エルフとご主人   作:脱線

6 / 7
あらやだ急に地名が生えたりする……。


たまには善行……?

 

 

──クロヴスを発って半刻ほど、飛空艇内の個室にて。

 

「久しぶり過ぎて酔った……治せるから問題ないけど……」

「吐いたりするなよご主人」

「いや吐かないが……というか吐けないんだが……」

 

 ユドラの心配に反論しながらも俺は椅子に寝そべっていた。

 ユドラがとっていたのが個室で助かった。通常席ならこのだるんとした気持ちを抑えつつ、治すために俺の顔が人前で光るところだった……。*1

 

「まあクロヴスからエンシトまでは二刻ほどだ。しばらく転がってても良いだろう。何か話でもしてやるか?」

「そうだなぁ……まだ活性化が治まってない地域はどの辺りなんだ?」

「北大陸は多いが他は一箇所ずつだな。この大陸のホードの森、南のバーレスク山脈、東のマグヌス砂漠、そして北のアウローラ海域以北だ。今はマグヌス砂漠を重点的に開拓中らしい」

「マグヌス砂漠か……彼処(あそこ)にそんなに人居たのか……?」

 

 俺の知っている頃であれば、マグヌス砂漠は過酷な環境も相まってか、物好きが集まる地域であったと記憶している。

 掘削機で一獲千金を狙う者、単に開拓の夢に燃えて訪れた者……様々な人の欲が観られる面白い場所となっていた。

 

 それでも当時の交通はカスという他なかった。泣きそうな顔でわざわざ借り賃の高い駱駝(ラクダ)を借りて来る新入りというのは二日に一度は見られたものだ。

 

「来るときに話したろう、ご主人の知っていた頃よりはずっと人の流れが早くなってるんだ」

「数や質は?」

「悪くない。平均値は上がってきていた。この百年で死亡率がかなり下がったらしい」

 

 これについては俺が世俗に関わらなかった間の出来事のようだった。どうもすこぶる有名な薬師が滞在し、新薬を作っては手助けしたのだとか。

 

「上は、どうなんだ?」

「ま、及第点だな」

 

 そう答えたユドラの表情は、親が子を慈しむような表情だった。そういやこいつ何歳なんだろう……俺より歳上だと思うんだが普段の態度とかそんな感じが全然しないんだよなあ。

 

「その様子だと、今回の旅はちょうど良い機会だったようだな」

「私はご主人を使える、ご主人は私を使える。双方に益がある状況だったのだな。という訳なので、もし道中で魔力結晶を見つけたら破壊して持ち帰る事になる」

「構わんが運ぶのはお前だぞ? 持ちきれないサイズなら流石に手伝うけど」

「その時は頼むぞご主人。まあそんなサイズの奴は滅多に見つからんだろ」

「そうだよなぁ……でもそういう事言ってるとマジで見つかったりするんだよハハハ」

「仮にも開拓中の地域では見つからんさハッハッハ」

 

 ひとしきり二人で笑い*2、何かの拍子に思い出したことが一つ。

 

「あ。言い忘れてたんだがそういやエンシトに着いたら晶洞に寄るぞ。素材の備蓄に不安があるからな……羽織る上着は勿論持って来てるよな?」

「………………アタリマエダロ?」

「なんだその間は」

「ご主人から恒温薬貰えるだろうと思って数はあんまりないんだ……あと用意してるのは北大陸用だ……」

「このギルドの恥部め……」

「恒温薬は貰えるのだよな……?」

 

 うーんこの駄エルフ。と返したのが俺の本心であったのは言うまでもない。

 

 **

 

「おお、だいぶ育ってんな……」

「ご主人は何時ぶりに来たんだ?」

 

 飛空艇での会話から数刻後。俺たちはエンシト晶洞にやってきていた。知らぬ間に内部へ水路が作られている。

 水路の精度を見るに、どうも途中にある水源から水路を作ったようである。中々涼しいのは過ごしやすくて良い事だ。

 俺が晶洞の入り口付近にある、一際巨大な鍾柱を眺めながら呟くと、ユドラはそう訊ねてくる。

 

「前来たのは学徒の頃だから数百年ぶりとかだな。独り立ちしてからは採取もずっとホムンクルスに任せてたし……」

「私は数十年ぶりくらいだが意外と大きくなるのだな、コレ」

「お前の時はどれくらいだった?」

「今の……ほら、其処の柱あるだろう。あれくらいだ」

 

 と、ユドラが指す鍾柱を見ると中々太いのだが……。

 俺はほお……と声を漏らした。柱が異常に成長している様子だったからだ。何事もなくこの速度で育つというのはまずない。

 

「ちょっと採取して向かうつもりだったが奥まで調べた方が良さそうだな……」

「奥までなら数日かかる感じか?」

「馬鹿言え、開拓者稼業始めたてじゃねえんだぞ」

 

 ユドラの言葉に言い返すと、こいつはフフン、と残念なものを見る視線で返答する。

 

「……ご主人の知ってる頃より深くなってる筈だぞ? 今のエンシト晶洞は数年続けてある程度安定した者向けだな。はー、これだからご主人は……」

「今度お前に渡す恒温薬の中身変えてやろうか……」

「待て待て冗談だご主人。数日かかるのは本当なんだぞ? 確かに私は一刻くらいで行き帰りできるがその場合は本当に行って帰るだけだし、精査しながらだと一週間くらいかかる」

「フム……」

「……ご主人?」

 

 "一刻くらいで行き帰りできる"

 その言葉に、俺はちょっと考えて答えた。

 

「いい事を思いついた。お前今から最奥まで見てから戻って来い。その間俺はこの辺りの精査しとくから」

「うわぁご主人のきちく」

「喧しいさっさと行ってこい。とりあえず途中なんか変なのを見つけたら帰ってきてもいいぞ。なかったら最奥まで往復だ」

「ご主人の外道、研究馬鹿、概ねゴーレム──」

 

 文句を言うだけ言って駄エルフは晶洞を駆けていく。とても疾い、アレは増強術式でも使ってるんだろうなと思いながら今夜の撃退用罠を永久回転車(ネズミの運動用具の強化版)にする事を決める。

 

「さて何が出るやら……とりあえず目視での確認からだな」

 

 俺は独りごち、辺りをよく見ていく事から始めた……。

 

 **

 

 それから半刻ほどして。

 

「こりゃあ人為的なやつだな……?」

 

 そう独りごちる。

 エンシト晶洞は遥か昔、巨大なワームが通った路が元になっているとされている。それから長い時間と自然の働きにより形を多少変えつつ、採れる素材──魔力石が人々に利用されてきた。

 俺が知っているのは今でいう途中までだったが、まあ地震であるとか慌てた奴が術式を誤射したとか何かがあってその頃は何事もなかった壁が崩れたというのがあったのだろう。

 

 それはさておき、この鍾柱が異常な速度で成長しているのは、何者かが真下で魔力を扱う作業をしている為のようである。

 色々と手段を講じて調べてみた結果、どうもこの真下にそこそこ広い空間を作ってあるのが判明したからであったが、此処の鍾柱は近場の魔力を食って成長するものだ。真下にご飯があればそりゃ育つ。

 

 とはいえ見も知らない誰かがどのようにして空間を作ったのか、何処からその空間へ移動しているのかが分からなければどうしようも無……いやある。地盤をぶち抜いて中を見にいく方法がある。

 

 やらないが。

 

「此処には入れなくなるのはちょっとなあ……」

 

 近場で割と安全で質もそこそこ良くて量が取れるというのは全然無いのだ……安全面を抜くとかなり増えるのだが。という訳で今日は頭ワームな手段を除外する事にした。

 

「ご主人〜」

 

 などとやっている所に駄エルフが戻って来る。

 

「ちょっと早かったな。何かあったか?」

「水源になってる湖があったろう? あそこの流れがおかしくてな」

「ほお……見に行ってみるか。案内してくれ」

「分かった」

「それとあの成長は人為的なやつだ。下で餌をどっさり作ってる奴が居るっぽいな」

 

 案内されて奥へ向かう道すがら、此方でも判った事を伝えておく。ユドラは歩きつつ首を傾げて、ぼやいた。

 

「此処でやるならもっと良い場所があると思うんだが……?」

「過ごしやすいんだろ……此処とだいたい同じ質の場所はほぼ無いし、安全性を省いても分布は北と南に集中している。多分戦闘能力が低い研究者だな」

 

 俺の使っている類の工房だと、特に改良なく使った場合に南北の地域であれば獣同士の争いなどで損耗する可能性が高い。そのため南北地域に建つ工房は街や集落に程近い場所となる事がほとんどだった。流石に年月が経てどもその辺りは変わるまい……。

 

「そういうものなのか?」

「術の研究やってる奴はそれ一辺倒なのがほとんどさ。級友からの俺の渾名は『蛮族』とか『かしこいワーム』だったんだぞ」

「級友の方が全く間違っていないように思えるが」

 

 ユドラは即答した。俺は今夜の罠の環境負荷を上げる事を決めた。

 

「でもよ、蛮族はもっと原始的に戦うしワームはもっと図体がデカいだろ???

「いやご主人そうではなく……いや、いい」

「おん?」

「ところで、南北に魔力石の採石域分布が偏っているは何故だ? 獣が強いからか?」

「それもある。だがより大きい理由としては極点の方が大気中に含まれる魔力が多いからだ。彼処から流れてきてるもんで大地にも魔力が含まれやすくなってるんだ」

「あー、だから獣も強くなるのか?」

「そうだな。活性化の頻度が高いのもあるが」

 

 南北はそういった原因ありきの地質であるのでむしろエンシト晶洞が異常といえる。

 

「ご主人と居ると知らなかった事を埋められるな。ご主人はご主人で知らない事もあるが……ふむ……これは……凹凸コンビというやつでは?」

「突然何を言い出すんだお前は。助かりはするが……ん、湖って此処じゃ無いのか」

 

 話しながらも記憶にあった水源を関係なしと通り過ぎたのでユドラへ訊ねると、彼女はいや? と首を振って答える。

 

「流れがおかしいのは一番奥のだ。今過ぎた処は違う」

「……この進行速度だとどれくらい掛かるんだ?」

「ほんの二刻くらいだぞ」

「んー急ぎたいんだよな……」

 

 久しぶりの外だしエンシトの街も観たいんだよな……。などと考えていると。

 

「なら抱えて行くか。ご主人ちょっと」

「ん、なんて? うん……??」

「これなら半刻ほどで着くぞ……………………ご主人重いな……?」

 

 ユドラに手招きされて近づけば、スイと麦袋よろしく肩に抱えられた。つまり。

 

 

少女に誘拐される成人男性の図が完成していた。

 

「これ誰かに見られたら社会生命が終わりを迎える奴じゃん……」

「ご主人、元から無いものはそんなもの迎えないぞ」

「言いおるわ此奴……」

 

 ユドラの罵倒に俺はそう答えながら罠の出力を上げる事を決めた……。

 

 **

 

「着いたぞご主人」

「ハァ……ハァ……酔った……」

 

 駄エルフの移動ルートなんなの……此処は森林と違うんだぞ……飛び跳ねの頻度が多過ぎる……。俺は耐えかねて体内でエリキサーを錬成する。顔から光が溢れ出た。

 

「治した。ヨシ!」

「ご主人の黄金を沼に捨てるが如き蛮行を見て私はちょっと引いてるぞ」

「喧しい! えー……流れのおかしいところね……アレかな……アレだな……」

 

 実際に見てみるともうあからさまに怪しい一画が湖にあった。あんなに規則正しい動き方をする影と、それに隠れるように刻まれた文字なぞ普通の洞窟にはねえんだよ。

 子供騙しの影で駄エルフは騙せても術式ごと見れる俺には通用せんぞ。

 

「ご主人は何を見たんだ???」

「転移術式貼ってあるんだよ流れがおかしい辺りの湖底によ。隠蔽も一緒に掛かってるけど俺の目には無力だ」

「ご主人はちょいちょい人間やめてるな。やっぱり戸籍分類をゴーレムに変えた方がいいと思うぞ」

「しばくぞ……んー……入り口も転移陣だな。となると多分あの空間にまだいくつか転移陣貼ってあるだろうな」

 

 こんな場所で出入りするの面倒だからな。間違いなく他の場所から向かってるだろ。

 

「それだと結構な術者になるんじゃないか?」

「多分水の調達に転移陣を貼ってるな……こっちから活性化させるのも出来そうだし……おし行くぞ」

「……このままでか?」

「ちょい待ち……よしこれを飲め」

 

 ちょちょいとそれ用の物品を錬成してユドラへ渡した。

 

「『泡の丸薬』か……甘苦くて美味しくないんだよな……」

「そういうと思って味は変えてある。俺もあの味嫌いだし」

 

 泡の丸薬は服用者の周囲に空気の層を作る魔法薬の一種である。主に水中やガスが発生する地帯などで利用されるものだ。

 だが昔から知られているレシピで作るとまんま石鹸食ってるみたいな味がするので俺の時代ですらとても不評だった……ので味を組み替えられるようにはしてある。

 

「なら飲んでみるぞ……なぁコレ……燻製肉の味がするんだが」

「あの味よりはマシだ。後コレだと酒飲みに評判が良いんだよ「溺れなくて済むぞ!」って。まああいつら酒呑みながら丸薬飲むからなんだけど」

 

 呑むなよ、とはいうまい。

 酒飲みとはそういう生き物なのだ。特に命のやり取りをした後のやつらは。

 

「まああの味よりは……美味し過ぎるのもちょっと嫌だし……ん、こっちも行けるな」

「さて何が出るやら」

 

 俺はそうぼやきつつユドラを抱えて湖面に飛び込み、件の術式まで近づくと、式に干渉して転移を起動させる。

 

 起動光が、式から溢れるようにして俺たちを包んだ。

 

 XX

 

 TIPS バーレスク山脈

 南部大陸に大きく伸びる、活火山を含む山脈地帯。ワイバーンが多く生息するので危険だが、その分良質な鉱物がよく採れる。

 バフラ公国に近い為か廃棄された武器を利用するワイバーンも見られ、龍種が寄る事さえあるので立ち入る開拓者には特殊資格が必要な危険地帯である。

 

 XX

*1
発光はエリキサーの錬成反応によるものであり人体に害はありません。

*2
見つかってくれるなよという祈りとも言う。




式への干渉を見てたエルフ「(ご主人なんか凄い事してね???)」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。