エルフとご主人 作:脱線
おかしい……元はケツがでっけえまぞひすとえるふがハメ潰される系の話を書きたかったはずなのだが……?
エルフの名前を覚える。
深夜、アラームの音で目が覚めた。
扉の方へ目を向けると、先日の購入物が侵入者用の撃退装置にぐるぐると縛られてもがいている。買ってから三週間、返品も効かない"それ"がこうして装置に引っかかるのはこれで一週間連続。
「ぬっ何だっ? これは……? おい早く解けご主人!」
「え……? いやですけど……」
おまけに雇い主に対する言葉遣いもなっていない。返品不可になる二週間を過ぎるまで猫被って過ぎた途端コレだもんなあ……悪知恵が働くったらない。
「ご主人には人の欲というものがないのか? 交尾どんと来いな女子が夜な夜な夜這いに来てるんだぞ? この際このよくわからん縄で縛られたままでも構わんのだ、犯せっ、犯してくれー!」
「返品してェ〜〜……おやすみ」
そうぼやきながら今日作った耳栓を着ける……音が綺麗になくなって良い出来だ。
奮発して虚無の胎児の素材を使った甲斐があった。この感じならあの駄エルフ──今そこらに転がっているやつ。を縛っている縄も上々の出来だろう。素材の吸収する性質を魔力に絞り、かつ限界まで引き出した逸品だ。
あの魔力オバケなエルフには
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さて。
ことの始まりは、作業補助用のホムンクルスが壊れたからである。
俺はちょっと名の知れた錬金術師だ。とはいえそれも
ホムンクルスが扱える技能というのは製作者の技量に左右されるのだ。製作者が扱えない技能は扱えず、またその技能を扱うにあたってのリソース、例えば魔力であったりは都度補充する手段を考えてやらねばならない。勿論その手段も確保してあったが最近はその素材の調達が面倒になってきてもいた。
そこで俺は考えたのだ。そろそろ自分一人では限界が来ている。ならば他の手を頼る時が来たのではないだろうか?
勿論出来るだけ従順で、錬金術には必須な魔力を潤沢に持ち、かつ長寿である存在が必要であると。つまりはエルフが望ましい。
そこで久方振りに街へ降り、早速技能奴隷を買い求めた。幸いエルフで大層腕の立つらしい奴隷が居ると言うので即決で買ったのが件の駄エルフである。此方の渡した金貨にちょっと首を傾げながらも店主が喜んで送り出したのにはちゃんと理由があった訳だ。
この様子では相当な回数返品されていると見た──後日確認しに行ったら当たっていた訳だが。
そんな事はさておき。
「ご主人、言われていた魔法薬の調合が済んだぞ」
「じゃあ次は夜精の涙を結晶化しておいてくれ」
「わかった」
この駄エルフ、助手としては相当に便利だった。位階を駆け上がったエルフに見られる、無尽蔵に近い魔力で此方の必要な下拵えをどんどん済ませてくれる。
色狂いである点を除けば完璧である。その一点が最高に駄目なのだが。
「しかし、ご主人」
駄エルフが作業を続けながら口を開いた。夜精の涙の結晶化は中々気を払うのだが此奴にはさして難しくないようだ。俺はそっと作業の段階を引き上げる事を決めた。
「なんだ?」
「ご主人が求めているのは何なのだ? 見たところ老いや寿命は既に克服しているだろう。それを過ぎて何を求める?」
此奴雇い主に看破の類を使ったと見える。まあ良かろう俺は寛大だ……ちゃんと答えてやる事にしよう。
「俺の克服は事故でな?」
「事故で不老不死になる者はそう聞かんが?」
「事故といっても呪いの類じゃない」
「ならなんだ、錬金術師がよく言うところの真理を求めてなったのか?」
よく勘違いされるが不老不死というのは錬金術師にとって通過点に過ぎない。
不老不死とは完全性の獲得に付随するおまけであるからだ。本来の目的は世界を構成する真理についての研究である。
近年ではその通過点に目を向けがちなのが俺としては悲しい限りであるが。
「いや?」
「違うのか?」
「錬金術の行使には必要な陣を描く必要があるだろ?」
「うむ、その割にはご主人は陣を描かないが」
「毎度陣を構成するのが面倒でな?」
「うむ」
これは同業者の悩みの種である。ホムンクルスやゴーレムを利用した人海戦術で何とかする者や、陣を予め刻んだアーティファクトで対応する者が殆どだ。俺は違うが。
「賢者の石を取り込んでみたら不老不死になってな」
「うむ……?」
「陣は必要なくなったがうっかり不老不死になってしまったからな。分離する方法を探している」
勿論この研究の前例はない。俺としては陣を自在に扱えつつ不老不死とかいう余計な物を削ぎ落とすのが目的だ。肉体に内包された完全性の中に陣が産み出す無限の情報が眠っているというのが俺の持論である。
抽出は進んでいるが何分現在過去未来に生み出されうる陣まで丸ごと移そうとしているから中々進まない。なので近年は陣を発動する素材に紐付けして情報量を減らせないか試している。
「ご主人はばかだな……?」
「減点一点です。無限落下陣〜」
「ご主人は器が小さい男だなァァァァァ──!」
指を鳴らして駄エルフを亜空間へ堕とした。落下して伸びた猫めいた姿が見られて中々刺激的だ。
「いくら俺がフランクでも言っていい事と悪いことがあるのだ……しかしお前、尻はデカいのな」
「止めろご主人──!」
しばらく作業してからちゃんと解除してやった。駄エルフは五点着地に失敗して呻きながら治癒魔法で快復していた。
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お昼時である。普段は食べないというか食べる必要がないので抜いていたのだが、駄エルフが来てからはちゃんと摂るようにした。無駄にはならないし会話が新たな発想を生み出す事もあるからだ。それに材料は駄エルフが自分で取ってくるし。
「食事だぞご主人」
「お前エルフの割には食事にちゃんと関心があるよな」
「私からすれば必要無いとは言わんが、永い生には
と、野菜を齧りながら駄エルフが言う。
「ところでだな」
「うむ」
「お前の名前は何だっけか?」
「は?」
──駄エルフ、キレた!
「いやマジで覚えてなくてな? 危ないから止めろ」
瞬間的に魔力を凝縮させていた駄エルフの右手を一手で削いで復元しておく。駄エルフがマジか此奴、という目で此方を見ている以外はこれで元通り。
「──……はぁ……ユドラ。【宵の木陰のユドラ】が私の名だ」
「そうか。ユドラね……覚えておく」
「そうした方が此方も遣り甲斐がある。それと」
「なんだ?」
「さっきのは私以外にやるなよ?
「言われずともお前にしかやらん。これ以上雇う気もないからな」
「ハァ──ー……」
駄エルフ──ユドラは大きく溜息をついて食事を再開した。
俺に何か言いたげであるが見なかった事にしておいた。なにせ俺の方が偉いので。
XX
TIPS 宵の木陰
エルフ社会に存在したとされる神話上の地名。現在は無意識下の海に呑まれて揺蕩っている。
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ご主人……神話級の尊大ウッカリ錬金術師。真理に到達したが違クして今に至る。
ユドラ……神話級の色ボケエルダーエルフ。趣味は奴隷商に身売りする事。