エルフとご主人 作:脱線
でも古戦場中は更新が止まりますんでよしなに。
足りぬ足りぬは備蓄が足りぬ
昼食を食べながら主人は悩んでいた。ちょっと大掛かりな事になりそうだったからだ。
「うーん老いた地龍の骨が一頭分、成熟した炎龍の舌が二本、雌の海龍の胃石が三つ、雄の風龍の
「先程からいったい何をしとるんだご主人」
今まで見た覚えがないくらいには珍しい光景であったから、奴隷であるエルフ──ユドラが訊ねると、主人はいや何、と前置きして答える。
「前に魔王の治療しに行ったろ?」
「ああ、ご主人のマッチポンプだったやつ*1だな」
「アレは不慮の事故だ……あの件でエリキサーを大盤振る舞いしたから俺の存在量が思ってたより減っててな。補填も兼ねて素材を集めに行こうかと思ったんだが……想定していたよりも量が多くて面倒でな」
「……? 存在量? 何だそれは」
「あー……俺の身体が賢者の石に変質してるのは知ってるだろ?」
「うむ」
「俺は錬金術の行使の際、対価をそこから支払ってるんだ。現代に賢者の石を作り出せる奴が全然出てこないから此方の資産価値がめちゃくちゃに高いままだし、ほっといても何とかなるんだが。ま、天球を探してもらう契約もしたからな」
「魔力とは別のリソースか……それで集める量が膨れ上がってる訳か?」
「そうだな。お陰で夜這い用の仕掛けもしばらくは節約だ……。まず無いが存在量が空っけつになったら俺が消えちまうし」
地雷原マットレスに挑んでは無限落下させられるユドラの姿はここ数日毎朝の光景となっていた。
「ご主人は夜通し落下させられる私に配慮すべきだ」
「うるせえ! 飽きもせず毎晩夜這いしに来るんじゃねえ! だいたい今日は堕ちながら寝てたろうが!」
「抜けられるけど面倒だったし……」
「この色狂いがよ……! ともかく、リソース確保するのにしばらくあちこちに行く事になる。ついでに素材を処理するのが面倒だからその要員としてお前も連れて行く」
「という事は久々に野宿もするのか。腕がなるぞ」
「いや寝床は工房を空間に突っ込んで持って行くから問題ない。この工房は元々そういう造りだからな。偶々長い期間此処に建ててただけだ」
「私連れて行く意味」
「道中の話し相手だ。暇だし」
「雇い主の横暴──! そこまでやれて乗り物の類を持ってない辺りご主人はズレてるぞ」
「転移や錬金術で組み上げられる移動具は空間への変調で素材に察知されるからな。馬車とかも然り。情報貰ったら徒歩で向かうのが一番だ」
「……妙に詳しいし手慣れてるな?」
「これでも学舎に居た頃は四大大陸のあちこちを巡ってたんだぞ? 嫌でもそうなる」
過去を懐かしむような目をして主人が答える。少しの怯えのような色が瞳に揺らいでいるのをユドラは認め、訊ねた。
「学舎に居た頃に何か嫌な事でも?」
「いやなに、教授が賢者の石で実験するってんで、予算がなかったから級友と生身に術具だけで龍種を捕獲しにいった経験がな……?」
「錬金術師は頭のおかしい奴しか居ないのか??」
「真理とかいうあやふやなものを求める奴らがおかしくない訳ないだろ!」
ユドラの素の返しに対して主人もまた素で返答し、それから。
「まあその教授は実験中に『全てが理解できていく……!』とか言いながら消滅したからな。無闇に犠牲になる学生は増えなかったからいいんだ」
「あからさまに失敗してるから良くないと思うが……」
「実験記録が俺の糧になったからいいんだ」
「そうかな……そうかも……」
ともあれ、この主従達は馬鹿みたいな話をしつつも旅の準備を始めたのである。
**
──それから数日後の朝。
ユドラは主人が工房をシュポ-ンと掌に納めているのを確認し、頭痛に悩まされているような表情をしながら訊ねた。
「で、初めは何処から周るのだ?」
「確か近場だとクロヴス市からバフラ公国に直通で騎空便が出てたろ、それで向かう」
「……?
「あれ?」
主人の言葉にユドラは訂正を入れ、懐にしまっておいた地図を広げながら答えた。こっちゃ来い、と手招きされて主人の元へ歩きつつ。
「百年ほど前にホードの森を始めとした様々な地帯の活性化で、世界中の航路が変わった筈だ。今だと……」
二人でその辺りにあった倒木へ座りつつ、ユドラは主人に地図を見せながら自らの細指をその上になぞらせた。
現在地──西大陸の外れであるクロヴス、それから西大陸の南端の山岳部であるエンシトを指し、南大陸の沿岸部にある港町のリクララで留まった。
「空路で二度乗り換えてエンシト、それから陸路で西部リクララに向かい、海路で東部リクララへ。それからバフラ公国まで陸路で向かう形になるんだ」
「空路変わり過ぎじゃねえか? なんかリクララも分かれてるしよ」
「各大陸の都市圏への転移陣の普及に加え、空の危険性がめちゃくちゃ増えたらしいからな。私もこの間知ったばかりだ……それと席代も上がったらしい」
「いつの間に仕入れたんだその話……」
「アラキルの快復を待つついでだ。ご主人が動けなくて暇だったからな」
俺もその辺りの情報は仕入れておくべきなのか……? とぼやきながら主人は訊ねる。
「とりあえずお前の言ったやつなら時間はどれくらい掛かる?」
「道草してもひと月くらいだな」
「じゃあそれにするか」
「あ、騎空便の席代は私が払う方が面倒がないから任せてくれ。それにご主人を煽れるし」
「お前……俺を煽るのが目的だな」
「面倒がないのは本当だぞ? 私だって凄いんだからな。ご主人はこういう時には私に頼ればよいのだ。とんでもなく市井に疎いのだから」
「そんなに……?」
そんなにだ、とユドラは返し、それじゃあ出発だなと続ける。主人もそれに答え、二人とも立ち上がったのは同時。麓町のクロヴスに向かって歩き始めた。
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TIPS アシャークロフト式工房セット
錬金術師が扱う基礎とされる収納術式、その学びにある次元位相の重なりを拡張利用し、設置展開した場所に『存在しつつ存在しない』状態を作り出す工房セット。場所を取らず、同胞以外には見つかりにくく、いざという時に持ち運びが出来る、という点から旧い時代の錬金術師達には必携の品とされた。
当然過去には広く流通していた。が、現在ではその多くが壊れ、しかも生産していた商会が潰れたので貴重な品となっている。
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「──出航時間、いつだっけか……これ美味いな」
「もう半刻ほどだな、あむ……全くだ」
出発から数刻、クロヴス市内にて。二人は騎空便の時間を待ちながら、道すがら屋台で買った軽食をもしゃもしゃとやっていた。
「しかしお前、マジで凄かったんだな……。受付員の表情がよ、こう……竜の咆哮を間近で食らったみたいになってたぞ」
「ここしばらくは依頼を受けて無かったが、私は開拓者でも【空】の階級なんだぞ。国の中枢に無許可で入るでもしなければ大抵の事はできる*2」
「えー……」
と、自慢するユドラの言葉に、主人は引いていた。ほんの今まで特になんともなかった視線は、気狂いを見る視線になっていた。
「空て……確か一番高い階級だろ? そんなに偉い奴が身売りするのは完全にギルドの汚点じゃねえか……。買う時も他のに比べて明らかにぶっ飛んだ魔力してたからお得! って思ってたが道理で……」
「足跡だけは追われつつもずっと野放しにされてるから、ギルド側からすれば大丈夫って判断なんだろう。でなければこの間の依頼も連絡されなかったろうし」
「開拓ギルドもこんなのが最大戦力で良いのか……?」
「私は依頼の解決率の
ユドラの言葉に胡乱な視線を投げながら、ふと主人はゆっくりと大通りに現れた影に目をぱちくりさせ、そして見つけた影の元──飛空艇の姿を遠目に観つつ呟いた。
「なんつーか……あんまり……変わらんのな……?」
「内装部はかなり変わってると思うが……外装部は各地が活性化して以降、試作しては破壊され、試作しては堕とされ、の繰り返しだと聞いた事があるぞ? それで地方の飛空艇の外装はそうそう変わらんのだとさ」
「そこまで行くと原動機の方から変えた方が良いんじゃねえか……? 多分動力反応を察知されて襲われてるだろ……」
「それは飛空艇の職人達が考える事だろう。さ、そろそろ発着場に向かうぞご主人。待たされるのは嫌だしな」
「はいよー」
ユドラに急かされ、主人はその後ろを着いていく。
主人が実に数百年ぶりに飛空艇に乗り込むとユドラが聞くまで、あと少し。
XX
TIPS 活性化
自然の多い地域で不定期に発生する、大地に流れる魔力の異常反応の事。
活性化が起こった地域の何処かには結晶化した魔力が生え、これを破壊ないし分割などを行ない移動させる事でその地域の活性化は治まる。
この結晶は様々な用途に使われるが、反面活性化は擬似的な間引き*3でもあり、地域に棲む生命体の能力平均を大きく引き上げる。
その為出来るだけ早急に結晶を奪取して活性化を治める必要があると考えられている。
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大地君「吹き出物出た」
強いいきもの君「ちょくちょく治安が上がって住みやすくなるのいいよね」
弱いいきもの君「子供とか死んじゃうからこの先いきのこるには安住の地を生み出すしかねえ」
活性化はなんかそういう感じ