エルフとご主人   作:脱線

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周回の手慰みに書くのたのしい。


血が欲しい!

「ご主人の血が欲しいのだが」

「は?」

 

 ある日の昼の事。腹もくちて伸びをしている俺に、食器を洗うユドラが言ったのはそんな言葉だった。

 

「別に構わんが……何に使うんだ? あ、子作りは駄目だぞ」

 

 かつてのエルフは相手の血から子を孕むのが主流だった。今では生殖行動も広く浸透したので一応そういう事もできるぞ、くらいであるが、ユドラはおそらく旧いエルフだ。

 過去の流儀を是とするとしてもおかしくはない。

 

「仔を孕むのも悪くないが、その前にご主人の血の性質が知りたくてな」

 

 と、俺の疑念に今はしないと彼女は答える。

 

「性質?」

「私は血の魔術を扱うからな。普段は自前の分で何とかなるが、もしもの時の為にご主人の力を借りるかもしれない。なのでサンプルとして少し貰いたい」

「お前の使う魔術については初耳なんだが血の魔術ね……随分旧いモノを扱うんだな」

 

 今主流の魔術は六源術──火水土風光闇のそれぞれの性質に偏らせたものが人気だったと記憶している。ここから外れた術は概ね旧い区分とされて俺が扱う錬金術であったり、ユドラの使う血の魔術になるのだ。

 

「言ってないしな。知ってる奴は皆墓の中だ。それと旧いとか言うな、汎用性が高くて便利なんだぞ? 今じゃ扱う奴も少ないし隠匿性もちょっとある」

「……ちょっと興味が湧いてきたな。お前の位階だとどこまでやれるんだ?」

「血の操作に触媒へ変換しての一時的な増強、あとは……代理供物もだな。例えば操作はこんな具合に」

 

 そう口にすると、ユドラはナイフで自らの指先を傷付けて、透き通るほど薄い手袋を編んで見せた。

 

「となると血という前提さえ乗り越えればほぼ万能か。錬金術とそう変わらんな」

 

 六源術と旧い術の大きな違いは特に対価の支払いに見られる。六源術が術者の魔力のみを支払わせるのに対して旧い術はそれ以外も支払いとして受け入れるのだ。

 錬金術はその辺の素材から術の反応を行える。血の魔術も同様に他者の血やそこらの死体の血から反応させる事ができる。

 血の魔術が廃れつつあるのはそこらの死体から反応させられるという点が大きかったりするのだが。物騒だしね。

 

「そうなる。昔は私も若かったので悪党を懲らしめたりしてたんだが面倒になってやめた。彼奴らは雑草のように生えてくるからな……とりあえず、血の魔術は錬金術よりは即応性が高い術になる。ご主人クラスの術者相手なら負けるだろうが」

「ん? 血……悪党……?」

「……? どうしたご主人?」

「もしかしていつだったか帝都に流れてた吸血義賊の噂ってお前の仕業なのか?」

 

 確か綺麗さっぱり血が抜き取られて失血死する後ろ暗いやつらが頻繁に見られた時期があった筈だ。財産には手を付けずに人だけ死ぬので帝都の金庫番が喜んでいると言われていたな。

 

「……?? まあ帝都で活動していた時期はあったが……ずっと前だぞ? 幾つなんだご主人」

「ほぉー不思議なもんだな。噂の人が目の前に居るというのも。歳が幾つかは数えてないから知らん。長いこと研究三昧だったからな」

「私からすればご主人の方がよっぽどなんだが」

 

 と、洗い物を終えたユドラは俺の向かいに座った。

 

「俺が覚えている限りでは、前は皇国にいた筈だ。それ以前の事は覚えてない。その頃から外見もそう変わってないからな。かなり早い段階で賢者の石を取り込んだのは確かだが」

 

 何故か俺の後続(同じ事した奴)が居ないみたいなんだよな。陣の構築を省けるのめちゃくちゃ便利なんだがやっぱりアレだろうか? 不老不死が要らない扱いされてたんだろうか? 

 

「ふむ……真理は見たのか?」

「……思ってたのと違うのなら見れたよ」

「ロクでもないものだったか」

「ロクでもないというか……え、こんなの求めてんの他の奴ら……と言うのが個人的な感想だな」

 

 たいへんしょうもない代物だったので見なかった事にした。なので当時の同胞達からは能力はあるがとんでもねえ不精者として見られていたと思われる。

 だいたい取り込んだ賢者の石のせいだ、便利に使っているがな。

 

「錬金術師らしくないな、ご主人は」

「いつだったか学友にも言われた記憶があるな……で、血が欲しいんだったか」

「そういえばすっかり忘れていたな……とりあえずは少量で構わない」

「せいっ」

 

 親指を直接切断する処理を行なってその辺の小瓶に入れる。

 

「誰が指ごとくれと言った???」

「いや生やせばいいし……血、流れてこねえな」

「……うむ」

 

 切り離した指先の断面に、糊化した血が集まったまま流れ出る気配が全くしない。

 

「血の操作でなんとかならんのか? こういうのは」

「なら試してみるか」

 

 ユドラから魔力の糸が伸び、切り離した指に触り始めるが様子が妙だ。指の中に入っていかない。

 

「…………?」

「……………………?? こっちの干渉を受け付けないんだが???」

「んー……看破してみるか……。うぉっ血じゃなくなってるわコレ。賢者の石扱いになってる」

「それは……私じゃ無理だな……」

「とりあえずコレはお前が持っておけ。薬代わりにはなるだろ」

「これひとつで一財産になる筈なんだがまるで有り難みがないな……。というかそうか……古式の繁殖じゃご主人の仔を孕めないのか……」

 

 ユドラのぼやきがやたら悲しそうだったのは横に置いておく事にする。

 

 XX

 

 TIPS 賢者の石

 錬金術の到達点の一つ。あらゆる物に変質できる完全性を内包した万能の素材である。

 到達点とされる物は他にも"逆行の霊薬(エリキサー)"、"不壊の金属(アダマンタイト)"、"不尽の酒"などが存在し、最終的に目指すものが真理の理解であるとされる。

 

 XX

 





ご主人……ぶっちぎりで人間を辞めている錬金術師によく似たなにか。SUGOI TUYOI。
ユドラ……色々ヤンチャした過去がある割としゅごいエルダーエルフ。TOTEMO TUYOI。
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