エルフとご主人   作:脱線

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続いてしまった。


譲歩してしまった日

 

 朝、見事な朝日と爽やかな冷気と、アラームの音に目を覚ました。

 青空が広がり、雲はずっと遠くに名残が見えるかといったところ。そして噴煙を上げる飛翔体の姿。

 

「うむ、成功だな……! 朝まで眠れるのは良い事だ」

 

 俺はそう独りごちた。何を成功としたのか? それは勿論飛翔体の姿を見ての事である。

 あの飛翔体には駄エルフ──ユドラが閉じ込められている筈だ。例によって夜這いが失敗した為だ。

 以前作った収奪の縄による拘束罠は何をどうやってるのか知らないが引き千切って突破してくるようになったので新たな策をこさえたという訳である。

 

 いやマジでどうやってんのアレ。ミノタウロスクラスの筋力じゃないと千切れない筈なんだが? 

 あ、飛翔体1号が散華した。まあアレくらいじゃ死なないだろうしそのうち戻ってくるだろう。最悪転移術でこっちに引っ張ってくればいいし。

 それはさておき枕元に置いた水差しで寝起きの一杯。ユドラを買ってから物を口にする癖がついたが中々悪くない。

 今日は朝から良いものを見れた。あとはこの『目覚まし飛翔体』の機構をどこまでサイズダウン出来るか……。

 流石に毎朝寝室の屋根と壁がおさらばするのは雨の日が嫌になる。これを避ける為には亜空間への接続機構も組み込む必要があるだろう。しばらくはこれにかかりきりだろうなあ。

 さ、今日も研究といこう。

 

 **

 

「ご主人は……加減を知らないのか?」

 

 案の定無事に帰って来たユドラがもっさもっさと野菜を頬張りながら言った。

 

「収奪の縄を引きちぎるお前が悪い。アレはそこそこ良い値段になるんだぞ。俺は天才なので実質無料で作れるが」

 

 虚無の胎児は余人が採取するにはちょっと前準備がかかり過ぎるので希少な素材なのだ。

 

「ご主人が観念して私を犯してくれればそれで済む話なのだが?」

「ふむ……週に何回?」

「………………二十一

 

 俺の問いに、とても間を置いてユドラは答えた。

 

「お前は発情期の獣か? 頭の温度が二目盛ずつ茹っていってるのか? 性欲すら制御できない畜生が俺に譲歩せよとは笑わせてくれるな? 駄目だ」

「おかしい……相当に譲歩したのだが……」

 

 と、首を傾げるユドラ。

 俺は溜息をつきつつも続けた。

 

「お前の見た目がいい事は認めよう」

「うむ」

「お前の器量も一部分を除けばいい事も認めよう」

「うむ……!」

「その除かれた一部分で駄目だ」

「何でだ!?」

「俺は天稟なのでお前のめちゃくちゃ譲歩した条件にも耐えられるが、一般的にお前を雇えるヒトがその頭のおかしい条件を飲んだ場合詳細は省くが死ぬ」

 

 主に腎虚とかその辺りでだ。死ぬ。インキュバスだって一月で逃げ出すだろう。

 

「──! ならご主人が私の条件を飲んでくれれば良いのでは?」

 

 ユドラはハッと天啓を得たかのようにそう答えた。此奴……頭が……。

 

「研究が進まないから駄目だ」

「何でだ……!」

「一般的に生殖行動には時間がかかるからな……とりあえずお前の無聊を慰める系の仕掛けを考えてやるので機嫌を直せ」

「本当か?」

「は……? 超現金なんですけどこのエルフ……手伝わせるからいいか……」

 

 **

 

 とりあえず本日より思いついた案を片っ端から試していく事にした。

 

「とりあえずコレ。大激震貞操帯」

「これはどういう……?」

「名の如くめっちゃ震える貞操帯だ。素材にマグヌス砂漠産超土竜の精臓を使ってるのでとても震える……筈」

「……筈? 試してないのか?」

「理論上あいつらの使ってくる大激震と同じだけの熱量が付けてる所に集中すると思われる」

 

 超土竜はマグヌス砂漠における災害要因の一つだ。街の近くで出現しようものならその街が綺麗さっぱり沈む。

 そのエネルギーが! 股間に! ともなれば此奴とて満足できるだろう。

 

「……死ぬのでは?」

「お前なら大丈夫だろ多分……まあ五体満足な見た目にはなるだろ……」

「次にいってくれ」

 

 真顔で拒否された。注文の多い奴だな。

 

「"夜魔の聖水"の服用」

「以前試したがそこま……待て、夜魔?」

「夜魔」

 

 夜魔はスクヴスの上位種である。一般聖職者の精神防壁を薄紙の如く貫通して魅了してくるそうなので教会から年中討伐依頼が出されている厄介生物だ。

 

「どこで手に入れたんだそんな物」

「友人に聖水めっちゃ作る奴がいてな……前に貰った奴なんだ」

「聖水……作る……? 【神の血】バルカンか?」

「当たりだ。なので夜魔が原料の代物になるらしい。偶に市場に出回るやつよりずっと純度が高いんだと」

「奴の技術は魂を保持させたまま聖水に変質させる代物だからそうもなろう……というかアイツ生きてたのか?」

「多分生きてるんじゃないか? しばらく顔見てないが」

「とりあえず保留しておく。次は?」

 

 思いもよらぬ共通の知り合いについての話でちょっと懐かしい雰囲気になりつつ次の紹介へ移った。

 

ローパーメイデン

「ご主人?」

「コレは以前発掘した奴だが別のと複合して扱う物だな。さっきの聖水と一緒に使うとなんかすごい事になると思う」

「ご主人、コレはその……呪われたアーティファクトとかの類では?」

「ちゃんとカビないようにメンテナンスもちょいちょいやってるから大丈夫だ」

 

 地味に大変なのだ。分泌する粘液で湿度が凄いしな。以前はホムンクルスにやらせていたからそろそろメンテナンスの時期になる筈だ。ユドラが気に入ってくれれば俺としては願ったり叶ったりとなる。

 

「私が受けたいのはそういう説明ではなく……」

「呪いじゃないぞ。ただの暗好性無脊椎動物がこの拷問器具を寝床にしてるだけだからな」

「……人をこの中に入れたことは?」

「俺は知らんがそういう使い方もあったらしいな……お? 何だその目は?」

「なぁご主人、そのローパーなんだが」

「この触手がどうかしたか?」

「私の目と記憶が確かならこれはスクヴスローパーだと思うんだ」

「魔界によく生えてる奴だな。これは人界で見つけたやつだが」

「見つけた場所は?」

「え〜〜っと……スラヴァ雪原の奥の廃城だったか」

 

 あの廃城はめちゃくちゃ埃っぽくて二度と行きたくない場所だ。若さゆえ自力で探索するしかなかった頃の失敗の一つである。

 

「先代魔王の持ち物ではないか……返しておいた方がいいと思うが」

「ならそうしておこう」

 

 指先ひとつで瞬間転送、今回は今代魔王の魔力を目印にしたので間違える事もあるまい。

 

「さて……お気に召すものはあったか?」

「何か勘違いしているようだがご主人」

「何だ?」

「私はあくまで交尾に伴う情の交わし合いを求めているのであって、自慰用の道具が欲しい訳ではないのだ」

「俺にそんなものを求められても困るのだが? ……おいなんだその目は『マジないわこの男』とか思ってる目つきだろそれ」

「ハァ──ー……」

 

 今晩はいい案が浮かばなかったので、渋々いい感じに感度の上がる薬をユドラへ塗り込んでやってから身動きが取れないように縛って寝た。

 

 翌朝、なにをどうやったのか知らんが俺の寝室にまで辿り着いて床をベチャベチャにしやがったので俺はキレた。

 

 XX

 

 TIPS 夜魔の夢幻膏薬

 スクヴス垂涎の夜を彩る膏薬。

 塗られた箇所の感度が三万倍(ヒト比)になるとされる。

 

 XX

 





バロヲル新聞社の号外より
『今代魔王、退位』
昨夜未明、急遽今代魔王のアラキル氏が退位する事が発表された。発表の場にアラキル氏の姿はなく、事故により業務を続ける事が困難であると判断された為の退位であると魔王国側は発表している。
当社独自の調査によれば、昨日から魔王城周辺に獣のような声が響いていると苦情が寄せられていると──。
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