顎や鋭く長い爪にも怖気ずに接してくれていたのは、自分達がアベに危害を加えないと信じていたのではなくて、単純にその何かを持っていたからではないのか、とも思った。
そんな時、きゅるる、とプテラの腹の虫が鳴った。
「そういや、少し疲れているんだよな」
プテラにとって、長時間飛んだのは初めてだった。
「何か、狩って来るか?」
「いや、腹減ってるの俺だし」
「まあ、俺も手伝うよ」
生えている植物は、あのガラスの中のものとは全く違う。太古の環境を模したというその疑似的な森の中と、今現在の環境は全く違うという事はアベから教わって知っていた。
自分達の基となった血や骨から受け継いだものに記憶はほぼほぼ無かったから、その違いを体感する事は出来なかった。
とは言え、狩りでやる事は同じだ。身を潜め、獲物が近付いてくるのをじっと待ち、襲い掛かる。
ただ、獲物は幾ら待てども来なかった。
余所者としてもう、警戒されているのかもしれない。
「……木の実でも探すか」
けれども最初に木の実は見るからに、プテラもカブトプスも苦手な味の酸っぱそうな見た目をしていた。
一応カブトプスが跳んで、一つを千切り落とした。
「……食うか?」
「……まあ、食わないよりかは」
プテラがそれを口の中に入れて噛み砕いて、直後吐き出した。
「酸っぱ過ぎる! 無理だ俺には!」
「叫ぶほどか」
「食ってみれば良いよ、分かるから」
「ヤだね」
いつの日かのお返しというようにカブトプスは笑いながら言った。
プテラの腹の虫は先ほどより強く鳴った。
「アベの元に帰れば何かくれるかもよ?」
カブトプスが提案するとプテラは「それは嫌だな」と言った。
「外で狩りが出来なかったからご飯ちょーだい、って、流石に嫌だよ俺は」
「そうかー……」
いつもも似たようなものだと思うが、とカブトプスは思った。
「空から探してみるか」
プテラはそう言うと、また空へ飛んだ。
カブトプスはそれを見ながら、プテラがどうなりたいのか分からなくて少し考えたものの、すぐに止めた。
「のんびり生きられるならそれで良いと思うんだけどな、俺は」
いつもはただ見られているだけでニンゲン達は喜んでくれるし、こうやって時々外に出たりして面白い事とか知らない事とかを経験出来て。
それで良いじゃないか。
プテラが何を思っているのか、どうなりたいのか、分からないけれど考えるのも面倒臭かった。
プテラは暫く地上を舐めまわすように見つめながら旋回して、唐突に急降下した。
がさがさっ、と枝を突き破る音以外は何もしなかった。
上手く仕留められたのだろう。もう一度飛び上がったりとか、そういうのも見られなかった。
プテラが獲物を仕留めた場所まで行くと、赤いトカゲのようなものを食べていた。尻尾の先には、地面が焦げた痕があった。
「そこそこ美味いぞ。食うか?」
「ああ」
上手く仕留めたなと思いながらも、何かカブトプスの頭に引っかかった。
食べるのに躊躇う位に。
……でも、もう死んでしまったんだからな。関係ないよな。
そう思って残りを食べている内に、何となく気付いた。
カブトプスはプテラを見た。
「そういや、親が居るんだよな」
「あー……そうだな。でもまあ、あそこでアベが捕まえてきたポケモンとかを仕留めていた時と一緒……じゃないな」
この赤いトカゲの進化したらしき姿は、ガラス越しで見た事があった。
この進化前の姿と変わらず、尻尾から炎を出している姿。体の大きさはそう大して自分達と変わらない。ただ、肉付きは自分達より遥かに良く、そして両手に加えて肩から翼も生やしていた。
ここはガラスの中じゃない。親が近くに居る可能性がある。
「…………早めに逃げるか」
「……そうだな」
その時だった。がさがさと音が聞こえてきた。
走って来る音だった。必死に、全速力で、人以上の重さの何かが足音を立てながら。
今まで色んなポケモンを食べてきた。けれど、その後にそれに対して追求される事なんて一度も無かった。食べたら、終わりだった。
二匹は、野生ではなかった。人のポケモンとしてではなく、野生として生きるという事を、肉体が理解していなかった。
出てきた赤い巨体は二匹が食べたその亡骸を見て、ゆっくりと目線を上げた。目線が次第に合ってくるのに、二匹は金縛りに遭ったように動けなかった。そして目が合うと、リザードンは激しく、憎悪を込めて二匹を睨んだ。
そして「殺してやる」と低く呟いたのが聞こえた。
プテラの激しい後悔は、しかしすぐに恐怖に塗り尽くされた。すぅ、と息を吸うリザードンに対しても足が動かなかった。
業火が目の前を覆い尽くし、その目の前にカブトプスが立ち、水を吐いた。
けれど水は一瞬にして蒸発し、カブトプスを焼き焦がした。
「があああああっ!」
相性の悪いカブトプスさえもが悲鳴を上げる強い炎、プテラはやっと足を動かした。カブトプスを掴み、炎を耐えながら空へと逃げた。
カブトプスの体は全身が強く焼け焦げていた。その甲殻も体に備わる水の力も、その激しい炎に耐えきれていなかった。プテラもその炎を直接受けた時間が短かったが、体は焼けていた。
リザードンはすぐに飛んで追いかけてきた。怒りの形相でもう一度炎を吐き、プテラは必死に躱した。一直線に伸びる炎の槍は、避けても熱気を強く感じさせてきた。
加えて飛ぶ速さも敵わなかった。
カブトプスが叫ぶ。
「降りろ! 追いつかれたら俺はどうにも出来ない!」
「分かった!」
プテラが降り始め、後ろを見た。
リザードンは上空で翼を強く振るうように体を回していた。
……何だ?
瞬間、背中を切り裂かれたような痛みが走り、プテラがよろけた。二度、三度と連続して切り裂かれ、皮翼が少し千切れた。
木に落ち、ばきばきと枝を折りながらカブトプスは着地した。
「大丈夫か!?」
プテラは枝に引っかかっていた。
「何とかっ」
上を見上げると、また息を吸っているリザードンが見えた。
慌てて降りようとするも、枝が翼膜に突き刺さっていて動けず、炎が無情に吐かれた。
カブトプスが水を吐いて応戦するものの、先程と同じくすぐに蒸発してプテラに襲い掛かった。
「あああああっ!」
体が焼け焦げる激し過ぎる痛み、けれどその炎のおかげで枝も燃え、プテラは落ちた。
直後、リザードンが急降下してきて、カブトプスの目の前にどん! と激しく音を立てながら着地した。
そのまま振るわれた爪を、カブトプスが両方の爪で受け止めた。片腕を振るわれただけだったがしかし、力も経験も何もかもが格上だった。ずず、と受け止めた足が地面を滑る。受け止めるしか出来なかったカブトプスをリザードンが咥えて蹴り飛ばそうとしたが、目を横に向けると飛び退いた。直後にリザードンが居た空間にプテラの尻尾が叩きつけられた。
リザードンがまた、息を吸う。カブトプスとプテラがその前に立ち直した。
小声で話す。
「戦うしかないか」
「そうだ、な」
「……何とかなるか?」
「するしかない」
……するしかない、とプテラもカブトプスも胸に刻んだ。相手が何であろうと。
火炎放射、カブトプスとプテラが左右に跳び、リザードンは狙いをカブトプスに付けた。横薙ぎに振るわれた炎をカブトプスは伏せて躱し、その間にプテラがリザードンに頭突きをかました。
しかし、それも片手で止められていた。全力で跳び、全体重を掛けたはずだ。なのに、片腕で止められた。リザードンは、ず、とほんの僅かに足が滑らせただけ。
リザードンはそのままプテラを地面に叩きつけた。そのまま踏みつけられる前に、切迫したカブトプスが爪を振るった。半歩下がって避けられ、連続して振るうもどれも軽く避けられる。プテラが起き上がり、切り裂きの隙をカバーするように尻尾をリザードンに突き刺した。
リザードンは更に後ろへ跳んで避けると同時に、既にもう一度大きく息を吸っていた。今度はもう、二匹に何をさせる暇も与えなかった。
直撃した火炎放射、殺意の籠った激しい炎に二匹はもう、耐えられなかった。
炎が通り過ぎた時、完全に焼けたプテラとカブトプスはもう、崩れ落ちるだけだった。
リザードンが歩いて来る。
「う……」
「いたい……」
動く事すらもう出来ずに、ただ呻き声をあげる二匹を、リザードンは冷徹な目で見降ろした。
見た事の無いポケモンであるのは確かだった。ただ、そんな事はどうでも良かった。
「アベ……」
「ごめん……なさい……」
リザードンは呟いた。
「…………ごめんな、守ってやれない父さんで」
その足が持ち上がる。
思い切りカブトプスを踏み砕こうとしたその瞬間、しかしその足が何故か唐突に凍り付いたのに気付いた。
「!?」
プテラは、呟いていた。
「しろ……い……?」
さらさらと、いつの間にか雪が降っていた。リザードンが上を見て炎を吐き、叫んだ。
「何故邪魔をする!!」
誰かが、やって来ていた。リザードンの叫びに、その誰かは答えなかった。
視界の隅で、リザードンが纏わりついてくる氷を必死に振りほどこうとする姿が映った。けれども、吼える声も暴れる手足も瞬く間に氷で封じられ、横に倒れた。
……助かった、のか?
そう思うと、最後に意識を保っていた気力も失われ、意識が薄れていった。
*****
次に目が覚めた時、そこは屋内だった。カブトプスと一緒に寝かされていて、その隣には青い、巨大な鳥が居た。
「起きたか、馬鹿ども」
青い鳥が言った。
「……誰?」
体を動かそうとすると全身が酷く痛んで「動かない方が良い」とアベに言われた。
「人間からはフリーザーと呼ばれている。ルギア様とホウオウ様に仕える……いや、そんな事は良いか。
私は、お前達を見定める為に居る。……出来れば姿を見せるまでの事柄なんて、起こして欲しくなかったがな」
「……見定める?」
「お前達を、私達が受け入れるか」
「……」
お前達、というのは自分達……即ち、新たに生を受けた太古の生物だ。
だったら、私達というのは今を生きている生物の事だろう。
「お前達は放っておいたら、きっと数を増やしていくだろう。そして、世界にもその身を羽ばたかせていくだろう。
しかし、お前達がただ害を為す存在だったら。この世界に馴染めなかったら。
待つのは悲劇だけだ。今日みたいな事が様々な場所で起きて、この世界に馴染む前に死にゆき、そしてまた絶滅してしまうだろう。
そうなるか、ならないか、私は見定めている」
「……」
「例を言おうか。
遥か遠くに、狂暴な三つ首の竜が居る。その竜達は、最初の内はその身に刻まれた本能に従って好き勝手にやっていたが、力を合わせた人間達と私達によって殆どが殺された。今は僅かしか生きていないと言う。
聞いた話でしかないが、酷いものだったようだ。誰も得をしない。
お前達がそんな存在ならば、私はここでお前達を殺す。
そうすれば、そんな事も起こらずに済むからな」
プテラはそれを聞いて泣きそうになりながら、ぽつ、ぽつと言った。
「……、……俺達は、俺達自身の意志で生まれた訳じゃない。
そんな……そんなもの、押し付けるな」
フリーザーは、それを聞いて少し慌てたように付け加えた。
「申し訳ない。それも一面なだけだ、最悪な方の、な。
一番の目的は保護だ。殺されないように見守る立場だ、私は」
フリーザーは会話が通じている時点で殺すつもりなど毛頭ない事、この世界に羽ばたいていく事を歓迎している事、そして太古からずっと生きている者達が会いたがっている事などを話した。
要するに自分達にはニンゲンの目からだけではなく、ポケモンという視点から見ても大切にされるべき、価値のある生物だと言う事だった。
それから、諭すように続けた。
「ただな、野生で生きるにはお前達は何も知らなさ過ぎる。身に染みただろう」
カブトプスが聞いた。
「プテラがあのトカゲを殺すところからじっと見てたのか?」
「いや、私が追いついたのはギリギリだった。
……肝を冷やしたよ」
「…………助けてくれて、ありがとうございます」
プテラも礼を続けた。
そしてフリーザーは最後に、と話した。
「今日の出来事から学べる事は沢山あるはずだ。お前達がどうすれば良いか、何をすればお前達の種の未来が明るいものになるか、しっかり考えろ」
そう言うとフリーザーはアベに顔を向け、自らボールに入った。
「本当に心配したんだからな、僕達」
フリーザーの前では落ち着いた表情だったアベが、泣き顔になりながら言った。
プテラは目を閉じて、泣いた。
……単純な事を忘れていた。
アベは、自分達を愛してくれていた。アベにとって自分達はとても大切な、愛すべき存在だった。
それは自分達が作られた生物でとか、太古に生きていた生物でとか、そんな事よりもよっぽど大切な事だった。
4.
朝、起きると傷は大分癒えていた。
小屋に嵌められたガラス窓には雨粒が残っていて、けれど外は晴れているようだった。
プテラが起きると、隣で寝ていたアベも目を覚ました。
「もう、大分元気になったようだね」
翼腕を動かして、そうだ、と答えた。
「ちょっと、外に出るかい? リザードンに見つからないように、ね」
アベが先に扉を開いて、外を見る。
「大丈夫そうだよ」
そう言って、プテラは外に出た。
雨上がり。空には虹が掛かっていた。
木々は水の雫に光を反射し、煌めいていた。その枝から垂れるたわわに実る果実は、遠目から見ても美味しそうだった。
カブトプスも小屋から出てきた。
アベが「虹が綺麗だね」と二匹に言った。
本当に綺麗だった。そしてその中には、無情なほどの残酷さもあった。
プテラは、カブトプスに言った。
「……人間の世界に居て気付かなかったけれど多分、ポケモンの世界は太古の昔から変わっていないんだな。
弱肉強食。本当にシンプルな、そのルールが一番前にある。
そして同時に適者生存って言葉もある。
太古の時代に俺達が急激な環境の変化に付いていけなくなったから絶滅したとか、そういう意味とかの言葉だが、それは弱肉強食の中にもちゃんとあったんだ。
俺は新しく生まれて何も知らなかったから、その弱肉強食の中の、適者生存さえも出来ていなかったんだな。手を出してはいけないものに、手を出してしまった。
そのせいで、俺は俺自身どころか、カブトプスまで死なせようとしてしまった」
本当に申し訳ない、とプテラはカブトプスに謝った。
カブトプスはいいよ、と断った。
「今、生きているんだし」
自分達には、価値があるから生かさせて貰った。自分がただの野生のポケモンだったら、あの場所でリザードンに踏み砕かれて死んでいた。
リザードンは、今も血眼になって自分達を探しているのかもしれない。子を喪った悲しみで泣いているかもしれない。
ただ、生きるという事は本質的に、特に肉食である自分達にとって、そういう事だった。数え切れないほどの死を他者に与えながら、自分の生を繋いでいく。
けれどもその生き方を自分も、そしてカブトプスも知らない。
プテラは言った。
「俺達、ちゃんと生きて学んで、この世界に適応しないとな」
「そうだな」
カブトプスは、先日思った事を思い出した。
のんびりとしていたプテラが、どこかへ行ってしまう。広い世界へと行ってしまう。
……それは、違った。
自分達はどうしようとも、この世でたった一つの種である事は変わらず、そしてこの今で新しく生きていかなければいけない。
行ってしまうのではなく、自分も扉の先へと行かなければいけなかった。
息苦しさを感じもした。けれどリザードンと対峙し、殺されそうになったあの絶望を、将来この世界で生きるプテラとカブトプス達に味わわせたくないとも、強く思った。
背伸びをしたアベが、歩けるようになった二匹を見て、また雨上がりの空も見て、言った。
「じゃあ、帰ろうか」
二匹は、頷いた。
プテラ:
せっかち
レベルは20~25くらい。得意技は跳躍から体を捻って尻尾の叩きつけ。着地は背中から落ちる。考える方。
カブトプス:
おっとり
レベルは同じく20~25くらい。格好付けたがりだけど、恥ずかしがりでもあったり。あんまり考えない方。
アベ:
人間の研究員。優男。現地調査とか良くするから肉付きは結構良い。ネーミングセンスは無い。
新たに生まれたポケモンという事で、伝説のポケモン達から監視役としてフリーザーを持たされていた。
フェロ:
♂のサーナイト。他者と他者との心をつなぎ合わせて言葉が違くとも強制的に会話させる能力の持ち主。元々野生。結構強い。
リザードン:
マサラのヌシで、子供を好きに遊ばせていたら突如現れた得体のしれないポケモンがその子供を殺してしまいました。
フリーザー:
伝説のポケモン達からの監視役。ふたごじまがグレンタウンから近かったから選ばれた。実際は護衛の方が重みが強い。
後は、”太古からずっと生きている者達が会いたがっている事などを話した。”という点で、後々彼等をグラードンとカイオーガに会わせに行く役割があったり。