「同盟か…。」
セイバーが左腕を呪われたことで陣営としては、大きな損失を被ったといえるだろう。
「アイリ、君から見てどう思った?」
「彼女、悪い人には見えなかったわ。それにセイバーを慕ってるようだった。」
生前のセイバーの配下であったサーヴァント。バーサーカーのダゴネット。ダゴネットは、武勇に優れた逸話を持たないサーヴァントだ。正直に言えば、正面から勝負するのには向かない。しかし、先程のように搦め手を用いることができるなら強くはないが性質が悪いサーヴァントになる。
「厄介なやつだ」
例えば、ランサーのマスターの婚約者に化けて寝首を掻かく。こんなことだってできる。
「彼女は、聡明で誠実な人間です。裏切るくらいなら自害するでしょう。」
間桐雁夜。警戒すべき相手だとは思っていなかった。だが、今回はバーサーカーを用いて性能に差があるはずのランサーを引き上げさせている。
「…だが、放っておいても片付きそうだ。」
間桐の急造品。正直、長持ちはしないと思う。マスターを人質にしてサーヴァントを働かせるか?先日の外出の様子から推察するに左半身の麻痺は進んでおり、帰りはタクシーを利用した。マスターの能力が劣るということは、サーヴァントにも影響が出る。つまり、全力を出しきることはできない。
「いいだろう。ただし、相手はセイバーのマスターを君だと思っている。」
「そうね。」
例え裏切ったとしても制圧するのは簡単だ。バーサーカーはセイバーには勝てない。マスターは半分死人みたいなものだ。こちらから切り捨てる時も簡単だ。
「これを利用しない手はない。」
相手のマスターの力を削ぎつつ、利用するんだ。
「はい、やっていきましょうかね。」
古い竪琴を持ってきたバーサーカー。埃を払いながら微調整。若干、色合いが変わったところを見るに楽器も宝具扱いらしい。
「すごい、置物のハープなのにいけるの?」
「本物を置物にしてたんですか!?もったいない。まったく、これだから金持ちは。」
年代物のハープは深みのある音を奏で始める。聞いたこともない曲だ。細く白い指先が弾くと魔法のように美しい音が出る。本物だ。本物の音がする。
「…すごいなぁ。」
仮面に隠した素顔は可憐な少女のようであったけれど、この姿を形容するならば伝説に登場する妖精といったところだろうか。
仮面を被るのはどうしてだろうか。私のように醜いわけでもないのに。家で被ると桜ちゃんに剥ぎ取られている訳だが。彼女は別に抵抗したりはしない。
しかし、召喚されてからの時間しか一緒にいないが、私にもわかることがある。彼女の心は少女なのだ。純粋であり優しくあろうとする子供のままなのだ。失敗すれば泣きそうな顔をし、悪いことをしたと感じれば謝る。成功すれば、得意気な顔をする。
「どうでしょう?」
ほら、得意気な顔でこちらを見るダゴネット。拍手するのは桜ちゃん。私は左手が動かないから口で誉めるしかないな。
「すごいね。流石はダゴネット。円卓一の道化師さん!」
そして、誉めると頬を染める。案外、照れ屋なのだ。
「あ、照れてる!」
桜ちゃんに指摘されると素早く仮面を装着。やや動揺した声で“照れてないですよ。”と言う。
外では子供の失踪事件や儀式殺人なんかが起こっている。実際、私たちも戦争に参加している。
しかし、そんな現実を忘れさせてくれるほどに彼女は魅力的な英雄であった。