シャンフロ恋愛異聞譚 作:戯れ
「さ、さぁ大変なことになって参りました!
EスポーツGHC世界最強決定杯、決勝戦!
その対決は、一度の黒星をつけられつつもさらなる進化を遂げて復帰後、再度無敗記録を打ち立て直したシルヴィア・ゴールドバーグに対し!
怒涛の勢いを見せるかつての覆面プレイヤー・ノーフェイス改め、サンラクとの対決となりましたが……」
「大方の予想を覆し、サンラクはカースドプリズンを選びませんでした。
プリズンブレイカーを使用する動きや、サブキャラとしてランゾウやティンクル・ピクシーなどを使うことから、
「よりにもよってリアル・ミーティアスとの呼び声の高い
「シルヴィアを相手にしてのミラーマッチは、カースドプリズンとのマッチング以上に今まで見ることはありませんでした。
キャラ性能に差がない以上、その結果は純粋な腕に依る所になります。
この選択は、何かの勝算あってのものなのか、それとも……」
「おっと、もうゲーム開始のお時間となりました! それでは皆さんご一緒に……」
―――BATTLE START!―――
「っ!?」
試合を見ていて何となく感じた違和感は、直接相対して確信に変わる。
今までの彼は、勝つことと楽しむことを両立していた。
否、勝つことを求めれば結果的に楽しむことになっていた。
自分と同じ、テンションがプレイヤースキルに直結する彼のプレイスタイルは、本気で楽しむ程に、ゲームにのめり込む程にパフォーマンスが上がる。
だからこそ、彼は笑いながら、時に非効率とも思える動きを織り交ぜながらも、ゲームを全力で楽しんで、勝つために本気で戦っていた。
「チィッ……!!」
しかし、今は違う。
彼の顔に笑みはなく、また見るものを魅了するようないつもの派手さもそのプレイには伴っていない。
けれど――
「いっ」
側頭部を掠めた鋭い蹴りに思わず悲鳴がこぼれ出そうになる。
今はゲームのプレイ中、流石にそんな無様は晒さないが、いつもとは異なる、しかしいつも以上の実力を発揮する彼の鬼気迫る様子に、たらりと
動きは冷静。プレイは冷徹。思考はクール。
それでいてきっと――心には、煮えたぎるような『何か』が燃えている。
いつもの彼が100%の力を出して戦っているとすれば、今の彼はまるで100割の力を出し尽くして戦っている。そんな気がする。
「今日のアナタは何か違うわね!」
「あぁ!?」
「何が、アナタをそうしたの!?」
戦いの合間、針の糸を通すような思いで、どうしても気になった私は彼に向けて問いを投げる。
そこで今日初めて、彼はニィっと唇を釣り上げて笑みを浮かべた。
「そうだな……人を
「古今東西、愛と正義と相場が決まってんだよ!!」
◇
俺は、端的に言ってクソ野郎だ。
女の子に対して気の利いたことの一つも言えないし、喜んでくれるようなプレゼントも思いつかない。
これがクソゲーであるならある程度パターンというものもあるが……いや、そういうパターンをあえて外してしまうからクソゲーと呼ばれるものも割とよくあるが、ともかく……現実の女の子相手に、どうすればいいかなんて正直なところよくわからない。
イベント事がある度に、知り合いのゲーム屋の店主に泣きついてどうにかこうにか凌いでいる……俺は、そんな男だ。
こんな俺の事を、好きだと言ってくれる
けれどそんな彼女に対して、俺は何も返せてはいない。
今ではプロゲーマーとしてそれなりに名を上げた自負はあるし、彼女もそれを我が事のように喜んではくれるけれど、彼女が捧げてくれた想いに応えられているとは思っていない。
所詮は、今までクソゲーに浸る人生をひたすらに過ごしてきただけのクソゲーマー。
俺からゲームを取れば、そこにはきっとただのクソしか残らないのだろう。
だから、せめて。
「お」
たった一つ、どうやら才能に恵まれたらしい
「お、おおおお……!!」
彼女の想いに応えるために。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
――世界最強を以て、彼女への想いを証明するッ!!!
「ガッ!?」
ほんの一瞬。
俺の意識が、目の前の相手の思考を凌駕する。
その刹那を、俺は見逃さなかった。
「
僅かに、だが確実に自分の劣勢で進み続けていたダメージレース。
しかし、逆境を打ち破ってこそヒーロー。
極限まで達した俺の集中が、そのハイキックを直撃させ、全米一を相手に怯み・大を取ることに成功する。
「ミーティア……」
「私が、負ける……!?」
驚愕に目を見開いたその顔面へ向けて――
「ストライクッ!!!」
◇
「決まったああああああああああああああああああああ!!!
巨星、墜つ!!! とうとう、あのシルヴィア・ゴールドバーグの無敗記録が!!
再度!! 真正面からっ!!! 破られましたああああああああああああああ!!!!!」
大歓声が会場を包む。
D.K.Oを成し遂げたいつかを思い出す、地面を揺らす大音声を受けながら、朦朧とした意識をどうにか奮い立たせて勝利者インタビューにと駆け寄ってきた人物からマイクを受け取る。
正直このままぶっ倒れたいくらいの疲労具合だが、まだ倒れるわけには行かない。
最後の仕上げが、残っているのだから。
「サンラクさん! 今のお気持ちをお聞かせください!」
「あー……とりあえず一個だけ」
自分が渡したプレミアム席に座って……いや座ってないな。立ち上がって拍手をしている彼女をまっすぐに見据える。
俺から見られていることに彼女も気付いてくれたようで、ビクッと一瞬驚いた後に、泣きそうな顔で見つめ返してくれる。
きっと、俺が世界最強の称号を獲得したことに、同じくらい……いや、自分以上に喜んでくれているのだろう。
「おめでとうございます」と、唇の動きだけで伝えてくれた彼女の姿を視界の中心に捉え、マイクを片手にたっぷりと息を吸い込む。
「レェェェェェェェイ!! 俺だぁぁぁ!!! 結婚してくれぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
しん、と。
あれだけ湧いていた会場内が、一気に静まり返った。
時が止まってしまったかと錯覚する中で、どうやら出来る人間だったらしいカメラマンの一団がマイクを携えて玲の元へと素早く駆け寄る。
でかいディスプレイにドアップで映される羽目になった玲は、真っ赤になった顔で、すこしばかりの逡巡の後――
「はい!! 喜んでっ!!!」
満面の笑みを、返してくれた。
彼女の答えに満足した俺もまた、負けじと心からの笑みを浮かべて……。
そのままバタンとぶっ倒れた。
「ぎゃー!? サンラクさん!? 大丈夫ですか!?」
「メディック! メディ―ック!!」
「救急車もう一台! 嫁さんの方も鼻血吹いてぶっ倒れたぞ!!」
意識が遠のく中で、さっきとは別の理由で騒がしくなる会場の阿鼻叫喚の様子を聞いたのだった。